ノルンとゼルドリスがキャメロットを陥落させた頃、他の〈十戒〉にもそれぞれ動きが合った。
先ずデリエリとモンスピート。この二人はゼルドリスの命令通り、各地の人間達の魂を食らい順調に魔力を回復していた。市場や人の集まる拠点を中心に効率よく魂を集め、他のメンバーに比べたら平穏な――あくまで本人たち視点で――外界での活動を行っている。
問題があったのはガラン、そしてメラスキュラだ。
二人は〈七つの大罪〉脱退を宣言していた
メラスキュラの『
しかし彼女自身が負の感情を糧にして呼び戻された存在のため、怒りに抗った結果再び死を目前とするエレイン。
ガランとメラスキュラは、そこに強襲した。
「先ずはてめぇらが名乗りやがれ」
「カッカッカッ、人間の分際で威勢のいい小僧じゃな」
「魔神族〈十戒〉、《信仰》のメラスキュラ」
「同じく〈十戒〉、《真実》のガラン」
「殺す♬」
闘いは二極化した。初めは『
周囲にいる全生物から力を強奪したバンの闘級は通常時のガランをも凌ぐ。武力の塊のようなガランにとっては最悪とも言える相性だった。
しかし、その反則染みた能力にも弱点は存在する。
一つは許容量の問題。闘級にして2万を超える怪物の力を奪い尽くすにはバンの身体が持たず、そして二つ目に持続時間の制限があった。
それをメラスキュラに看破され、更には『暗澹の繭』で肉体から魂を分離されられてしまった。
通常、肉体が死ねば魂は幽世に還される。しかし魂が死んでしまえば身体は生きた抜け殻となり、この世に輪廻転生されることも無くなる。喩え肉体が不死身であってもだ。
“やべえ、何が起きた…!? 俺はどうなっちまったんだ!”
肉体から抜け出たバンの魂は内輪揉めの末ガランに捕食されてしまい、これで二度と彼が蘇ることはない。……と、誰しもが思った。
しかしバンの魂は死んでなどいなかった。エレインが注意を引き付けた隙に彼の父親であるジバゴが身代わりとなり、彼の魂を護ったのだ。
その後は不意を突いて一時は戦場を脱出できたものの、力を取り込んだ反動で遂には身体を動かせなくなってしまったバン。攻守が入れ代わり、その後は最早戦いとすら呼べない逃走劇が繰り広げられた。
動けないバンとエレインをジェリコが担ぎ何とか逃げようとするものの、力を取り戻した〈十戒〉二人に弄ばれ、最後はひ弱なマスターが営む酒場へと転がり込んだ。
バンと顔見知りだったマスターは彼を匿い逃がそうとするが、それを追ってきたガランとメラスキュラから“ガラン・ゲーム”なるものを挑まれ、窮地に立たされる。
「ルールは簡単。一対一の殺し合いじゃ! 先ず互いに得物を持ち、先行と後攻を決めたら互いに一撃ずつ与えていき、先に死んだ方が負け、というものじゃ」
「ええぇえぇえええええ!!?」
それを聞いてマスターは己の死を悟った。伝承にも語られる魔神王直属の精鋭部隊、それが〈十戒〉だ。間違っても自分のような非力な人間が敵う相手ではない。
しかし一度受けてしまった以上は途中で下りる事など出来ず、仮に放棄なり逃亡などすれば《真実》の戒禁の呪いで全身が石化してしまう。
半ば強制的に死地へと追いやられた店主であるが、幸か不幸かガランの小突きを食らって気絶し、生き永らえたまま朝を迎えることとなった。
そしてそれが両者の明暗を分ける結果となった。
「しかし貴女方も愚かでかつ運がない。わざわざ死ぬためにこんな辺鄙な酒場にやってくるのだから」
「何よ~こいつ? ってか誰ぇ、えっらそ~~に」
「まさか……店主か? 先程までとは様子が明らかに違う。お主、人間ではないな」
「人間です。ただし、全ての種族の頂点に立つ者でもある」
たった数時間の間にひ弱な痩せ男から筋骨隆々の大男に変貌したマスターは、天上に指を掲げ不遜にも最高位の魔神達の前で宣言した。
「〈七つの大罪〉、
漸く始まったガラン・ゲーム。その様相は数時間前とは一変し、ゲームの支配者だったガランはエスカノールの一撃の下身体を両断された。
「我ら最高位の魔神が――この程度で殺せる相手と思うなよ!?」
「無論分かっていますよ。そうでなくてはゲームが少しも盛り上がらない」
まるでわざと手を抜いていたかのな発言に殺気立つ二人。身の程知らずな驕りを向けられたガランは魔力を使うことを決め、メリオダスとの再戦にと取っておいた奥の手を行使する。
武力を謳うにしては細身だった体躯が鎧ごと膨張し、纏う気配も元々の荒々しさを更に増幅させる恐ろしいモノと変貌した。
「【
「カカッ!すまんが加減はできんぞォ~~!」
ギヒィィイ~~~!!
三千年の封印から醒め、メリオダスに負かされた時にも見せなかったガラン本来の力が、
ゴオッッ
「くそがぁ!!」
必殺を込めた一撃は山を軽く消し飛ばし、その衝撃が裏に隠れていた3人まで達するがバンが自身の不死性を盾にエレインとジェリコを庇った。
そして二人の戦闘の余波は、遠く移動していたマーリンにも補足される。
「…! 団長殿、たった今探知した」
「奴か!?」
ああ。現在の闘級、5万55…60
「時間を経過するごと闘級が増している。間違いない、エスカノールだ」
しかし渾身の一振りは、エスカノールの厚い上腕を傷付けるのみに終わった。その有り得ない結果に魔神は本気で動揺し、最強は落胆した。
その後の決着はあっけないものだった。撤退を進言したメラスキュラを突っ撥ね、あくまで勝負に拘るガランを嘲笑うかのような攻撃を放とうとするエスカノール。
巨大な太陽を幻視した嘗ての強者は誓いもプライドも全てを投げ棄て逃走し、それが無情にも真実の戒禁に引っ掛かると石になった敗残者の醜態をその場に晒した。
「さて、貴女には特別に選ばせてあげましょう。逃亡か死か。私がまだフェミニストである内にね」
残ったメラスキュラだったがそのどちらも受け入れず、バンと同じように『暗澹の繭』からの『招来魂』でエスカノールの魂を抜き去り、捕食した。
「ごちそうさま――かっはァ!!?」
警告を無視した代償はすぐに支払われた。今魂を収めたばかりの腹に激痛が走り、次いで内側から灼ける様な感覚を覚えるとそれが全身を巡り、最後には繭の外に漏れだすほどの熱を放射して崖下へと落ちていった。
「【
こうしてエレイン蘇生から始まった一連の騒動は、エスカノール参戦と〈十戒〉二人の敗北という結果で幕を閉じた。
またその頃、グロキシニアとドロールのペアは最初に挙げた二人とは別の方法で魂の回収を行っていた。
彼らが利用したのは人の持つ根源――欲望だ。優勝者には如何なる望みも叶えるという売り文句で参加者を募り、より強い人間から魂を奪おうと画策する。
その舞台として彼らが目に付けたのが、嘗てディアンヌが潰してしまった町で行なわれていた喧嘩祭り、改め大喧嘩祭りである。
「やっぱ〈十戒〉の仕業なのか?」
「魔神を使ってビラ配りなんてふざけた真似をする連中が他にいる訳ねーだろ」
「メリオダス! これはどう考えても「どう考えても罠です!」俺の台詞取んなよ!」
(くッ! たとえ罠だと分かっていてもメリオダスと一緒に出てみたい!)
大多数の者が〈十戒〉が絡んでいるとみて警告するが、中には参加を迷う者もおり、旅の方針を決めるメリオダスも優勝賞品に惹かれたような素振りを見せる。
「……」
「アーサー」
「へ…? あ、ハイ!」
「大丈夫か。この間からボーっとしてるけど」
「すみません、何だか大事なことを忘れている気がしてどうも」
約一名、心ここに在らずといった具合だが。
「エスカノールの反応も消えちまったし、ちょっと寄ってみるか」
「ほ、本気ですか!? それとも何か策が」
「うんにゃ、面白そうだから!」
メリオダス一行は次なる目的地をバイゼルに決めた一方、〈大地の牙〉マトローナとディアンヌも襲われた子供達を助けるため祭りへと向かった。
「駄目だよマトローナ! 何でも願いを叶えるなんてどう考えても胡散臭いよ!」
「ディアンヌの言う通りだ。嫌な予感がする。お前は私の…子供たちの大切な家族だ」
「ッ――、私のような女には勿体ない言葉だ。ありがとう」
「マトローナ待って! だったら僕も行くよ!」
そうして各地から猛者が集い、主催者の思惑通りになったところで視点は最後の一人へと切り替わる。
ゼルドリスの号令からここまで唯一単独で動いていたフラウドリン。
彼はまず鉱山と鎧職人の町フェルゼンへと降り立ち、そこで喉の渇きを潤そうとしていたところを嘗て聖騎士長だった頃に辺境任務に追いやった〈蒼天の六連星〉の奇襲に逢い、そして敗れた。
気絶させられたフラウドリンはそのままゼルドンに建てられた研究棟へと幽閉された。
そこでは〈蒼天の六連星〉団長にして国王バルトラの実弟でもあるデンゼル、そしてデスピアスが待ち構えており、彼等の魔力によってフラウドリンは再び不利な闘いへと身を投じる事となる。
「私が今日証明したいのは人間の手でも古の魔神を討つことが可能であること。全ては大義の為だ。お前の中のドレファスも喜んで命を差し出そう」
「詰みですね」
「チッ、」
彼の魔神族としての
「これは……〝
「外にいる部下にしか解けぬ仕組みだ。我が兄は聖戦を予言し回避するだけでなく、万が一の有事に備え古代魔術書の解読からあらゆる手を講じてきた」
「予言はまさに的中したわけですね。最高ですよ、伝説の魔神族と互角以上に戦えることを証明できたのですから!」
デスピアスは己の力が〈十戒〉を追い詰めていることに興奮し、デンゼルも浮足立つとまでは行かないがこの10年の成果が実った歓びを静かに噛み締めた。
「そうか、ではお前らに残念な知らせがある。我は真の〈十戒〉に非ず」
「苦し紛れに何を…?」
「正確には代理のようなものだ。私を殺したところで本物の〈十戒〉は別にいるのだよ」
誰に言われるでもなく、唐突に暴露し始めた。自分は十戒ではない、自分を倒したところで戦況に影響はないと。
最初は訝し気に聞いていた二人だったが、次の話で否応なく引き込まれることとなる。
「ここですか。フラウドリンさんの魔力が途切れたのは」
そして結界の外では、彼を迎えに来た
「あの方は自分が何者であることも、我らの事も覚えてはいない。なぜなら自らが戒禁によって記憶と感情、その全てを失っているからさ」
「なに…!」
「よく聞け。そのお方の名は――」
《無欲》のゴウセル
その人物は。彼らもよく知るその名は、つい先日元聖騎士長ヘンドリクセンが起こしたクーデターで他の<七つの大罪>と共に王族を護り抜き、功労者の列に挙げられていた名だ。
10年前は全身大きな鎧に身を包み、中身の一切が謎に包まれていた。つい先日遂に容姿が判明し、色々な意味で人々を驚愕させた彼が、〈十戒〉の元メンバー!?
「信じる信じないは貴様たちの勝手だ。なんせ私ですら半信半疑だった。まさか鎧の巨人の中身が“アレ”とは誰も想像できまい」
そういう割には困惑が表情に出ない。困惑だけではない。明らかに追い詰められている状況で、彼の態度はこれから死に向かう者のそれではなかった。
「ところで…私を殺すのは止めておくのが吉だぞ。その拍子に戒禁が元の主……つまりゴウセルに戻るかもしれん。そうなれば事態はより深刻になるだろうからな」
成る程、奴の狙いはそこか。自分を殺すメリットとデメリットを提示し、この場をやり過ごそうとしている訳だな。しかし……
「貴様を逃がすと思うのか?」
「いいや、私が勝手に出ていくのさ」
何を――と言いかけたところで口が止まった。何かされたわけではない。少なくとも“自分は”
異変が起きたのは研究所を囲む結界の方だ。突如として跡形も無く魔法が消え去り、彼の逃亡を防ぐという大事な機能が消失してしまったのである。
「そんなッ、〝
「いや。これは解除したというよりむしろ…」
「どうやら迎えが来たようだ」
三者三様の言葉と共に扉が開き、入り口から錫杖を携えた一人の少女が研究棟の中へと足を踏み入れる。
「面白いですねこの棟。大地…ではなく長い時間を経て石灰化した大樹の上に建てたんですか」
少女は此方の視線など意に介さず、思い思いの感想を口にした。
「人間の少女…? なぜこんな所に」
「待て! この尋常ならざる魔力、お主魔神族か!?」
「ええ。残念な事に肉体は人間ですけど」
「私の友人だ。紹介しよう」
「貴様ら
「驚きました。まさか本当に捕らえられてるなんて思わないじゃないですか」
そしてここに一人。正史では下位魔神の女王が介入する正にこのタイミングで、時を操りし聖女も表舞台へと上がってきた。
三千年前に〈
次回、ノルンの魔法と〝絶対防御〟の正体が明かされます。どうぞお楽しみに!
追記∶誤字報告ありがとうございます!
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