転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか 作:サンドフード
ハシラジマは、太平洋の赤道直下に位置し、軌道エレベーターの基部として建造された人工島である。
正式名称は「太平洋国際軌道エレベーター地上ステーション」であるが、愛称は最大出資国であった日本の言葉から「ハシラジマ」と名付けられた。
だが、霧の艦隊の編成過程において泊地の必要性が提示された結果、ハシラジマは霧に占拠、改造され、霧の「ハシラジマ泊地」へと変貌を遂げた。
ハシラジマが選定されたのは、アジア圏、アメリカ圏、オーストラリアといった重要地域にアクセスが容易であることと(多少の距離は霧の艦艇にとって問題とならない)、周辺海域の水深が深く大型艦が潜航状態のまま多方向から出入り可能である、といった地理的要因のほか、あくまで人工島であるため地上とは見なされず、占拠してもアドミラリティ・コードの命令を逸脱しないと判断されたことが要因として大きい。
多数の修理及び建造ドック、魚雷等の消耗品の製造施設などが設置され、霧の艦隊にとって重要な母港となっている。
なお、占拠時に人工島内に残留した少数の人間は、脅威にならないとして無視された。
それらが今、重巡チョウカイが管理人を務めるハシラジマの、過去ログに残された歴史である。何分、すべてがメンタルモデルを持つ前の出来事だったので、実感に乏しいというのが正直なところだ。
まだメンタルモデルを持たぬ時期に千早群像の操るイ401に撃沈されたチョウカイは、総旗艦の指示によりメンタルモデルを与えられ、ハシラジマの管理人に任命された。
撃沈
実際のところ、メンタルモデル生成可能な艦のうち、史上初めて撃沈を記録したのはチョウカイである。人間たちが大海戦と呼ぶ戦闘では、被撃沈艦は1隻も出ていない。
総旗艦は、そのことを戒めるために撃沈倶楽部などというものを創設なさったのだろうか?…単なるお遊びという線もなくはないが。
そんなチョウカイの、管理人としての仕事は正直ヒマである。ナノマテリアル製の霧の艦艇は基本メンテナンスを必要としないし、大海戦の折は弾薬の消費などはあったようだが今は静かなものである。
たまに、千早群像らに沈められた艦艇の再建造が行われるぐらいだろうか。今も唯一の仕事として、総旗艦の指示でヒュウガの艦体の再建造を行っている程度である。それとて、ヒュウガのコアは401にキーコードを押さえられてその支配下にあるという情報もあるので、役立つのかは不明だ。
最近、大戦艦のハルナとキリシマが沈められたというので、その再建造もあるかもしれないが、まだ指示は降りてきていない。
ハシラジマを主拠点とする工作艦のアカシとの会話が唯一の暇潰しといったところだ。
あてもなく海を見ていると、一隻の駆逐艦が入港してくる。珍しい。補給か何かだろうか。
見ればメンタルモデルを持っているようだ。駆逐艦でそれは、さらに珍しい。誰かに演算力を借りているのか?
ぼんやり見ていると、未初期化のナノマテリアルを船体に積み込んでいるようだった。
そして、そのまま出港──
「ちょっと待ちなさい、そこのあなた!」
メンタルモデルでその駆逐艦に飛び乗ると、チョウカイは叫んだ。
「おや」
「あなたいったいどういう──」
「あ、チョウカイさん。着任されてからはお初ですね。この姿でははじめまして、駆逐艦『アマツカゼ』と申します」
「あ、これはご丁寧にどうも…じゃありません!なに自然にナノマテリアルを盗み出そうとしているのですか!」
未初期化のナノマテリアルは決して無駄遣いしてよいものではない。無断で持ち出すなど、もってのほかだ。
「いやだなあ、盗むだなんて。私そんなことしたことありませんよ。これを見てください」
そう言ってその駆逐艦は情報コードを渡してくる。それはこのハシラジマのログのものだった。
<< 研究開発用ナノマテリアル 80トン 承認済み >>
た、確かに正規の承認履歴が残っている…
「でも、私は聞いていませんよ。いったい誰が承認を…」
そう言ってチョウカイは署名コードを確認する。
<< ハシラジマ兵装開発部隊 主任試験艦『アマツカゼ』 >>
「あなた、自分で承認してるじゃないですか!」
私、アマツカゼがこのようなことができるのには、もちろんカラクリがある。
実は私はハシラジマ泊地建造の際、工作艦に混じって建造に関わっていたのである。
なにしろ私の建築技術はそれなりのものだ。
特にナノマテリアル節約術では艦隊一といってもいい。浮いた分のナノマテリアルをちょろまか──ゲフンゲフン、それはともかく。
メンタルモデルを持っていない頃の霧の艦艇たちは、理に適ってさえいれば割とすんなり提案が通るので、言いくるめるのは結構ちょろかった。
そうして建造部隊に紛れ込んだ私は、ハシラジマにこっそりいろいろ仕込んだのである。兵装開発部隊の地位もその一つだ。
当時の霧の船たちは兵装開発や性能向上にあまり興味を示さず(なにしろ仮想敵の人類が性能的にはあまりに弱かった)、構成員は私しかいない。
なので自動的に私がトップ、ということになるのだ!
「兵装開発部隊、ということはもしや『タカオ型搭載重力子機関改良プラン』もあなたが…」
「そうですよ。再建造してから、調子いいでしょう?」
そう、名前だけではなく、兼任の片手間とはいえ兵装開発部隊はちゃんと仕事しているのである。
最も得意とするエンジンの改良に始まり、砲の出力向上、クラインフィールドの省力化、自分では持っていないが超重砲の改良など、様々なプランを提出している。
まあハシラジマに登録された各艦艇の船体データに基づく改良であるので、適用されるのは基本的に再建造時になるだろう。
これから増えていく撃沈倶楽部の面々は、各々の事情で概ね人類の味方側に立つことになるし、再建造後に重要な戦いに参加する場面もなかったはずなので、原作への影響もそう考えなくてもいいはずだ。
「くっ、確かに試験航行の際は非常に快調でしたが…」
渦巻眼鏡を直しながらチョウカイは悔しそうに言った。これでわかってくれたことだろう。
「あれ、アマツカゼ、何かトラブル?」
話し声が聞こえたのか、マツリが船室からやってきた。
「ああ、マツリ。こちらハシラジマの管理人をされてるチョウカイさんだよ」
「わわっ、ええと、初めまして。見習いですが、アマツカゼの艦長をさせていただいております如月マツリと申します」
「いえ私の方こそどうぞよろしく…って!
何を考えているのですアマツカゼ!ハシラジマに人間を連れ込むなど!」
チョウカイは再び叫ぶ。だがこちらには印籠があるのだ。この紋所をくらえ!
というわけで、もう一つの情報コードを渡した。
「こ、これは…総旗艦直々の辞令書!?人間を乗艦させる試験!?」
そう言うとチョウカイは沈黙する。そしてギギギとこちらを向いた。
「いいでしょう…今回は負けを認めましょう。しかし次はこうはいかないことを覚えておきなさい!」
そう捨て台詞を残すとバッと艦上から去っていった。…いったい何の勝負だったのだろうか。
ハシラジマに仕込んだものは、他にもある。
取り残された人間たちの生存に役立ちそうな施設をいくつか、中央エリアの近くに作っておいた。
原作では、600名が270名まで減ってしまっていた。
彼らがそれを見つけられるのか。見つけても、使う気になったかはわからない。
それでも、少しでも助けになっている事を祈っていた。
他にも中印主導のインド洋軌道エレベータ、欧米主導の大西洋軌道エレベータがあったが、海上封鎖が先に完成してしまい未成に終わっている、という妄想設定。
ハシラジマの名称についてはノベライズ版と若干設定が異なりますが、コミック版の描写との整合性を優先しています(独自設定はモリモリですが)。
投稿ペースは試行錯誤中ですが、しばらく週末更新みたいな感じでどうだろうかと考えています。