転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか   作:サンドフード

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A.D.205X 女教師アマツカゼ

 

 海上を行く影がある。

 それは、輪形陣を組んだ、多数の深海棲艦の艦隊であった。

 青白い肌で人間離れをした、しかし女性のように見える人型と、それと融合したグロテスクな艤装獣。だがその艤装獣はよく知られているものよりも遥かに巨大で、実際の艦艇のごとき大きさのものもあった。

 

 それらはふと、何かに気付いたように周囲の警戒を始める。しばらくして、何体かがはっと上を見上げた。しかしそれは、あまりにも遅すぎた。

 

 空から超音速で降下してきた一隻の駆逐艦が、一体の戦艦ル級を割り砕いた。

 

「戦艦1、撃破! 衝突でクラインフィールド20%損耗」

 

 勢いのまま海没するが、速度を保ちつつ急転換して浮上していく。

 

「潜水艦4、探知。各4ずつ侵蝕魚雷発射! 同時に方位2-8-0の重巡に主砲牽制射!」

 

 浮上と同時に発射される二連装の荷電粒子ビームが、重巡棲姫のクラインフィールドにぶつかり激しい光を放つ。水面下では浸食魚雷の爆発が連続し、潜水カ級の残骸が飛び散った。

 敵襲を認識した艦隊が迎撃行動に移り始め、多数の侵蝕魚雷およびミサイルが放たれる。

 

「最大戦速! 重力子ジャマー展開! 魚雷を振り切りつつ敵駆逐艦に誘導、6秒後に迎撃弾発射および副砲にて迎撃!」

 

 旋回しつつ高速で動き回る駆逐艦に追従できず、誘導された魚雷が同士討ちを発生させる。

 各艦から荷電粒子砲やレーザー砲が放たれ、一発が艦尾を掠めた。

 

「駆逐艦2撃沈! 艦尾ビーム被弾、クラインフィールド損耗率42%に上昇!」

 

 それでもその駆逐艦が足を止めることは無い。不規則な航跡を残しつつ、艦隊に食らいついて離さない。

 

「軽巡に向け主砲及び魚雷斉射! 再装填後、進路0-8-5」

 

 3体の軽巡ト級のうち1体を撃沈、2体は中破にとどまる。だがこれは目くらましだ。

 重巡棲姫は旗艦が影になって有効な攻撃を放つことが出来ない。

 

「目標敵旗艦、吶喊(とっかん)! クラインフィールド前方集中展開! 全火器発射(フルファイア)!」

 

 さらに速度を上げた駆逐艦が戦艦棲姫の側方に突っ込む。激しい衝突音と干渉光とともに、クラインフィールドが突き破られ、巨大な艤装獣に船首が食い込んだ。

 

「侵蝕弾頭4、投下! 全力退避!」

 

 スラスターの逆噴射によって駆逐艦は後退、直後に侵蝕弾頭が起爆する。

 ドギキキキキキ

 轟音とともに戦艦棲姫の艤装獣が崩壊し、沈降を始めた。

 

「クラインフィールド損耗率78%…、敵旗艦、撃破…!」

 

 汗をぬぐい、ふうと息をつく。旗艦を撃破したことで、敵艦隊は動きを止めていた。

 だが、油断した瞬間、けたたましくアラームが鳴り響く。

 

「重力子反応!? どこから…増援が、潜航していた!?」

 

 遠方の海面から新たな戦艦棲姫が現れる。その艤装獣の口内に灯るのは、超重砲の光。

 強力なロックビームに囚われ、割れる海に引きずり込まれていく。

 

「機関全開! ロックビームから脱出を…間に、合わない!」

 

 閃光。

 次の瞬間、アマツカゼの船体は発射された超重力砲の光に飲み込まれた…

 

 

 

 

 

<< SIMULATION OUT >>

 

 

「あー、やられたー」

 

 VRゴーグルを外しながらマツリは嘆息した。シミュレータの画面は被撃沈を示したところで停止している。

 

「勝ちを確信しても、ソナー情報から目を離したら駄目だったね。戦闘詳報をレポートにして三日以内に提出のこと」

「うえー。あと、そういえばこのシミュレータ、敵の見た目がちょっと趣味悪くない?」

 

 私がこんな見た目なので、仮想敵の外観も深海棲艦にしてみたのだが、どうやら不評のようだ。グロすぎだったろうか?

 

「グロテスクなのもあるけど、部分的に人間っぽい見た目なのがちょっと…」

「ああ、そっち? でも…」

 

 何の意味もなく深海棲艦の見た目にしたわけではない。

 

「今は霧の船にもメンタルモデルが乗っているよ」

 

 う、とマツリは言葉に詰まったようだった。

 まず戦うことはないとは思うけれど、人類の艦艇にだって、人が乗っている。

 

「いざというとき、それが理由でためらったりしたら、こっちの命が危ないからね」

「そう、だね…」

 

 そんな機会がなければよいとは思うが、でもそれは備えない理由にはならない。

 私だって、自分とマツリの命の方が大事だった。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 今の私はタイトスーツに厚縁メガネ、手に教鞭を持ったコテコテの女教師スタイルだ。

 デジタルホワイトボードの前に立って、びしりと教鞭を構える。

 

「さあ、次は座学の時間ですよ! それとも学校の方の授業に出る?」

 

 最終学歴が中等部中退ではあんまりなので、中等部はオンラインで出席を続けている。

 公共交通機関の寸断で通学困難な子供も多いため、オンライン授業関係はわりと整っていた。もっとも、ネットワークが生きている地方に限られるが…。もともとは普通に通学していたが、そのへんは権力でごまかしたようだ。

 余談だが、私の艦上はネット回線は普通につながる。なんなら爆速である。

 

 ただ、実は出席の半分以上は私が合成したダミー映像で代理出席している。

 運び屋などの仕事で時間が合わないこともあるし、艦長としてやっていくためには今更中等部の内容をのんびりやっている暇はない。

 なので、中等部の残りの内容は三倍ぐらいに圧縮して、残りは総合学院の教材(ハッキングで入手)を使って先取り授業をしたり、先ほどのようにシミュレータで模擬戦闘をやったりしている。

 

「うう、しんどい…。実は普通に総合学院目指した方が楽だったりした…?」

「そりゃそうでしょ。無学で艦長が務まりますか! 最終目標は、目指せ千早群像超えだからね!」

「ええ、千早さんて学院の総合2位だったっていう話でしょ…? 目標が高すぎるよう」

「つべこべ言わない! さあ授業開始です!」

 

 この格好だと何となくテンションが上がってしまう。あまり自覚はなかったが、私は形から入るタイプなのかもしれない。

 

 マツリは勉強は嫌いだが地頭は悪くないタイプで、まじめに勉強を続けてさえいれば総合学院の合格も叶っただろう。前提条件の部分がいささか怪しいけれど…。

 だが私に乗ったからには、勉強をサボることなどお許ししない。

 ナノマテリアルによる体調コントロールで、授業中は常に頭スッキリである。眠気のネの字もやってこない。

 

「うへええ」

「そこ、情けない声を出さない!」

 

 さあ、授業は始まったばかりだ。

 




次回、保護者面談

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