転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか 作:サンドフード
私、ユキカゼとアマツカゼは、引き続き千早群像の乗るオプション艦を追跡していた。
途中、ヒュウガが離脱し戦闘海域に向かったのを確認しており、被弾したイ401の支援に向かったものと思われた。
逆に千早群像はどんどん戦闘海域から離れて行っており、その目的地はわからない。
潮流を利用し乗り換えながら無音で進む移動法など、それだけでも学ぶべきことが多く得られている。
あちらのセンサー系はそこまで充実しているわけではないようで、幸い気づかれた様子もなく追跡できていた。
「そういえば、アマツカゼ。あなたはなぜメンタルモデルを形成できているのですか? どなたかに演算力を借りている様子でもないのに」
今更な疑問ではあったが、私は彼女に聞いてみた。
「あー、総旗艦にはお伝えしてあるから、気になるなら聞いてみたら? 必要であれば、教えてくださるでしょう」
いやらしい答え方だ。総旗艦のお名前を出されては、それ以上追及することもできない。
と、その時、戦場で動きがあった。この距離であれば、自身のセンサーでも探知できる。
「ヒュウガとヒエイがぶつかったようですね…ヒエイの艦体は健在なようだけれど、コアの応答がない。メンタルモデルを破壊されたのかしら…」
しばらく考え込んでいると、アマツカゼから声をかけられる。
「ユキカゼ、ここで別れようか?」
彼女は唐突に、そう提案してきた。
「千早群像の方は私が見ているからさ。データは送るし、総旗艦に転送してもらってもいいよ」
なぜ急にそんなことを言いだしたのか。戸惑っていると、彼女は理由を告げた。
「ヒュウガとヒエイのコアを、回収したいんでしょう?」
……この姉妹艦は、どこまで私のことを見透かしているというのか。
だが、渡りに船の話ではあった。
結局、私はその提案を受諾し、ヒュウガとヒエイの推定撃沈地点に向かっていった。
「総旗艦、少々よろしいでしょうか」
<< どうしました? ユキカゼ >>
「いささか勝手をしました。ヒュウガとヒエイのコアをこちらで回収したいのですが、よろしいでしょうか?」
<< なるほど、面白い考えです。よいでしょう、ユキカゼ、あなたの裁量に任せます。その二人のコアを持ち帰ることを新たな任務としましょう >>
「ありがとうございます」
<< であればひとつ、アドバイスを >>
「アドバイスですか?」
<< コンゴウは今、旗艦装備を用いてイセを建艦し、召喚しようとしています。もしヒュウガがごねるようなら、それを伝えるとよろしいでしょう >>
「なるほど、助言感謝いたします」
<< よい報告を期待していますよ、ユキカゼ >>
ユキカゼと別れ、メンタルモデルをブリッジに戻す。
おかえり、と言われ、ただいま、と返す。さて、戦況のモニタリングに集中しようか。
と、その前にふと思いついたことを聞いてみることにした。
「そういえば、さっきの『硫黄島戦役』の話、実はコンゴウには必勝法があったんだけど、気づいてた?」
「必勝法? そんなのがあるの?」
まあ人間のスケール感だと、そうそう思い至らないのも無理はない。
「簡単だよ。硫黄島を監視して、401の入島が確認された時点で艦隊で包囲する。そしたら、ありったけの超重砲と侵食弾頭を撃ち込んで、島を物理的に消してしまえばいい」
霧の艦隊には、それができる力がある、と私は告げた。
マツリは絶句しているようだった。
「…そんなことができるなら、なんでやらなかったんだろう?」
「単純に思いつかなかったか…それか、コンゴウの趣味じゃなかったんだろうね」
「趣味じゃないって…そんなのでいいんだ」
「まあメンタルモデルって、そういうとこがあるよ」
コンゴウはああ見えて、こだわりは強い方だ。
だから旗艦装備なんてものまで持ち出して、千早群像に戦術面で勝負を挑み、そして勝とうとしている。
もっとも、私の言った案はあくまで机上の空論だ。実現性は低い。なぜなら──
「実際にやろうとしたら、ヤマトが止めていたと思うけどね」
あるいは、より上位の存在が。
「あ、動いた! 千早さんのオプション艦が、別のオプション艦2隻と合流開始。コンゴウと随伴艦も呼応して移動開始。方向は、オプション艦の方かな? ん、401も移動開始。方位2-7-0」
しばらく静かだった戦場が、にわかに動き出す。
「イセが進路変更して、401の方向へ。401が魚雷発射。目標はナチ…いや、イセかな?」
同時にすぐ近くでも、動きがあった。
「これは、オプション艦が…合体していく?」
「後から来た2隻のオプション艦は、たぶん硫黄島戦役で使った超重砲艦だろうね。超重砲を撃つつもりかな」
マツシマと、超重砲艦イツクシマ、ハシダテが結合し超重砲を展開していく。
「イセは魚雷迎撃。損傷はない模様。コンゴウは回避軌道を取りつつオプション艦の方に向かってる。これだと超重砲でも狙うのは難しそうな…」
「マツリ、海底のスキャンデータを見てごらん」
「え? これは…メタンハイドレート? そうか、メタンの泡で、浮力を! 千早さんが、囮になって…」
マツリは気づいて感心しているようだ。戦場の激しい変化は止まらない。
「撃つよ。多分狙いは、コンゴウじゃない」
「すごい、これが…超重力砲」
ロックフィールド展開とともに、海が割れていく。
重力子計の数値が跳ね上がる。
こんな間近で見るのは、私も初めてだ。
「目標は…ナチ!? え、401が射線に飛び込んでいく!?」
そして、超重力砲が縮退臨界に達する。
閃光とともに、あらゆる計器が乱れた。
「ナチ、おそらく撃沈…海中感度、極端に低下中」
発射の衝撃で、私の艦体も大きく揺さぶられる。席にしがみつきながらマツリは言った。
「401はどこに…あ、コンゴウの後方にいる?」
超重砲の射線の直下を
「401およびオプション艦、魚雷斉射! あれ? ユキカゼさんまで!? なんで?」
「面白がっているんでしょ…人のことどうこう言う割に、自分も結構いい性格してるよね、あの子」
大量の魚雷を叩き込まれたメタンハイドレートが気化し、コンゴウたちは浮力を失なう。
まともに回避運動もできなくなるはずだ。
「401が、何か射出? かなり大きい…海面上に出た?」
「おそらく、艦載機」
「艦載機? あ、そうか伊401が原型艦なら、そういう装備もあるのか…」
水上はセンサー系が足りず正確には把握できないが、コンゴウと随伴艦が迎撃行動を行っているようだ。
だが、迎撃行動が続いているということは、逆に撃墜しきれていないという証。
「コンゴウに、侵食弾頭着弾!」
泡の中に落下しないための艦体の固定にクラインフィールドの出力を割かれている。
さらに、甲板上はもともと装甲もクラインフィールドも薄い。
「コンゴウ、大破!」
おそらくこれで、決着だ。だが──
「あれ、コンゴウの主砲が、まだ生きている? 発射兆候。狙いは…」
沈み際のコンゴウの攻撃が、マツシマに着弾した。
「えっ……ね、ねえ! 千早さん撃沈されちゃったよ!?」
「あー、うん…。ひとまず落ち着いて」
気持ちはわかるが、とりあえずマツリを落ち着ける。
「千早群像はコンゴウが回収して助けるから大丈夫だよ」
「え、コンゴウが? でも撃沈したのもコンゴウだよね? どういうこと?」
どういうこと、と言われても私にもよくわからん。
原作でも、ぼかした言い方しかされてなかったし…
と、ユキカゼたちが撤退していくのが見えた。
あれ、早くない?
たしかマツシマに近づくコンゴウの艦首やイ201との交戦があったはずだけど…
あ、私か!!
私が見ているから、見届け役は私がいれば十分ということで早めに撤退命令が出たのか。映像の転送は今も続けている。
ユキカゼがヒュウガやヒエイのコアごとうっかり撃沈される可能性もゼロじゃないし…
思わぬところで原作を変えてしまった。
コンゴウは、表面的には401と千早群像を引き離すことを目的として、千早群像を回収し、治療を行う。真意ははっきりとは描かれていなかった。
だが千早群像の肉体の損傷が大きく、コンゴウとチョウカイは思い切ってクローンボディを作成し、そこに意識を移すということを試みるのだ。
そこでふと、あることに気づく。
治療、といえば。
私はかつての大海戦の折、数千単位の重傷者をポッドを通じて治療した経験値がある。さらに、回収されたポッドが人類に使われることによって、今なおその経験値は積み上がり続けている。
私はそれを、深く考えずに戦術ネットワークにもアップロードしてしまっていた。(いや、将来人類と同盟組むならあった方がいいかと思って…)
それは、コンゴウにも使えるはずだ。
で、あれば…
──回収された千早群像、普通に治ってしまうのでは?
やばい! グンゾウ君が生まれなくなってしまう!
ど、どどどどうしよう!
…
……
………
「──人間というものはね、肉体と精神は不可分なのよ。幼子には幼子の」
「若者には若者の。老人には老人の…見合った身体と魂が必要なの」
「あなたじゃ霊格と肉体が合致しないから、完全には移行できないわ…」
「でもまあ仕方ないわね。そもそも肉体なんて持っていない子達がやったのだから…」
「悪気はないのよ」
「──あら、これは」
「バイタル情報が、偽装されているのね」
「重巡と大戦艦を騙しおおせたのは、大したものだけれど」
「いいところを、見せそびれてしまったわ」
「あなたのオリジナルは、もう…治っているの。これを施したものは、あなたを意図的に生み出したかったのかしら」
「非道いことをするものね」
「ならば、目覚めなさい…蒼き水底に眠る王たらねばならぬ者よ」
治療カプセルの蓋が開き、保護液が流れ出る。
中から現れたのは、千早群像だった。
それを見つめるのは、彼の幼いクローンと、宇宙服を着た何者か。
かすれた声で、群像が問う。
「君は…誰なんだ?」
「私は、『アドミラリティ・コード』…」
宇宙服のヘルメットが、ゆっくりと外される。
中から現れるのは、長い金髪の少女。
「『グレーテル・ヘキセ・アンドヴァリ』」