転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか   作:サンドフード

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A.D.2056 空飛ぶ運び屋 香港編

 

 わたし、如月マツリは昔から海の向こうに憧れていました。

 そして、偶然出会った友人にして霧の船、アマツカゼに衝動的に頼み込んで、海に出たのです。

 

 でも、わたしには、あまりにも覚悟が足りていなかったのかもしれません。

 

 お父さん、お母さん、お元気ですか?

 わたしは今、香港マフィアの本拠地の豪華な応接室で、銃を持ったマフィアたちに囲まれています。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「で、あんたらが連絡してきた運び屋ってことでいいのかい?どうやってあの連絡先を知ったか知らねえが、女二人だけで乗り込んでくるとは、いい度胸してるじゃねえか」

 

 向かいのソファに座るのは二人。

 一人は、ものすごい厳めしい顔をした老齢の男性。

 口火を切ったもう一人は、その側近らしきツンツン頭のサングラスの男。

 横にはずらっと、サブマシンガンを構えた黒服の構成員たちが立って並んでいた。

 

「商売の営業しに来ただけのことに、大げさだな」

「海の向こうに荷を届ける。そんな謳い文句の詐欺師はそこいらに溢れてるんでな」

 

 それじゃあひとつ証拠を見せようか、とアマツカゼは言う。なんでそんなにノリノリなの?

 

「私は霧の船だ」

 

 何だと?、と男の表情が変わる。

 

「試しに構えた銃で一発撃ってみれば、わかるさ。反撃はしないから安心してくれ」

 

 言うが早いか、パン、と乾いた音が響く。

 だけど銃弾はどこにも届かず、六角形の青い光に止められていた。

 

 アマツカゼはそれをひょい、と拾い上げると指でピンと弾く。

 ぱし、とそれを受けっとってサングラスの男は言う。

 

「なるほど、本物らしいな。あの『戦艦殺し』が連れ歩いていた奴と同じだ」

「あなた方は、彼らのお得意様だったのだろう?もっとも、最後の仕事(ビズ)では、敵同士だったようだがね」

 

 詳しいじゃねえか、と男は感心した様子で返す。

 アマツカゼは軽く鼻で笑う。

 

「今、蒼き鋼はでかいヤマに掛かりきりで他の仕事を受けられない。だから別の運び屋をお探しじゃないかと思ってね」

「日本の海軍が霧の大戦艦を沈めたってのはこっちでも大騒ぎになってたぜ。…要はあんたらは、あいつらの後釜に座りたいと?」

「いわば商売(がたき)ってやつになるな」

 

 なるほどな、と男は言った。

 

「そういえば、そっちのもう一人のお嬢さんも紹介してもらえるかい?」

「彼女はうちのボスさ」

 

 ここでこっちに振るんだ!?

 

初次见面(はじめまして)、わたしは如月マツリ。()()の艦長をしている者だよ」

 

 今更だけど、私たち二人は落ち着いた黒いドレス姿である。

 チョーカーとイヤーカフスが翻訳機になっていて、自動通訳してくれる。アマツカゼは普通に現地語をペラペラしゃべっている。

 

 正直、冷や汗や震えが止まらなくてもおかしくない状況だけど、アマツカゼによる体調コントロールで完璧に抑制されていた。やっぱ怖いよこれ。

 彼女の雑な演技指導の結果、なんとなく意味深な微笑みをずっと浮かべている。大丈夫?引きつってない?

 

「ほお、若く見えるが、たいしたタマみてえだな」

 

 大丈夫っぽい。と、その時。

 

「…わしは、『老龍(ラオロン)』と呼ばれている者だ」

 

 ずっと黙っていたボスっぽい人が初めて口を開いた。

 サングラスの男がはっと横を向く。

 

「老龍」

「…よい。お前さん達、気に入ったぞ。運びの仕事は任せてやる。詳しい条件はこいつに聞け」

 

 重々しく、老龍と呼ばれた男性はそう言った。

 

「…だそうだ。お眼鏡にかなったようだぞ、喜びな。

 早速だが頼みたい仕事がある。報酬はどうする?」

「蒼き鋼の8割でいいさ」

「案外、欲がないんだな」

「頭数も少ないし、後発なんでね。安い、早いで勝負しているんだよ」

 

 そう言ってアマツカゼは肩をすくめた。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 しばらく後、船に戻って、ほっと一息をつく。

 

「なんで運び屋の仕事の一発目が、香港マフィアなの!?」

「だって401の顧客を調べたらあそこが最大手だったし…まあ上手くいってよかったじゃない」

 

 アマツカゼはすごく軽く言う。まあ霧の船である彼女にとって、全然物理的な脅威ではなかったかもしれないけどさ。

 

「それにしても、すごい堂々としてたね…ああいうの、慣れてるの?」

「ドラマで勉強したからね」

「ドラマなの!?」

 

 思わず叫んだわたしを、誰も責められないはずだ。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 二人が去った応接室で、老龍と呼ばれた男は重々しくつぶやく。

 

「あの二人、めちゃ可愛じゃないか?二人とも孫に欲しいぐらいだな。報酬は倍ぐらい色を付けてやれ」

「老龍…こうなるような気はしていましたが」

 

 老龍が女児に激甘であることは、限られた者しか知らない…

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 それから、さらにしばし後。

 

「まさかヨーロッパにも霧の船を乗り回しているヤツが居たとはな。いや、千早翔像とかいう親玉がいたか?」

「…生活物資の補給に協力してもらい感謝する」

 

 サングラスの男に話しかけられるのは、U-2501の艦長、ゾルダン・スターク。

 蒼き鋼と対立する彼らは、蒼き鋼に協力する重巡タカオの撃沈には成功したものの、401の介入によって補給艦ミルヒクーを失い、物資補給のためにここ香港を訪れていた。

 

「老龍は、あんたも気に入った御様子だ」

「好意にも感謝している」

 

 そこでゾルダンに通信が入る。彼らの親玉──千早翔像から新たな指令が届けられたのだ。

 内容は、大戦艦コンゴウが用いようとしている『旗艦装備』のデータ収集。

 

「…2501出航だ」

<< 了解 >>

 

「出航しなければいけなくなった」

「あんたら『霧使い』は、いつも突然現れて、突然出て行くな」

 

 海を見るサングラスの男は背を向けながら言う。

 

「401も、あの空飛ぶ嬢ちゃんたちもそうだったよ」

「そうか──いや、空飛ぶ嬢ちゃんとはなんだ?」

 

 ゾルダンは思わず振り返った。

 




軽率に巻き込まれるゾルダン

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