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「娘さん、生まれたんだって?」
リンガ飴を舐めながら、レムはいろんなところを歩いて回った。
串焼きや麺のような食べ物、甘い果実の飲み物。
レムが気になって目を向ければ、それに気づいた青年が買い与えてくれる。
初めて食べるものばかりで、どれもおいしかった。
店を回っていると、いろんな人がお兄さんに声をかけてきた。
おじいさんに、おばさん。
子供から人相の悪い青年や、胸の大きい女の人まで、本当にいろんな人だ。
お兄さんたちは一言二言言葉を交わし、その度にレムへ視線が向けられる。
一瞥するや興味を失ったように無視して去る人もいれば、もっと聞きたそうにしている人たちもいた。
けれど、その人たちもお兄さんが怖い笑みを浮かべると、そそくさと去っていく。
どうやら、お兄さんは人気者らしい。
そうこうして辿り着いたのは、祭りの中心地から少し離れた八百屋さんだった。
「テメェ、それをどこで聞いた」
「いやなに、風の噂でな。あの強面のおっさんが西区の美人を口説き落としたってんで、巷じゃ有名なんだぜ? その美人さんが子を産んだんだ。まず間違いなくアンタの子だろ?」
「……娘と嫁さんに手ェ出してみろ。ただじゃおかねぇからな」
「おいおい、そう怖い顔すんなよ。子供が見たら泣いちゃうぜ? ほらこれ、ちょっとしたものだ」
そう言って、ソルは袋に入ったものを手渡そうとする。
けれど、
「お前に祝われるなんざ御免だ」
怖い顔をした店主は、受け取ってくれなかった。
「ひどいな。俺はこれでも、本気でおめでたいと思ってるんだぜ」
「お前みたいな奴の言葉を誰が信じるんだよ」
ソルは苦笑して、手を引っ込める。
受け取ってくれないなら仕方がない。
嫁さんにでも直接渡せばいいだろう。
そう思ったのだが、
「し、信じますっ。レムはお兄さんのこと、信じられます!」
高身長の二人が会話する遥か下で、青年の手を握ったままの幼い少女が声を上げた
店主は驚いた顔をしている。
陳列棚の陰に隠れて、見えていなかったようだ。
「あ? おい、この子は……」
「拾ってきた」
聞かれるだろう質問に、青年は手短に応えた。
先ほどまでの人たちにははぐらかしていたのに、この店主には簡単に打ち明ける。
「拾ってきたって、お前なあ!」
「アンタの気にすることじゃないだろ」
「……ったく。その子に免じて、それは貰っといてやる」
「そうか」
引っ込めた手を再び差し出し、ソルは袋の中からそれを取り出して手渡した。
「ああ? おい、なんだこれ。宝石、か?」
「ああ。アメジストの指輪だ。魔除けの効果があるらしい」
「お前、こんな高価なもん、何考えてやがる」
「何も考えちゃいないさ。ほんの感謝のしるしだよ、ほんのね」
「……ありがとよ。それで、何しに来た」
「ああ、少し買いもんをな。そうだなぁ、どうする。ピーマルでも買うか?」
「! ──ふるふるふるっ」
緑の悪魔の存在を察知して、すぐさまレムは首を振った。
ふるふると、柔らかい頬っぺたが揺れている。
「そんなに嫌か。じゃあ買うとしよう。いくらだ?」
「……お前、鬼畜だな。優しくしてやれよ」
「アンタも娘さんが好き嫌いしたら食わせるだろ?
「気色悪ぃ呼び方すんじゃねぇよ。ほらよ、銅貨二枚だ」
「ああ」
支払いを済ませ、今日の食卓に緑の悪魔が並ぶことが決まった。
それを理解して、レムは絶望を顔に浮かべる。
「ほら、嬢ちゃん。これやるよ」
「え……?」
そんな少女に手渡されたのは、一つのリンガだった。
「それと同じリンガだ。食後の口直しにでもしな」
「甘やかすなよな、おっさんの癖に」
「うるせえ」
顔に似合わぬ優しさを見せるおじさん。
貰ったリンガは、やっぱり赤くて、丸々としていた。
「あ、ありがとう……」
怖い顔だけど、優しい人だと思った。
お兄さんと同じだと。
だから、レムは怖いのを隠して、お礼を言った。
「おう、どういたしまして」
傍から見ても、ほっこりする空間だった。
このまま後腐れなく去りたいところだったが、そういうわけにもいかなかった。
「──それで? 何か進展はあったか?」
進展、とはなんのことだろう。
顔色の変わったお兄さんと、店主の表情。
そして、その場の空気。
それらに気づいて、思わずレムはお兄さんの手をぎゅっと握った。
「……爺さんから一報は預かってる」
「ほう。石か? 剣か? それとも、人か?」
「知るか。爺さんに直接聞きな」
「つれねえな」
それだけ交わして、お兄さんは聞きたいことを聞き終えたように体の向きを変えた。
お別れのようだ。
レムは、歩き出すお兄さんについていく。
ちらりとおじさんの方を振り返ると、おじさんは一瞬こちらを見て、それからお兄さんへ視線を向けた。
「……まだ、やめる気はないのか?」
「──ねぇな。これっぽっちも」
何事かわからない会話を遂げて。
「……そうかい。爺さんによろしくな」
「おう。そっちも奥さんによろしくな」
二人は店を後にした。
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