転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか   作:サンドフード

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A.D.2056 ユキカゼのお使い(上)

 

「ねえねえ、イ401がコンゴウ艦隊と戦うみたいなんだけど、観戦しに行く?」

「行く!」

 

 私が問いかけると、我が見習い艦長──如月マツリは勢いよく答えた。

 

 マツリは千早群像のファンガールだ。まあ実際、あこがれるのもわからなくはない。経歴見ても、どこの主人公だよって感じだし(主人公だよ!)、顔もいいしね。

 響真瑠璃のごとくガチ恋勢じゃないのだけが救いだ。もしそうなっていたら私が401を沈めていたかもしれない。

 

 もともと、この戦いは監視しようと思っていた。物語にとって非常に重要な一戦だ。

 ただ、直接401に近づくのは危険が大きい。気づかれるのもそうだし、戦闘にも巻き込まれるかもしれない。

 ──となると、ターゲットは、あれか。

 

 さて、そうと決まれば色々な準備をしなければ。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「『ユキカゼ』!」

 

 主たる、超戦艦ヤマトより呼びかけられる。

 

「我らが演算力の2%をお前に貸し与えます。私と量子リンクし使用しなさい。

 それで『メンタルモデル』を構成させることが出来るはずです」

 

 チ チ チ チ

 

 そう命じられ、メンタルモデルを構築していく。

 コマンドの集合体でしかなかった思考が『意思』と呼ばれるものに収束される。

 光学画像が『光景』になり、センサーデータでしかなかった気温、風向、風速が肌で感じる『風』になる。

 

 これがメンタルモデルなのか。

 

「現在、東洋方面第一巡航艦隊旗艦『コンゴウ』はその哨戒圏内で『401』への攻撃作戦を展開中です。しかし、その中『401』艦長千早群像は大戦艦ヒュウガのメンタルモデルと共に同艦より姿を消しました。

 あなたには彼の捜索を命じます」

 

 総旗艦は続ける。

 

「本来ならこれは我が手足となる『400』、『402』に与えるべき任務ですが、彼女たちは共に別任務を遂行中のため動きがとれません。ですので優秀駆逐艦たるあなたに命じます。

 あなたがあなたの判断でこのヤマトのためとなる事を行いなさい。そのために我らが演算力と共に『メンタルモデル』を与えましょう」

 

 総旗艦に頼られることに、大いなる喜びを感じる。

 これもメンタルモデルを得る前は自覚できなかったことだ。

 

「承知いたしました。総旗艦艦隊(フラッグフリート)、第二水雷戦隊所属『ユキカゼ』。総旗艦の命により千早群像の捜索を行います」

 

 恭しく礼をして総旗艦の指令を拝命する。

 

「貴艦の行動はけして他艦には気取られぬよう。ああ、それと──」

 

「捜索中に、現在別行動中の駆逐艦『アマツカゼ』と遭遇する可能性があります。その際は協力を求めてみなさい」

 

 アマツカゼの名にピクリと表情が変わりそうになるが、どうにか隠し通す。

 

「承知いたしました、総旗艦」

 

 そうして私は出航した。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 ユキカゼは僚艦にして姉妹艦たるアマツカゼのことを、嫌うとまではいかないにせよ、あまり好ましく思ってはいなかった。

 

 ユキカゼが優良駆逐艦とするなら、あちらはいわば不良駆逐艦。

 真面目に任務もこなさず勝手なことばかりして、最近では人間を乗せるなどと言い出して総旗艦のお手を煩わせている。

 にもかかわらず、やけにヤマト様に気に入られていて、勝手にふるまうことを許されている。

 

 ユキカゼにはそれが気に入らなかった。

 もう少し長い間メンタルモデルを形成する機会があれば、その感情にも名前を付けられただろうか。

 

 そんなアマツカゼに捜索中に遭遇するとは、どういうことだろうか。ましてや協力を求めるとは。

 

 いけない、自分で考えなければ。

 そのために、総旗艦はメンタルモデルを与えてくださったのだから。

 

 暗い海中を、当てもなく捜索していく。

 どのようにすれば、千早群像を探し当てられるだろうか。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 その頃、オプション艦『マツシマ』の艦内で、千早群像はヒュウガと二人きりで会話をしていた。

 

「──では、一時間後、このポイントでエンジン始動。坊ノ岬沖へ……私があなた達に、撃沈された海域」

「我々にとっても、全てが変わった場所だ」

「変わった?」

 

 変わった、と言ってよいのか。ある意味では、真逆だ。

 

「オレ達は……オレは、何も変わらないことに、失望したんだ」

 

「…あなたとそんな話をするのは初めてね」

「そうだな」

 

 ヒュウガは頬杖をついて訊ねる。

 

「てっきり私を沈めたあなた達は、有頂天になっていると思っていたわ」

「なっていたよ。オレ達は信じていたんだ。霧の船を撃沈すれば…して見せれば世界は変わる、と」

 

 駆逐艦から始まり、軽巡、重巡、潜水艦、そして最後には、大戦艦…

 

「それでも、何も変わらなかった。世界に、風穴は開かなかった」

 

 少し考え込みながら、ヒュウガは指を立てて聞く。

 

「そんな話、どこかで聞いたような気がするわね」

「……ああ、謎の海底施設の、『管理人』か。あれはいったい、何だったんだろうな」

 

 話すべきか少し迷った様子の後、ヒュウガは言う。

 

「…実はあの時、私は拘束具をすりぬけて、情報アクセスできていたのよ」

 

 私がその気になれば姉様の船体の一部を乗っ取ってあなたたちを攻撃もできたわ、危なかったわね、とヒュウガは言った。

 

「で、あの時、『管理人』の防壁もすり抜けて、気づかれないよう情報を抜いていたの」

 

 わざわざ教えるほどの信頼関係はまだなかったから、黙っていたけど…とヒュウガは続ける。

 

「情報は断片的で、ほとんどは意味の分からないものだったけれど、彼女の正体はわかっているわ。

 駆逐艦『アマツカゼ』──大海戦で人間を救助していた、変わり者の駆逐艦よ」

 

 そして、断片的な情報からわかることもある、とヒュウガは言う。

 

「彼女はどうしてか、アドミラリティ・コードが今も存在し、未来に姿を現すことを確信していた」

「『アマツカゼ』……救助……アドミラリティ・コード」

 

 思わぬ情報に、群像は混乱しているようだった。

 

 その後、霧のコアの再起動の話、第四施設の話となり、いったん会話は終わった。

 

 

 だが、ヒュウガがあえて伝えなかったこともある。

 海底施設で読み取った断片的な情報の一つ。

 それは、未来の光景だった。単なるシミュレーション結果なのか、それ以上の何かなのか。

 マツシマの設計中、自分の作ろうとしている船がその光景に映り込んでいたことに気づいて驚愕した。

 

 それは、この『マツシマ』ごと千早群像が沈められる光景だった。

 

「…気を付けてね、艦長」

 

 彼女はそれを伝えなかった。伝えたら、現実になってしまうような気がして。

 

 




ユキカゼ、何気に好きなキャラです。
次話は少々長め。

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