◆◇◆
「──〝バン〟」
奇怪な文言と共に、不可視の力が放たれる。
「ぐああああぁぁぁぁあああ‼‼」
男の断末魔が響き渡り、胴体に風穴の空いた死体が一つ増えた。
既に二十を超える死体が野山に散乱していて、そのどれもが同じように穿たれている。
「───」
黙々とそれらを成した隈の酷い青年は、逃げ惑う盗賊たちに向けて人差し指を伸ばし、親指を立て、手を銃のように構える。
「──〝バン〟」
バン、と一つ唱えれば、不可視の、しかも空間を歪めるほどの力の塊が解き放たれ、背を向けて逃げる男の頭部を吹き飛ばす。
「──〝バン〟」
止まらず二発目が放たれ、足が飛び、臓物が撒き散らされ、頭のない死体が増えていく。
その精度は正確無比。
「──〝バン〟」
三度放たれたそれが、最後の一人の両足を吹き飛ばした。
「あがぁっ!」
「──おい」
「──ひっ」
そこは周囲を山と森に囲まれた、『巨大な盗賊団のアジト』だった場所だ。
もう、悪逆を尽くした悪人は正面の一人しか残っていない。
盗賊団の構成員、その数およそ百余名。
そのすべてを、黒服に身を包んだ男の不可思議な力が葬り去ったのだ。
仲間を失い、両足を奪われ、逃げ場を失った男──盗賊団の首領は、情けなく怯え、絶望を顔に浮かべていた。
「お前がこの盗賊団の首領だな」
「──っ」
「──略奪した『石』は何処だ」
「………ッ」
「黙っているのも結構だが、言わないなら地獄を見るぜ。──次元を超えた力、垣間見てみるか?」
ソルが手を構えると、そこに黒紫のオーラが宿る。
「──ひぃいぃ! ま、待ってくれ! 何でも話すっ、石の在り処も言う! だかッ、だからっ、命だけは──ッ‼」
黒の青年の本気の殺気に屈した首領は今、自分の命を除いたすべての選択肢を捨て去っていた。
命。
命だけは長らえる。
生き残る。
それだけを心に刻み込む。
「言え」
「い、石は奥の部屋に保管してるっ。い、石が欲しいのか? な、なら、石はぜんぶあんたにやる。なんならオレが荷運びを手伝──」
「無駄口を叩くな」
「あ゛ぁぁぁあああああぁぁぁぁぁあッ!!」
千切れた肉の断面を、土で汚れた靴底で踏みつけられ、強面の男はあまりの痛みに絶叫する。
──コイツ、なんて目で見やがるッ。
それを、青年はゴミを見るような目で見ていた。
その表情はぴくりとも動かず、まるで変化がない。
──無。
人を殺し、甚振り、苦しめることに、なんの躊躇もない。
青年らしくない姿。
否。
これが、青年の偽らざる姿だった。
(イカレてやがるッ……‼)
その時、この界隈で広く情報に通じている男は気づいた。
その男が、何者であるのかを。
「お、お前っ、最近『六枚舌』に雇われたっていう、あの暗殺──」
「──ペラペラと口の減らないおっさんだ。言うことねぇなら、もういいぞ」
ソルが指を弾けば、そこにもう男の影はない。
あるのは、上半身をまるごと消し飛ばされた身元不明の遺体だけだった。
「歯ごたえのねえ連中だ」
やることを終えたソルは黒い手袋を外し、周囲を物色し始める。
「なになに……ふむ。装飾品に宝石、飾り太刀に絵画か。結構手広くやってたんだな」
ソルが少々暴れたために周囲に散乱したものの中には、高価そうな品から、値段の付けにくそうなものまであった。
こういうものは伝手がないと売れにくいため、盗賊などは普通盗らない。
それがあるということは、人数がいるだけあって、相応に力を持った組織だったのだろう。
ただ、それも青年ただ一人によって滅ぼされる程度のものではあったが。
「ああ、そうだった……──おい、もう入ってきていいぞ」
思い出したかのように、ソルは外へ声を掛ける。
すると、入口の陰からひょっこりと青髪の少女が顔を出した。
「……終わった、の? うっ」
少女は、部屋に満ちる血と臓物の臭い、散乱する凄惨な死体を前にして顔を青くした。
「死体は嫌か?」
そんな少女をケアすることなく、青年は問う。
少女を心配する様子はない。
それどころか、未だにその目は死んでいる。
まだ気を緩める時ではないというのもあるが、理由は偏に、ここについて来たのが彼女自身の意思であるからだ。
「血の香りは鼻に針が刺さったみたいで苦しいだろう。死肉の臭いは鼻が曲がりそうなほど臭いだろう。どうだ? もう嫌になったか?」
ソルは元々、彼女を連れてくる気などなかった。
棲家に置いてこようとしていた。
そもそもが邪魔であるし、こんな光景を見せたら、幼い少女が青年をどう思うかなど目に見えていた。
無駄に怖がらせる必要もない。
置いてくるのが最善。
しかし──。
──おいていかないで。
泣きながら青年にすり寄る少女は、あまりに弱く、脆く、吹けば飛びそうなほどにひ弱だった。
連れてきたのは失敗だ。
情か。
絆されたのか。
なんにせよ、不合理な結論だ。
故に青年は問う。
彼女が何を選択するのかを。
「……嫌。すごく、こわい。たくさんの人の叫び声が聞こえてきて、こわくて、立てなかった」
「そうか」
「でも……お兄さんがいれば、ふしぎとこわくなくて。それに、お兄さんをひとりにしたく、ない、から……だから……レムは、お兄さんについていきます」
「……そうか」
顔を青くして。
足を震わせて。
今にも涙がこぼれ落ちそうなほど恐怖を感じていて。
それでも、少女が選んだのは青年と共にいることだった。
その選択が、青年の未来を大きく変えることを、まだ少女は知らない。
◆◇◆
ソル
その意味は太陽。暑い日でも黒服に身を包んだ陰気な青年。クマが絶えず、彼が寝ているところをレムはまだ見たことがない。暗殺者疑惑がある。なお、作者は良い感じの二つ名が決まらずに困っている。
六枚舌
ルグニカ王都の裏を牛耳っている組織。原作にはあんまり関与してない。
感想、評価、お待ちしてます。