《不殺》は時を廻したい   作:暦月

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「………はぁ」

「ちょっと、せっかく人が乗せてあげてるのにさっきから溜息漏れてるわよ。何があったかは知らないけどそれ続くなら落とすからね」

「嫌ですよダメージが無いと言ってもこの高さから落ちたらビックリするんですから。あと歩くと時間掛かるし」

「そこは時間じゃなくて体力使いなさいよ。貴女なら一瞬でしょう」

「………はぁ」

「やっぱり落とそうかしらこの子」





第十九話 リオネス襲撃

 

 

 その日――、リオネス王国は未曽有の危機に陥っていた。

 

 

「おかしいよスレイダー。魔力が使えない!」

「剣を持つ手にも力が入らないわ」

 

「どうなってる。このクソったれな魔神共を前に力が出ねぇなんて!」

「メリオダスの仇は必ず俺が…とる!」

 

 

 メリオダスの敗北から一か月。着実にブリタニアを支配下に置いていた〈十戒〉率いる魔神族がとうとうこの国にも攻めてきたのだ。

 リオネスは周辺国家の中でも非常に強固として知られている。聖騎士の質や数で他国の上を行くのは勿論、何よりここには伝説の〈七つの大罪〉がいる。

 

 団長であるメリオダスこそ居ないが、それでも彼抜きでこれまで幾度となく侵攻を阻止してきた実績があった。事実ヘンドリクセンを始め、ドルイドの里で力を付けたギルサンダーやハウザーの活躍によってリオネスでは魔神族の被害を最小限に抑えてきた。

 

 だが今はそんな彼等でも太刀打ちできない状況へと追い込まれていた。

 

 

「どうも愚かで弱き人間諸君。俺はエスタロッサ、魔神の王より《慈愛》の戒禁を与えられし者。俺の前で憎悪(・・)を抱く者は何人たりとも傷付ける術を失うのさ」

 

 

 それもその筈。これまで戦ってきた下位魔神とは違って今回は〈十戒〉が参加している。勿論当人たちの実力も然る事(なが)ら、聖騎士を一番苦しめたのが彼らに備わりし戒禁の呪いだった。

 

 

「ダメだとても手に負えない! 全員、一旦引き体勢を立て直すん、だ――!?」

 

 

「恐るべきは《敬神》よな。魔神王の代理(ゼルドリス)に背を向ける者を魔神族ひいてはお前への背信(・・)とみなし強制的に服従させるのだから」

 

「情けないぞフラウドリン。人間ごときの国一つ落とすのにどれだけ手間取っている。ノルンならもうとっくに終わっているぞ」

 

「彼女と比較するのはよしてくれ。その人間の中にとんでもない奴が紛れているのだ」

 

 

「ゼル…ドリス…様……」

「我らは…今より…魔神王、の下僕……」

「ゼルドリス様の…しもべ……」

 

 

十戒《敬神》のゼルドリス

十戒《慈愛》のエスタロッサ

 

 この二人の戒禁により戦わずして離脱する者が後を絶たない。

 ギルサンダーのように以前からメリオダスを知る者は勿論のことヘンドリクセンが起こした先の聖戦にて彼を慕う者は多く、また時には背を向けて撤退を選ぶことも戦略的には間違っていないのだ。

 玉砕覚悟で褒められるのは敵の陣地で攻め込んでいる場合だけ。防衛戦では一人失うだけでも後ろを守る市民に被害が行き兼ねないから敵を削るより生き延びることが求められる。

 

 

「俺たちは剣を握ることも拳を振るうことも……奴に向かって歩くことすら叶わぬというのか…!」

 

「可哀想に。今その苦しみから救ってやろう」

 

 

 しかし今回はそれが裏目に出た。戒禁の前ではそれが命取りになる。優秀であるが故に無謀な戦いから身を引き、憎しみを剣に乗せて立ち向かった。

 その結果〈十戒〉に抗う者はいなくなった――

 

 

「烏滸がましい」

 

 

――ただ一人、最強を除いて。

 

 

 

 ズン、ズンッ、 ズ ン ッ !!

 

 

 

「ッなんだ…この尋常ならざる気配は」

「来たな、城の方からだ」

 

「なんだこの男は。あれは本当に人間なのか…?」

 

 

 最強の男――エスカノールがしっかりとした足取りでエスタロッサの前に立ち塞がった。彼以外誰も成しえなかった《慈愛》を破る偉業に、人間で初めて到達したのである。

 

 

「なぜ戒禁が効かねえ?」

 

「当然のことです。自分より弱い者に憎しみを抱くはず無いでしょう。抱くのは哀れみだけ」

 

「傲慢だな」

 

「それが『傲慢の罪(このわたし)』」

 

 

 所持者たるエスタロッサでも理由が分からず素直に問うた。だが彼の言い分は至ってシンプル。

 目の前の敵(エスタロッサ)最強の自分(エスカノール)より弱いから。その一点だけで《慈愛》の無力化を突破してみせた。

 

 

「おお分かった! メラ(スキュラ)がほざいてたガランを倒した人間ってのはお前だろ」

 

「それが何か? おっと、私に憎しみを抱いていけませんよ。あなたが己の戒禁に掛かってしまっては折角の戦いが楽しめない」

 

「お前案外いいやつだな」

 

「はっはっは、当然です」

 

 

 朗らかに笑いあう両者。一見仲が良いようにも見えるが得物を握る手には力が込められている。勝つのは自分だと互いに思っているからで、つまりは強者の余裕というやつだ。

 

 

「じゃあほらよ」

 

 ドゴっ!!

 

 

 開戦の幕は突如上がった。右のアッパーで先制を叩き込むと、続けざまに仰け反ったエスカノールを台地の下まで減り込ませたかと思えば今度は蹴りが命中し元の場所まで運ばれてきた。

 

 

「そんなっあの人でも相手にならないのか!」

 

「おいおいそんなもんかよエスカノール」

 

 

 その声に失望を滲ませながら歩いてくる。別に期待はしてなかったがこれでは拍子抜けもいいところ……

 

 

「それは私のセリフです。もうお終いですか」

 

「ッ――!」

 

 

 勿論最強がこれで終わる筈なく、横合いから超大の質量をお見舞いした。それは言ってしまえば何てことないただの左ストレート。

 しかし咄嗟とはいえ防御が間に合ったエスタロッサの体勢が崩れ、ゼルドリスに次ぐ闘級を誇る彼をガードの上からの一撃で膝をつかせたことに他の〈十戒〉が震撼した。

 

 

「おやおや…? 金貨でも落ちていましたか?」

 

「……クックッ。やっぱ外界(シャバ)はいいなぁ、この手応えを待っていたぜ。お前となら本気で遊べる」

 

 

 闇の空間から得物を取り出したエスタロッサのギアが上げる。

 

 

「おこがましい」

 

 

 そこに容赦なく神斧リッタを叩き込んだ。だが次の瞬間、ダメージを負ったのはエスタロッサではなく攻撃したエスカノールだった。肩口を大きく切り裂かれたばかりかその後ろを大きく余波が通過したのだ。これには二人の戦いを見届ける聖騎士だけでなくエスカノールも珍しく驚愕して見せた。

 

 

「少しは驚いたか? これが俺の魔力【全反撃(フルカウンター)】 あらゆる物理(・・)()攻撃(・・)を倍以上にはね返す力だ!」

 

 

 それはメリオダスの魔力【全反撃(フルカウンター)】と酷似していた。彼方が魔力をはね返すのに対し、エスタロッサの場合は魔力を介さない純粋な物理攻撃に特化しているため全く同じという訳ではないが、その厄介さを知る者達からは驚きと焦燥が漏れる。

 

 

「なるほど道理で痛みを感じたわけか。流石はこの私だ」

 

「ハッーハッハッ! どこまで傲慢で面白え奴なんだ!!」

 

 

 それとは対照に素直に攻撃の威力を自賛するエスカノールとその様子を笑い飛ばすエスタロッサ。未だ余裕を残す二人だが、次の瞬間には互いに真剣な眼を向けていた。

 

 

「殺す前に覚えておいてやるよ。お前の名は?」

 

「…エスカノール。死ぬ前に覚えておきなさい」

 

 

 この勝負どうなってしまうのか。どっちが勝ってもタダでは済まない事をこの場の全員が感じ取っていた。

 

 

「では本気の貴方に敬意を表し、私も本気を出してあげますが……先ずまともには死ねませんよ?」

 

「まったく物騒な野郎だな。そんな魔力使えば後ろの連中は黒コゲじゃ済まねえぞ」

 

「……」

 

 

 神器での攻撃は有効打にならないと考え、魔力で小さな太陽を創り出した。だがそれは味方をも巻き込む無差別高火力。周辺の地面が沸騰し、騎士の纏う鎧が熱で溶けだしてしまっている。

 

 

「ならばこうしましょう」

 

「…!?」

 

「『無慈悲な太陽(クルーエル・サン)』」

 

 

 陽球をエスタロッサの眼前に掲げ、発射する。

 攻撃をもろに食らい数マイル先まで吹っ飛ぶと、今度はそれに乗ったエスカノールが太陽を下へと撃ち出し、彼もろとも湖底に押し付けた。

 だが本番はここから。『炸裂する傲慢(プライド・フレア)』よって凄まじい量の熱エネルギーが拡散…放出し、立ち上る水蒸気がまるで火山が噴火したかのように壮大な痕跡を残した。

 

 

「化け物めっ、一瞬で湖を蒸発させるとは…!」

 

 

 人間達から化け物扱いされる魔神族だが、この時ばかりは棚に上げそれを成したエスカノールに戦慄した。最早この男を人間の括りで測るべきではないとの認識が共通で行われていた。

 

 

「ハハッ…か~なりいい攻撃だったぜ! ()を展開すんのが少しでも遅れてたら大ダメージもんだ」

 

 

 爆心地から半身が焼け爛れたエスタロッサが姿を見せる。だが負傷した箇所を闇が覆うと傷が全快した。

 

 

「そんじゃ、もう決着(ケリ)を付けるか」

「その意見だけには賛成ですよ」

 

 

 その闇が今度は『無慈悲な太陽(クルーエル・サン)』を覆い隠すと、間合いを詰め神器で返り討ちにしようとしたところを【全反撃(フルカウンター)】で逆に傷を負わされる。

 

 

「俺の闇がお前の太陽を呑み込んだ、つまり魔力に関しちゃ俺に分があるようだ。そして物理的攻撃は全てはね返され通用しない。この意味分かるよな?」

 

 

 加えて種族的優位も決して無視できない。(まさ)に今やったように上位の魔神族であれば人間の致命傷ぐらいの怪我でも一瞬にして治すことが出来るのに対し、あくまで人間であるエスカノールは傷も疲労も残る。つまりは長時間の戦闘は不利だ。

 

 この勝負、エスタロッサの勝ちは揺るがない。

 

 

()の攻撃が通用しない? 誰が決めた?」

 

「なに? ――ッ!!?」

 

 

 だがその理屈が成り立つのは、両者の実力が対等(・・)だった場合。

 

 エスカノールの魔力【太陽(サンシャイン)】は日の出から時間を経過するごとに力を増す。

 そしてまだ半刻あるとはいえ正午に近い。即ち、太陽が高い位置にある。これが意味することはつまり……

 

 

「攻撃が見えなかった…」

 

「我の太陽を呑みこんだ? 誰が決めた」

 

「口調が変わった……」

 

 

 拮抗していた天秤が傾く。先程まで十分に捉えていた太刀筋を眼で追えなくなり、エスカノールの腕を覆っていた闇が晴れて中から何倍も大きくなった大火球がその全容を明かした。

 

 

(こいつは一体何者だ……体躯が、闘級が今まで以上に膨れ上がってやがる!)

 

 

「決めるのは 我だ」

 

 

「う…おぉおぉお”お”ぉ!!」

 

「死ね」

 

「拙いっ、兄者ーーーっ!」

 

 

 危機を察したゼルドリスが割って入ろうとするが、もう遅い。

 巨大化した『無慈悲な太陽』が庇った彼ごと吹き飛ばし、二人纏めて地平の彼方へと追いやった後、遅れて炸裂するような大爆音が轟いた。

 

 

「さて王都に戻ろう……といきたいが久々に興奮(ハッスル)しすぎたか。神器(リッタ)でも抑えきれんな。これはしばらく留まるしかあるまい」

 

 

 これにて決着はついた。

 

慈愛(エスタロッサ)》を戦闘不能にし、《敬神(ゼルドリス)》は行動可能も復帰が困難。

しかし高まる熱を制御できないエスカノールもその場を動くことができず、これ以上の介入は断念となった。

 

 

 

 エスカノール vs エスタロッサ

 

 勝者:傲慢の罪(ライオン・シン)エスカノール

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 一番の山場は越えたが大局は依然揺るぎない。リオネスに襲撃を掛けてきた〈十戒〉はまだ三人残っており、しかも唯一にして最大の戦力が出払ったまま戻って来ないとなると状況はむしろ悪化の一途を辿る。

 

 

「くそっ、何か様子がおかしいぞ!?」

「お前たち、一体どういうつもりだッ!」

 

「魔神王に従わぬ反逆者に鉄鎚を下すのが我らの使命! ここで死んでください!」

 

 

 背を向けた者を隷属させる《敬神》の呪いは未だ健在。護るべき民や同じ聖騎士から襲撃を受け、鎮圧する彼らの前にデリエリとモンスピートが立ち塞がった。

 

 

「悪いことは言わないから降伏しなさいよ。正直この状況でのキミらの勝算は…ねぇデリエリ?」

 

(ゼロ)な」

 

 

「勝算ならある」

 

 

 

 少し場面を止めて失礼。

 

 また原作の話に触れるが、正史ではこの後〈蒼天の六連星〉率いたデンゼルがケルヌンノスの角笛に封じられる女神族の神兵長ネロバスタをその身に宿して対決する。

 だが結果は惨敗。自らの不利を悟り怒れるデリエリから逃走を試みたものの、敢えなく失敗し更には上半身を消し飛ばされ絶命するという無駄死に等しい最期を迎える。

 

 だがノルンの介入によって運命は変わった。

 

 この世界線では〈蒼天の六連星〉ごとゼルドンの研究棟に閉じ込められたままなため彼らが介入する余地はなく、当然デンゼルが女神族を降ろす展開も起こりえない。

 

 では彼女(ネロバスタ)の方はどうか。デンゼルが居らずとも儀式を行う者さえいれば極論誰でもいい訳で、しかもそれが若くて強く――不死身の身体であれば彼女も死ぬことが無くなるのだ。

 

 その条件に合うのが一人、しかも正史で誰よりも早く接触が描かれた人物がいる。

 

 

 

 

「死ねっ『聖櫃(アーク)』!!」

 

「デリエリ…!」

 

「グ…ア…アアッ!!

 

 

 女神族が扱う()は魔神族の闇と相反する性質を持ち、神兵長(クラス)にもなれば威力の低い聖櫃(アーク)でも魔神族にとっては毒となる。

 だがそれは下位魔神だった場合の話。最上位魔神や〈十戒〉相手には力の差で押し切られる。

 

 

「ケツから言うぞ。殺す」

 

「クッ、死ねえぇーー!」

 

 

 ドチュンッ

 

 

 全く抵抗出来ずにただの薙ぎ払いで上半身が消し飛んだ。三千年前の聖戦で活躍した女神族の部隊長も、魔神王直属の精鋭相手には役者不足もいいところ。史実と同じく、やはり死亡する運命(さだめ)にある。

 

 

「あ~? ンだよ大見得を切った割にあっさり負けてんじゃねえか。んじゃもう引っ込んで俺に力だけ寄越しな♪」

 

「っ…! 誰だお前」

 

「んん? どういう手品かな、私には確かに死んだように見えたが」

 

 

 デリエリが背を向けた直後、後ろから襲い掛かろうとする手を間一髪のところでモンスピートがはね除けた。危うく心臓を潰されかけたデリエリが後ろを振り返った時、そこには半身を失う前と何一つ遜色ない女神族の素体になった男がいた。

 まさか、あの状態で生きている筈がない。

 最上位の魔神族ならガランが闇を使って身体を繋ぎ合わせたように接合することも可能だが、完全に消失した上半身を生やすのなんてノルンが時間を巻き戻さない限り〈十戒〉でも不可能だ。

 

 そう、不死身でもなければ。

 

 その人物は親友と、恋人を一度殺した魔神族に勝つためネロバスタと手を組んだ。その男の名は――

 

 

 

「俺か? 俺はァ~~」

 

 

〈七つの大罪〉強欲の罪(フォックス・シン)バン

 

 

「団ちょを殺ったテメェらを倒す男だ♬」

 

 

 

 





というわけでバン参戦(ネロバスタ憑依)です。無事年内にリオネス襲撃まで話を進めることが出来ました。

よければアンケートもお願いします。
皆さんの予想を聞いてみたいだけなので、この結果で話の展開が変わるとかはないです。



十戒 vs 七つの大罪 勝つのはどっち?

  • 十戒
  • 七つの大罪
  • 実は引き分け
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