ゼロカラワカツイセカイセイカツ   作:萎える伸える

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第六話『義賊団』

◆◇◆

 

 

「あー‼ ──ソルの兄ちゃんじゃねぇか! 来てたのかよ!」

 

 必要な情報を得て盗品蔵を後にしようとしたソルに、幼くやんちゃな声がかかった。

 

「なんだ、いたのかチビガキ」

 

「久しぶりじゃん! なあなあ、今度は何盗んできたんだよ! なあ!」

 

 目を輝かせた幼女が、ハイテンションで青年へ近寄り、同じ調子で問いかける。

 

「相変わらず口の利き方のなってねぇガキだな。そら、これやるから大人しくしとけ」

 

 そう言って、ソルは懐から豪華な装飾を施された一つのブローチを取り出した。

 その中央には大きなレッドサファイアが埋め込まれていて、売れば聖金貨二十枚はくだらない代物だ。

 それを、ソルは無造作に放り投げてフェルトへ渡した。

 

「……お主、隠しておったな。あまりフェルトを甘やかすでない」

 

「よっしゃー! ありがとな兄ちゃん! お礼は身体で払うぜ!」

 

 苦言を呈するロム爺に、無邪気に喜ぶフェルト。

 フェルトはよくソルから宝石や装飾品を貰っていて、それをいつかの資本になると大事に溜め込んでいる。

 また宝石を貰えるのは、自分が気に入られているからだと勝手に思っているらしい。

 言っておくが、ソルにそんな深い意図はない。

 ただ、うるさいから適当なエサをやって黙らせているだけだ。

 

「……はぁ、どこでそんな言葉覚えてきやがった。また歓楽街にでも忍び込んだのか? 爺さん、あんたの教育はどうなってるんだ」

 

「わしは放任主義じゃ。じゃが、意味を理解していない言葉を使うもんじゃないぞ、フェルト」

 

「ロム爺の言ってることは難しくてよくわっかんねーよ。──っていうか、誰だお前?」

 

 フェルトが興味を示したのは、ソルの袖を掴んでいるレムだった。

 オラオラしているフェルトに、レムはソルの後ろに隠れて答えた。

 

「……レム」

 

「ふーん、レムっていうのか。あたしと同い年くらいか? はっ、まさか兄ちゃんあたし以外の女にも手ぇ出したのか!?」

 

「なぬぃ!?」

 

「バカ野郎! 語弊のある言い方をするんじゃねぇよ! バカガキ!」

 

 さては、自分にはもう飽きて、次の貢ぎ候補を見つけてきたのか。

 そんなふうに問いかけるフェルトは、年の割に妙に敏い子供だった。

 ただし、その言葉遣いは貧民街と歓楽街で拾い覚えたものばかりだ。

 耳だけはよく、意味を深く理解しているかは怪しいまま、彼女はそこで覚えた言葉を遺憾なく発揮していた。

 その結果、ロム爺は額に青筋を浮かべて叫び、ソルも珍しく焦ったように言葉を訂正させる羽目になった。

 

 

 

 

 

「いってーな、兄ちゃん……」

 

「自業自得だ」

 

 頭を押さえたフェルトの額は、赤く腫れていた。

 やったのはソルで、その額に思い切りデコピンをかましたのだ。

 

「爺さんも、大切にしてるんなら言葉くらいちゃんと教えとけ」 

 

「むぅ」

 

「むぅ、じゃねえよ。あんた亜人戦争の『大参謀』だったんだろ? それぐらいお安い御用だろうが」

 

「馬鹿者、フェルトの前でその話をするでない!」

 

「あんたが孫の教育をサボってるからだろうが! だいたい『わしはあじんぞくのだいさんぼうだっただんだぞぉ』とか酒の席で言ってたのは爺さんだろ!」

 

「なにをぅ!?」

 

 大人同士がうるさく口論している一方で、子供二人は言葉を交わしていた。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「それでお前どっから来たんだ?」

 

「え、えっと」

 

 初っ端から答えられない質問に、レムは目を逸らし、手をこまねいた。

 

「ま、別にどこでもいいかそんなの。それよりお前さ」

 

 その様子を見て、フェルトは質問をやめる。

 そして、いきなりレムの両肩に手をのせた。

 

「え、え?」

 

 逃げ場を封じられ、強引に目を合わせて、

 

「あたしの仲間になれよ!」

 

 フェルトは勝気な笑みを浮かべて言った。

 

「……なか、ま?」

 

「あの兄ちゃんが連れてるってことは、お前もしかしなくてもなんかあんだろ?」

 

 同じくらいの子なのに、目の前の子は自分とはまったく違っていた。

 こんな場所に暮らしているのに、不安とか諦めとか、そういうものがまるでない。

 その目は、どこまでも輝いていた。

 

 

「あたしの義賊団に入れよ! 兄ちゃんと一緒に!」

 

 

 そうこちらに手を差し出す姿は。

 その笑顔は。

 あの日のお兄さんと同じくらい、輝いて見えた。

 

「………」

 

 その光景に、レムはしばし呆然とする。

 

「?」

 

 呆けた表情のレムにフェルトが疑問符を浮かべ、そこへ外から声がかかった。

 

「──俺は入らねぇって、そう何度も言ってるだろ?」

 

「いいじゃねーか、兄ちゃんのけちんぼ! って、ロム爺は?」

 

「さあ、頑固な爺さんならもしかしたら今頃床で伸びてるかもな」

 

「げっ、またロム爺のこと伸しちまったのかよ兄ちゃん。ロム爺運ぶの大変なんだぞー!」

 

 口喧嘩の末、暴力に発展するのなんて日常茶飯事だ。

 なお、ロム爺が力でソルに勝てたことは一度もない。

 一度もだ。

 

「ほら、もう行くぞ。時間が惜しい」

 

 そう言ってレムに声をかけつつ、ソルは盗品蔵を去ろうとする。

 その背を、とことことレムが追った。

 

「んだよ、もう行っちまうのか?」

 

「ああ」

 

「そっか、またお土産くれよな兄ちゃん」

 

「余裕があったらな」

 

「お前も、次会った時に返事聞かせろよな──レム!」

 

「う、うん!」

 

 去り際に、寂れた街に咲く溌剌な少女と言葉を交わして。

 今度こそ、二人は盗品蔵を後にした。

 

 

◆◇◆




 

 フェルト
 青年をソルの兄ちゃんと呼ぶ活発な少女。お金が大好きで、お金になるものも大好き。青年が来るたびに高価な宝石をくれるので実の所売れば豪邸に住めるぐらいには資産が溜まっていることを少女は知らない。
 青年のことを義賊だと勘違いしている。貧民街の奴らに金を渡しているところを見たことがあるのと、彼が盗むのは大抵悪者や貴族からだからである。青年のような義賊に憧れていて、自分で団を作って青年を仲間にしたいと思っている。
 ちなみに、フェルトはレムの一個下です。

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