《不殺》は時を廻したい   作:暦月

20 / 24

※気付いたら一万字以上になってました。

軽く予告しますがこの話を作中の時間軸に換算すると0.001秒ぐらいです。
そんな1ミリ秒にも満たない中で出来事が展開されます。


第十八話 永遠の王国

 

 

『いいかアーサー、《不殺》と出会ったら何を捨てても逃げるんだ。あれは最早戦いが成立するどうこうの次元じゃない。完全に理外の力だ』

 

 

 ごめんマーリン……それでも私はナナシ殿を犠牲にするなんて出来なかった。

 己の命と天秤にかけ、私が騎士王(わたし)で在り続けるために頑張ったがどうやら此処までらしい。立派な王になって素晴らしい世界を作るという約束を果たせず君を置いていく私をどうか赦してくれ。

 

 

「アーサー」

 

(キャスの声が聞こえる。もう私は封印されてしまったのだろうか。だけど意識が残っているのは幸い「アーサー!」………えっ、キャス!?」

 

「まさか自分の腕を斬り落とすとはな。流石に恐れ入る」

 

「ナナシ殿も。これは一体…」

 

 

 キャスが腹の上で嬉しそうにボンボン跳ねているのを呆然と見ていた。私ってノルンに殺されるか封印された筈では? 何故二人と普通に話せているんだろう。そう言えば先程から右腕の痛みも感じないような――って、

 

 

「腕が治ってる!?」

 

「治したのではなく戻した(・・・)のです。貴方が腕を斬るより前の時間にね」

 

「! これを君が? でもどうして」

 

 

 いつの間にか隣に立っていた彼女曰く、提示した問いをどちらも選択しなかった時点で命を奪う気はなかったとのこと。勝手に襲われると勘違いして尻餅ついた私を二人が心配して駆け寄ってくれたみたいだ。

 

 

「別に。あれだけ啖呵を切っておいて殺したら私が逃げたみたいじゃないですか。想定を超えて覚悟を示した貴方の勝ちです。負けなら素直に認めないと」

 

 

 と意外にもあっさりと引いてくれたことに驚きつつ、やはり根は真面目なんだと万感の安堵が込み上げてくる。それにしても、怖かったぁ~!

 

 

「……私から言うのもなんですが簡単に信じていいんですか? これが油断を誘うための罠かもしれないのに」

 

「そんな事をする意味もないだろう。だって君がその気になれば私達全員なんの抵抗も無く始末できてしまうし」

 

「それはそうですが……もういいです」

 

 

 そっぽを向いたノルンはそのまま停止していた騎士たちの時間も解除していく。それにホッと胸を撫で下ろしつつ敵を利するような事をして大丈夫なのかと問えば「誰も貴方達を敵だと思ってませんから」と何とも反応に困る答えが返って来た。

 

 

「そもそも目撃者がいなければ私の行動が咎められる事も無いですし。たかが敗残の兵数人を見失った所であの人たちは気にしませんよ」

 

「目撃者がいない? でもその魔神族たちは…あれ?」

 

 

 そういえば先程からピクリとも動かないな。あっいや、よく見れば非常にゆっくりだが辛うじて動いてはいる。目を凝らさなければ気付かぬほど緩慢で、ほぼ停止しているに等しいが。

 

 

「ようこそ加速した時の中へ。誇っていいですよ、人間にこの魔法(アクセラレーション)を掛けたのはシスター以来ですから」

 

 

 これが普段彼女が見ている世界か。確かにこんな魔法が有ったら〈七つの大罪〉と(いえど)も全滅は免れないだろう。強者も弱者もここでは等しく無力、いや案山子も同然。

 今なら囲んでいる魔神族たちを一切の労力もなく倒せてしまうがそれをやったら今度こそ彼女が敵に回るだろう。混乱している騎士たちに絶対手は出さぬよう言い含めなければ。

 

 

「おーいみんなっ――」

 

「迂闊。それとも驕っているだけか。自分を加速させたまま絶対防御とやらは使えないだろう。今なら容易くこの刃も通る」

 

「同じ土俵に立たせて上げたら私に勝てるとでも? いいでしょうやってみなさい。その瞬間貴方も向こう側です」

 

「な、何を言ってるんですかナナシ殿!? ノルンも落ち着いて!」

 

 

 なぜか一触即発の雰囲気を感じ取り慌てて仲裁に入った。でもそうか、時間魔法自体は4系統あるけど対象を己に絞っているとその他の停止やら逆行は使えないし、今動いてる中で一番弱いのは見た目通りノルンなんだ。(勿論キャスは除く)

 冷静に相対して分かったが彼女の強さは【魔力】に依存する。マーリンが理外の力と評したように何の制限も課していないノルンは無敵だ。あの英雄メリオダスでさえ歯が立たない事からもそれは間違いない。

 

 しかし魔力(それ)を抜きにした実力は聖騎士見習いが精々といったところ。ナナシ殿なら魔法を解く前に彼女を殺せてしまうかもしれない。それだけは絶対に阻止しなければ…!

 

 

「今はホラ…善意で見逃してもらってる状況ですし矛を収めましょう、ね?」

 

「自分の国を堕とした〈十戒〉のそれも最高戦力を討つまたとない好機だ。お前はそれでいいのか」

 

「そ、それは…」

 

 

 反論も弁明もなく睨みつけるノルンを見て、彼女もキャメロット陥落に参加してたのだと悟る。でも私の考えは変わらない。

 

 

「私は彼女に騎士王たる所以を見せると約束しました。その誓いを嘘にしたくありません」

 

「そうか…」

 

 

 秘かにホッとした気配を後ろから感じる。出会った当初の超然とした余裕はなく、時を加速させてから此方を警戒するようにずっと気を張っていた。やはりノルンとしても敵を――それも嫌っている騎士を自分の空間に招くのは相応にリスクの伴う行為らしい。

 

 

「それに危険を冒してまで逃がそうとしてくれてるのです。無碍にするのも誠意に反するでしょう」

 

「いいから……さっさと拠点まで案内してください」

 

 

 平時であれば『断魔の羽衣』とやらで攻撃を受けながらでも安全に技を行使できるのだろうが、仮に今奇襲でも受けようものなら最悪の場合死に至る。

 皆に正体を隠すだけじゃ安心できないだろう。そっと手を繋ぎ、何時でも護れるようにそれとなく彼女の半歩前をキープする。

 

 

「ふぇっ/// あ、貴方何を!?」

 

「しっー! 私が説明するからノルンは見てて」

 

「落としてどうする。わざとだとしたら稀に見る女たらしだな」

 

 

 何故だか顔が真っ赤になった。こういう生理的な反応も時間を止めてたら見られないのだろうか。だとしたら勿体ない、彼女はこんなにも可愛いのに。

 

 

「か、かわっ…///」

 

「アーサー王にもようやく春が! キャメロットの未来は明るいな!」

 

「心の声が漏れているのにも気付かないとはいよいよ本物か」

 

 

……? 何だろう前が騒がしい。ノルンが〈十戒〉だということはバレていない筈だけど。

 

 

 

 

 そんなこんなで避難用の地下シェルターまで無事に辿り着き、この頃には調子を戻したノルンが周囲と同じく停止している――厳密には違うが――者達に加速の魔法を掛けていった。

 ちなみに事情を知らない騎士たちにこの光景を見せると(まず)いから外で待ってもらっている。同じ倍速に至っても最初は混乱していたが、私が声を掛けると皆が一斉に帰還を喜んでくれた。

 

 

「アーサー王様ぁ!」

「アーサー様の御帰りだぞォ!!」

「よかったご無事で!」

「お怪我はありませんかアーサー王!」

 

「あはは何とかね。皆に紹介するよ、外で出会ったノルンだ」

 

「……どうも」

 

 

 戦える者を遠ざけたお陰か先程より幾分かノルンの纏う雰囲気も和らいだ気がする。それでも居心地悪そうに輪の中から抜け出そうとするが、可憐な容姿と私が紹介したのもあってすぐに囲まれた。

 

 

「新しいひとだー!」

「ねえ貴女も外の魔神族から逃げてきたの?」

 

「いえ私は…」

 

「馬っ鹿アーサー様が保護したに決まってるだろ。こんな可愛い子が一人で生きていけるかよ」

「お姉ちゃん綺麗~! お姫様みた~い!」

「お姫様というより修道士ねその服装は。でも確かに可愛いわね教会にこんな子いたかしら」

 

「あの、えっと」

 

 

 止め処なく言葉を投げ掛けられあたふたするノルン。質問に窮する〈十戒〉なんて此処でしか見られないだろう。

 その気は無くてもあっという間に人気者になった彼女を人の波から救出し、壁際のテーブルに座らせた。その内に食事が運ばれてきたので彼女にも振る舞った。

 

 

「はいどうぞ」

 

「いえ私は……いただきます」

 

 

 器を持つと「温かい…」と出来立てのスープに驚いた表情を見せる。何でも周りで人間の食事を摂るのが自分以外に居なく、彼女も彼女で常に身体の時間を止めているため殆ど食べないのだそう。

 

 

「だとすると君以外の魔神族も人間の魂を食べなくても生きられるってこと?」

 

「私は純粋な魔神族ではなく人間とのハーフなんです。勿論彼等だって口から摂取することは出来ますがそれはあくまで趣味嗜好を満たすための行為。魔力を補充するなら三千年も独占していた人間を襲うのが最も効率的です」

 

 

「身体の時間を止めてるってことは、もしかしてノルンって私より年上…?」

 

「さあどうでしょう。少なくとも見た目不相応なのは確かですが」

 

 

「……」チビチビ

 

「ノルンって猫舌なんだ」

 

「五月蠅いです」チビチビ

 

 

 こんな感じでさらっと重要な情報を零したかと思えば他愛もない会話なんかもしたりして話が途切れることはなく、敵とは思えない穏やかな時間が流れていった。

 

 

(マーリンに拾われて以来かな、何だか懐かしい気分だ。騎士でも王でもなくアーサー個人で気兼ねなく話せるのは)

 

 

 メリオダス殿であっても自然体でいられる場面はそう無く、いずれキャメロットの聖騎士長に就いてもらおうとやはり体裁を気にして仮面を被るのは儘ある。

 その点で言えばノルンは命を握られている相手であっても騎士王(理想)ではなく騎士王(それ)を目指す私自身を見てくれと宣言したのもあってごく自然体でいられた。それ故に彼女と過ごすこの時間が愛おしくて堪らない。

 

 

(胸が熱くなるこの感じはなんだろう。ノルンの事を想うと気持ちがザワザワする…)

 

 

 気にし出したら彼女の横に座ってる距離すら意識してしまい落ち着かない。どうか先程から大音量で鼓動する心臓の()が彼女まで届きませんように。

 

 

 

「やはり分かりません」

 

「ええっ何がァ!?」

 

「そ、そんなに驚くこと言いましたか。彼ら民衆は今王都がどうなっているのか知らないのでしょうか」

 

 

 よかった変に思われたが取り敢えずバレてないようで。ノルンの言葉に耳を傾けつつ緩んだ思考を一瞬で引き締める。

 

 

「洗脳された人間は魔神の餌か、女神族の封印を破るための生贄にされている。だというのに踊っている余裕など有るんですかね」

 

「…本当は皆分かっているさ。大切な家族や友人と離れ離れになって、失って、辛くて――だからこそ努めて明るく振る舞っている。でなきゃとても気持ちを保てないんだ」

 

 

 また(・・)だ。今の問いは必死に抗う様を見て嘲笑する上位存在のそれにも聞こえるが、その実彼女の眼には哀しみしか映っていない。少なくとも此処にいる人達を莫迦にする物言いではなかった。

 

 

「いーえ! アーサー様がいるからこそ皆希望を失わずにいられるんですよ」

「そうじゃ。アーサー様なら必ずキャメロットを取り戻してくれると信じておるからの」

 

「み、皆!」

 

「そう……上に立つ者によってこうも違うのね」

 

 

 小さく吐き捨てたその言葉の意味を私は知らない。自分の事はあまり語りたがらないノルンだが今までの発言の内容からして昔に何かがあったのは間違いない。それも騎士や王族、果ては人間という種族自体を恨むほどの致命的な出来事が。

 

 

「ねえ、仮に魔神族に抵抗するだけの……ううん、報復できるほどの力が突然降って湧いたら貴方達はどうしますか」

 

「そりゃあ勿論復讐しに行くさ! アイツ等俺の目の前で両親を…ううっ」

 

 

 その瞳に僅かな失望を滲ませながらも男性はそれに気づくことなく隣の老人に話を振った。

 

 

「儂ならその力で人を助けたいね。老い先短い命だ自分のために使ったところで虚しいだけさ」

 

「貴方には大切な家族や友人はいないのですか」

 

「勿論おったとも。ただ仇を討ったところで子供たちが帰って来ないならもっと有意義な事に使おうと思ってね」

 

「なら戦いを強要されたら? 散々化け物だなんだと騒ぎ立てといて、いざ力を盛った途端それが当然の義務だと糾弾し行きたくもない戦場に駆り立てるんです。それも騎士の代わりに戦えない弱者をお供に付けられて、挙げ句には庇ってあげた彼らにもっ」

 

「ノルン!」

 

「あ…」

 

 

 周囲が呆然と見てることに気付いて咄嗟に目線を下げようとする。しかし直前に動きを止めたかと思えば顔を戻し、警戒色の強い目で民衆を見回す。

 

 

(これがノルンが抱える闇の一端なのか)

 

 

 正直今の一幕だけで彼女が経験してきた過程を辿るのは難しい。しかし過去の出来事がどれほどノルンの心を傷付けたか。それを測るには十分過ぎる。

 

 

「はい! お花!」

 

「え?」

 

 

 周囲が戸惑いを見せる中、近くにいた少女がおもむろに彼女の方へ近づくと手に持った一輪の花を差し出してきた。

 突然の事に意図が読めず静止するノルン。そんなのお構いなしとばかりに花を押し付けてくる少女との微妙な時間はしばらく続き、とうとう根負けしたようにその手から花を受け取った。

 ノルンが胡乱げに見つめる少女はずっとニコニコと満面の笑みを浮かべており、それが増々彼女を困惑させた。

 

 

「お姉ちゃんアーサー様のお嫁さんになるんでしょ!? つまりはお妃様! これ私からのお祝いだから大切にしてね!」

 

「はうわ!!? ちょっと君何言ってるの!?」

 

「私とこの人はそういう関係ではないんですが。でも……ありがとうございます」

 

 

 慌てる私とは対照的に、貰った花で髪を飾り付けると薄く微笑を讃えた。

 初めて見る柔らかい笑みに私だけでなくそれを見ていた全員が息をのみ、既婚者とみられる男は妻からローキックを喰らっていた。

 

 

「プレゼントなんていつ以来でしょう。これは大切に保管しておきますね」

 

「えっ、アーサー様が贈ってないの」

「外があれだし余裕無いのは分かるがそれでも、なぁ?」

「もしや色恋に弱いんじゃ。お世継ぎは大丈夫かしら」

 

「この一瞬で凄い風評被害!」

 

 

 今まで築き上げてきたイメージ像が崩れる音がする。

 そもそもノルンとはさっき会ったばかり――でもないな。あれだけ印象的な出会いを忘れていた私に非が無いと言ったら噓になる。

 いやでもあれは仕方ない可能性が無きにしも非ずで、ノルンの魔法が凄すぎたせいも大いに存在するだけのような。

 

 

「いや何に言い訳してるんだ私は」

 

 

 守るべき民から揃って生暖かい目を向けられてるとは露知らず、椅子から立ち上がったノルンが奥の方へと歩いて行った。

 

「離せよ僕のだぞ!」

「嫌よ私が貰ったんだから!」

 

 その先には豚の人形を取り合う子供たち――その愛くるしい顔がホーク殿に似ている――がおり、それを巡って左右から引っ張り合いをしていた。

 そんなに伸ばしたら生地が破けてしまうよと声を掛ける間もなく案の定真っ二つに引き裂かれ、その反動で両者共に尻餅をつく。

 人形が壊れた直後こそ呆然としていたが、痛みと合わさって泣きだす正にその瞬間ノルンが巻き戻しの魔法を子供と人形にも施した。

 

 

「あれ? 痛くない」

「豚さんが元に戻ってる!」

 

「本当に…何をしているんでしょうね」

 

 

 あれだけ人間を嫌悪していたノルンが子供たちのために魔法を使った。先程の独白から察するに時間を操るという規格外な魔力に目を付けられ、利用されていく中で人間に恨みを持ったと考えられる。

 であるならば人の目がある所での魔法の使用はなるべく控えたい筈が、わざわざ自分からそれを為したことに疑問を浮かべた。案の定今の現象を見た者達から「奇跡だ」と囁く声が漏れる。

 

 

「ノル――「私の事はいいです。外にいる人達を呼んできてもらえませんか」……うん、わかったよ」

 

 

 危険なリスクを冒してまで何をしに此処(人間の拠点)まで付いて来たのだろうか。見逃されてよりずっと抱いていた疑問の答えを聞けぬまま、悶々とした気分だけが残る。

 

 

 

 

「そうか、襲い掛かってくる様子は無いんだな」

 

「きっと根は優しい子だったんです。でも当時の人間がノルンを迫害したことで魔神族側に付かざるを得なかった。私には彼女が望んで人を殺めているようには見えません」

 

「三千年前の大戦の代償(ツケ)を今生きる者達が払わされているという事か。儘ならないな何時(いつ)の時代も」

 

 

 例えば真っ当な環境で育っていたら普通の少女みたいに笑い合えてたかもしれない。人間に慈しみを持てば人類の護り手にもなれただろう。

 

 ヒトと魔神の混血種たるノルンが懸け橋となり二つの種族が……いや5種族を和解させる未来もあったかもしれない。

 

 その可能性を先祖の愚行によって潰された。

 あれだけ素敵に笑えるノルンから笑顔を奪い、キャメロット陥落の遠因にもなった昔の人々に対し、温厚なアーサーにしては珍しく怒りを露にした。

 どんなに強がって…どれほどの力があっても一人の少女でしかない。それを理解しないか無視した聖戦の騎士や王族を心の中で激しく非難する。

 

 

  ズ ン ッ

 

 

 その時、体の芯まで響くような重厚な圧が二人を襲った。

 

 

「なんだっ、この尋常ならざる気配は!」

 

「中の方からだが、まさか…」

 

 

 顔を見合わせて急いで皆のいる方に走った。

 こんなことを為せるのがノルン以外に思い当たらず、彼女の地雷を誰かが踏み抜いたのではと最悪の事態が頭を過る。

 

 

「ノルンっ、今のは一体…!?」

 

「来ましたねアーサー」

 

 

 扉を押し退けるとそこには此方を振り返る民の姿があった。皆が困惑した表情を浮かべるがそこに恐怖や(おそ)れは無く、一先ずそれに安堵の息を漏らす。

 だが次に目に飛び込んできたモノを見て絶句した。

 ノルンの前に空間が歪んでできた(ゲート)のような存在し、それが明らかにヤバい雰囲気を醸し出している。

 

 

「どういうつもりだ、それは〈魔界の牢獄〉へと通ずる扉。此処にいる者達に何をする気だ」

 

「なぜ貴方がそのような事を……あぁそういう訳ですか。安心してください別にとって食おうとかでなくむしろ逆、私は貴方達を救おうとしているだけです」

 

「救う? 私達を…?」

 

 

 魔界の牢獄という聞いたことない情報がナナシ殿の口から騙られたこと。それと突然の救済宣言に戸惑う我々を気にする様子はなく、此方(・・)()背中(・・)()向けて(・・・)裂けた時空の中へと入っていく。

 

 

「此処に残りたいなら構いません。ですが……私に付いてきた人には魔神族に怯えなくていい生活を保障します」

 

 

 彼女らしい簡素な言葉だった。しかし奇跡を見たばかりの民衆に効果は絶大で、硬直していた身体に甘美な麻薬が溶けるかの如く浸透し気付けばその後を追っていた。

 

 

「どうしましょうナナシ殿! 民たちが中にっ、」

 

「こうなれば腹を括るほかあるまい。奴を信じるお前の感性に委ねよう」

 

 

 確かに私はノルンを疑ってないし助けたいとも思っている。だがあくまで個人の感想に過ぎず、もし仮にノルンにその気が無くとも中で命を落とそうものなら私は一生後悔することになるだろう。

 

 ここに残るか、それとも進むか。

 

 

「――行きましょう。この拠点もいずれは見つかる。ノルンが云った可能性が僅かでも在るならそれに乗るべきです」

 

 

 私の決断を待っていた者達もその瞬間動き出し、そうして全員が時空の割れ目へと足を踏み入れた。

 

 目の前が真っ黒になり、それと同時に重力が消える感覚を覚えて一瞬バランスを崩しかけるがすぐ地面に足が着く。そのままノルンが歩いた方向に進んで行くと程なくして後ろ姿を捉えた。

 

 

――眼前にいる巨大な龍と共に。

 

 

「アーサー様あれを! 龍があの少女を今にも喰らわんとしています!」

 

「ノルン!? 大変だ早く助けねば!」

 

「待て、よく見て見ろ。顔を寄せただけで危害を加える気は無いようだ。奴もそれを当然の事として受け入れている」

 

 

 緊迫感のある光景に思わず剣に手が伸びたが、ナナシ殿の静止でなんとか踏みとどまる。

 今度は冷静に見返してみると確かに(くだん)の龍がノルンを害そうとする様子は無く、彼女に抱きしめられまるで久々に再会した友人のような……いやそれ以上の親しみを以て接しているのが分かる。何だあれ羨ましい。

 

 

「お久しぶりです。それとも先程振りでしょうか。こうしてまたお会いできて光栄です威龍(・・)()

 

 

 この龍からは〈十戒〉と同等、いやそれ以上の気配が伝わってくる。

 

 それにしても…威龍と言ったか。ノルンが(・・・・)触れる(・・・)より(・・)()()()()()いる(・・)ように見えたが果たしてそんなことが有り得るのだろうか。

 

 今私達はノルンの魔法(アクセラレーション)で1秒が永遠にも等しい時の狭間にいる。その世界に入るのにも彼女から同じ魔法を掛けてもらうしか方法は無いはず。

 しかし威龍とやらはどういう訳か彼女の魔法(ソレ)を必要としていない。そして絶対防御があるとはいえ技の一つが通じないことを当然として受け入れているノルンにも驚いた。

 

 あの二人 (1人と一頭?) にはそれだけの信頼があるという事。それがどうしようもないぐらい羨ましく、強大な存在と相対したのとは別の焦燥に駆られた。

 

 

 

「あれは…まさかインデュラなのかッ」

 

「知っているのですかナナシ殿」

 

「闇と契約を交わして本能のままに暴れる伝説の獣。一度現れれば〈四大天使〉でも手を焼き、魔神すらも畏れる破壊の権化、それがインデュラだ。しかもこの存在感……奴はその中でも別格だ」

 

「でもノルンは普通に相手してますよ? 何なら親し気に」

 

 

 どうして知ってるかはこの際置いといて、私個人の想いを抜きにすれば目の前の龍は脅威とは言いずらい。

 確かに〈十戒〉を遥かに凌ぐことは直感で分かるが、ノルンを愛でつつ此方を警戒する姿からはとても理性が無いようには見えなかった。これが本能を優先しノルンを襲うとは信じられない。

 

 

「……確かに。この場合藪を突いて出てくるのは蛇ではなく龍だ。刺激しないのが賢明だろうな」

 

「ポクあいつ嫌い。ずっと睨んでくるんだもん」

 

「しっ! 駄目だよキャスそういう事言ったら」

 

 

 (いづ)れにせよここはノルンに任せる以外の選択肢はない。見た目で忘れがちだが私達の命綱を握っているのは彼女の方なのだ。仮に気まぐれの一つで敵意を持たれようものなら刹那の間に全員死ぬ。比喩でも誇張でもなく必ずそうなるだろう。だから成り行きに身を任せるしかないのだ。

 

 

「どうか怖がらないで。この方はかつて魔神王様に挑み〈魔界の牢獄(こんなところ)〉に囚われることになってしまいましたが本当は誰よりも気高く優しい龍なんです。……私が〈十戒〉に入っている理由の半分が威龍様の減刑を求めてなのは知ってましたか?」

 

 

 最後の言葉だけは事情を知る私達にのみ聞こえるようこっそり告げられた。あっ、フロランスの香り……ってそうじゃないだろ私っ~~!!

 

 

「魔神王? 嬢ちゃんの言ってることが分かんねえよ」

「それよりここは何処なの? 魔神族に怯えることが無いって言ったから付いてきたけどその龍はなにっ!?」

「お姉ちゃん怖いよぉ!」

 

「落ち着いて。その答えを今見せますから」

 

 

 募る不安を一言で取り払い、龍に向かって「お願いします」と頭を下げた。それを合図に暗闇の上空へと昇ると、その場で旋回し(おもむ)ろに自らの尻尾を噛んだ。

 あれは確か――そうだっ、メリオダス殿の(シンボル)でもあるウロボロスの龍だ!

 凄まじい魔力の高まりと共にノルンも詠唱を口ずさむ。

 

 

 

〝દુષ્ટ આત્માઓ દ્વારા ખાઈ ગયેલા પરપોટાનું કાલ્પનિક. સ્વપ્ન દૂતો દ્વારા જોવામાં આવેલ યુદ્ધનું સત્ય.

અતૃપ્ત ધર્મનિષ્ઠાથી જાગૃત થાઓ

જ્યારે હું તોવા વિશ્વાસ જાગી

ખોટા આરામને કારણે તરસ, દાન અને ફેલોશિપની શોધ, અમરત્વ પ્રાપ્ત કરવું.

શુદ્ધતા જે વિવિધ પ્રજાતિઓની સીમાઓને પાર કરે છે

મૌન મૌન જે પૌરાણિક કથાઓથી ચાલુ રહે છે

સ્વયં લાદવામાં આવેલી ધીરજથી તમારી જાતને મુક્ત કરો

હું આશા રાખું છું કે આપણે અરાજકતાના યુગમાં ન જઈએ〟

 

 

合技 次元跳躍(パラレル・シフト)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………あ、れ?」

 

 

 気付けば暗闇が晴れていた。

 閉塞感を感じさせる空間は拡張され、何も存在してなかった空間に家が、人が、空が――国が形成されていた。

 

 始めは酷く混乱したが、それが見慣れた景観だと気付くのに時間は掛からなかった。

 だってそれは壊滅したはずの私の国(キャメロット)なのだから。

 一緒にいた民たちもこの光景に驚き、やがてそれは歓喜に変わる。

 

「ああっ街だ! 俺の家がそこにあるぞ!」

「噓でしょこれは夢なのかしら!」

「なんで兄貴がっ!? 魔神族に殺された筈じゃ!?」

「グスッ…母さんにまた会えるなんて」

 

 戻ったのは建物だけじゃなかった。魔神族の侵攻で命を落とした国民たちが往来を行き来し、彼等の家族や友人、恋人に覆いかぶさられていた。

 当の本人たちはワケが分からなそうにしているが。

 

 

 

「これは夢なのか。それとも現実なのか」

 

(まご)うことなき現実ですよ。正確には魔神族が攻めてくる前の………人間(・・)以外(・・)()種族(・・)()存在(・・)()()()時間(・・)()のキャメロットですが」

 

「っ! 人間以外が、存在しない…!?」

 

 

 いつの間にか背後に立っていたノルンの衝撃過ぎる発言に息を呑んだ。

 反射的に振り返れば先程と変わらない彼女がいたが、実は一点だけ……姿が透けていることだけが明確に異なっていた。

 

 

「人間以外の存在はこの世界から排除される。私は半分が人間(ハーフ)だから少しの間だけ留まっていられますがそれもあと僅かでしょうね」

 

「そんなっ! 待ってくれ私はまだっ「未練など断ち切りなさい」――!!」

 

「元の世界の痕跡が残っていてもそれは向こうとは何も関係ない代物です。偽物ではない全く同じ存在、だけど目にする全てが別物。ここはそういう世界です。それを望んだのは他でもない貴方達だ。どうか平和な世界で己が信念を貫いてください。」

 

 

 だから探すな。何も求めようとしないで。

 

 

「ここは永遠の王国キャメロット。人間しか介在しない、ヒトの為だけの国。生かすも害するのもこの世界の住民だけで行われる」

 

 

 そう言って身体も存在も更に希薄になっていく。咄嗟に伸ばした手は虚空を掴んで実態を捉えない。

 

 

「貴方とそこの猫さんは特別に挟みましたが、決して油断はされぬよう。威龍様がその子を警戒していましたから」

 

「あい分かった」

 

 

「それでは…今度こそ本当に会うことはないでしょう。さようなら」

 

「ノルン待って! 私は――!」

 

 

 

「立派な王になってね。アーサー・ペンドラゴン」

 

 

 

 そんな言葉を言い残し、見惚れるような微笑を讃えたノルンは――この世界から完全に消えた。

 

 

 





 というわけでアーサー生存。ノルンに脳を破壊されたまま世界を分断されました。


↓↓ネタバレ注意(それでも大丈夫って人はコピー推奨↓↓

 次元跳躍(パラレル・シフト)

〝悪鬼蕩かす泡沫の虚構(ゆめ) 天賜(てんし)仰ぐ戦火の真実
 飽くなき敬神から醒め
 とわの信仰に目覚めし時 
 偽りの安息に犯された渇き、慈愛求め交わりて不殺を成す。
 異種の垣根を超越せし純潔が 
 神話から続く暗黙の沈黙が
 無欲強いる忍耐から解き放たれ
 混沌の時代へと移らんことを〟



仮にノルンとアーサーが結ばれた場合、高い確率でノルンは死亡します。子供を成した時にお腹の子に生命力を奪われての衰弱死です。
魔力を使っても、

時を加減速する→意味ない
時間を停止する→問題解決にはならない
身体の状態を戻す→子供ができる前に戻ってしまう

なので手の施しようがありません。
これが唯一単独で出来る《不殺》殺しです。

ノルンは自分の命を諦めてお腹の子を産み、そのまま息を引き取ります。それで精神が狂ったアーサーが闇落ちして〖黙示録〗へと話は進んでいきます。

そもそも結ばれるか、そこまで書くかも今のところ未定ですが。




十戒 vs 七つの大罪 勝つのはどっち?

  • 十戒
  • 七つの大罪
  • 実は引き分け
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。