《不殺》は時を廻したい   作:暦月

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第二話 嵐の前の

 

 

 エジンバラの丘に降り立った私達が見たのは底が見えない程の深い大穴と、その周りを囲む建物……だったもの。どうやら城から放射状に放たれた魔力の塊が建造物を破裂させ、この惨状を引き起こしたようだ。

 

「この残存魔力はもしや」

 

「はは~~んス」

 

 私達にとって馴染み深い、暴力的な荒々しさと全てを呑み込む静謐という一見矛盾を抱えた独特の気配に、つい懐かしさを覚えてしまったのは仕方のない話。

 

 

「間違いない、メリオダスの仕業だ。奴め、一体ここで何を…」

 

「いいじゃないゼルドリス。先ずはゆっくり羽を伸ばしましょう。久しぶりの外界よ?」

 

「そうですね。私なんて魔力が無いと満足に戦えもしないのでこのまま休みたいです」

 

 

 気にならないかと言われれば嘘になりますが、答えのない疑問に頭を使っても時間を浪費するだけなので無視です無視。

 それよりも今一番の問題である魔力切れをどうにかしなければ…

 

 

「フフ… ノルン貴女、さっき人間に舐められたのが余程悔しかったみたいね」

 

「なッ!? メラスキュラさん、あれはフラウドリンさんが生かしてくれって言うから見逃しただけで、殺そうと思えば何時でも――もがっ」

 

「おっとと、危ない危ない。駄目だよノルン、今の君じゃガランの『真実』の戒禁に抗う術が無いんだ。彼の前では発言に気を付けた方が良い」

 

「ッ――、」

 

「カカカッ! こりゃあ面白いわい! 確かに魔力が無いノルンなんぞ下位魔神より無害じゃろうて。あの人間も運が良いのう」

 

「~~~ッ!」

 

 

 嘘じゃないですっ、本当にいつでも殺せたんだもん!

 そう言いたいのに、モンスピートさんに口を封じられてるせいで弁明もできません。

 

 

「お前達、戯れもその辺にしておけ。ノルンも魔力が戻るまでは無茶な言動は控えるように」

 

「ええ、分かったわ」

 

「クク、了解したわい」

 

「別に無茶なんて……(いふぁ)(いふぁ)い、れりえりさん!」

 

「話聞いてなかったのか。大人しくしとけって言ってんだ」

 

「デリエリもノルンに対しては面倒見がいいっスねえ」

 

 

 うう…久しぶりに痛かったぁ。何も頬を抓らねくても良いじゃないですか。

 恨みがましく視線を向けるが、その時にはデリエリさんは明後日の方を見ていました。

 

 

「魔力の回復で気になったのだけれど…ねぇゼルドリス?」

 

「ああ。三千年前このブリタニアの地から豊潤に溢れ出していた魔力が枯渇している。どうりで魔力回復に時間が掛かるわけだ」

 

「その魔力のために五種族での戦が起こったというのに」

 

 

 聖戦ですか…。当時はまだ十戒入りしてませんでしたが、それでも命懸けだったのは覚えています。四大天使(・・・・)との(・・)交戦で(・・・)デリエリの(・・・・・)お姉さんを(・・・・・)亡くした(・・・・)から、あまり思い出したくない記憶ではあるけど。

 

 それに魔力の枯渇ですか。先程の話を認めるようで癪ですが、魔力を使えない私は下位魔神に毛が生えた程度の強さしかありません。それなのに力の源たる魔力の回復が遅れるなんて…。

 

「いや、しかしそう悲観したものでもないぞ」

 

「はあ、それはどういう――」

 

 ことでしょうか、と問う前に無粋な声が割り込んできた。

 

「おうてめえら! どこの商売敵だ! 此処は俺らのナワバリだぞ!?」

 

「人間…?」

 

「このエジンバラは良質なガラス質の石が取れるからな。どうしても採掘したいってんならショバ代を払え!」

 

 しかも力の差も分からない莫迦ときましたか。これだから人間は嫌いなんです。

 

「大地から溢れ出した魔力はそこに存在する動物や植物に流れ込み、それらは三千年の間にこの地に蔓延った者共に脈々と受け継がれている」

 

「それって…」

 

「てめえら人の話を聞いてん…!?」

 

 その話に耳を傾けた時には、既にデリエリさんが人間から魂の回収(・・)を終え、咀嚼していました。

 

 

「な、何をした? おい、しっかりしろっ!」

 

「味はどうかしら?」

 

「ケツから言って、一石二鳥だな」

 

「多少の雑味はあるが、確かに少量の魔力を含んだ魂は中々どうして味わい深い…。これを当面の食料にすれば大量に湧いた人間の駆除もできて一石二鳥だ――ということだな」

 

「ん」

 

 毎回思うけど、モンスピートさんはどうやってあの発言からデリエリさんの意図を正確に汲み取れるのだろう。やっぱり大人だから?

 

 

「でもその方法だと私だけ除け者になっちゃうなあ」

 

『『 あ… 』』

 

「あっ!」

 

 

 不味い。心の内で呟いたつもりなのに、声に出たどころか皆さんに聞こえちゃいました。ほらぁ、何人かがバツの悪そうな顔しちゃってるし。

 

 

「それではどうしますか。仲間外れも可哀そうですし全員で断食とか」

 

「いやいや、私なんかに構わないで皆さんはコンディションを戻すことに努めてくださいよ」

 

「アタシはいいぞ。だるいし、休みたい」

 

「私もそれで構わないよ」

 

「復活直後なんだ。ブリタニア制圧なんて後で良いだろ」

 

「エスタロッサさん、その発言は別の意味で問題なんですけど」

 

「ノルンは真面目っスねえ~。まだ子供なんスから気楽に考えたらいいのに」

 

「ム…、聞き捨てなりません。見た目は子供ですが、体感でいえばもう二十歳(はたち)近いですからね」

 

「あたし等からしたら十分子供っスよ」

 

 

 うう…、皆さん気遣ってくれるのは嬉しいんですけど――約一名は除くとして――非常に心苦しいです。ごめんなさい魂を摂取出来ない未熟な体質で。

 

 

「なんじゃ、せっかく食事にありつけるというのにお主等は食わんのか。若い衆はだらしないのう」

 

「腹空いてんだったら爺さん一人で行って来いよ。別に止めねえから」

 

「じゃ、そうさせてもらうかの……ん?」

 

……? どうしたんでしょう皆さん、急に黙り込んじゃって。

 

「どうやら復活したアルビオンが破壊されたようだな」

 

「え、アルビオンが!?」

 

「興味ないわねあんなモノ。錆の浮いた古い玩具(おもちゃ)じゃない」

 

 

 いやまあ皆さんからしたらそうでしょうけど。でもアレを破壊できる人がこの時代にも居たことの衝撃たるや。

 少なくとも今の私よりは強いですし、魔力が戻るまでは必ず誰かに付いて回ろっと。

 

 

「ク……カーーッハッハッハ!! 愉快愉快!」

 

「何がおかしいのかしら」

 

「まだこの時代にも我ら魔神族に刃向かう者が存在したのじゃぞ? これが喜ばずに居られるか!」

 

 あーあ、ガラン爺様に変なスイッチ入っちゃいました。これから相手する人はご愁傷様ですね。

 

「どーれ行くか」

 

「まさか魔力が底をついた状態で行くつもりなの?」

 

「なーに寝覚めの運動じゃ。それともこの儂がやられるとでも?」

 

 あ、メラスキュラさんが溜め息吐いてる。こうなったガラン爺様は超絶面倒くさいですし、止めるだけ無駄でしょう。

 

「待て、その慢心が〈十戒(おれ達)〉に封印という屈辱を齎したことを忘れたのか」

 

ジジイは物忘れが激しいのでな。それに儂一人が封印されたとてノルンが何とかしてくれるじゃろ」

 

 ええ…そこは私頼みなんですか。まあ仮にそうなったら誰に言われるまでも無く助けますけど。

 結局ゼルドリスさんの説得でも引き止められず、メラスキュラさんに続いて二人目の溜め息が漏れました。

 

「で、どっちにいくつもりっスか」

 

「ん? そうさな~~」

 

「西北西は一瞬だけどアルビオンの倍近い闘級反応があったっス。南の反応は妙で…まるで自分の力がそっくりはね返ったように自滅したんスよ」

 

 

 その発言を訊いて二つの意味で驚きました。破壊されたアルビオンが一体ではなく二体だったこと。しかも別々の場所でとなると、闘級五千を超える猛者が少なくとも二人居たことになります。

 

 そして二つ目。攻撃がはね返って自滅したという現象に、心当たりがあったから。

 

(もしかして、メリオダスさんがっ)

 

 私でも察せられたという事は、ガラン爺様も同じ結論に至ったでしょう。口元を歪め、戦意を昂らせた事からもそれが間違いでないと分かります。

 

「ありがとさん」

 

「待っ――」

 

「決めた」

 

 

ボッ

 

 

 静止の声も虚しく、盛大に土埃を撒き散らしながら跳んで行ってしまいました。復活直後にも関わらず誰よりも活力に溢れる様に、失礼ですが年寄りの朝は早いという言葉が頭を過ります。

 

 

「よろしかったんですか? 正直言ってガランさんでは荷が重いというか」

 

「ああも言って聞かないなら後は知らん。仮に敗れても直ぐには復活させず、反省の期間を設けてからの方が良いだろう」

 

「あ、成る程。どっちみち私は駆り出されるんですね了解しました」

 

 もう! 魔力が貴重だって言ってるのに、どうして皆さん私を頼るんですか! いや嬉しいですけどね? それはそれとしてガラン爺様はいい加減腰を落ち着かせることを覚えてください。

 

「はあ、こんなにも空気は美味しいのに…」

 

 魔力が戻った時を少し憂鬱に思いながらも、味気の無い大気を思い切り吸って雑用する気満々な自分に苦笑を讃えた。

 

 





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