新選組の人斬り役   作:薩摩一兵卒

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一振り目

慶応三年12月某日

 その夜は雲で月が隠れていた。明るく活気づいている筈の京の都が迎えている夜はひどく寂しいものだった。それはただ単純に冷え込むから出ていないのか、それとも日常茶飯事に行われていた殺人行為に関わりたくなかったのか、今でもそれはわからない。ただ言えるのはその日は人斬りには絶好の夜だった。そんな中、道の中央で揺れる灯りが一つ、それは少しずつではあるが、確実に前と前進していた。その光が照らす地面には三つの影が映し出されている。三人のうち、二人は青い羽織を羽織っている。背中には「誠」の一文字がつづられている。

 

「いやぁ、今日も冷えますね。斎藤さん」

 

一人の男が呟いた。見るからに幸が薄いような人相をしている。

 

「任務中だ、私語は慎め」

 

方やもう一人の男はどうだろうか。人相は整っているものの、その眼光はまさしく一匹の狼。ひと睨みしただけで、相手を射殺すかのような鋭さを持っている。

 

「ほんとに、大丈夫なんだろうな?新選組」

 

二人の後ろに隠れているものが聞いた。何かにおびえているかのような声音だ。

 

「お前たち新選組は幕府の忠犬。どのような仕事であろうと任務は全うすると聞いたから、貴様たち下賤の手を借りたのだ。」

「わかってますよ、三浦さん。だから局長は、組織内で剣の腕が立つ僕らをあなたの護衛につけたんですから。」

「ふん、どうだかな。貴様らはつい先日仲間内で大規模な粛清をしたというではないか!そんなものどもにわしの身を守れるか甚だ疑問だ!さらに今の京には人斬り抜刀斎がいるという噂もある。護衛がたった二人とは不安でも夜も眠れんわ!」

 

男がここまで内心穏やかではないのは理由がある。それは今年に起きた一つの殺人事件であった。ただの人殺しならば、ここまでうろたえることはない。しかし、その被害者は三浦にとって因縁浅からぬ者だったことが問題だった。殺された者の名は坂本龍馬。のちにこの事件は近江事件と呼ばれ、現在でも事件の首謀者は判明していない。三浦はこの坂本龍馬に恨みを懐いていた。自身の誇りである紀州藩の威信を乏しめられたからだ。慶応三年、紀州藩と海援隊の間に一つの問題が発生した。いろは丸沈没事件である。この件で紀州藩は、8万300両の賠償金を背負うことになった。三浦にとってどうして許せないことだった。紀州藩と言えば、名君と名高き徳川吉宗を輩出した御三家の一角が治める藩である。その威信がどこぞの地方藩士ですらない浪人に貶められたのだ。恨みを懐くというのも至極当然のことだった。故に坂本龍馬が斬殺された近江事件で真っ先に首謀者の名が挙げられたのは三浦だった。

 

「伊東先生のことは言わんでくださいよ。あれは離反したんです、もう仲間でも何でもないし、粛清でもないんで」

 

斎藤の相方の反応はひどく淡白であった。たとえ敵対する者が、親兄弟・仲間であったとしてもこの男は、顔色一つ変えずに殺すだろう。それほどまでにこの男の表情が常人のそれとは一線を画していた。

 

「...つ!」

 

三浦は本能的に恐怖を感じた。この男は普通ではない。半歩後ろに下がろうとした瞬間

 

「...シっ!」

 

突然、斎藤が切っ先を三浦に振り落とした。一撃必殺、倒れたのは三浦か。否、息絶えたのは三浦の背後に潜んでいた攘夷志士だった。一人が倒れたのを皮切りに前後か大勢の足音が聞こえてきた。状況を鑑みるに味方ではないらしい。

 

「あちゃ~、囲まれてしまいましたね、斎藤さん。どうします?トンビになって逃げますか」

「阿呆、そんな芸当誰もできんだろ。それに敵前逃亡は士道不覚悟で切腹だ。悪・即・漸、それが俺たち新選組が定めた掟だ。」

「冗談ですって。まじになんないでくださいよ。あ、三浦さん。ちょっとそこ通してもらいます。敵迎え撃つんで」

 

足音が止まった。相手方は刀を抜いたみたいだ。じりじりと近づいてくる音が聞こえる。

 

「一応、聞くけど縄につく意思はある人」

 

返答はない、しかし刃を収める音は聞こえない。

「さっさとしろ、阿呆。」

「わかってますよ、斎藤さん。言ってみただけです。」

 

もうすでに斎藤は抜刀を完了している。あきらめたようにもう一人の隊士は刀を鞘から抜き放った。

 

「新選組3番隊組長 斎藤一」

「新選組1番隊隊士 大石鍬次郎」

 

「「参る!!」

 

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