ゼロカラワカツイセカイセイカツ   作:萎える伸える

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第九話『油断怠慢すなわち愛憎』

◆◇◆

 

 

 体が……重い……。

 ぼやけた意識の中で、お兄さんの声が聞こえてくる。

 怒りに震える叫び声が聞こえる。

 憎しみに染まった乱暴な声が、脳内に響く。

 冷たい地面に寝転がるレムは、瞼さえ動かすこと叶わず、その場でうずくまるしかなかった。

 

「……お、にいさ……」

 

 震える唇が、か細く言葉を紡ぐ。

 しかしそれは、瞬く間に発生した戦闘音にかき消された。

 

「羽虫みてぇに、わらわらと湧いてきやがって」

 

 突如始まった、狂劇の開演。

 女の急襲からなんとかレムを守りつつ逃れたソルは、いつの間にか消えていた女に代わり、頭からつま先まで全身を黒いローブで覆った集団に襲われていた。

 その集団を見間違えるはずもない。

 ソルは怨敵を、否、潰しても潰しても湧いてくる害虫を前に、声を荒げた。

 

「──〝バン〟‼」

 

 気を失ったレムを背に、青年は両手を構える。

 その両手に黒紫の力が宿り、次元を超えた力が振るわれた。

 飛び交う短剣。

 煌めく銀閃。

 森の中だというのに、躊躇いもなく放たれる火球。

 

「──〝バン〟‼」

 

 短剣が砕け散り、肉塊が生まれ、火球に風穴が空き、狂人を穿つ。

 ──そのすべてを、〝力〟でもって叩き伏せる。

 何度、何回、何千回、戦ってきたと思っていやがる。

 

「お前ら如きに、俺はやれねぇよ」

 

 言葉を一つ発すれば、二桁近い虫が死んでいく。

 どういう絡繰りか地面から現れるゴミ共を、軒並み潰していく。

 背後に守らなければならない存在という枷を負っているにも関わらず。

 彼ら──魔女教徒が、青年の間合いを越えることはない

 死体の山が、積み重なっていく。

 

「「「エル・ゴーア」」」

 

「──〝フュエルズ〟」

 

 幾人もの魔女教徒が呪文を唱える。

 すぐさまソルは、そちらへ向けて手を翳した。

 すると、

 

「───」

 

 出来上がった魔法が暴発し、術者を巻き込んで大爆発を引き起こす。

 ソルが操る『呪術』の一つ。

 魔法を構成するマナを、『瘴気』によって掻き乱す。

 瘴気を混ぜられた魔法は火に油を注がれたように膨れ上がり、結果、暴発する。

 

「数で押してきてるとこ悪いが、今の俺は無尽蔵なんでな。大盤振る舞いだ。──俺に力尽きるなんて言葉は無縁なんだよ‼」

 

 『呪術』も『不可視の砲撃』も、その根源は『瘴気』。

 マナを操る魔法と相反する外法の技。

 その力の最たる点は、外部の力の流用にある。

 本来、精霊術士でもない限り、術士は己の内に溜まったマナを使うしかない。

 そして、それには限度がある。

 しかし、ソルの操る呪術はその理を覆す。

 『魔瘴石』から瘴気を取り出すことによって、ある種、無尽蔵の力の行使を可能にしているのだ。

 大量の『魔瘴石』を持ったソルに、力尽きるということは有り得ない。

 

「──〝バン〟」

 

 ソルが『魔瘴石』を求めた理由。

 それこそが、この力にあるのだから。

 爆発を背景に黒のコートをはためかせ、ソルは油断なく次なる獲物を見定める。

 

「お前らには、一銭たりともやらねぇよ」

 

 魔女教徒の目的もまた、石の回収。

 何に使うのかなんて知らないが、どうせ碌なことではない。

 だから、ここで殺し尽くしてやる。

 誰も彼を止めることは叶わない。

 並み居る羽虫如きでは、彼の足元にも及ばない。

 

 

「──一匹残らず、ぶっ殺してやる!」

 

 

 殲滅の祝詞を、宣言する。

 

「………」

 

 暗い、暗い場所にいた。

 思考は微睡み、意識は揺らぎ、それでも意思は途切れない。

 視覚は機能せず、触覚は麻痺している。

 残るのは、嗅覚と聴覚。

 

 聞こえてくる。

 お兄さんの憤り。

 香ってくる。

 お兄さんと同じ臭い。

 

 そうだ。

 あのお姉さんからも、同じ臭いがしていた。

 本能が、あの人を危ないと言っていた。

 

 それでも。

 それは、その臭いは、あの優しいお兄さんの臭いでもあったから。

 気を抜いてしまった。

 心を許してしまった。

 それで今、自分は動けず、お兄さんに守られ、迷惑をかけるだけ。

 

 ──いけない。

 だめ。

 だめなの。

 

 ──役に立たないと。

 レムにもできるんだって、示さないと。

 ()()()()()()()()

 

 愛を失ってしまう。

 頑張らなければいけないんだ。

 頑張らないと、レムは、愛してもらえないのだから。

 

 立て。

 立って。

 お願い……!

 

「───!」

 

 香ってくる、その香り。

 それは、お兄さんの背後。

 血と臓物と死臭の蔓延る死体の山から。

 煙のように。

 見えない手のように。

 上へと伸び、お兄さんへと迫っていた。

 

「──勤勉で甘美なる復讐心。しかし貴方は、その憎悪で注意を怠った。──怠惰デス、ね!」

 

 そんな声が聞こえてきて。

 

 ──立たなきゃ。

 言うことを聞かなかった体が、突然回復したかのように動き出す。

 

 ──気づけば、お兄さんの体を押していた。

 華奢だけれど力持ちなお兄さんを、わたしなんかが突き飛ばせた。

 その不思議な出来事に、レムは困惑と安堵を抱く。

 

 ──よかった。

 わたしでも、役に立てた。

 背後からお兄さんを襲おうとしていた黒いナニカが、レムへと向かう。

 

 その額には、見覚えのない白い角が光り輝いていた。

 

「──ッ」

 

 

 次の瞬間、血飛沫が舞った。

 

 

◆◇◆




 ソル
 有り余る時間を使って真理を探究する青年。その力は万人を凌ぐ。呪術に精通し、独自に編み出した術をいくつか持っている。その一つが“フュエルズ”。意味は、燃料? 
 ただし、呪術だけでは説明の出来ない“力”をいくつか持っている。その一つが“バン”というトリガーで起こされる射撃攻撃。どてっぱらに大穴を開けられるくらいには放たれる力は大きい。
 彼は特殊な体質でゲートからマナを取り込めず魔法が使えない。

 レム
 頑張らないと愛されないという強い自己暗示にかかっている。愛されたいというよりは迷惑をかけてはいけないというネガティブな思いが強い。両親は死んだのではなく、自分が捨てられたのだと思っている……?

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