前回のおさらい
山本 由ノルン「負けるという選択肢はない」
「……はぁ」
「いつまで引き摺ってるの。ほら着くわよ」
あの日、アーサーを逃がしてからというもの気分が上がらない。
運んでくれてるメラスキュラさんには悪いですが、私自身どうして落ち込んでいるのか分からないんです。
それだけ彼の存在が私の中で大きくなっていたんでしょうか……
「うん……いいえ、切り替えましょう」
だとしても悩むのは後でいい。
メラスキュラさんに無理を言ってまで連れてきてもらったのに何時までもウジウジしてたら彼女に失礼だ。
私達が降り立ったのは何の変哲もない丘……ではなく激しい戦闘の痕跡が残る
とてつもない熱で蒸発したような地面を歩いていると、目当てとする人物が見えてきた。
(シッシッ! ええい鳥風情が! 儂の頭に糞をするでない!)
それは一見するとただの石像のようだが、周囲が壊滅しているのにこれだけぽつんと置かれているのは不自然だ。
近づくと聞き覚えのある声の念話を傍受する。
「お元気そうでなによりですガラン爺様」
(ん…? おお~~ノルン!! ……とメラスキュラか)
事前に話は聞いてましたが本当に石化してるんですね。
これは間違いなく《真実》の戒禁、という事はゲームで負けて呪いに掛かったというのも本当のようだ。
「ねえノルン、こんな失礼な
(待ってくれ悪かった! だから早く石化を解くようゼルドリスに伝えてくれ!)
そりゃあ自分がついでにみたいに言われたら誰だってキレますよ。私も足代わりにしてしまったので人のことは言えませんが。
しかし間が悪いというか何というか。
今ここにいる私達とメリオダスさんに手酷い傷を負わされたグロキシニアさん、ドロールさん以外は皆出払っちゃってます。確か侵攻に苦戦しているフラウドリンさんの応援とかで。
その事を伝えたら残念そうに項垂れてしまい――あくまで動けたらそう見えるという想定で――、明らかに気落ちした様子で「じゃあそれが終わってからで良いわい」と現状を受け入れた。
「全く仕方無いですね」
ここで仲間外れは流石に可哀想だ。慢心して負けた反省はもう済んだでしょうし、ここは一肌脱ぐとしましょう。というより初めからそのつもりで来たんですけど。
「もしかして助けるつもり? それは幾ら何でも無理よ。戒禁は魔神王様の力によるものだからすぐに弾かれてしまうわ」
ですがメラスキュラさんの言う通り、私の力で《真実》の戒禁を解くことは不可能。
【
中でも魔神族への耐性は五種族で最も低く、加えて戒禁は魔神王様に由来する力のため相性が悪いどころの話じゃありません。
「メラスキュラさん、死して尚殺しても心が痛まない亡者っていますよね? それ召喚してください」
それでも方法はある…と思う。
これで駄目なら本当にゼルドリスさんを頼るしかないですが、その時はガラン爺様のみ侵攻不参加という結果が待っているだけで私達にデメリットは一つも在りません。
「はあ……もう好きにすれば? 言っとくけど五月蠅いジジイの介護なんて御免だからね」
(流石にそれは酷くないか!?)
私の魔力で無理なら、我らの神に唯一対抗できる力――他ならぬ
石化したガラン爺様を質量を感じずに持ち上げて、たった今召喚されたばかりの亡者に振り下ろす……そうすると何が起きるか。
当然《不殺》の戒禁が発動して対象――たとえ戒禁の保持者だろうがルールには従わないといけない――この場合は
しかし今の私は『断魔の羽衣』を纏っている。
魔神族に干渉し解呪するなら兎も角、私の【魔力】と一番相性のいい
況してや半分の更に十分の一にも分けられた力の欠片では尚更。
結果私は戒禁から逃れ、後には石化したまま時間が加速するガラン爺様だけが残った。
そう、時間……私の唯一にして絶対の自信を誇る
この世を統べる御方の魔力だから通用しているのであって、別にこの時間領域に特化した力ではないのでしょう。
であるならば私が干渉できない道理はなく、打ち消すのは無理でも力の
「〝
………
……
…
今駆け付けた私達を除いて残っている十戒はフラウドリンさんのみ。
あの人達がこんな簡単にやられるなんて想像もしていませんでしたし、死んだと思われていたメリオダスさんが嘗ての強さを携えてまた私達の前に現れたことにも驚きです。
ですがそう……現実を受け止めなくてはいけませんね。
此方は私達を含めたらまだ4人残っていますが、それに対して上げられた戦果は微々たるもの。人間の城を一つ堕とすのにこれでは割に合いませんね。という訳で――
「看過できない、容認できる筈がない……残念ですがやり直しです」
こんな結末は我ら魔神族に相応しくない。
正しい結果に導かなくては十戒の名が廃る。
「それじゃあ、この時間軸はこれで終わりという事ね」
「寂しいがそれも止む無しか」
「済まないノルン…」
私は何度も通った道ですが、殆どの巻き戻しで記憶を失っている皆さんからしてみれば今いる世界が消失するのと等しいのでしょう。
どこか感慨深げに、私が時間を逆行するたびに自分だけ取り残されるような思いをしていることにフラウドリンさんは気付いていた。
申し訳なさそうに謝りますが、大丈夫と
「これから準備に入ります。別に通しても構いません」
「カカッ! では遠慮なく暴れるとするかのう!!」
愉しそうに突撃するのと同時、私の方にも少なくない数の兵士――この時代だと聖騎士と言うんでしたっけ? が襲い掛かってくるが、自分に行使している魔法を『断魔の羽衣』から『
城内に入り、限りなく停止した世界で部屋を一つ一つ見て回ります。
『
線引きできればどの部屋だろうと一緒なのですが、周りに人間がいる空間で魔法を行使するのは気分が落ち着かないので人のいないところを探していると良さそうな部屋を見つけた。
「ではここに……」
ふと足を止めて道中を振り返る。
数だけはいる人間の城ということもあってか中は人でごった返しており、今まで開けた部屋にも負傷者やら非戦闘員が身を寄せ合っていた。
なのに比較的目立つ位置にあるこの部屋には誰もいないなんて事が、果たして本当にあるのだろうか。
(罠が仕掛けられている様子はない。ただの思い過ごし…?)
気にはなりますが特別やることは変わりません。私を害せるほどの仕掛けなど想像できませんし、他の部屋を探すのも手間が掛かるから。
準備を終え、残された僅かな時間をこの世界で過ごすため『
再び正常な時間が流れた時、何かが一直線にこの部屋に向かってきた。
「やっぱり貴方が来るんですね」
「寂しがり屋なところは変わんねえなノルン」
そう言えば彼には伝えてたなあ。時間を遡るときは未練がましく最後の一時を過ごしたいって。
「貴方と話す機会もあと何回かでしょう。過去に戻ったら今度は確実に殺します」
「それが出来たら苦労しねぇ。この身は最高神の呪いで死んでも蘇るんだ、永遠にな」
衝撃の事実でした。女神族に呪いを掛けられたというのは以前ゼルドリスさんから聞いてたけど呪いの内容までは教えられてなかったので。
「自業自得ですね。私達を裏切った天罰が下ったのです」
「女神の所業を
「ッ――」
「お前だけは人間と歩む道もあった筈だ。そうすれば
「お前が、シスターを騙るなあッ!!」
全部知ってるくせにッ――私が人間からどういう扱いを受けてきたか知ってて魔神側に引き込んだ張本人がどの口で!!
「何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もっ――何度やり直してもシスターが死ぬ前に戻れなかった時の絶望がお前に分かるかッ!?」
巻き戻す時間が長ければ長いほど魔力消費が多く、当時の私ではシスターが襲撃されるより前に遡ることがどうしても出来なかった。時間を司る力があるのに過去を変えられない無力感に苛まれる気持ちなど分かる訳ない。
「はっ、成程な。人間嫌いが行き過ぎて
「……やはりわざとでしたか」
「薄々勘付いてて懐に入ったってなら自分の魔力を過信し過ぎ…もしくは投げやりにでもなったか?」
「どこまで人を莫迦にすれば――!」
思った通りこの部屋に罠なんてない。私を揺さぶるためだけに敢えてここだけ人を掃けさせてたんだ。
メリオダスの言う通り、シスターが亡くなってからの私はどこか投げやりに生きている自覚があった。
そもそも『
きっとまだシスターを助けられなかったことを引き摺っているんだ。
わざと発動できる言い訳を作って過去に戻り、救えなかったのは私が悪いのではなくこの魔法が悪いのだと、まるで
それをこの男はここで指摘したんだ…!
「頭に血が上りやすいのは変わんねえな。今言ったろ、自分の魔力を過信し過ぎるなって」
メリオダスから放たれた
私なら仕掛ける前に止められたことを言ってるのだろうけど、こんな『羽衣』を破壊するどころか「上魔」の無敵性も突破できない攻撃に意識を向ける方が無駄だ。
「俺の知り合いに【
「何ですか急に」
「俺からも一つ予言しといてやる。過去に戻った先でお前は敗北し、必ずこっちに戻ってくる」
何を世迷言を、と一笑に付す前に言葉を繋げられた。
「そして俺がお前を仕留め、この聖戦の勝利を確実なモノとする。お前さえいなくなれば後の連中はどうとでもなるからな」
「羽衣を破壊出来ない貴方には不可能です」
「出来るさ、俺
「……!」
何時だったかゼルドリスさんが話してくれたことがある。
メリオダスの【
あまりに強大な力であるが故に先ずもって使う事は無いが、一度行使すればこの
「それはまともに使えない筈では」
「ゼルに訊いたんだな? 魔神族を抜け出した後に習得したんだから当然アイツも知らねえさ」
十中八九ハッタリだ。仮に可能なんだとしたら過去から戻ってくるのを律儀に待つ必要などない。今この場で使えばいいだけだから。
それをしないということは出来ないという事……そう、理解している、のに。
「………」
「今まで
圧倒的僅かだが、今までも『羽衣』が通じない状況は確かにあった。そんな場面でも加速や逆行で乗り切れるのが殆どで、だからこそ窮地に陥ったことが少ない。
だが黒炎は勢いを増して燃え盛っており、これでは加速したとしても素の耐久が見た目通りの脆さしかないノルンでは範囲外まで離脱できないだろう。
逆行による魔力抹消も、世界を再編している間は同系統の能力が使用できない制限のせいで今は行使できない。
故にこの状況、羽衣だけが今のノルンの生命線であり、喩え嘘だと分かっていても破壊される可能性が提示された以上はその言葉を無視できなかった。
「……良いでしょう、貴方の思惑に乗ってあげますよ。元より過去をやり直さねばなりませんし」
ここで始末するのは簡単です。でも過去を上書きしたら全部無くなってしまうので魔力温存という選択を取り続けたこれまでに倣い、彼を見逃してあげました。
「どの道全て無駄になるんです」
「無駄になんてしねえさ。俺と〈七つの大罪〉がな」
……時間です。逆行する準備が整いました。
「最後の忠告だ。ここで引かないなら〈
「では時の忠義者たる私からも予言を。今回の遡行を以て魔神族は大戦の勝者となり、未来永劫ブリタニアを支配するでしょう」
最後に向かって来るのが
三千年と続く過去の因縁に決着を付けたら、この胸の苦しみも少しは和らぐでしょうか。
なんて、思ってたんですけどね……
「止まりなさい。でないと地獄を見ますよ」
「笑止」
「悪夢を見るのは貴様らの方だ」
次回、《不殺》vs「??」
十戒 vs 七つの大罪 勝つのはどっち?
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十戒
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七つの大罪
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実は引き分け