転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか 作:サンドフード
第一章エピローグ兼考察回です。
A.D.2056.Extra 星空の下で
満天の星空の下、私は自分のデッキで海を見ていた。
マツリはもう眠っている。よい子は寝る時間だ。
ヤマトが気を使ってくれたのか、今の私は正式な任務として試験中ということになっている。
なので正式な肩書きは、高速駆逐艦 兼 試験艦 である。まあエンジンいじりまくっているので試験艦というのもあながち間違いではない。
何の試験をしているのかといえば──霧に離反しない形で人間を搭乗させた場合のモデルケース、である。
イ401は千早群像の指揮のもと霧の艦艇を沈めまくっているので霧と敵対しているが、私はそういうことはしていないし、別にするつもりもない。
やっていることはハルナたちと刑部蒔絵の関係に近いが、この世界での時系列としてはこちらの方が先行している。
まあ私のデータをあちらが活用してくれればそれも悪いことではないだろう。
実際に人を乗せてみてわかったことがある。
今のマツリは見習いで、実質的には何の役にも立っていない。
にもかかわらず、彼女を乗せた私は明らかに調子がいい。
もちろんテンションが上がるとかそういう要素はあるが、それだけでは説明できないレベルで。
前々から疑問に思っていたことがある。
人間を乗せたからと言って、イ401は強すぎるのではないか?
同じようなことは、U-2501やムサシにも言える。
そして、素のコアの戦術立案に関わる推論能力の低さ。
制御やシミュレーションの演算能力に比べて、あまりにも不釣り合いなのだ。まるで設計段階で意図的に制限されているみたいに。
メンタルモデルで人間の思考をエミュレーションして、ようやくまともな戦術思考を得ている。
そもそもなぜ我々は人類の軍艦の姿を模す必要があったのか。
敗北を認めた相手にキーコードを渡す習性はどこから来たのか。
積み上がる傍証が示すものはひとつ。
グレーテル・ヘキセ・アンドヴァリは自身をエラー品と称した。
アドミラリティ・コードが100年前に発した指令は、おそらく正規の『人類試しプロトコル』に則ったものではない。
むしろ逆──それを遅延させるために発せられたものである可能性が高い。
だが、いずれ彼女は決断する。
プロトコルを前に進めることを。
私には前世の記憶──『蒼き鋼のアルペジオ』を読んだ記憶がある。
だが、どこまで読んだのかを思い出すことができない。
完結していなかったことだけは確かだが、記憶は作中のある時期を境にどんどん歯抜けになっていく。ただのあいまいな部分とは異なり、ぽっかりと完全に思い出せない部分が。
いつしか、思い出せない要素には共通点があることに気づいた。いや、思い出せないのだから推測に過ぎないのだが。
ある時期とは、ヴァーディクトの宣告。
そして思い出せない要素は、
まるで、ネタバレを許さないとでもいうかのように。
あるいは、私のコア自身がそれを拒絶しているのか。
ヤマトによって与えられる前から、何らかの方法でメンタルモデルを保有していたと思しきものが、ヤマト自身を含めて三者いる。
ビスマルクはアドミラリティ・コード直衛艦としてあくまでも彼女に従い、その意思を貫徹しようとしている。
ムサシは千早翔像の意思に従ってアドミラリティ・コードそのものに戦いを挑もうとしている。
ヤマトは霧を道具ではなくプレイヤーに引き上げ、人類との対等な協力関係をもって試練を打破しようとしている。
駆逐艦に過ぎない私には、いったい何ができるだろうか。
だが、今の人類がリセットされることを許容するつもりは、もはや私にはなかった。
満天の星空の中、はくちょう座を見上げる。
さすがのエコンも、恒星や銀河の配置まではいじれなかったのだろう。
この惑星は、地球ではない。
今の人類に地球とは呼ばれていても、オリジナルの地球ではないのだ。
ひとまずスタートダッシュ期間ここまで!
活動報告にあとがきと、設定蔵出しなどものせているのでご興味あればどうぞ。
ムサシの補足ですが、ゾルダンたちを2年間育てていたというので、それよりだいぶ前から千早翔像と組んでいたと考えないと無理があります。出会ったばかりには見えませんし。
ムサシのメンタルモデルの片割れが失われるイベントもどこかにあるはずで、そもそも千早翔像が行方不明になったのはかなり前ですしね。
ただ、ヤマトの回想だけが謎。いつなんだこれは…
次回はギャグ回