《不殺》は時を廻したい   作:暦月

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 最近スポーツが面白くて執筆の時間が取れない…。贅沢な悩みだなと自分でも思う。



第六話 王都侵攻

 

 その日、キャメロットは再び魔神族による襲撃を受けた。

 

 未だガランの手により多くの人の命が失われ、街も復興の目途が立っていない中での侵攻だった。心身ともに傷が癒えておらず、また前回と異なり七つの大罪の援軍も望めない。

 

 それでもまだ魔神族が一体も王都の中に(・・・・・)侵入(・・)できて(・・・)いない(・・・)という事実が、人々に希望を抱かせた。

 

 

「大したものだ。街一つ覆うだけの結界を張れる人間がこの時代にいたとはな」

 

「フラウドリンさんの話ではこれも七つの大罪とやらの力みたいですね。確か……暴食の罪(ボア・シン)、でしたっけ」

 

「ふん。奴が集めただけあって雑魚ではないようだな」

 

 

 そんな厳戒態勢が敷かれるキャメロットの城門前では、ノルンとゼルドリスが以前より強固になった魔力防御壁を見てそう評していた。

 実際三千年前の戦いでもこれほど広範囲でカバーしながら強度を保った魔法はそう無く、しかもそれがたった一人の魔力で構成されているなど彼らの知る人間族では有り得なかった。

 

 

「しかし惜しいな。肉体も魔力も脆弱な人間族でなければもう少し長く持っただろうに」

 

「ゼルドリスさんって仕事にやりがいとか求める方ですか? だとしたらすみません、もう(・・)消しちゃい(・・・・・)ました(・・・)

 

 

 そう言った時には既に、ノルンの身体は堅牢なはずの結界の“内側”にあった。数秒前まで彼等の行く手の阻んでいた防御壁は、まるで最初から存在していなかったかの如く跡形も残されていない。

 

 

「流石、仕事が早いな。他の連中もこうだと助かるんだが」

 

「お褒めに与り光栄です。まあ今回は相性が良かったという事で」

 

「お前と相性が良い奴なんて皆無だろう。逃げに徹したらオレやメリオダスでもどうしようも無いぞ」

 

「さて、どうでしょうね…」

 

 曖昧に頷き、お茶を濁す。

 

「ふん、まあいい。お前達、道が出来たぞ。無知な人間どもにもう一度魔神族の脅威を教えてやれ」

 

 

 魔神王代理の号令に、下は白色魔神(ホワイト)から上は銅色魔神(カッパー)までがキャメロットの街に侵入する。

 

 国によって異なるが、聖騎士の闘級がおよそ1000~2000なのに対し、灰色(アッシュ)は低い者でも闘級が三千近くある。その上の銅色(カッパー)に至っては更に数値が1000高い。

 これに赤色(レッド)橙色(パーション)まで加われば、質でも数でも劣るキャメロット側の防衛など無きに等しい。瞬く間に街を占拠され、魂を捕食されて出来た抜け殻があちこちに放置される。

 

 

「…あっけないものですね。国が滅びる様は何度か目にしてきましたが、ここまで抵抗らしい抵抗が無いとは」

 

「平穏に過ごしてきたが故の弊害だろう。聖戦時代は誰しもが一度は剣を手に取り自衛の術を身に付けていた。それに伴い人間共にも多少手を焼いたが」

 

「そういうものですか」

 

 無感動に人々が蹂躙されていく様を眺めていたその時、黄土色魔神(オーカー)を前にした一組の親子と、それを盾にする戦闘服姿の男がノルンの視界に映った。

 

「あれは…」

 

「どうした?」

 

 ゼルドリスの投げ掛けには答えず、自然とその方向に足が向けられた。

 

 

「や、やめて! どうかこの子だけはっ、この子だけは!」

 

「うええ~ん! 怖いよお母さ”ぁん!」

 

「そ、そうだ騒げ騒げ! ほら化け物、こっちの方が活きが良いぞ! 狙うならこっちを狙え!」

 

“ヌヒョヒョッ! 面白イナ、オ前エェ~!”

 

 

 会話の外からその様子をジッと眺めていたその時だった。家の瓦礫が崩れ、その下にいた親子二人が下敷きになった。

 誰かが意図したものではない。ただ侵攻の影響で脆くなった外壁が街中から鳴る衝撃に耐えられなかったに過ぎない。

 

 だがその結果として二人の命が失われ、残った一人が思わぬ不運に見舞われた親子を罵倒した。

 

 

「ああァ!? 何死んでんだこの役立たずぅ! 死ぬなら俺の役に立ってから逝けよクソがぁ!」

 

“ヌヒョヒョ~ッ! コレハ傑作ダァ! 魂ガ無事ナラ身体ハドウデモ良イ。面白イモノヲ見セタ褒美ダ、オ前ハ喰ワナイデヤル!”

 

「本当か! いやったぜ助かったァ~!」

 

「何をしているのですか?」

 

“ヒョッ!?”

 

「あァ? 何だこのガキ」

 

 

 聞くに堪えない会話だったため横から割り込むと、魔神の方は明らかに狼狽したのに対し、男はこんな事態にも関わらず平然と話しかけてきた私に不信感を抱いてるようでした。

 

 

“モモ、申シ訳アリマセン! スグ男モ始末シマス!”

 

「何だと!? 話が違うじゃねえか、俺は助けてくれるって」

 

“ウルサイ黙レ!”

 

「黙るのは貴方の方です。この男はまだ私の質問に答えていません。此処はもう良いから別の所を攻めて来なさい」

 

“ハ、ハイィ~~!!”

 

 

 下位魔神の中でも高い知能を有するだけあり、少し語気を強めて命令を下せば足早に去っていきました。

 その背を見届けてから男に向き直ると、一連の流れから私が魔神族(こちら)側だと察したのか大袈裟に身を竦ませます。

 

「ま、待て! いや待ってください! た、魂ならそこに在る。だから俺は見逃してくれ!」

 

「黙りなさい。下手な命乞いに時間を割く気はありません。もう一度言います、一体何をしてたんですか」

 

「何ってそりゃあ…」

 

 

 返答が遅い。鈍いというかぎこちない。そこまでして漸く言葉足らずだった事に思い至ります。

 

 

「見たところ戦士のようですが、武器を持たない同族を盾にしてその得物は飾りかと訊いているんです」

 

「そんなもん当たり前でさ。俺は傭兵であって騎士じゃねえ。生き延びるために他人を使って何が悪い……んですか」

 

「見下げた根性だな。戦いに生きる者として矜持(プライド)が無いのか貴様」

 

 男の主張にゼルドリスさんすら呆れています。あまりの情けなさに食欲も湧かないのか、以降は静観に徹するようです。

 

 

「……少し舌が寂しいですね」

 

「は?」

 

 私は魔神の血が半分しか流れていないため魂を食べても消化できませんが、味の善し悪しは分かります。

 そして丁度ここに彷徨っている魂が二つ。上の瓦礫を退()かし、綺麗な状態になってから手に取ります。ちなみに親子の手は重なる様に握られていました。

 

 

「なっ……建物が修復していって、」

 

「律儀だな。わざわざ魔力まで使用するとは」

 

「気分の問題です。これから口に入れるモノに埃が被っていたのでは食欲も失せてしまいますから」

 

 見た目は何処にでもある普通の魂。では味はどうでしょう。

 

 

「はむ…んぅ……くちゅ、あっふぁ」

 

 

 舌を這わせ、時に甘噛みしながら味と感触を確かめる。

 しかし美味しくない。久しぶりの食事がこれとはツイてませんね。娘の方も舐めてみましたが結果は同じでした。

 

 

「ん。やっぱり不味い。ゼルドリスさんは…要らないですよね」

 

「オレに食いかけを寄越そうとしたのはお前で二人目だ。好きにしろ、それはもうお前のだ」

 

「という事です。ラッキーでしたね貴女達。私も要らないので後は何処へなりとも行ってしまいなさい」

 

 用が済んだので手放すと、二つの魂は一緒になって天高く舞い上がり、そして見えなくなりました。

 

 

「さて、と」

 

「ッ!!?」

 

 視線を再び男の方に戻す。特に威圧したつもりは無いのですが、今度は自分が食われると勘違いした男の表情が恐怖に引き攣ります。

 いや、私も食べませんからね薄汚れた(あなたの)魂なんて。

 

 ドンッ

 

「わっ」

 

「ふん、加速持ちだったか。魔力まで騒がしい奴だ」

 

 どうやら魔力を行使して逃げたみたいですね。最後まで剣を抜こうとしない辺りに彼の人となりを感じます。……ああ、だから魔力が逃走に向いてるんですね。

 

 

「それにしても…戒禁が発動しなかったのはお前の仕業かノルン」

 

「ええ、あんなのでも貴重な魔力持ちですから。下位魔神にとっては御馳走でしょう」

 

 

 彼が魔神王より与えられし戒禁は『敬神』 その効果はゼルドリスに背を向けて逃げた者達を強制的に服従させるというもの。

 

 神とは魔界を統べる魔神王のことを指す。ゼルドリスはその代理人を務めている為、彼の前で逃げるとは即ち神に背を向けるのと等しい。

 本来であれば不敬を働いた時点で意思を持たぬ廃人になることが確定するが、それをノルンが何かしら介入して防いだらしい。

 

 ゆったりとした足取りで男の後を追いかけようと思ったが、その前に断りを入れなければ。私から匿ってくれるようお願いしたのに、一言もなく離れるのは道理に合わない。

 

 

「そうだ。一番奥に見えるあの城で合流するのはどうでしょう。少し寄りたい所もあるので」

 

「良いだろう。その間にオレも食事を済ませておく」

 

「ではまた後で」

 

 軽く挨拶を済ませ、今度こそ男が逃げた方向に歩を進めていった。

 

 

 






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