◆◇◆
「これは……」
深い山の奥、廃坑の跡地に作られた盗賊のアジトは、かなり奥まで続いていた。
暗く閉鎖的な道を、壁伝いに掛けられた外灯を頼りに歩いていく。
その後ろを、レムが続いた。
そうして辿り着いたのは、奇妙な異臭の漂う牢屋だった。
「………」
「女か」
牢屋を覗けば、そこにいたのは短い赤髪の女だった。
彼女は、衣服を身に纏っていない。
ここで何をされていたのかは、頭を使わずともわかることだろう。
「───」
ソルは考える。
無視して奥の物置部屋を漁るか。
それとも、この女をここから出すか。
ちらりとレムを見れば、
「……?」
その瞳とかち合った。
「おい、女。ここから出たいか?」
そうして視線を戻し、ソルは問う。
「………あなたは?」
「通りすがりの一般人だよ。それで、出たいのか、出たくないのか。どっちなんだ?」
「で、でたい……です。あの、出してくれませんか……? ……お、お願いします」
牢屋の柵にしがみつき、陰気な目をした女は、口下手に脱出を乞う。
「……いいだろう。ただし、下手な真似をするなよ。一度でもおかしな真似をしたら……──〝バン〟」
その言葉と共に力が解き放たれ、鍵も鉄の檻も関係なく吹き飛ばした。
それを脅しとして、女を支配下に入れる。
「ひっ……は、はい……わか、りました……わかりましたから、あの、そこにある服、とってもらってもいいですか……?」
「……ほらよ」
女は確かに怯えている様子だった。
だが、まだどこか余裕を残しているようにも思える。
鈍感なだけか。
あるいは、まだ混乱しているだけか。
しかし、ソルの勘がこの女を怪しんでいた。
──慰み者にされていたようであるのに、目が死んでいない。
挙動不審に視線を動かし、弱々しく身を震わせている。
けれど、まだ自分を保っている。
──殺すべきか。
「……お兄さん?」
その思考を止めたのは、レムだった。
剣呑な目をしたソルを見て、その名を呼び、ぎゅっと袖を握る。
「……ついてこい。俺たちから離れることは赦さない。黙って従え」
「──こくこくこく!」
ソルは女を、そのまま自由にはしなかった。
ついてこいと命じる。
それは、まだ外が危ないかもしれないからではない。
単に、このまま女を自由にすることに嫌な予感があったからだ。
監視の為、ソルは女の帯同を許した。
ソルとレムが歩き始めると、女はその後を黙ってついていく。
最奥の部屋に着くと、そこには部屋いっぱいに置かれた魔瘴石の袋があった。
「おお」
袋を開ければ、中には大量の魔瘴石。
それに、ソルは喜色を含んだ声を出した。
いつも虚ろな目も、今ばかりは輝いて見える。
「………黒い、石?」
「………」
その後に続くレムは、その石にどれほどの価値があるのかわからず、頭上にはてなを浮かべる。
女もまた、じっと部屋を見渡していた。
ソルは部屋中の袋すべてに魔瘴石が入っていることを確認する。
「思ったよりも量が多いな。ざっと十袋か」
十袋。
それも一つ一つがかなり重く、ソルが持てるのはせいぜい二つだろう。
「……仕方ない。まずは二つか」
ソルは二つの袋を抱えて振り返った。
「よし、外に出るぞ」
「あ、あの……手伝いましょう、か……?」
「いや、いい。あんたは何もするな。お前もだ」
「ふっんっ!」
「お前じゃ持てねぇだろ」
「でもっ、わたしもっ、お兄さんの役に立ちたい、からっ」
「……はぁ。ほら、こっちの小さいの持ってけ。これくらいなら持てるだろ?」
「! わかった」
ソルが促せば、レムはてくてくとこちらに近づいてきて、小銭入れくらいの袋束を受け取った。
「少なくはあるが、高品質な石の入った袋だ。ちゃんと持っとけよ」
「……うん!」
「んじゃ、行くぞ」
三人は盗賊のアジトを出た。
外はまだ明るい。
しかし、日は着々と沈みかけている。
「あんた、もう行っていいぞ」
「! いいん、ですか……?」
「なんだ? 何か問題でもあるのか?」
「い、いいえ……あの、その……助けていただいて、ありがとうございました」
女は腰を九十度に曲げて、お礼を告げた。
そう言って顔を上げると、今度は地面に膝をつき、小さな少女にも目線を合わせる。
「あの……あなたも……」
そうして、レムにも礼を言う。
「あの、えっと……これ、よかったら……」
そう言って、女は両手をレムに差し出した。
「……?」
レムは何かわからぬまま、それを受け取ろうとして、彼女へ手を伸ばす。
「──ッ、レム! 離れろ!」
最後の最後まで警戒していたソルが、血相を変えて叫んだ。
「──いひっ」
女の顔が、狂気に染まる。
「〝バ──」
「──脳が震える」
爆音が脳を揺らし、熱を孕んだ衝撃波が皮膚を撫でた。
最後にレムが見たのは、身を包む黒と。
焦りを浮かべた、お兄さんの顔だった。
ドゴガガァァァァァァアアンッ!!
◆◇◆
女
短い赤髪に村人の服を着た女。散々怪しまれた挙句、別れ際の一番油断しているところへインサート。隠し持った何かが爆発した。何ルギウスさんの何先さんなんだろう。
ちょーっと脳震族かどうかは審議の余地あり。
誰やねんこいつ、に関しては次回後ほど。
レム
鬼族の少女。多分11、2歳。記憶喪失で、覚えているのは親から一心に愛されていたことだけ。その両親を失った事実に絶望し、生を諦めていたところ、目つきの悪い黒髪の青年に拾われる。
ご飯を食べさせてもらったり、本を読んでもらったりしたことで懐いた。ちょろい。
感想、評価、お待ちしてます。