ゼロカラワカツイセカイセイカツ   作:萎える伸える

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第二十七.一話『月と太陽の物語』第二昇【最強】

◆◇◆

 

 

 赤子の泣き声がする。

 おぎゃあ、おぎゃあと、細く、頼りなく、けれど確かに生きている音が、ぼろ屋の中に響いていた。

 ソルはしばらく、それが何の音なのか理解できなかった。

 

 耳に残っているのは、岩の崩れる音だった。

 肉の裂ける音だった。

 喉が潰れるほど叫んだ、自分の声だった。

 頬に残っているのは、母の血の感触だった。

 瞼の裏に焼き付いているのは、妹が斬り刻まれる光景だった。

 

 なのに、今、目の前には血がない。

 

 崩落した天井もない。

 穴の開いた空もない。

 血の瞳をした理不尽もいない。

 

 そこにいるのは、疲れ切った顔で笑う母と、酒臭い息を吐きながらもどこか落ち着かない父と、そして生まれたばかりの赤子だった。

 

「ソル、ほら、抱っこしてみて」

 

 母が言った。

 

 その声が、生きていた。

 

 木柱に貫かれていない。

 謝っていない。

 血を吐いていない。

 

 ただ、柔らかく笑っている。

 

「……」

 

 ソルは、震える手で赤子を受け取った。

 小さい。

 あまりにも小さい。

 壊れそうで、落としそうで、抱いているだけで怖くなるほど軽い。

 けれど、温かい。

 

 確かに、生きている。

 

「……ルナ」

 

 名前が、喉からこぼれた。

 母が目を丸くする。

 

「あらっ、すごいわぁ。お母さんも同じ名前を考えてたの。やっぱり私の子ね……ふふ、この子の名前はルナで決まりね」

 

 夢ではない。

 夢なら、こんなに喉が苦しいはずがない。

 夢なら、こんなに心臓がうるさいはずがない。

 夢なら、この腕の中の温もりに、ここまで怯えるはずがない。

 

 ソルは戻ってきたのだ。

 あの終わりから。

 ルナが生まれた日に。

 

「……俺が守る」

 

 誰に聞かせるでもなく、ソルは呟いた。

 

「え?」

 

「俺が守る。こいつを。お袋を。親父を。全部」

 

 言葉にした瞬間、胸の奥で何かが軋んだ。

 誓いとは、呪いだ。

 守れなかったとき、その言葉は刃になって自分を刺す。

 それでも、言わなければならなかった。

 言わなければ、また奪われる気がした。

 

 腕の中でルナが泣いている。

 泣いて、泣いて、泣いている。

 生きている証みたいに。

 だからソルは、もう一度言った。

 

 

「絶対に、守る」

 

 

◆◇◆

 

 

 ――最初のやり直しは、すぐに失敗した。

 

 ソルは家から離れなかった。

 母を見張り、父に酒を飲ませず、ルナの傍にいた。

 

 未来を知っている。

 何が起きるか知っている。

 どこで母が死に、どこへルナが連れ去られ、どこで天井が崩れるか知っている。

 

 知っているのだから、変えられる。

 そう思った。

 

 ――愚かだった。

 

 理不尽は、道順を変えただけだった。

 

 家にいれば家が燃えた。

 逃げれば逃げ道が塞がれた。

 父を動かせば父が先に死んだ。

 母を連れて走れば母が足手まといになり、ルナを抱けば両手が塞がった。

 

 そして最後には、必ずルナが死んだ。

 

 ――死んだ。

 ――死んだ。

 ――また死んだ。

 

 ソルは何度も、妹の名前を叫んだ。

 

 何度も、血の中で目を覚ました。

 何度も、赤子の泣き声を聞いた。

 何度も、母の笑顔を見た。

 何度も、父の酒臭い声に舌打ちした。

 

 何度も、何度も、何度も。

 そのたびに、ソルは理解していった。

 

 自分一人では、足りない。

 

 知っているだけでは足りない。

 走れるだけでは足りない。

 殴れるだけでは足りない。

 盗めるだけでは足りない。

 

 未来を知っているだけのガキが一匹、いくら足掻いたところで、世界の終わりには届かない。

 

 ――力がいる。

 ――知識がいる。

 ――仲間がいる。

 

 だからソルは、ロストブルーを歩いた。

 

 空無き大地の底を。

 酒と薬と血の匂いが染み付いた路地を。

 盗人と物乞いと殺し屋が同じ壁にもたれて眠る、腐った通りを。

 

 そこで、ある名に辿り着く。

 ――正確には、辿り着かされた。

 

「最近、変な動きしてるね、ソル」

 

 声をかけてきたのは、古いスリ仲間の女だった。

 

 イーリス。

 そう名乗っているが、古株の何人かは彼女をズィーヴァと呼ぶ。

 ロストブルーの路地裏では、そちらの名の方が通りがいい。

 細い指先で銅貨を弄び、笑っているのか探っているのかわからない目で、人の懐より先に本音を盗む女。

 

「……なんのようだ、こちとら今忙しいんだが」

 

「家を見張って、薬売りを追って、崩落しそうな通路を調べて、今度は古い噂を漁ってる。スリにしちゃ、ずいぶん大きいもの盗もうとしてるじゃない」

 

「……お前には関係ねぇ」

 

「あるよ。これでも昔馴染みなんだから、ほらお姉さんに教えてみ? いったい何を盗もうとしてるわけ?」

 

 イーリスは肩を竦めた。

 

「……物じゃねぇ」

 

「じゃあ、何?」

 

「知恵だ」

 

「知恵?」

 

「ロストブルーで、一番物を知ってる奴の知恵がいる」

 

「なんだ、それなら簡単だ。アインツだよ」

 

 即答だった。

 ソルは目を細める。

 

「知ってるのか」

 

「名前だけならね。場所も、たぶん。会えるかどうかは別だけど」

 

「教えろ」

 

「貸し一つ」

 

「足元見るな」

 

「いいでしょ、腐れ縁なんだから」

 

 イーリスは、どこか楽しそうに笑った。

 

 

「忠告しておくけど、アインツに会いに行くなら嘘は少なめにしな。あの人、どういうわけか嘘が通じないから」

 

 

◆◇◆

 

 

「アインツ」

 

 

 薄暗い部屋で、ソルはその名を呼んだ。

 

 地下のさらに奥。

 地上から流れ込んだ廃材と、どこかから盗み出された古書と、用途のわからない器具が積み上げられた奇妙な空間。

 

 その中央に、男はいた。

 

 煤けた外套。

 乾いた指先。

 年齢の読めない顔。

 濁っているようで、何一つ見逃さない目。

 アインツは椅子に腰掛け、一冊の古びた本を閉じた。

 

「俺の名を知っているのか、小僧」

 

「知ってる」

 

「悪いが、俺はお前を知らん」

 

「だろうな」

 

 ソルとアインツは、これが初対面だ。

 顔を合わせたこともなければ、言葉を交わしたこともない。

 アインツにとってソルは、どこにでもいるロストブルーの小僧の一人に過ぎない。

 

 だが、ソルは違う。

 噂を拾い、名前を辿り、ようやくここまで来た。

 この掃き溜めで、未来を語れる人間がいるとすれば、この男しかいない。

 

「アンタに力を貸してほしい」

 

 ソルは単刀直入に言った。

 遠回しに交渉する時間が惜しい。

 腹の探り合いに付き合う余裕もない。

 

 未来は、いつも同じ速さで崩れてくるのだから。

 

「貸してどうする」

 

「ロストブルーを救う」

 

 嘘ではない。

 ただ、一番ではないだけだ。

 ソルが救いたいのは、ロストブルーではない。

 ルナだ。

 けれど、ルナを救うためには、この地下ごと終わる未来を変える必要があるのも事実だった。

 終焉を迎える未来を覆すために、この男の力が欲しい。

 

 アインツは瞬きもしなかった。

 

「救えん」

 

「救う」

 

「無理だ」

 

「無理でもやる」

 

「――何度死んでもか」

 

 その言葉に、ソルの眉がぴくりと動いた。

 心臓の奥を、細い針で突かれたような感覚があった。

 アインツはただ、静かにソルを見ている。

 

 驚きもない。

 嘲りもない。

 ただ、試す様な色だけがあった。

 

 ただ、見ていた。

 まるで、ソルが言葉にしていないものまで、すでに読み終えているかのように。

 ――馬鹿げてる。

 巻き戻った時を、他人が認識できるはずがない。

 あの死を、あの終わりを、あの暗転の先を、知っているはずがない。

 

 なのに。

 なぜ、その言葉が出る。

 問い詰めたくなる衝動を、ソルは奥歯で噛み潰した。

 

「何度死んでもだ」

 

 ソルは答えた。

 アインツの目が、わずかに細まる。

 

「なら、試してやる」

 

「あ?」

 

「お前が本当にこの場所の未来を変えるつもりなら、俺に言葉をぶつける前に証明しろ」

 

「証明?」

 

「ああ」

 

 アインツは机の上に指を置いた。

 こつん、と乾いた音が鳴る。

 

「――ノインを連れてこい」

 

 その名を聞いた瞬間、部屋の空気が少し重くなった気がした。

 ノイン。

 それはロストブルー最強の男。

 暴力が支配するこの地下で、暴力そのものとして君臨する角の生えた獣人だ。

 

 群れない。媚びない。従わない。

 ただ強い。

 その一点だけで、誰もが道を開ける怪物。

 

「……簡単に言いやがる」

 

「簡単ではない。だから言っている」

 

 アインツは淡々と続ける。

 

「知恵だけでは足りん。盗みだけでも足りん。情だけでも、覚悟だけでも、死ぬ勇気だけでも足りん」

 

「……」

 

「この地下は暴力でできている。ならばまず、地下で最も強い暴力を味方につけろ」

 

「できなきゃ?」

 

「俺はお前に賭けない」

 

「性格悪ぃな」

 

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

 アインツは本を抱え直し、そこで話は終わりだとばかりに目を伏せる。

 

「ロストブルー最強を手懐けてみせろ、ソル。話はそれからだ」

 

 ソルはしばらく、アインツを睨んだ。

 

 ――まだ、名乗っていない。

 

 自分はこの男に、名前を告げていない。

 だが、アインツは当然のようにその名を呼んだ。

 この男は、何かを知っている。

 けれど、今は何をしても語らないだろう。

 なら、語らせるしかない。

 

 そのために、試練を越える。

 

「……いいぜ」

 

 ソルは踵を返した。

 

 

「連れてきてやるよ。地下最強の化け物でもなんでもな」

 

 

◆◇◆

 

 

「ノイン?」

 

 アインツの部屋を出たあと、ソルがその名を口にすると、イーリスは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「やめときな」

 

「知ってるのか」

 

「ロストブルーでノインを知らない奴は、死ぬのが早い奴だけだよ。わかってるでしょ」

 

 イーリスは壁にもたれ、指先で盗んだ銅貨を弾いた。

 

「あれは無理。盗めない。騙せない。近づいたら終わり。強いとか怖いとか、そういう段階じゃない。あの男の縄張りじゃ、空気までノインに怯えてる」

 

「居場所は知ってるのか」

 

「ねぇ、話聞いてた?」

 

「聞いてた。で、居場所は」

 

「……ほんと、嫌なところだけ肝が据わってるね。あの無気力で死んだ目をしてたソルは、どこにいっちゃったの?」

 

 イーリスはため息を吐いた。

 

「北の崩れ通り。昔、地上から落ちてきた建材が山みたいに積もってる区画。その奥に、獣人たちが勝手に住み着いてる場所がある」

 

「そこにノインがいるのか」

 

「いる。というより、ノインがいるから、そこが縄張りになってる」

 

「配下は」

 

「配下っていうより、群れだね。命令されてるわけじゃない。ただ、強い獣の近くに弱い獣が集まってるだけ」

 

「数は」

 

「数えたいなら自分で数えな。あたしは命が惜しいから」

 

 イーリスは銅貨を握り込み、ソルを見た。

 

「……ほんとに行くの?」

 

「ああ」

 

「忠告はしたよ。ノインに会うなら、盗もうとしない。騙そうとしない。背中を見せない」

 

「全部苦手分野だな」

 

「知ってる。だから死ぬって言ってるの」

 

「なら、死ぬ前に場所を教えろ」

 

「……貸し、二つ目ね」

 

 

◆◇◆

 

 

 ――ノインに会うまでに、ソルは二回死んだ。

 

 一度目は、縄張りに入る前に殺された。

 

 ノインの縄張りは、ロストブルーの中でも特に治安の悪い区画にあった。

 治安が悪い、などという言葉が冗談に聞こえるほどの無法地帯だ。

 

 奪うために殴る。

 殴るために近づく。

 近づいたから殺す。

 

 そんな連中が、路地の影にいくらでも転がっている。

 ソルはノインに会う前に、背後から頭を割られて死んだ。

 

 二度目は、ノインの配下らしき獣人に喉を裂かれた。

 

 配下、というより、縄張りに住みついている獣たちだ。

 彼らはノインに命令されているわけではない。

 ただ、ノインがいるから集まっている。

 強い獣の周りに、弱い獣が寄る。

 それだけのことだ。

 

 三度目で、ようやくノインに会えた。

 

 大きな男だった。

 獣人、なのだろう。

 だが、何の獣かは一目ではわからない。

 

 獅子を思わせる、金に近い褐色の鬣めいた髪。

 岩を砕くために生まれてきたような分厚い腕。

 傷だらけの肉体に、牙と爪。

 そのくせ、額からは獅子には似つかわしくない角が伸びている。

 猛獣のようで、鬼のようで、あるいはそのどちらでもない。

 ただ、その体躯だけは間違いなく獣のそれだった。

 

 勝てない。

 こいつには勝てない。

 

「お前がノインか」

 

 ソルが言うと、ノインは片目だけを開いた。

 

「誰だ、テメェ」

 

 唸るような声だった。

 それだけで、空気が低く震えた。

 

「ソル」

 

「あぁ? 知らねぇ名だな」

 

「だろうな」

 

「……で?」

 

 ノインの片角が、薄暗がりの中でぎらりと浮いた。

 獣のような体躯が、一歩、前に出る。

 

「名乗りに来ただけなら、帰れ。喧嘩売りに来たんなら、かかってこい」

 

「用件は一つだ」

 

「言えよ」

 

「俺の仲間になれ」

 

 ――次の瞬間、ソルの体は壁に叩きつけられていた。

 

 何をされたのか、わからなかった。

 ノインが立ち上がったことは見えた。

 拳が動いたことも、多分見えた。

 だが、それだけだ。

 気づいたときには、肺が潰れ、肋骨が折れ、口から血が溢れていた。

 

「寝言は寝て言え」

 

 

 その声を最後に、ソルは死んだ。

 

 

◆◇◆

 

 

 ――四度目。

 

 ソルは距離を取った。

 正面から挑めば死ぬ。

 なら、罠を使う。

 地面に穴を掘り、路地の上に瓦礫を積み、逃げ道を決め、遠距離から仕掛ける。

 

 結果、死んだ。

 

 ノインは罠を踏まなかった。

 踏む必要もなかった。

 罠の位置ごと壁を砕き、瓦礫ごとソルを吹き飛ばした。

 

 ――五度目。

 

 毒を使った。

 死んだ。

 

 ――六度目。

 

 情報を集めた。

 死んだ。

 

 ――七度目。

 

 どれだけ強かろうと、腹が減れば鈍る。

 獣人だろうと、怪物だろうと、生き物である以上、食わなければ弱る。

 

 だからソルは、ノインの食事に手を出した。

 

 盗む。

 腐らせる。

 すり替える。

 食わせない。

 

 殺せなくてもいい。

 一日でも、半日でも、一瞬でもいい。

 あの怪物の動きが鈍れば、それで勝ち筋が生まれる。

 そう考えた。

 

 それすらできずに、また殺される。

 そう思った、その前に――ツヴァイという女に殴られた。

 

 細い腕だった。

 けれど、動きが速い。

 猫のようにしなやかで、こちらの懐に滑り込むのが異様に上手い。

 

 ノインではない。

 その隣にいた女が、ソルを止めた。

 

 そして、ノインが初めて怒った。

 ソルは、ノインの拳で死んだ。

 

 

◆◇◆

 

 

 ――八度目。

 

「ツヴァイ?」

 

 その名を出した途端、イーリスの指先から銅貨が消えた。

 

「……どこでそれ聞いたの」

 

「ノインの隣にいた」

 

「会ったんだ」

 

「殴られた」

 

「よく生きてたね」

 

「そのあとノインに殺された」

 

「……笑えない冗談」

 

「冗談じゃねぇからな」

 

 イーリスは少しだけ黙った。

 いつもの軽い笑みが、薄くなる。

 

「で? 何が知りたいの」

 

「あの女は何だ」

 

「猫」

 

「は?」

 

「猫みたいな子。飼われてるわけじゃない。従ってるわけでもない。でも、ノインの隣にいる」

 

(つがい)か」

 

「違う」

 

「部下か」

 

「違う」

 

「家族か」

 

「それも、ちょっと違う」

 

「じゃあ何だ」

 

「泣き所」

 

 イーリスは短く言った。

 

「いや、逆鱗かな」

 

「……」

 

「手、出さないでよね」

 

「出したら?」

 

「死ぬ。あたしもアンタも、みぃーんな」

 

「……もう死んだ」

 

「なら次はもっとひどく死ぬね」

 

 イーリスは銅貨を握り直し、ソルを見た。

 

「ノインを動かしたいなら、ツヴァイを利用しようだなんて考えないことだよ」

 

「ならどうする」

 

「さぁ、とりあえず観察でもしてみれば?」

 

「随分適当だな」

 

「そりゃあ、あたし関係ないし」

 

「……」

 

「冗談だよ、冗談。腐れ縁が無駄死にすると、寝覚めが悪いしね」

 

「嘘つけ」

 

「うん、嘘」

 

 イーリスは笑った。

 けれど、目だけは笑っていなかった。

 

 

「でも忠告は本当。あの子を利用したら、ノインは絶対にアンタを許さない」

 

 

◆◇◆

 

 

 ツヴァイを観察した。

 

 イーリスに言われたから、というわけではない。

 他に手がなかっただけだ。

 だが、見ているうちに、イーリスの言っていた意味が少しずつわかってきた。

 

 恋人ではない。

 そういう甘さはなかった。

 

 主従でもない。

 ツヴァイはノインに怯えていないし、ノインもツヴァイに命じない。

 

 家族というにも、少し違う。

 もっと動物的な関係だった。

 

 ノインは獅子。

 ツヴァイは猫。

 

 ノインは守る。

 ツヴァイは隣にいる。

 ノインの怒りが荒ぶるとき、ツヴァイは近づかない。

 ノインが黙っているとき、ツヴァイは隣で丸くなる。

 

 ツヴァイは弱い。

 少なくとも、ノインと比べれば。

 けれど、ノインの隣にいることだけは許されている。

 

 それが不思議だった。

 

 

◆◇◆

 

 

「お前、なんであいつの隣にいられるんだ」

 

 九度目の回帰で、ソルはツヴァイにそう尋ねた。

 場所はノインの縄張りの端。

 崩れた壁の上に腰掛け、ツヴァイは干し肉を小さく齧っていた。

 

 猫のような耳がぴくりと動く。

 

「ノインのこと?」

 

「ああ」

 

「なんでって?」

 

「怖くねぇのか」

 

「ノインは、こわくない」

 

 ツヴァイは即答した。

 ソルは鼻で笑う。

 

「怖くない? あの化け物が?」

 

「うん。こわいのは、ノインが怒ることをするやつ」

 

「同じだろ」

 

「違うよ」

 

 ツヴァイは干し肉をもう一口齧る。

 それから、遠くにいるノインを見た。

 ノインは路地の中央に座っていた。

 誰も近づかない。

 誰も話しかけない。

 

 ただそこにいるだけで、周囲の暴力が沈黙している。

 

「ノインはね、守るものを間違えないもん」

 

「……守る?」

 

「うん」

 

「壊す、の間違いじゃねぇのか」

 

「壊すよ」

 

 ツヴァイはあっさり頷いた。

 

「ノインは強いから。怒ったら、なんでも壊す。でも、壊していいものしか壊さない」

 

「誰が決めるんだよ、それ」

 

「ノイン」

 

「暴君じゃねぇか」

 

「そうだよ」

 

 ツヴァイは小さく笑った。

 

「でも、ノインの縄張りで、ノインが守るって決めたものは守られる」

 

「……」

 

「だから、みんなここにいるんだよ。怖いから。守ってほしいから。ノインが怖いんじゃなくて、ノインがいない場所の方が怖いから」

 

 ソルは黙った。

 ロストブルーでは、強さは災害だ。

 

 強い奴が奪う。

 強い奴が殺す。

 強い奴が笑う。

 

 だが、ノインは違うのか。

 いや、違わない。

 ノインも奪うし、殺すし、壊す。

 だが、その暴力には線がある。

 

 縄張り。

 群れ。

 守るもの。

 

 それを理解しない限り、ノインには届かない。

 

「……あいつは、何を守ってる」

 

 ソルが問う。

 ツヴァイは首を傾げた。

 

「ここ」

 

「この腐った場所を?」

 

「うん」

 

「なんで」

 

「ノインがいるから」

 

「答えになってねぇ」

 

「なってるよ」

 

 ツヴァイは笑った。

 

「ノインは、ノインがいる場所を守るの」

 

 その答えは、単純すぎて、ひどく獣じみていた。

 けれど、だからこそ本質だった。

 

 

◆◇◆

 

 

 ――十度目。

 

 ソルはノインを倒すことをやめた。

 罠も毒も奇襲も、すべて捨てた。

 代わりに、ノインの縄張りを歩いた。

 

 誰が何を恐れているのか。

 誰がノインの名を使って好き勝手しているのか。

 誰がツヴァイに手を出そうとしているのか。

 誰が縄張りの外から獣を連れ込んでいるのか。

 

 見た。

 聞いた。

 盗んだ。

 殺した。

 

 そして、ノインの前に死体を投げた。

 

「こいつら、お前の名前で女を攫ってたぞ」

 

 ノインは死体を見下ろした。

 

「……」

 

「お前の縄張りで、お前の名を使って、お前の知らねぇところで好き勝手してた。守るものを間違えないんじゃなかったのか?」

 

 空気が凍った。

 次の瞬間、ノインが動いた。

 ソルは死ぬと思った。

 

 だが、拳はソルではなく、死体の頭を叩き潰した。

 

「誰だ」

 

 ノインの声は低かった。

 

「他に関わった奴は」

 

「知りたいなら教える」

 

「吐け」

 

「条件がある」

 

「あぁ?」

 

 ノインはソルを睨んだ。

 長い沈黙。

 それから、獅子は笑った。

 

「テメェ、死にてぇのか?」

 

「俺の話を聞け。簡単だろ」

 

「はっ」

 

 ノインは牙を覗かせるように口角を上げた。

 

「いいぜ。聞くだけ聞いてやる」

 

 初めてだった。

 ノインが、ソルの言葉を聞いたのは。

 

 

◆◇◆

 

 

 ――十一度目。

 

 交渉は失敗した。

 ノインは話を聞いた。

 だが、仲間にはならなかった。

 

 

「ロストブルーを救う? 笑わせんな」

 

「笑い話じゃねぇからな」

 

「なら尚更だ」

 

 ノインは鼻で笑った。

 

「救うってのは、何をだ。ここにいる奴らをか? 酒に溺れて、薬に沈んで、弱い奴から奪って、それでも自分は被害者だって顔してる連中をか?」

 

「全部だ」

 

「無茶言いやがる」

 

 ノインの目が、冷たく細まる。

 

「テメェのそれは、薬で頭やられた奴が見る夢と大差ねぇ。不可能だ」

 

「無理でもやる」

 

「なら、勝手にやれ」

 

 ノインはそう言った。

 

「俺は俺の縄張りを守る。それ以上は知らねぇ」

 

「……それじゃ足りねぇんだよ」

 

「あ?」

 

「それじゃあ――何も変わらねぇ」

 

 ソルは食い下がった。

 ――殴られた。

 

 立ち上がった。

 ――また殴られた。

 

 また立った。

 最終的に、ノインは言った。

 

「しつけぇ」

 

「よく言われる」

 

「次来たら殺す」

 

「……もう、何度も殺されてるんだがな」

 

「あ?」

 

「なんでもねぇよ」

 

 

 結果、次に殺された。

 

 

◆◇◆

 

 

 ――十二度目。

 

 ソルはツヴァイを救った。

 それは偶然ではない。

 何度も繰り返したから、起きることを知っていた。

 

 ノインの縄張りに流れてきた外の獣人たち。

 彼らはノインを恐れ、同時に妬んでいた。

 狙うならノイン本人ではない。

 ツヴァイだ。

 

 彼女を攫えば、ノインは怒る。

 怒れば動きが荒くなる。

 荒くなれば、罠にかかる。

 

 そういう浅い策だった。

 だが、浅くてもツヴァイには届く。

 だからソルは先回りした。

 暗い路地の中、ツヴァイの背後に伸びた手を、ソルは短刀で裂いた。

 

「――っぎゃああ!」

 

「手癖が悪いな。スリならもっと静かにやれよ」

 

「テメェ、誰だ!」

 

「通りすがりのスリだよ」

 

 数は多かった。

 正面からやれば勝てない。

 だから逃げた。

 ツヴァイの手を引いて、細い路地を駆けた。

 猫のような女は、意外にも足が速かった。

 

「こっち!」

 

「お前が案内するのかよ」

 

「ここ、わたしの道だもん」

 

「なら最初から逃げろ!」

 

「逃げる前に捕まりそうだったんだもん!」

 

 二人は走った。

 追手が迫る。

 ツヴァイが壁を蹴る。

 ソルが瓦礫を落とす。

 路地を曲がり、下水に潜り、崩れた階段を抜ける。

 

 そして最後に、ノインの前へ飛び出した。

 追手たちはそこで止まった。

 止まるのが遅すぎた。

 

 ノインが立っていた。

 獅子が、牙を剥いていた。

 

 その後のことは、ソルですら思い出したくなかった。

 

 ただ一つわかったのは、ノインが守ると決めたものに手を出した者は、ロストブルーでは生きていられないということだった。

 

 

◆◇◆

 

 

「余計な真似しやがって」

 

 騒ぎが終わった後、ノインはソルに言った。

 ツヴァイはノインの後ろで、膝を抱えて丸くなっている。

 

「礼くらい言えねぇのか」

 

「頼んでねぇ」

 

「そうかよ」

 

「……何が目的だ、テメェ」

 

「お前が必要なんだ」

 

「またそれかよ。いい加減、しつけぇぞ」

 

「ああ、よく言われる」

 

 ソルは、血のついた手を布で拭う。

 

「――ロストブルーが終わる」

 

 ノインの目が細まった。

 ソルは続ける。

 

「いつか、じゃねぇ。もうすぐだ。天井が崩れる。空が落ちる。ここにいる奴らはみんな死ぬ」

 

「テメェ、占い師にでもなったのか」

 

「似たようなもんだ」

 

「はっ。笑えねぇ冗談だな。俺が信じると思ってんのか」

 

「思ってねぇ」

 

「あぁ? ならなんで言う」

 

「言わなきゃ始まらねぇからだ」

 

 ノインはソルを見ていた。

 獣の目。

 だが、その奥にあるのはただの獣性ではない。

 

 守るものを持つ者の目だ。

 

「お前は、この縄張りを守るんだろ」

 

「……」

 

「なら、縄張りごと潰れる未来を黙って見てろってのか」

 

 ノインは答えなかった。

 ソルは続ける。

 

「俺一人じゃ足りねぇ。アインツがいても足りねぇ。知恵だけじゃ無理だ。暴力がいる」

 

「俺を暴力扱いか」

 

「違うのか?」

 

 ノインは鼻を鳴らした。

 

「違わねぇな」

 

「なら来い」

 

「テメェ、俺に命令してんのか」

 

「頼んでる」

 

「頼む態度じゃねぇだろ」

 

「苦手なんだよ」

 

 沈黙。

 やがて、ツヴァイが顔を上げた。

 

「ノイン」

 

 その声は小さかった。

 けれど、ノインには届いた。

 

「この人、変だよ」

 

「見りゃわかる」

 

「でも、嘘は言ってない気がする」

 

「お前の勘は当てにならねぇ」

 

「ノインの勘よりは当たるよ」

 

「言うようになったじゃねぇか」

 

 ツヴァイは少し笑った。

 それから、ソルを見る。

 

「ソルは、何を守りたいの?」

 

「妹」

 

 即答だった。

 

「それだけ?」

 

「それだけだ」

 

 ルナを救う。

 それが始まりで、今も一番だ。

 ロストブルーを救いたいなんて、綺麗事を本気で言っているわけじゃない。

 だが、ルナを守るために必要なものがある。

 

 ノイン。

 ツヴァイ。

 アインツ。

 イーリス。

 

「……それだけだが、妹を救うために、必要なもんが増えた」

 

「必要なもの?」

 

「妹だけ抱えて逃げりゃ終わるほど、もう単純じゃねぇ」

 

 ノインが、初めて笑った。

 嘲笑ではなかった。

 

「馬鹿だな、お前」

 

「あぁ」

 

「守るもんを増やす奴は、死ぬぞ」

 

「知ってる」

 

「知らねぇよ。お前は」

 

 ノインは立ち上がる。

 その巨体が影を落とした。

 

「守るってのはな、壊すことだ。近づく奴を壊す。奪う奴を壊す。傷つける奴を壊す。そうやって初めて守れる」

 

「なら壊せばいい」

 

「いつか、自分が守ってるもんまで壊す」

 

「……」

 

「俺はそれを知ってる」

 

 ノインの声には、奇妙な重みがあった。

 ロストブルー最強。

 その名の下に、どれだけのものを砕いてきたのか。

 ソルにはわからない。

 だが、ツヴァイがノインの袖を握った。

 

 ノインはそれ以上言わなかった。

 

「だから俺は、俺の縄張りだけでいい」

 

「違うな」

 

「あ?」

 

「お前は怖いだけだ」

 

 空気が凍る。

 ツヴァイが息を呑む。

 ノインの目が、獣そのものになる。

 

「もう一度言ってみろ」

 

「お前は、自分の暴力が怖いんだ。守るものを増やせば、壊すものも増える。いつか守るものまで壊すかもしれない。だから縄張りの中だけで満足してる」

 

「黙れ」

 

「失うのが怖いんだろ」

 

 ソルは笑った。

 

「最強が聞いて呆れるぜ」

 

 次の瞬間、ソルは殴られた。

 骨が折れる音がした。

 地面を転がり、壁に激突し、肺から空気が抜ける。

 それでも、意識は残っていた。

 

 ノインが近づいてくる。

 

「死にたいのか」

 

「違う」

 

「なら黙れ」

 

「黙らねぇ」

 

 ソルは血を吐きながら笑った。

 

「俺には、お前が必要だ」

 

「俺は必要としてねぇ」

 

「嘘つけ」

 

「何?」

 

「お前は、守る場所が欲しいんだろ」

 

 ノインの足が止まった。

 

「縄張りじゃない。ツヴァイだけでもない。もっとでかい、守るに値する何かが欲しいんだろ。だから怒ってんだ。だから壊してんだ。だから、ここにいる」

 

 ソルは立ち上がろうとする。

 足が震える。

 視界が赤い。

 頭がぐらつく。

 

 だが、倒れない。

 

「俺が作る」

 

「……」

 

「お前が守るに値するロストブルーを、俺が作る」

 

 ノインは黙っている。

 

「だから来い、ノイン」

 

 ソルは手を伸ばした。

 震える手だった。

 血に濡れた、頼りない手だった。

 

「俺の理想に足りねぇ力を、お前が担え」

 

 沈黙が落ちた。

 長く、重い沈黙だった。

 やがてノインは、ゆっくりと息を吐く。

 

「……小僧」

 

「あ?」

 

「お前、何回死んだ」

 

 ソルは目を細めた。

 

「どういう意味だ」

 

「その目だ。生きてる奴の目じゃねぇ。何度も折れて、何度も潰れて、それでもまだ立ってる奴の目だ」

 

「……さあな、数えるのは途中でやめた」

 

「そうか」

 

 ノインは笑った。

 今度は、確かに笑った。

 

「なら、これからは俺が数えてやる」

 

「……それは仲間になるって意味か」

 

「勘違いすんな」

 

 ノインはソルの手を取らなかった。

 代わりに、その横を通り過ぎた。

 

「俺はお前に従うんじゃねぇ。お前を王とも呼ばねぇ、だが」

 

 ノインは振り返る。

 獅子の目が、ソルを射抜いた。

 

「テメェがどこまで行けるのか、俺が見届けてやる」

 

 ソルは笑った。

 血まみれで、傷だらけで、立っているのもやっとで。

 それでも、笑った。

 

「十分だ」

 

 ツヴァイがぱっと顔を上げる。

 

「じゃあ、ソルもノインの群れ?」

 

「群れじゃねぇ」

 

 ノインが即座に言う。

 

「えー」

 

「群れじゃねぇ」

 

「でも一緒に行くんでしょ?」

 

「一時的にだ」

 

「じゃあ群れだよ」

 

「違う」

 

 ツヴァイは楽しそうに笑った。

 その笑顔を見て、ソルは少しだけ目を伏せる。

 

 何度も死んだ。

 何度も折られた。

 何度も、無理だと思った。

 

 けれど、ようやく手に入れた。

 

 地下最強の暴力。

 守るものを間違えない獣。

 ノイン。

 

 これで、アインツの試練を越えた。

 

 ――だが、ソルはまだ知らない。

 これは始まりでしかないのだということを。

 

 暴力を手に入れても、世界は救えない。

 最強を味方にしても、理不尽には届かない。

 仲間が増えれば増えるほど、失うものも増えていく。

 

 それでも、この瞬間だけは。

 

 空無き大地の底で、確かに一つ、未来が変わった。

 

 

◆◇◆

 

 

 アインツの部屋へ戻ると、男は待っていた。

 

 まるで、最初から結果を知っていたように。

 

 ソルの後ろにはノインがいる。

 さらにその後ろには、当然のような顔でツヴァイもいる。

 アインツは三人を見て、薄く目を細めた。

 

「連れてきたか」

 

「見りゃわかるだろ」

 

「ノイン」

 

 アインツが名を呼ぶ。

 ノインは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「テメェの差し金か」

 

「小僧がこの場所を救うと言った。なら、まずはお前を動かしてみせろと言ったまでだ」

 

「気に食わねぇな」

 

「そうか、俺もお前に好かれたいとは思っていない」

 

「殺すぞ」

 

「やめとけ。手間が増える」

 

 静かな会話だった。

 だが、そこには互いを知る者の距離感があった。

 この二人は初対面ではない。

 ソルはそう直感した。

 アインツは視線をソルへ戻す。

 

「よくやった」

 

「褒められても嬉しくねぇよ」

 

「なら次だ」

 

「……――は?」

 

 ソルの顔が歪む。

 アインツは、当然のように言った。

 

「暴力だけでは救えん。次は、呪いを学べ」

 

 ノインが喉を鳴らして笑う。

 ツヴァイが首を傾げる。

 ソルは、心底うんざりした顔でアインツを睨んだ。

 

「アンタ、ほんと性格悪いな」

 

「ああ」

 

 アインツは否定しなかった。

 

「次の試練だ。フューリーから呪術を学べ」

 

 その名を聞いた瞬間、ソルは知らないはずの未来を、また一つ背負わされたような気がした。

 

 フューリー。

 聞いたことのない名だった。

 だが、アインツがその名を口にした以上、ただの相手ではないのだろう。

 

 彼女に会うことになる。

 そしてまた、ソルは時間を繰り返すことになるのだろう。

 

 知恵だけでは足りない。

 盗みだけでも足りない。

 暴力だけでも、まだ足りない。

 

 この地下の終わりを変えるには、まだ届かない。

 

 だから、学ぶ。

 死ぬためではない。

 諦めるためでもない。

 

 学ぶために。

 未来を盗むために。

 空無き大地の太陽になるために。

 

「……いいぜ」

 

 ソルは黒いマフラーを握り締めた。

 

「やってやるよ。何度でもな」

 

 アインツは何も言わなかった。

 ただ、その古びた本の表紙を、静かに撫でた。

 

 

 まるで、そこに記された未来が、ほんの少しだけ書き換わったことを確かめるように。

 

 

◆◇◆




ノイン
 ロストブルー最強の男。獅子を思わせる鬣と体躯、牙や爪を持ちながら、額には角があり、何の獣人なのかは判然としない。荒く、短気で、喧嘩っ早いが、身内への情は深い。
 ツヴァイのことを特別に気にかけており、彼女に手を出す者には容赦しない。
 ソルのことは、気に入らないが目を離せない男だと思っている。死に急ぐような目も、何度倒れても諦めないしつこさも癪に障る。だが、ただの馬鹿ではないと認めている。従う相手ではないが、隣でどこまで行けるか見届けるつもりでいる。

ツヴァイ
 ロストブルーに生きる女。身軽で警戒心が強く、誰かに縛られることを嫌う。一度懐に入れた相手には静かに寄り添う情の深さもある。
 ノインのことは特別に信頼しており、彼のそばにいることで生き延びてきた。
 ソルのことは、最初は危うくて信用しきれない男だと思っていたが、諦めずに何度も立ち上がる姿と、ロストブルーを救おうとする無茶な願いを見て、少しずつ目を離せなくなる。彼が諦めない限り、自分も彼の手伝いをするつもりでいる。
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