《不殺》は時を廻したい   作:暦月

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 初めての方は初めまして。暦月です。

 小説漁っててそういえば七つの大罪の二次創作無いな~と思ったので、息抜きがてら懲りずに新作投稿しました。




第一話 真なる脅威

 

 リオネス王都より東に150マイル、ズフールの谷にて

 

 

 七つの大罪との戦いに敗れた、かつての二大聖騎士長の片割れ――ヘンドリクセン

 

 魔神族の血を取り込み、リオネスを混乱に陥れた彼は、決戦の地より遠く離れたこの谷へと逃げ延びていた。

 とは言えメリオダスのリベンジ・カウンターを食らった彼の身体は損傷が激しく、捥げた右腕と下半身の回復も叶わぬまま絶命……したかに思われた。

 

 

「これは――傷が…完全修復している!!」

 

 

 だが彼は生き延びた。しかも自分が殺したドレファスの夢を見た後で、どういう因果か死亡一歩手前からの完全な回復と、女神の使徒(エリザベス)の血が染み込んだ当て布まで入手したのだ。

 

 

「ハッーハッハッ! 運は我にあり!!」

 

 

 疑問は残るが、これで儀式に必要な欠片は全て揃った。今度こそ魔神族復活を果たすべく、残りのピースである常闇の棺を取り出し陣を描いた。

 

 

ફાચર આલિંગન,(その楔たる抱擁と、)તે સાંકળો ચુંબન(その鎖たる接吻よ。) તેમને મુક્ત કરો(彼の者たちを解放したまえ)

 

 

 その様子を上から盗み見る男がいた。額に魔神族の紋様を宿した彼こそ、残る聖騎士長の片割れであり、そして親友に殺された筈のドレファスその人だった。

 

 リオネス全土を巻き込んだ聖戦。その真の(・・)黒幕であり、ヘンドリクセンを裏から操る彼が見据える先では、今まさに最後の封印を解く準備が完了しようとしていた。

 

 

「さあここからが問題だぞ。不完全な欠片でどこまで門を開ききれるか」

 

 

દેવી શક્તિ(女神の力宿す) ચમકતો ડ્રોપ(光輝く雫よ)રાક્ષસોનો શ્રાપ(魔の者たちの呪縛)છોડવું(を解き放て)!』

 

 

 その瞬間、開いた封印の隙間から無数の光弾が降り注ぎ、周囲一帯を光の奔流が包んだ。

 

 

「予想通りとはいえ、流石に堪えるな。そろそろ私は退かせてもらおう。後は頼んだぞ、ヘンドリクセン」

 

 

 ドレファス? は残りの封印を駒に任せ、自分は攻撃の及ばない場所まで後退する。

 

「なんと…しても、魔神…族を……復活させ」

 

 そんな利用されているなど露にも思わないヘンドリクセンは、取り込んだ〈灰色魔神(アッシュ)〉を浄化されながら、全ての元凶の思惑通り全ての解呪を成し遂げた。

 

「消え…よ、無垢なる呪い!!」

 

 

 

ドアッ!!

 

 

 儀式の場を中心として、巨大な光柱が天を衝き、その余波はブリタニア全土に波及した。

 

 

 

 

「のわ~~!! 何だこの震動は!?」

 

「東の方角から凄まじい波動が伝わってくる」

 

 

 そして当然、生じた激震はリオネスにいる七つの大罪の元にも届いた。

 強欲と怠惰が一時的に抜け、傲慢も不在の中、四人と一匹は確かに世界の異変を感じ取っていた。

 

 

「ど…どうやら収まってきた…のか? ん?」

 

「団長の様子が変だな」

 

 

 その中でも彼等の団長であり、先の聖戦の立役者である憤怒の罪(ドラゴン・シン)、メリオダスの反応は顕著だった。

 普段は滅多に見せない驚愕と焦燥を張り付け、震える手には幾筋もの汗が伝う。

 

 

「あいつらが…目醒めたのか!」

 

 

 

 

 

「う…、ドレ…ファス……?」

 

「ご苦労だった。儀式は完了した」

 

 その頃、衝撃の震源地であるズフールでは魔神の部分だけが浄化されたヘンドリクセンと、殺した筈のドレファスが漸くの再会を果たしていた。

 

「役に立った礼にお前は殺さずにおいてやろう。この男(・・・)からの頼みでもあるしな。何処へでも好きに行くがいい」

 

「待て、ドレファス。何を言っているんだ。お前…その瞳と紋様は一体――!」

 

 

 ゾクッ

 

 

 状況が呑み込めず、友に詰め寄ろうとしたヘンドリクセンの足は、突如として恐怖に竦み上がった。

 

(なん…だ!? こっ、この尋常ならざる気配は!!?)

 

「三千年ぶりだな、我が同胞たちよ」

 

 滝のような汗を流しながらも、生物としての防衛反応からゆっくりと背後を振り向き、深淵たる十の闇を視界に捉えた。

 

 

 

「三千年…? また随分と長い間封印されていたものだなぁ」

 

 全身鎧(フルプレートアーマー)を着込み、錨状の丸みを帯びた刃部の槍を携えるは魔神王直属精鋭部隊、十戒の一人、『真実』のガラン

 

 

 

「フラウドリン。その体はもしや人間のもの?」

 

「ああ。中々使い勝手がいい体でな」

 

 怖気づくヘンドリクセンの横を、長い髪にレオタード衣装の女が通過した。彼女も十戒の一人であり、身体を覆う黒い靄のようなモノで操り移動している。十戒、『信仰』のメラスキュラ

 

 

 

「なぜあたし達だけ脱出できたんスか?」

 

「封印解除に必要な女神の使徒の血が完全ではなかったためだ。すまんな」

 

 此方も巨大な蛸足のようなモノが身体を覆っており、一見少女のようにも見えるが、放たれる存在感は否が応にも怪物たらしめる。十戒、『安息』のグロキシニア

 

 

 

「どうやら上位魔神であるほど強く捕らえる封印がされていたみたいですね」

 

 彼等の中で最も大きく、そして異形に近い六腕を有する巨人の男は、顔に布を掛けたまま封印の性質を考察していた。十戒、『忍耐』のドロール

 

 

 

「……」

 

 十戒、『慈愛』のエスタロッサ

 

 

 

「ケツから言って、少なくね?」

 

「それは女神族や巨人族、妖精族の気配が少ないという事か?」

 

 大事なところを靄で隠した露出の多い少女に、ちょび髭を生やしたオールバックの男性が補足を入れ、ついでに苦言を呈した。

 十戒、『純潔』のデリエリ

 十戒、『沈黙』のモンスピート

 

「ん」

 

「どうもお前の会話は要領を得んな…」

 

 

 

「三千年前の戦いで奴等はかなりの勢力を失った。実質現在のブリタニアを支配しているのは人間だ」

 

「人間…あらまあ五種族中もっとも短命で脆弱且つ惰弱の種族が…」

 

「おいフラウドリン! お主は一人封印を逃れたのじゃろ!? 何をサボッとった!」

 

「私も色々あって目醒めたのが10年前なのだ。それに事を運ぶには〈七つの大罪〉という邪魔な存在がいてな」

 

 

 硬直したヘンドリクセンを歯牙にもかけないまま会話が進行していく。

 仮にもリオネスの聖騎士長にまで上り詰めた自分が其処にいるだけで戦意を挫かれ、死まで覚悟している。喩え魔神化が解けていなくとも決して覆らない程の隔絶した差が、自分と彼等にはあった。

 

 

「メリオダス――か」

 

 

(!! こ、この聞き覚えのある声は…)

 

 

 そんな中、自分を追い詰めた英雄と酷似した声音が聞こえてきた。心臓が痛いほど早鐘を打っているのも忘れ、根源的恐怖を振り切った先で見た人物は、嘗ての宿敵と関係を感じさせる容姿をしていた。

 

 

 

「まあ何をするにしても先ずは休息をとることが最優先だ。女神の封印の作用で魔力が消耗させられてるからな」

 

 子供の如き体躯ながら、その身に秘めたる力は他の十戒の一回りも二回りも上に行く。彼こそが十戒の統率者にして、次期魔神王候補筆頭 『敬神』のゼルドリス

 

 

 

「ところで…皆さんスルーしてますけどこの人間は何ですか」

「!?」

「ああ、封印を解いてくれたのでな。喰わずに生かしておくことにした」

「ふ~ん、そうですか」

 

 突然話の矛先を向けられ、心臓を掴まれたような錯覚を受ける。

 

(何だ…この少女も彼等の仲間か。いや、それならどうして…)

 

「まあ、フラウドリンさんがそう言うなら見逃しますけど。ただし二度と私の視界に入らないでください」

 

 黒い修道服に、首からロザリオを下げた少女が冷たく吐き捨てる。彼等の中で唯一人間に敵意を持ちながらも、素っ気なくあしらう以外は何もせずその場を離れた。

 

 

 

「身体を休めるのでしたらエジンバラの丘はどうでしょう。確か少し東に行けばあった筈ですが」

 

 

(どうして人間の少女(・・・・・)が彼等と共にいるんだ…!?)

 

 

 ヘンドリクセンは驚いた。何せ自分と同じか(・・・・・・)それ以下の(・・・・・)闘級(・・)しかない少女が、慮外の怪物たちと親し気に会話しているのだから。

 

 少女の外見はゼルドリスより更に幼く、傍から見れば二匹の獲物が猛獣たちの群れに迷い込んだようにしか見えない。

 そんな内外含めて現時点で最も弱く、吹けば飛ぶような小っぽけな存在である少女もまた、正真正銘十戒(化け物)の一角を担っていた。

 

 本来そこに居座るべき下位魔神の女王(グレイロード)から受け継いだ戒禁は不殺。

 

 十戒、『不殺』のノルン

 

 正史(原作)から逸脱したイレギュラーは、姉のように慕っているデリエリの背に乗せてもらうと、それを合図に闇の十戦士が空高く羽ばたき彼方へと消えていった。

 

 

「――ッ、ハアッ、ハァ…!!」

 

 

 残されたヘンドリクセンが事態の重大さを伝えに行こうとする。しかしながら、極度のストレスとそれから解放されたことによる安堵で集中力が切れ、途端意識に暗転が掛かる。

 

 

「早く…あの魔神たちのことを知らせねばッ」

 

 

 長らく洗脳に掛けられていた男の頭には、己の未熟さにより失った友の姿が浮かんだ。

 

 

「ドレ…ファスっ、必ず、お前を取り戻して…みせ……」

 

 

 





 気が向いたら投稿するみたいな緩~い感じで更新していきます。


幻想九尾の転移録《プロローグ》 ~聖女と歩む勇者の前日譚~
 1章完結したのでこちらもどうぞ!

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