新選組の人斬り役   作:薩摩一兵卒

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五振り目

 

 斎藤の放つ純然たる剣気、すなわち殺意が場の空気を支配してるが、瀬田青年は微笑むばかり。それもそのはず、彼にはもう笑うしか感情がないのだから。だから今考えていることも自身の命を度外しているものだった。

 

(多くの志士が斬り合った幕末、それも日常茶飯事に人斬りが横行していた京都で守護の任を任されていた新選組。その二人が戦うなんて面白いことが起きそうだなって)

 

「おーい、刀を構えないんですか?そのままだと死んじゃいますよ」

 

斎藤の牙突の構えを見ても、一向に鞘から抜かない黒笠に瀬田はまるで遊戯をしているかのように軽い口調で尋ねる。

 

「刀を抜かない?何のつもり?」

「お、おい。もしかしてさっきみたいに居合をする気じゃないか?」

「それはないでござるよ、栄次」

 

微動だにしない黒笠の男に疑問を浮かべる操に、推測を飛ばす栄次。しかし緋村はそれを明確に否定する。

 

「なんでだよ、刀を抜かないってことは居合しかないだろ。それにみたところ警察の人は突きの構えだ。だったら下手に動くより、躱したうえでの抜刀が得策だろ」

「抜刀はそんな応用の利くものではござらんよ。まず一つに術師が静止していることが大前提でござる。先ほど拙者らは動きながら居合をしてみたが、本来ならば会合などで身の危険が迫った時に使う技でござるよ」

 

「それに斎藤の牙突はそれすらも対応してくる。拙者の抜刀術が神速なら、斎藤の牙突は紫電のごとき一閃でござるよ」

 

栄次の疑問に答えた抜刀斎達をしり目に斎藤は目の前の男の正体を探っていた。

 

(背丈は168から172、まぁ、一般の平均だ。肩幅は俺と同じ。刀は脇差含めて二振り。該当する奴らが多すぎる)

 

「すぅぅ...はぁぁ」

 

黒笠の男が深い一呼吸を置くと、刀に手を伸ばした。そして

 

「「「!!!」」」

 

斎藤と同じ構えを取った

 

「どういうこと!?あいつも牙突が使えるってこと!?」

「いや、牙突はあくまでも斎藤だけの技。仮に使えたとしても、それこそ斎藤と長年つるんでいた者しか...っ!」

 

操の驚愕に、緋村は自身の記憶を呼び覚ます。それは幕末京都での記憶。自身が人斬り抜刀斎として新選組と対峙していた時の記憶。緋村にとって新選組とは幹部の者を除いて、取るに足らない存在であった。あの男を除いて…

 

「キィィィィン!!」

鉄がぶつかり合う音が聞こえ、緋村の思考は中断される。黒笠と斎藤が斬り結んだ音だ。

だが、両者とも健在。

 

「すぅぅ...はぁぁ」

 

またもや黒笠から一呼吸が吐き出された。そして、自身の笠を取り、隠れていた相貌を斎藤に向けた。

 

「……」

 

斎藤は顔色を変えず、ただ一言だけ口から出した。

 

「...阿呆」

 

斎藤たちの前に現れ、剣を交差させてきたのは、明治3年に処刑されたはずの大石鍬次郎だった。

 

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