ゼロカラワカツイセカイセイカツ   作:萎える伸える

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第七話『異次元の力』

◆◇◆

 

 

「──〝バン〟」

 

 奇怪な文言と共に、不可視の力が放たれる。

 

「ぐああああぁぁぁぁあああ‼‼」

 

 男の断末魔が響き渡り、胴体に風穴の空いた死体が一つ増えた。

 既に二十を超える死体が野山に散乱していて、そのどれもが同じように穿たれている。

 

「───」

 

 黙々とそれらを成した隈の酷い青年は、逃げ惑う盗賊たちに向けて人差し指を伸ばし、親指を立て、手を銃のように構える。

 

「──〝バン〟」

 

 バン、と一つ唱えれば、不可視の、しかも空間を歪めるほどの力の塊が解き放たれ、背を向けて逃げる男の頭部を吹き飛ばす。

 

「──〝バン〟」

 

 止まらず二発目が放たれ、足が飛び、臓物が撒き散らされ、頭のない死体が増えていく。

 その精度は正確無比。

 

「──〝バン〟」

 

 三度放たれたそれが、最後の一人の両足を吹き飛ばした。

 

「あがぁっ!」

 

「──おい」

 

「──ひっ」

 

 そこは周囲を山と森に囲まれた、『巨大な盗賊団のアジト』だった場所だ。

 もう、悪逆を尽くした悪人は正面の一人しか残っていない。

 盗賊団の構成員、その数およそ百余名。

 そのすべてを、黒服に身を包んだ男の不可思議な力が葬り去ったのだ。

 仲間を失い、両足を奪われ、逃げ場を失った男──盗賊団の首領は、情けなく怯え、絶望を顔に浮かべていた。

 

「お前がこの盗賊団の首領だな」

 

「──っ」

 

「──略奪した『石』は何処だ」

 

「………ッ」

 

「黙っているのも結構だが、言わないなら地獄を見るぜ。──次元を超えた力、垣間見てみるか?」

 

 ソルが手を構えると、そこに黒紫のオーラが宿る。

 

「──ひぃいぃ! ま、待ってくれ! 何でも話すっ、石の在り処も言う! だかッ、だからっ、命だけは──ッ‼」

 

 黒の青年の本気の殺気に屈した首領は今、自分の命を除いたすべての選択肢を捨て去っていた。

 命。

 命だけは長らえる。

 生き残る。

 それだけを心に刻み込む。

 

「言え」

 

「い、石は奥の部屋に保管してるっ。い、石が欲しいのか? な、なら、石はぜんぶあんたにやる。なんならオレが荷運びを手伝──」

 

「無駄口を叩くな」

 

「あ゛ぁぁぁあああああぁぁぁぁぁあッ!!」

 

 千切れた肉の断面を、土で汚れた靴底で踏みつけられ、強面の男はあまりの痛みに絶叫する。

 

 ──コイツ、なんて目で見やがるッ。

 それを、青年はゴミを見るような目で見ていた。

 その表情はぴくりとも動かず、まるで変化がない。

 

 ──無。

 人を殺し、甚振り、苦しめることに、なんの躊躇もない。

 青年らしくない姿。

 否。

 これが、青年の偽らざる姿だった。

 

(イカレてやがるッ……‼)

 

 その時、この界隈で広く情報に通じている男は気づいた。

 その男が、何者であるのかを。

 

「お、お前っ、最近『六枚舌』に雇われたっていう、あの暗殺──」

 

「──ペラペラと口の減らないおっさんだ。言うことねぇなら、もういいぞ」

 

 ソルが指を弾けば、そこにもう男の影はない。

 あるのは、上半身をまるごと消し飛ばされた身元不明の遺体だけだった。

 

「歯ごたえのねえ連中だ」

 

 やることを終えたソルは黒い手袋を外し、周囲を物色し始める。

 

「なになに……ふむ。装飾品に宝石、飾り太刀に絵画か。結構手広くやってたんだな」

 

 ソルが少々暴れたために周囲に散乱したものの中には、高価そうな品から、値段の付けにくそうなものまであった。

 こういうものは伝手がないと売れにくいため、盗賊などは普通盗らない。

 それがあるということは、人数がいるだけあって、相応に力を持った組織だったのだろう。

 ただ、それも青年ただ一人によって滅ぼされる程度のものではあったが。

 

「ああ、そうだった……──おい、もう入ってきていいぞ」

 

 思い出したかのように、ソルは外へ声を掛ける。

 すると、入口の陰からひょっこりと青髪の少女が顔を出した。

 

「……終わった、の? うっ」

 

 少女は、部屋に満ちる血と臓物の臭い、散乱する凄惨な死体を前にして顔を青くした。

 

「死体は嫌か?」

 

 そんな少女をケアすることなく、青年は問う。

 少女を心配する様子はない。

 それどころか、未だにその目は死んでいる。

 まだ気を緩める時ではないというのもあるが、理由は偏に、ここについて来たのが彼女自身の意思であるからだ。

 

「血の香りは鼻に針が刺さったみたいで苦しいだろう。死肉の臭いは鼻が曲がりそうなほど臭いだろう。どうだ? もう嫌になったか?」

 

 ソルは元々、彼女を連れてくる気などなかった。

 棲家に置いてこようとしていた。

 そもそもが邪魔であるし、こんな光景を見せたら、幼い少女が青年をどう思うかなど目に見えていた。

 無駄に怖がらせる必要もない。

 置いてくるのが最善。

 しかし──。

 

 ──おいていかないで。

 泣きながら青年にすり寄る少女は、あまりに弱く、脆く、吹けば飛びそうなほどにひ弱だった。

 連れてきたのは失敗だ。

 

 情か。

 絆されたのか。

 なんにせよ、不合理な結論だ。

 故に青年は問う。

 彼女が何を選択するのかを。

 

「……嫌。すごく、こわい。たくさんの人の叫び声が聞こえてきて、こわくて、立てなかった」

 

「そうか」

 

「でも……お兄さんがいれば、ふしぎとこわくなくて。それに、お兄さんをひとりにしたく、ない、から……だから……レムは、お兄さんについていきます」

 

「……そうか」

 

 顔を青くして。

 足を震わせて。

 今にも涙がこぼれ落ちそうなほど恐怖を感じていて。

 それでも、少女が選んだのは青年と共にいることだった。

 

 

 その選択が、青年の未来を大きく変えることを、まだ少女は知らない。

 

 

◆◇◆





 ソル 
 その意味は太陽。暑い日でも黒服に身を包んだ陰気な青年。クマが絶えず、彼が寝ているところをレムはまだ見たことがない。暗殺者疑惑がある。なお、作者は良い感じの二つ名が決まらずに困っている。

 六枚舌
 ルグニカ王都の裏を牛耳っている組織。原作にはあんまり関与してない。

 感想、評価、お待ちしてます。
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