転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか   作:サンドフード

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A.D.2056 ユキカゼのお使い(中)

 

 最後にイ401が確認された硫黄島周辺の海域で、ユキカゼは手がかりの捜索を行っていた。

 今のところ、あまり成果は上がっていない。

 だがその時、ユキカゼのセンサーに引っかかるものがあった。それは通常弾頭魚雷の炸裂音。しかもおそらく、霧製のもの。

 発射元を探ると、ちょうどそれはユキカゼの近くを通りがかるところだった。

 

「あれは…『ヴァンパイア』」

 

 海底で見つけたのは、同じ霧の駆逐艦。だが、所属は異なる。

 

「『東洋艦隊』の駆逐艦が…なぜ」

 

 それは彼女たちの通常の哨戒ルーチンからは大きく外れた行動だった。駆逐艦が潜航すること自体、隠密行動以外ではまずないことだ。

 これは何かあるなと察したユキカゼは、ヴァンパイアを追跡することにした。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 しばらく後、ヴァンパイアは大きな未知の艦艇と合流し、ドッキングしようとしているようだった。

 

「あれは…人類の潜水艦のようね。ヴァンパイアがどうして…?」

 

 その大きな潜水艦には、もう一隻、知らない艦艇がすでにドッキングしていた。

 センサーをフル稼働させ、それらの内部をスキャンしていく。

 

「! …見つけた、千早群像」

 

 偶然ではあるが、総旗艦に命じられた第一目標は達成できた。

 観察を続けたいが、これ以上近づくと発見される恐れがある。身を隠せそうな海底地形を見つけ、そこに進入していく。

 

 だが、そこにはなんと先客がいた。

 

「やあ、ユキカゼ。ちょっとこっちに詰めようか?」

 

 半信半疑だった。だが。

 

「……! まさか、本当にいるなんて」

 

 そこにいたのは、僚艦にして姉妹艦。

 

「……『アマツカゼ』」

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「へえ、総旗艦がそんなことをね」

 

 ユキカゼが簡単に事情を説明すると、アマツカゼは軽い感じでそう言った。

 

「あなたはどうやってここへ?」

「ああ、ユキカゼはヴァンパイアを見つけて追ってきた感じ?私はあっちを追ってきたんだよ」

 

 そうアマツカゼが指し示すのは白い人類の潜水艦。

 

「人類の潜水艦にしてはなかなかの静粛性のようだけれど…まさかずっと追跡していたのですか?」

「それこそまさかだよ…そうだね、ちょうどマツリにこれまでの振り返りを解説するところだったから、ユキカゼも一緒にレクチャー受けてみる?」

 

 マツリ?と疑問に思っていると通信があった。

 

<< はじめまして、ユキカゼさん。アマツカゼに乗艦させていただいているマツリといいます >>

 

 そうか、アマツカゼは人間を乗せているのだった。

 姿が見えないが、よく考えれば海中だから人間は船室からは出てこられないのか。当たり前のことでも、実際その場面になるとなかなか気づけないものだ、とユキカゼは自戒する。

 

<< あの、ところで、 他のメンタルモデルの方に出会ったら聞いてみたいことがあったんですけど、よろしいですか? >>

 

 何でしょう?とユキカゼは返す。人間が聞きたいことというのにすぐには思い至らなかった。霧の艦隊に関することだろうか。だがそれならアマツカゼに聞けばよい。

 

<< アマツカゼって、霧の船の中でも、そうとう変わってますよね? >>

「はい」

 

 ユキカゼは勢いよく答えた。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 …じゃあまずはユキカゼ向けに、あの人類の潜水艦『白鯨』をどうやって追跡したか話そうか。

 最近は人類もオープンなネットワークの情報がすべて我々に抜かれていることに気づいて、重要な機密情報はクローズドな環境にしか入れないようになってきている。なので、潜水艦の出航予定なんかは直接的には知ることはできない。

 ただ、物資の流れや人の流れをオープンなネットワークから完全に隠すのは、ほぼ無理なんだよね。私はそのへんをずっとモニタしてて、白鯨の推定出港日を割り出した。

 あとは横須賀沖で待ち伏せして、こっそりと近づいて取り付けたんだよ。

 

 そう、量子ビーコンをね。

 

 霧の船だったらすぐに気づかれるだろうけど、あれは人類の船だからまず気づけない。

 スクランブルはかけてあるし、私以外の霧の船を検知したら発振を止めるようになっているから、401や他の艦艇にも気づかれてはいないはず。

 そんなわけで、私はいつでもあの潜水艦の位置情報を知ることができたというわけ。

 

 

 で、次はなんでこのタイミングで追跡してたかってことになるね。

 これについては、先般行われた『硫黄島戦役』から振り返らないといけない。名前は私が勝手に呼んでいるだけだけど。

 

 この戦いは、実に5つの勢力の思惑が入り乱れた複雑なものだった。

 まず、401とその艦長、千早群像らの一派。

 次に、コンゴウ率いる第一巡航艦隊。

 そして、千早群像の手による振動弾頭輸送に反対する人類の一派。

 さらには、私達も所属する総旗艦艦隊(フラッグフリート)。もっともこれは402の単独といった感じだね。ユキカゼもあまり事情を知らないでしょう?

 最後に、謎の第五勢力。これがなぜ別勢力と判断したかは、後でまた説明するよ。

 

 この戦いにおける私の知り得る大きなイベントを時系列順にピックアップしたのがこれになる。[戦]は共同戦術ネットワークから、[人]は人類のネットワークや通信の傍聴から、[ア]は私自身のセンサーやらビーコンから得た情報になるね。

 

 

艦隊を出奔したタカオ、函館にてイ400、402と遭遇、千早群像を待つと言い残して出航

横須賀港海戦後、401はドックには入らず硫黄島拠点に帰還

第一巡航艦隊が東京-硫黄島間の海上封鎖を解除

横須賀より『白鯨』が出航

陸軍が硫黄島を襲撃、401を奪取

白鯨が硫黄島近海に停泊

ビーコン停止:白鯨と401がドッキングと推定

横須賀沖から重巡クラスの超重砲の重力子反応を検知:波形からタカオと推定

横須賀沖から正体不明の強力な時空間衝撃波発生

硫黄島近海から戦艦クラス以上の強力な超重砲の重力子反応を検知:波形からヒュウガ、現401と推定

陸軍の手により横須賀に401入港、ただしその後、整備や解析の兆候なし

イ402がタカオのコアを回収したと報告

 

 

 意図が最もわかりやすいのは、コンゴウが旗艦を務める第一巡航艦隊だね。海上封鎖に意図的に穴をあけることで、人類内部の政治的対立を利用し、人間の軍を401にぶつけることを試みた。これまでの霧ではありえない、面白い試みだよね。

 

 そして輸送計画反対派はコンゴウの策に乗って、陸軍を硫黄島に送り込み401を奪取しようとした。ただ、結局彼らはダミーをつかまされたと考えられる。何しろ本物の401は、元気に超重砲をぶっ放しているわけだし。

 

 千早群像一派の動きが最も複雑だ。まず、これまでの動きから、401に敗れたヒュウガおよびタカオは、彼らに下っているものと思われる。そして、白鯨を含んだ人類の輸送計画推進派も、この一派に含めて考えていいかな。

 彼らの当初の計画は、コンゴウの作戦に対するカウンターとして、次のようなものだったと考えられる。

 まず、陸軍の襲撃に対しては、ダミーの401を奪取させる。このダミーのコントロールを請け負ったのは、たぶんタカオだね。それで本物の401は、陸軍の動きに紛れて硫黄島近海まで移動させておいた白鯨と、ランデブーする。このことはいずれバレるけど、そうなると逆にどちらが振動弾頭を持っているか人類にも霧にもわからなくなる。

 そしてダミーが輸送されている間、コンゴウは自分の作戦が成功したのか失敗したのか確証が持てず、積極的な動きは取りづらくなる。その隙に白鯨をエスコートしつつ、巡航艦隊の警戒区域を抜け、北米艦隊の警戒区域まで突入する、という作戦だ。

 

 ただこの作戦は、謎の第五勢力の介入によって阻まれることになる。タカオが襲撃されたんだ。

 この勢力の目的ははっきりしないけど、単純にタカオを撃沈したかっただけかもしれない。

 これを別勢力とカウントする根拠だけど、まずタカオを引き入れた千早群像一派ではありえない。また、人類は霧の重巡を撃沈する手段を持っていないのでこれも除外される。

 巡航艦隊は、二つの理由で否定できる。一つは、共同戦術ネットワークに何の情報も上がっていないこと。巡航艦隊が裏切り者を処分したというのなら、堂々とそう戦術ネットワークに報告されるはず。もう一つは、謎の衝撃波の存在。タカオの超重砲の直後だったことから、超重砲に対するカウンター兵器ではないかと推測されるけど、巡航艦隊の誰もそんなものは装備していないはずだ。

 

 402が謎の秘密兵器を使ってタカオを撃沈したという可能性もゼロじゃないけど、諜報艦である彼女がそんな派手で好戦的なことをする理由もないし、ほぼ可能性はないといっていい。

 むしろ彼女は、タカオに協力している節さえある。それは、タカオの撃沈後もダミー401がコントロールを失っていない点だ。内部まで再現した精密なダミーの制御は超重砲と両立は難しいと思われるので、直後に超重砲を撃っている401本体が引き継いだという線もない。そうなると、登場人物でダミーのコントロールを引き継げそうなのは彼女しかいない。

 402の目的は推理の材料が少なすぎるのであまり深堀りはしないけど、彼女の立場から言って、総旗艦の密命で何かしら動いていたのでは、とは思うよね。ちょうど今のユキカゼみたいにさ。

 

 で、話を戻すけど、謎の勢力の介入を受けてタカオの危機を察した千早群像らは、助け船を出すために新型の超重砲を使用した。

 ここがポイントだと思うんだよね。

 

 401が振動弾頭を輸送しているのであれば、ここで超重砲を撃つのはありえないと言っていい。にもかかわらず、彼らは撃った。

 つまり、撃って目立っても構わないという何らかの理由があったんじゃないかと推測されるんだよ。

 

 ──要するに、輸送の本命は実は『白鯨』の方で、401は囮に徹すると考えると、撃ったことに整合性が取れるんじゃないかというわけだね。

 

 さらに想像力を働かせてみると。

 この時点では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃないか、とも思われるんだ。

 

 401が横須賀を出る際は、ハルナとキリシマの襲撃があって、のんびり積み込みを行う時間はなかったようだし、そうなると白鯨が振動弾頭を運び出す本命に見える。

 ただこれ、輸送計画反対派も同じことを考えると思うんだよね。はたして厳重な監視の中、本当に白鯨に振動弾頭を積み込めたのか。

 

 もしかしたら、あからさまなダミーに見えるような、地方に送られた振動弾頭が実は本命で、()()()()()()()()()()()()()()()()()で白鯨まで届けられるんじゃないか。

 たとえばあそこでドッキングしているオプション艦みたいなね。

 そんな風に想像したのさ。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 アマツカゼの長い解説が終わった。

 たいへん不本意ではあるが、非常に参考になった。特に人類のネットワークを使った間接的な情報の取得方法などは応用できる場面も多いだろう。

 推論には多少飛躍があるようにも思えるが、実際こうして千早群像と白鯨の合流を的中させている以上、強くは言えない。

 

 この僚艦は、いったいどうやってこれほどの経験値を積んだのだろうか?

 

「そういえば、401とコンゴウ艦隊はすでに一当たりしてるようだけど、戦況は把握してる?」

「いえ、戦闘音らしきものは探知しましたが詳細までは…戦術ネットワークにも情報は上がっていませんし」

 

 てっきり戦況の情報を求めてそう聞いてきたのかと思ったが、そうではないようだ。私がどこまで把握しているか確かめたかっただけなのだろう。なにせ、向こうから状況を教えてきた。

 

「最初にアシガラが強襲をかけたけど401は逃げおおせて、その後ナチをカバーしたハグロと、コンゴウをカバーしたアシガラが撃沈されてる。コンゴウは旗艦装備の展開中で動けないみたいだね」

「……随分と詳しいですね。我々駆逐艦のセンサーで、この位置からそこまで詳細に戦場の把握はできないはずですが。今度はどんな手を使ったんです?」

 

 艦体規模の問題があるので、単にセンサーを増強しただけでは説明がつかない。潜水艦に取り付けたビーコンのように、また何かインチキな方法を用いているのだろうと予想はついた。

 

「ああ、予想交戦海域の海底に、事前に広く大量のソナーアレイをバラ撒いておいたんだ。アクセスコードいる? 廉価なバッテリー式だからあと一週間ぐらいしかもたないけど」

 

 どうやって交戦海域を予想したのかなど気になることはまだあったが、キリがなさそうなので聞くのはやめておいた。

 我々は万能性が高いがゆえに、自己の能力の範囲内で事態の対処にあたろうとする傾向が強く、別の道具を使うという発想に欠けがちだ。そういう意味でも彼女の発想や思考ルーチンは参考になる。

 とりあえずアクセスコードはもらっておいた。これで戦場の状況がかなり細かく把握できる。

 

「おっと、そんなこと言ってる間に、動きがあるみたいだよ」

 

 ドッキングしていたオプション艦が分離し、千早群像とヒュウガを乗せて出発しようとしているようだった。

 私とアマツカゼは、ひとまず彼らを追跡することにした。

 




アマツカゼ「原作知識で全部知ってたなんて言えねえ」

実は実際にいつどこで振動弾頭を運び出したかについて、原作には全く描写がないのですよね。(見落としているだけだったらすみません)
・Depth017の振動弾頭を持っていない発言
・Depth082の回想で振動弾頭の資料を持っている描写
どちらも正しいとすると、横須賀では目立ちにくい資料だけを先に受け取っていたのかなと。
その後、仮に現物を白鯨が運び出していたのなら、白鯨→401→マツシマ→白鯨という積み替えにまるで意味が見いだせないのです。(401と白鯨以外誰も知らないので、ブラフにもならない。そのまま白鯨に積んでおけばいい)

なので筆者は、マツシマが坊ノ岬沖でヒュウガの残骸を回収していたのは、南管区あたりに振動弾頭の実物を受け取りに行ったついで、という説を提唱しています。

次話は9/30(土) 18:00更新予定
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