転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか 作:サンドフード
艦体は無事完成し、かなり思い通りに動かせるようになった。
ただ人類との接触が怖く、まだ海上には出ていない。第二次世界大戦直後なので、原始的なレーダーはもうあるはずだ。それに他の船に目撃でもされようものなら、幽霊船騒ぎ待ったなしである。
さすがに傷つけられる心配はしていないが、後世にどんな影響が出るかわからない。
なので主なやることは海中散歩だ。水温躍層などは容易に検知・マッピングできるので、発生する音が遠方に伝わらないよう一応気を使っている。まあこの時代のソナー技術ではそうそう捉えられないと思うけどね。趣味は深海魚ウォッチングです。
とりあえず、そのうち電波ステルス実装して夜間にでも海上にも出てみようと思っているが、それは主題ではない。
実は、やりたいことが一つ見つかったのだ。
霧の艦艇は演算力が戦闘力に直結している。
人類の艦艇と霧の艦艇を隔絶させる主要な三要素として、ナノマテリアルの制御、重力子機関の制御、クラインフィールドの制御それぞれに膨大な演算が必要となるためだ。
エンジンや超重力砲は前者二つが連動するため特に演算負荷が高い。
ナノマテリアルは構造をロックすることで演算負荷を大幅にカットすることができるが、能動的な構造制御は不可能になるし、活性ナノマテリアルに戻すこともできなくなる。
魚雷のような使い捨て兵装はこの手法で構築されていて、浸食弾頭のタナトニウム反応を隠蔽できないのもこれが理由だ。
ロックしていなくとも、構造化したナノマテリアルを純粋なナノマテリアルに戻すにはロスが生じる。そのため、無制限に再構築を繰り返すことはできない。
特に、外力でシミュレーションを逸脱──ようは破壊された場合には、回収はほとんどできなくなる。
このへんの回収率にも演算力が関わっていて、演算力が高いほど船体の修復などもスムーズに行えるということになる。
コアの演算力の最上位には、デルタ・コアが位置づけられる。総旗艦資格艦種にも採用されていて、作中ではメンタルモデル二体持ちなのが分かりやすい特徴だ。超重砲を打ち放題だったり、ミラーリング・システムみたいな超兵装を使いこなす雲の上の存在だ。
デルタ・コア以外のコア種別は名称がよくわからない。霧のくせに、と思われるかもしれないが、駆逐艦の情報アクセスレベルが低すぎて霧のことがろくにわからないのである!共同戦術ネットワークもまだないし…
とはいえ、おおむね艦級と演算力は比例すると思われるので、次級は大戦艦クラスが該当するだろう。コンゴウ級とかそのへんである。艦隊旗艦資格が与えられるのもここからになる。
その次に、重巡、軽巡、駆逐艦と続き、その下に艦でなく艇とつくクラスがあるようだ。潜水艦は作中描写から、イ400シリーズのような大型艦が重巡クラス、小型潜水艦が軽巡もしくは駆逐艦クラスに相当すると思われる。
で、私は駆逐艦である。
超重力砲はもちろん非搭載だし、主砲は12.7センチ荷電粒子砲にすぎない。人類相手ならこれでも十分すぎるが、霧相手では豆鉄砲もいいところだろう。
霧相手に通じそうなのは浸食弾頭魚雷ぐらいだが、搭載量は上位艦種と比べればかなり少ない。重力子エンジン出力も艦体サイズに見合ったしょっぱいものだ。
クラインフィールドはかろうじて有る。(魚雷艇クラスとかじゃなくてまだよかったよホント)
そして何より、このままではメンタルモデルを構築することができない。
いや、やっぱ欲しいよメンタルモデル。
原作でも上位艦種から演算力を借り受けて駆逐艦がメンタルモデルを構築する例はあり、ユキカゼやヴァンパイアがそれにあたる。U-2501も元になったコアは駆逐艦クラスのものらしいが、こいつはカラクリがよくわからないのでとりあえず保留。ムサシと関係してそうだけど。
重巡クラス(正確には巡洋戦艦)のレパルスがヴァンパイアに演算力を貸し与えた際は、演算力の24.5823% を用いてヴァンパイアのメンタルモデル構築を可能としていた。一方、超戦艦であるヤマトは2%でそれを実現している。ここから、メンタルモデル構築に必要となる演算力を仮に1とすると、重巡クラスコアの演算力は4、超戦艦クラスコアの演算力は50以上と推定できる。ヤマト式ヴァンパイアのほうが性能が良かったことを考えるともうちょっと上の──2進数で切りよく64ぐらいだろうか。
駆逐艦クラスの演算力については正確な推定の材料はないが、間に軽巡が挟まることを考えた憶測として、軽巡が2、駆逐艦が1といったところではないだろうか。
なので、自前でメンタルモデルを持つには何らかの方法で演算力を2倍以上に引き上げなくてはならない、ということになる。
自分自身を改造する、というのはまず不可能だろう。手のひらサイズで超演算能力を発揮するコアは、作中の超技術の中でもとびきりのもので、おそらくエコンと呼ばれるなにがしかと密接に関わっている。
とうてい、いち駆逐艦に手を出せるものではない。
上位艦種から演算力を借りる、というのも一つの手ではある。だが、デルタ・コア連中は腹に一物ありそうなやつばかりで、とても素直にハイ貸します、となるとは思えない。大戦艦も曲者揃いで大差ない。
向こうの都合で貸し与えることはあっても、こっちの都合で借り受けることはまず無理だろう。
いっそ艦体を捨ててメンタルモデル制御に全振りすれば駆逐艦コアそのままでもメンタルモデルを持てるかもしれない。
だがそれは、戦闘能力のほとんどを捨て去ることを意味する。たいそう不穏な原作情勢を考えると、それはあまりにも将来が不安である。
となると残るのは、演算コプロセッサを外付けする方法だ。量子リンクすればラグなしで演算力のやり取りができることは作中でも示されている。
休眠中のほかの駆逐艦コアに夜這いをかけて接収し、強引にコプロセッサにする、というのもチラっと考えたが、ヴァンパイアのように駆逐艦にも個性が芽生えていくことを考えるとさすがにちょっと気が引ける。将来、反逆とみなされて粛清されかねないし。
ナノマテリアルで演算器を構築する、というのも罠である。ナノマテリアル製演算器で高速演算を行おうとすると、演算を行わせるためにナノマテリアルの精密制御を行う必要があり、結局、演算力の収支ではマイナスになってしまうのだ。
しかし、それを解決する手段を一つ思いついている。実は、やろうとしていることは、ヒュウガの真似事である。
すなわち──ナノマテリアルを使った演算器がダメなら、ナノマテリアルを使わずに演算器を作成すればよくね?作戦だ。
無謀に思われるかもしれないが、重力子機関のような謎の超技術と違って、演算器はサイズさえ無視すれば人類の到達可能な技術の延長線上にある。
必要なスペックも、人体の37兆個の細胞のリアルタイムシミュレーションが行えるぐらい、と考えれば、まあ難しくはあっても、絶対に不可能といえるレベルではない。
さらに、演算器そのものにはナノマテリアルが使えなくとも、その製造装置やエネルギー源にはナノマテリアルというインチキを使うことができるのだ。
なので、まずはナノマテリアルで設計開発、製造装置を作成し、その後ナノマテリアル不使用演算器を大量生産・並列化、そして量子リンクすることでメンタルモデルを持てるぐらいの演算力を手に入れる。それが私の計画だ。
すんなりとはいかないだろうが、原作開始まで実に100年もの時間があるのだ。時間分解能の高いユニオンコアにとって、それは無限ともいえる長い時間である。
よし、いっちょ、やったりますか!
次回予告:
A.D.2056 Depth:015 Re-Enacted
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