ゼロカラワカツイセカイセイカツ   作:萎える伸える

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第八話『瘴気と正気』

◆◇◆

 

 

「これは……」

 

 深い山の奥、廃坑の跡地に作られた盗賊のアジトは、かなり奥まで続いていた。

 暗く閉鎖的な道を、壁伝いに掛けられた外灯を頼りに歩いていく。

 その後ろを、レムが続いた。

 そうして辿り着いたのは、奇妙な異臭の漂う牢屋だった。

 

「………」

 

「女か」

 

 牢屋を覗けば、そこにいたのは短い赤髪の女だった。

 彼女は、衣服を身に纏っていない。

 ここで何をされていたのかは、頭を使わずともわかることだろう。

 

「───」

 

 ソルは考える。

 無視して奥の物置部屋を漁るか。

 それとも、この女をここから出すか。

 ちらりとレムを見れば、

 

「……?」

 

 その瞳とかち合った。

 

「おい、女。ここから出たいか?」

 

 そうして視線を戻し、ソルは問う。

 

「………あなたは?」

 

「通りすがりの一般人だよ。それで、出たいのか、出たくないのか。どっちなんだ?」

 

「で、でたい……です。あの、出してくれませんか……? ……お、お願いします」

 

 牢屋の柵にしがみつき、陰気な目をした女は、口下手に脱出を乞う。

 

「……いいだろう。ただし、下手な真似をするなよ。一度でもおかしな真似をしたら……──〝バン〟」

 

 その言葉と共に力が解き放たれ、鍵も鉄の檻も関係なく吹き飛ばした。

 それを脅しとして、女を支配下に入れる。

 

「ひっ……は、はい……わか、りました……わかりましたから、あの、そこにある服、とってもらってもいいですか……?」

 

「……ほらよ」

 

 女は確かに怯えている様子だった。

 だが、まだどこか余裕を残しているようにも思える。

 鈍感なだけか。

 あるいは、まだ混乱しているだけか。

 しかし、ソルの勘がこの女を怪しんでいた。

 

 ──慰み者にされていたようであるのに、目が死んでいない。

 挙動不審に視線を動かし、弱々しく身を震わせている。

 けれど、まだ自分を保っている。

 

 ──殺すべきか。

 

「……お兄さん?」

 

 その思考を止めたのは、レムだった。

 剣呑な目をしたソルを見て、その名を呼び、ぎゅっと袖を握る。

 

「……ついてこい。俺たちから離れることは赦さない。黙って従え」

 

「──こくこくこく!」

 

 ソルは女を、そのまま自由にはしなかった。

 ついてこいと命じる。

 それは、まだ外が危ないかもしれないからではない。

 単に、このまま女を自由にすることに嫌な予感があったからだ。

 

 監視の為、ソルは女の帯同を許した。

 ソルとレムが歩き始めると、女はその後を黙ってついていく。

 最奥の部屋に着くと、そこには部屋いっぱいに置かれた魔瘴石の袋があった。

 

「おお」

 

 袋を開ければ、中には大量の魔瘴石。

 それに、ソルは喜色を含んだ声を出した。

 いつも虚ろな目も、今ばかりは輝いて見える。

 

「………黒い、石?」

 

「………」

 

 その後に続くレムは、その石にどれほどの価値があるのかわからず、頭上にはてなを浮かべる。

 女もまた、じっと部屋を見渡していた。

 ソルは部屋中の袋すべてに魔瘴石が入っていることを確認する。

 

「思ったよりも量が多いな。ざっと十袋か」

 

 十袋。

 それも一つ一つがかなり重く、ソルが持てるのはせいぜい二つだろう。

 

「……仕方ない。まずは二つか」

 

 ソルは二つの袋を抱えて振り返った。

 

「よし、外に出るぞ」

 

「あ、あの……手伝いましょう、か……?」

 

「いや、いい。あんたは何もするな。お前もだ」

 

「ふっんっ!」

 

「お前じゃ持てねぇだろ」

 

「でもっ、わたしもっ、お兄さんの役に立ちたい、からっ」

 

「……はぁ。ほら、こっちの小さいの持ってけ。これくらいなら持てるだろ?」

 

「! わかった」

 

 ソルが促せば、レムはてくてくとこちらに近づいてきて、小銭入れくらいの袋束を受け取った。

 

「少なくはあるが、高品質な石の入った袋だ。ちゃんと持っとけよ」

 

「……うん!」

 

「んじゃ、行くぞ」

 

 三人は盗賊のアジトを出た。

 外はまだ明るい。

 しかし、日は着々と沈みかけている。

 

「あんた、もう行っていいぞ」

 

「! いいん、ですか……?」

 

「なんだ? 何か問題でもあるのか?」

 

「い、いいえ……あの、その……助けていただいて、ありがとうございました」

 

 女は腰を九十度に曲げて、お礼を告げた。

 そう言って顔を上げると、今度は地面に膝をつき、小さな少女にも目線を合わせる。

 

「あの……あなたも……」

 

 そうして、レムにも礼を言う。

 

「あの、えっと……これ、よかったら……」

 

 そう言って、女は両手をレムに差し出した。

 

「……?」

 

 レムは何かわからぬまま、それを受け取ろうとして、彼女へ手を伸ばす。

 

「──ッ、レム! 離れろ!」

 

 最後の最後まで警戒していたソルが、血相を変えて叫んだ。

 

「──いひっ」

 

 女の顔が、狂気に染まる。

 

「〝バ──」

 

「──脳が震える」

 

 爆音が脳を揺らし、熱を孕んだ衝撃波が皮膚を撫でた。

 最後にレムが見たのは、身を包む黒と。

 焦りを浮かべた、お兄さんの顔だった。

 

 

 

 ドゴガガァァァァァァアアンッ!!

 

 

 

◆◇◆




 女
 短い赤髪に村人の服を着た女。散々怪しまれた挙句、別れ際の一番油断しているところへインサート。隠し持った何かが爆発した。何ルギウスさんの何先さんなんだろう。
 ちょーっと脳震族かどうかは審議の余地あり。
 誰やねんこいつ、に関しては次回後ほど。
 
 レム
 鬼族の少女。多分11、2歳。記憶喪失で、覚えているのは親から一心に愛されていたことだけ。その両親を失った事実に絶望し、生を諦めていたところ、目つきの悪い黒髪の青年に拾われる。
 ご飯を食べさせてもらったり、本を読んでもらったりしたことで懐いた。ちょろい。

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