ゼロカラワカツイセカイセイカツ   作:萎える伸える

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第五話『上客と情報』

◆◇◆

 

「大ネズミに」

 

「諜報とかさせられたら面白いよな。あれも魔獣なんだろ? ていうことは、角を折れば従うわけだ。なら、試す価値はあると思わないか?」

 

「……スケルトンに」

 

「死者の残滓はどれほど残ってるんだろうな。脳がなきゃ記憶は残らないか? だが人の持つオド(輝き)は条理を覆すって云うぜ」

 

「はぁぁ……我らが貴きドラゴン様に」

 

「過去の話を聞いてみたいな。特に荒れ地のホーシンについて。そいつの語録を読んだが、思想が滅茶苦茶だ。とても一人の人間が考えたものとは思えない。複数人のゴーストライターがいたか、あるいは本物の天才だったのか。気になって夜も眠れない日々だ。アンタもよかったら読むか?」

 

 決まった合言葉に対して返すのは、日頃の疑念や思いつきの戯言。

 合言葉を投げかけた人間は、間違った返答を訂正することもなく、大きなため息を吐いた。

 その後、扉が開かれる。

 

「お主は、まともに取り決めも守れんのか」

 

「取り決めも何も、それ知ってんの俺とあのガキくらいだろ? 爺さんのお遊びに付き合ってやってるだけ、ありがたいと思ってくれよな」

 

 出迎えたのは、上背のある青年が見上げるほどの体躯を持った、色黒の老人だった。

 いかつい老人に対し、青年は臆することなくその肩に手を置き、言葉を交わす。

 

「バカを言うでない。お主以外にも客はいくらでもおるわい」

 

「昼下がりに安酒を嗜んでるくせにか? 俺が来なきゃ閑古鳥が鳴いてるんじゃないか、この盗品蔵」

 

「むぅ……本当に小生意気な若僧じゃな。お主が上客でなければ叩き出しておったぞ」

 

 老人は青年を上客と呼び、青年は老人を爺さんと呼ぶ。

 かなり慣れ親しんだ間柄だった。

 

「邪魔するぜ」

 

 一般人はまず入らぬ貧民街の、そのまた奥地にある盗品蔵。

 そこに暮らすのは、この一帯の顔役である巨人族の老人、通称ロム爺である。

 彼が、この治外法権となった貧民街を裏から治めているのだ。

 そんな彼と、何故青年が親密に関わっているのか。

 それは先ほど老人が言ったように、青年が上客であり、なおかつこの貧民街に勝手に住み着き、書室を作っている隣人だからである。

 

「ほらよ、今月の成果だ」

 

 そう言って布を広げると、ぼろぼろと机に転がったのは、絢爛に光る石ころや指輪、貴金属の類だった。

 

「これはまた、随分と派手にやったの。──何処から盗ってきた」

 

「おいおい、出処を聞くなんてマナー違反なんじゃないか? ──子爵に男爵、貴族街の奴らと城下街の豪商。後は外にいる盗賊団からちょこっとな。バレたら極刑ものかもな」

 

 マナー違反だと悪態をつきながら、青年は平然と出処を明かした。

 

「こんだけやってバレとらんのじゃから、その心配はないじゃろう。まったく、一体どんな手を使ったんじゃ? こんな真似を簡単に許すほど、王都の警備はザルじゃなかろう」

 

「逆に言えば、出来たんだからザルってことだろ?」

 

「手を明かす気はないか。ま、当然じゃの。これは後でまとめて鑑定しておこう」

 

「せっかく隣人のよしみでアンタに流してるんだ。良い値を期待してるぜ」

 

「ふん、こっちは情報もやっとるんじゃ。適正額で妥当じゃろう。本当に金にがめついのう」

 

「そりゃあな。金は生まれた場所を気にしない。それが金のいいところだろ? 平等で、不平等だ」

 

「使い道もない癖に、一体何の為に金を集めとるんじゃ? ──まだ、あ奴らの仕事を引き受けとるのか?」

 

「……ああ。金回りがいいからな、あいつらは。それに、金の使い道ならあるさ。養わなきゃいけない奴もできたしな」

 

 ソルが視線を向けたのは、隣の机で二人から離れて座り、ミルクを飲んでいる子供。

 レムだ。

 ロム爺もまた視線を向け、その喉を唸らせる。

 

「むぅ。あの子供も盗んできたのか?」

 

「まさか。俺がそんな畜生に見えるか? 拾ってきたんだよ、()()()に滅ぼされた村でな」

 

「なんじゃと!?」

 

 魔女教。

 そう言葉を添えると、ロム爺は眉間にしわを寄せ、怒鳴り声を上げた。

 その声に、びくっとレムが反応し、怖い顔をした老人を見つめる。

 

「──爺さん」

 

「む、すまぬ」

 

 咄嗟に謝るロム爺に、ソルはそっと顔を近づけて告げた。

 

「実はあいつな、どうにも記憶がないらしいんだよ」

 

「記憶がない、じゃと?」

 

「ああ。俺が何があったのか聞いても、誰にやられたのか聞いても、覚えていやしない。魔女教徒の死体が転がってたから何があったのかはわかるが……とんだ無駄足だった」

 

「そうか……いや、しかし。あの顔、何処かで……」

 

 ロム爺は思案顔になり、うんうん唸って考え込む。

 

「なんだ、あのガキのこと知ってんのか?」

 

「……いや、ありえぬか。すまんな、特に思い当たることはない」

 

「そうか。もう歳だもんな。仕方ねえよ」

 

「わしがボケとると言いたいのか!? あまりジジイを舐めるでないぞ、小僧!」

 

「わかったわかった。わかったから席につけよ。短気な爺さんだな」

 

 調子よくツッコミを入れてくれる面白爺さんを楽しげに宥めながら、ソルは話を継続する。

 

「ジジイで遊ぶでない。恐れ知らずな奴じゃな。裏の顔役を舐めとると痛い目を見るぞ」

 

「はいはい、肝に銘じておくよ。それより」

 

 そこまでの会話をぶった切って、ソルは本命を切り出した。

 

「──情報は、石か? 剣か? それとも、『奴』か?」

 

 ソルにとって、その情報は石、剣、人の順で価値が上がっていく。

 最も価値があるのは、人の情報。

 ソルは真剣に翁を見つめ、老翁もまたそれに応えるように口を開いた。

 

「──石、じゃ」

 

「そうか、ハズレだな」

 

「じゃあ情報はなしかの」

 

「待て待て、金は払う。それで? 質は? 量は? 場所は何処だ」

 

「そう急くでない」

 

 そう言って老人は間を置き、続けて言った。

 

「質は超高品質。量も大量。場所は南の帝国国境付近。そこに大量の『魔瘴石』を積んだ行商を襲い、略奪した『盗賊団』がいるそうじゃ」

 

 ソルが三番目に欲する情報。

 

 

 それは、『魔瘴石』の在り処だった。

 

 

◆◇◆




 ロム爺
 亜人戦争で亜人側の大参謀として活躍した英雄。未だ亜人差別が根強く残る王国に対して反感を持っていて反旗を翻すタイミングを窺っていたところ、フェルトを預かり育て、育んでいく中で人間への憎悪を失う。
 突然現れた上客の青年と親密な仲を築く。青年の考えていることが分からず、年寄りに対する敬いの精神がないことでよく喧嘩になるが毎回負ける。若いのに大した男だと思っている。

 魔瘴石
 魔瘴石とは文字通り瘴気を多分に含んだ特別な魔鉱石です。基本的には呪術の触媒として使われます。そんなものを大量に買おうとしてた帝国。襲われる行商。盗賊へ流れる魔瘴石。そこは未だ魔獣蔓延る王国領の中。何も起きないはずはなく。

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