《不殺》は時を廻したい   作:暦月

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第十一話 時間魔力の脅威

 

 

「女神族に掛けられた呪いの干渉に成功した? そうか漸くか」

 

 あの逆行以降、ひたすら魂のみに魔法を行使する練習を繰り返した私は、遂に肉体に全く影響を及ぼさない掛け方を確立させるとゼルドリスさんにそう報告した。

 

 

「それで? 完全に戻り切るまでにはどの位時間を要する」

 

「分かりません。ただ長くなるとだけ。巻き戻す時間が膨大な事に加え、どうやら〈四大天使〉の力までもが練り込まれているので一筋縄では行かないかと」

 

「ちッ、まあ良い。その前に奴らを斃せば済む話だ」

 

 

 今こうしてる間にも私の魂は三千前の状態に戻りつつあるが、何せ期間が期間だ。時を司る私の魔力であっても解呪は容易でなく、数か月……或いは半年後になるかもしれない。

 だがそれは予め分かっていたことだ。私もゼルドリスさんも、今更それで狼狽えたりはしない。

 

「とにかく、これで一人でも問題無いわけだ。なら早速働いてもらうぞ」

 

 そう言って久しぶりの単独任務が告げられた。てっきりデリエリさん達の所に行かせてもらえると思っていましたが、よくよく考えたら私はもう魔力が使えるので一緒に行動する意味がありません。残念です。

 内容は先日から返答が途絶えているフラウドリンさんの捜索。ガラン爺様とメラスキュラさんも同じく音信不通みたいですが、ガラン爺様は元よりメラスキュラさんもお酒が入ると大体“ダメな大人”になるので暫く様子を見るみたいです。

 

「万が一メリオダスにやられていた場合、俺が行っても無駄足になる。その点お前なら何とかなるだろう」

 

「やられる前に時間を戻せばいいんですね。任せて下さい」

 

 最悪〈十戒〉が壊滅しても私さえ残っていれば何度だってやり直しが利きます。『逆行する世界(リバースオーダー)』で都合の悪い過去を塗り替えちゃえばいいんですから。

 でも過去改変の弊害(バタフライ・エフェクト)で本来は生じ得なかった障害とかも発生したりするので、多用は控えるようゼルドリスさんから言い含められてますが。あとは魔力量の関係で1週間以上前の事象は書き換えることが出来ず、注意が必要です。

 

「最後に連絡があったのがこの辺りだ。そこからは自分で探せ」

 

 そうして下位魔神に乗せてもらいながらフラウドリンさんの魔力を辿り、行き着いた先で騎士3人を軽くあしらいながら彼等が護っていた結界を発動する前に時を戻しました。

 

 

 

 

「まさか君自ら来てくれるとは。女神族に呪いを受けたと訊いていたが解呪は出来たのか?」

 

「いえ、今やっている最中です。魂は肉体に比べて凄く繊細なので焦らず丁寧にやらないと」

 

 デンゼルとデスピアスの前に現れた新たな敵……否、(ドレファス)の言葉を信じるならばこの少女こそが真の〈十戒〉という事になる。

 見た目は大層整った容姿をしているが、その身に宿すオーラはドレファス以上のモノ。ならば油断などせず、ここは見に徹する。

 

 

「それより見ろノルン、左に爺がいるだろ。騎士の(なり)をしてるがアイツはリオネス国王の実弟、すなわち王族だ。君としては是非とも始末しておきたいんじゃないか」

 

「……フラウドリンさん、私のこと狂戦士(バーサーカー)か何かだと思ってません? 正直どうでもいいです。借りを返したいならご自分でしてください」

 

「おや意外だな。何か心境の変化でもあったのかね」

 

「……別に。無いですよそんな事」

 

 

 そっぽを向いたノルンに苦笑を讃える。この場面だけ切り取ったら仲の良い親子のようにも見えるが、実際は獲物の前で化け物が二人、始末する算段を付けているに過ぎない。

 

 

「くッ、外にいたアーデンとデルドレー、それにワイーヨはどうしたのですか!?」

 

「ああ、見張りをしていた人達ですか。今は下位魔神の相手をしてますよ。二人は(・・・)、ですけどね」

 

「それはどういう――」

 

「おいッ、どうしたデルドレー! 何でさっきから何にも言わないんだよ!?」

 

「この声は…アーデン!?」

 

 

 ノルンの言葉を補足するかのようなタイミングで聞こえてきた悲痛な声。共にデンゼル麾下の仲間であることや、純粋に騎士として実力を認めている男の焦燥とした悲鳴に、デスピアスは驚きを隠せなかった。

 

 

「クク……あの女の時間を止めたのか、可哀そうに。いやある意味幸運とも言うべきか。何せ永遠の若さを保ったまま今生を終えられるのだから」

「時間を止めた……だと」

 

 聞き捨てならない言葉がドレファスの身体を乗っ取ったフラウドリンから発せられ、反射的に聞き返す。

 

「 『時の棺(クロノ・コフィン)』 対象の時間を停止させ、その者が持つ意思や機能を半永久的に封じる魔法だ。本来なら発動に多大な時間を要する禁呪だが、彼女はそれをノータイムでしかも通常攻撃程度の感覚で放ってくるのさ」

 

 いやはや味方ながらこれほど恐ろしい事は無いよ、と芝居がかった解説を挟む。その口元には笑みが浮かんでおり、己の優位をこれっぽっちも疑ってない。

 

 

「さて、仕切り直しで二対二の勝負と行くか…」

「……今回は見逃してやる。だが次は無いと肝に銘じておくがいい」

「デンゼル様ッ、何故ですか!?」

 

 急に矛を収めたデンゼルに不服を申し立てる。

 

「今奴らは私の魔力範囲内で魔力を封じられたも同然! デルドレーもあの〈十戒〉にやられたのです、討つなら今しかありません!」

「…? 魔力を封じる?」

「冷静になれデスピアス。奴らを殺す術はあれど、捕らえる術が無いのだ」

「は…?」

「ククッ」

 

 

 不敵な笑みを讃えるフラウドリンとは対照的に、発言の意味を理解できないデスピアスと、あとは何故か状況をよく分かってないノルンが疑問符を浮かべた。

 

 

「その〈十戒〉は不殺と言ったな。仮に我々がドレファスを殺せば戒禁の呪いを受けるのは火を見るより明らかだ」

「…!!」

「流石、切れるジジイは一味違うな~~? 何より貴様はまだ何かを隠している。そうだろぉ…うん?」

「……」

「そしてデスピアス。貴様は我々の魔力を封じ込めれば対等に戦えると――本気でそう思っているのか」

「…フ、フフ。ええ、違いますか」

 

 

 もうこの場での討伐は不可能だと悟り、たとえ無様だろうが精一杯の虚勢を張る。王国を追い出されてから十年を掛けた作戦は失敗し、仲間1人を再起不能に追いやられて尚、魔神族の精鋭一人をあと一歩まで追い詰めた事実が彼の矜持を救った。

 追い詰めた……と思いたい。そう思い込まなくてはやってられない所まで悔しさが膨れ上がっていた。

 

 

「そんな貴様に残念な知らせが二つある。一つは貴様らを屠るのに魔力など(そんなモノ)必要無いという事だ」

 

 だが敵はそんな心情など慮ってくれない。むしろ配慮するどころか更に追い詰める事実を突きつけようとしてくる。

 

「とはいえ私の言葉では納得しないだろうな。だから二つ目の理由で貴様らを地獄のどん底に叩き落とす」

 

 

 交戦の意思を解いたというのに居座ろうとするフラウドリンを警戒する二人と、呆れるノルン。

 両者の間に流れる緊張感が全くと言っていいほど異なるが、傍から見たら形勢は五分だ。……ただし実態は考慮しないものとする。

 

 

「貴様が封じたと思いこんでいる魔力だがな、実は――」

 

「居た! 卑劣な魔神族め、さっさとデルドレーを元に戻しやがれ!」

 

「アーデン!?」

 

 

 しかしそこに新たな乱入者が加わる。ノルンが差し向けた下位魔神を何とか退けたアーデンだ。

 彼は先の襲撃でデルドレーに恐ろしい魔法を掛けたノルンを目の敵にし、魔力を込めた矢で彼女の背中を射抜いた。

 直前に戒禁の条件を聞いていたが為に最悪の可能性が頭を過るが、結果として仲間は無事だった。

 

 

「よし! 七本全て命中した! これでもう何も出来ないだろ」

 

()せアーデン! 既に彼女も私の術中だ。万が一殺してしまったらお前に呪いがっ」

 

「運が良かったですね。私が見た目通りのひ弱な女であれば……そうでなくても『断魔の羽衣』を発動していなければその時点で貴方の寿命は奪われてましたよ」

 

「なッ…莫迦な!?」

 

「てめえッ、どうやって」

 

 

 それもその筈。確かにノルンの背を射抜いた矢がまるで壁にでも当たったかの如く弾かれ、根元から折れてしまったのだ。

 これにはアーデンだけでなく魔力を封じている筈のデスピアスも、当初思い描いていた最悪の想定すら覆す光景に、ただただ驚愕した。

 

 

「フハハ! 惜しいなぁ。確かに魔力に直接作用する類の攻撃はノルンに有効だが、それを為すには少々君らの魔力が弱すぎたようだ」

 

「魔力…だと?」

 

「よそ見なんてして良いんですか。女性に手を上げた以上、相応の覚悟を持ってもらわないと」

 

「は――ッ、(こいつ、いつの間に俺の後ろへ!?)」

 

「避けろっ、アーデン!!」

 

 

 一度たりとて目を離さなかった。見た目通りのか弱い少女などという油断も無かったし、弓という武器の特性上、動体視力には自信がある。

 それなのに気付いたら背後を取られていて、振り返った時には身の丈程ある聖杖を軽々と薙ぎ払うノルンの姿を視界に収めた。

 

 大丈夫だ、如何にも非力そうな女が放つ攻撃など脅威でも何でもない。……と、そう楽観視するには無視出来ぬ程の警鐘が鳴り、反射的に回避を選択するなど切羽詰まった対応を見せる。が、もう間に合わない!

 

 

「させません!」

 

 ドンっ

 

「おお、ワイーヨ!」

 

「駄目だ、それを受けてはならん!」

 

 

 彼を救ったのは同じ〈蒼天の六連星〉ワイーヨだった。横からアーデンに突進し彼を推し退けるや、代わりに攻撃に割り込む形となったが為にすぐさま防御体勢へと入るワイーヨ。

 魔力無しとはいえ、フラウドリンの一撃を防いだ実績のある彼にデスピアスは歓喜の声を上げる。しかし一方で嫌な予感を感じ取ったデンゼルが警告を発した。

 

 

「後ろに跳ぶのだ!」

 

(ぐう…! なん、この力は!?)

 

「ぬうお~~~!!」

 

 がああぁんッ

 

「ガハァ…!!」

 

「そんなッ、ワイーヨが!?」

 

 

 結果的にデンゼルが直前で指示を飛ばしたお陰でワイーヨは右腕の陥没という軽微(・・)な被害だけに済んだ。

 あの一瞬、もし直感に従って声を上げなければ自慢のパワーで受け止めようとし、当たり所が悪ければ最悪死んでいただろう。

 

 受け流す前に彼が見たもの。腕と杖とが交錯した時点で普通であれば力と力が拮抗し鬩ぎ合うそれは、しかし一方的に此方が圧し負け、まるで〝抵抗なんて無い〟かのように骨を砕きあらぬ方向に曲がる己の剛腕だった。

 

 

「何故です! 今の一連の動きも、その前にアーデンの攻撃を防いだのも魔力無くしては決して出来ぬ事象のはず! まさか私の【旋律(メロディ)】が通じていないなんて、そんな事ある訳が」

 

「やれやれ、話は最後まで聞くものと習わんかったのかね? もう一度言うぞ。貴様が封じたと思っている魔力だが何のことは無い、ノルンには通じていないのさ。そして貴様らの攻撃なんぞで彼女の誇る〝絶対防御〟は崩せんという事もな」

 

「絶対防御、だと…?」

 

 

 デスピアスの魔力【旋律(メロディ)】は、魔力を音楽と公言する彼独特の感性に基づき発動され、力の強弱から速度、果ては高低に至るまで支配するというもの。

 普通ならフラウドリンのように魔力指向すら操られ攻撃を無効化されるが、守りに入ったノルンにそれは通じないという。

 

 

「そこの少女の魔力は“時間”に関するものでは無かったのか」

 

「ほお…? どうしてそう思う」

 

「我々の前に現れてからここまで瞬き一つ、呼吸の音一つ聞こえない。それに加えてデルドレーの時を止めたという先の言葉を信じるならばそれしかないと思ったまでよ」

 

「クックック、やはり貴様は侮れんな。折角だからネタ晴らしと行こうじゃないか。ノルンも構わんかね?」

 

「ハア、好きにしてください」

 

 

 アーデンがワイーヨに駆け寄る傍ら、魔力の正体に気付きつつあるデンゼルを相手にフラウドリンは愉し気な笑みを浮かばせて見せる。ノルンはもう知りませんと言って溜め息を吐いた。

 

 

「貴様が睨んだ通り、彼女は自分の時間を止めている。それもただ物体の時間を停止させるだけの『時の棺(クロノ・コフィン)』とは異なり、この魔法には時間が有する〝概念〟を盛り込むといった工夫が為されているのさ」

 

「時間の、概念だと…?」

 

「時間が止まった時に生ずる概念は〝不変〟 不変とは即ち不壊。形あるものが形を変え、性質を変化させるには前提として時間が進行してなければならないだろう」

 

 上から降ってきた水滴が地面に落ちた後シミを作る様に。火に薪をくべて灰になる時や、エネルギーが変換されて別のエネルギーへと移り替わる瞬間にも絶えず時間を刻んでいる。

 

「逆に言えば物体の時間を完全に停止させた時、それは最早人の手が及ばない未知の物質(ダークマター)と化す。何の変哲もないドレスが時間を止めるだけで数多の鎧を超える防具と化し、吹けば飛ぶようなあばら小屋が難攻不落の要塞となり得る。これはそういった魔法だ」

 

 ご理解いただけたかな。

 

「いや、有り得ない!」

 

 

 丁寧に、分かりやすく。邪気に満ちたフラウドリンの説明は確かに〈蒼天の六連星〉に深い衝撃を与えた。

 その話が本当なら、ノルンに対抗する術が無いということになる。ただでさえデルドレーを『時の棺』から解放しないといけないのに、術を行使した本人が無敵など果たしてどう受け入れられようか。

 

 

「その少女はお前と会話していた! 会話が可能とは耳が聞こえるという事だ。ならば私の【旋律(メロディ)】が効かないなど有り得ないだろう!」

 

「だから?」

 

「は!?」

 

「だからそれが何だと謂うのだ。耳が聞こえる? 全くその通りだがそれのどこが問題なのかね」

 

 

 半ば希望的観測染みた反論をぶつけ、事実を捻じ曲げようとする。だが魔の神はその現実逃避すら許さなかった。

 

 

「“耳が聞こえる状態で時間を止めている”のだから何ら不思議ではないだろう。止まった時間が拒絶するのは音を介して侵入する貴様の下卑た魔力だけだ。私の説明に矛盾など無い」

 

 それと……

 

「ついでに言っておくがその男(ワイーヨ)を吹き飛ばしたのも同じ魔法だぞ。時間を止めたノルンの身体は〝不変〟そのもの。故に抵抗したところで押し負かす力が彼女に働くことは無いし、衝撃を受けないノルンの行動を妨げるなんて事は私でも不可能なのだ」

 

 

 通常モノを動かす時、物体には作用が、押している人には反作用の力が働く。それが自然の摂理だが、時間が停止しその普遍的性質から逸脱したノルンには適用されない。

 反抗する力を感じない故に自分より圧倒的に体格で勝る相手と接触したとしてもノルンが押し返されることはなく、逆に自分に課される筈だった力の負債は全て相手に跳ね返る。

 謂わばこの魔法を使って適当に動くだけで、常時『全反撃(フルカウンター)』が発動しているに等しいということだ。

 

 重さを無視できるから、やろうと思えば巨人族を片手で持ち上げることだって出来る。

 どれだけ動いても疲れないから永遠に走り続けられる。

 

 不変の性質を持つから【竜巻】の壁だって難なく超えられるし、酸素が満たされた状態で身体が停止しているから【大海】に沈められても地上と変わりない動きが出来る。

 外界の法則である水圧や浮力だってノルンには関係無いのだ。

 

 周囲からの抵抗を認めない事により、ノルンの行動の全ては遂行(容認)される。

 

 

「それが『断魔の羽衣』の正体だ。貴様らがノルンを斃しあの女を救いたいなら、先ずはこの障害をどうにかせんとなぁ」

 

 

 

 






 はい、という訳で「自分に流れている時間を止める」が正解でした。

 元ネタはReゼロの白いノミさんの使う権能『獅子の心臓』です。
 彼方と違って透過した場所の空間が削り取られると言った凶悪性能はしてませんが、その代わり『小さな王』のサポートが無くても長時間魔法が使えるようにシステム変更されています。

 あまり『とある』シリーズは詳しくないですが、力がはね返ってくるところの説明は一方通行(ベクトル変換)が近いかなと思います。


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