転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか 作:サンドフード
キリがいいので、章題を新しくしました。
A.D.205X 空飛ぶ運び屋 人員輸送編
私はブリッジの一角のデスクで、運び屋仕事の依頼メールを対応していた。(別に脳内で処理できるので、デスクはただの雰囲気作りだ)
切羽詰まっていたり、本気で困っている依頼を優先的に受諾候補に入れていく。次に報酬の割がいいものを。
どうやってコードを知ったのか、いたずら目的のメールもちょくちょく送られてくる。そういう相手には、丁重に、端末がちょっとエッチな壁紙から3日間変えられなくなるウイルスを送り込む。霧の船相手に送信元を誤魔化せると思うなよ。
そんな中、ある一つの依頼メールが私の目にとまった。
「マツリ、ちょっと来て」
「どうしたの?」
私はマツリを呼び寄せると、モニタを指差す。
「新しい依頼なんだけど…これを見てほしい」
「送信元は…在中オーストラリア大使館!?」
中国本土に取り残されたオーストラリア人の帰国困難者のうち、帰国を希望するものを本国まで輸送してほしい。
依頼は端的に言えばそういうものだった。
その依頼が届いたのを受けて、私たちは二人の緊急会議を開いていた。
「これまで私たちは物資の輸送しかやってこなかった。でも今回の件は、それらとはわけが違う」
そう、これまでにない大きな問題があるのだ。
「人間を大量に海に連れ出すというのは、アドミラリティ・コードの命令に反すると判断される可能性がある。
私自身はその
特にオーストラリア巡航艦隊。彼女らには総旗艦の影響力も限定的だし、面識もない。どう判断されるかわからない」
つまり。
「──最悪の場合、離反者として攻撃を受ける可能性がある」
マツリの表情が、緊張を増す。
「そして、人間を乗せるということは、彼らの命を預かるということ。もし失敗すれば、ことは私達だけの問題じゃ済まない」
どうする?と、私は問う。
私個人としては、受けてもいいと思っている。だが、私はマツリに決めてほしかった。
──彼女が、見習いの座から脱しようとするならば。
目を閉じて長いこと考え込んでいたマツリが、目を開き、私を見る。
「リスクは──わかった。それでもわたしは、この仕事を受けたい」
私は頷く。
艦長の意思は決まった。ならば艦たる私はそれを全力で実現するまでだ。
具体的な作戦の相談を始めようかと思ったが、マツリはすでにそれにも考えがあるらしい。
「作戦があるの。聞いてほしい──」
後日、中国国内某所。
木々に囲まれた岸辺に、身を隠すように大勢の人間がたむろしていた。
人種は様々だが、白人系が多いようだった。彼らの表情は、一様に不安が見て取れるものだ。
まだ周囲は暗く、月明かりだけが周囲を淡く照らし出す。
一部の人が何かに気づき、水面を指さす。
水面が盛り上がり、何かが浮上してくる。
軍艦としては小さいほうとはいえ、見慣れない彼らにはそれはとても巨大に見えた。
「
旧い時代の船体形状ながら、各所にあるスリットや開口部、甲板の兵装などは、はるか未来を思わせる。
霧の駆逐艦、『アマツカゼ』が彼らの前に姿を現した。
カッターボートを下ろし、岸に近づいていく。
港はないので直接接岸はできず、ボートで何回かに分けて乗船を行う手はずになっていた。
「在中オーストラリア全権大使、ジョージ・ベイカーです。あなた方に会えて光栄だ」
代表者らしき、白髪交じりの金髪のスーツ姿の男性に握手を求められた。名乗りからして、おそらく今回の依頼主だろう。
駆逐艦『アマツカゼ』のメンタルモデルと、艦長のマツリですと名乗りを返す。
「なぜわたし達に依頼しようと?」
「実は、大きな声では言えないが…香港のマフィアからの紹介なのですよ、あなた方は」
なるほど、大使ともなればそういう裏の付き合いも少なからずあるのだろう。とはいえ、なかなか大胆な決断だ。
「もし本当に帰ることが出来るなら、死のリスクも厭わない…そうしたメンバーを集めました。143人…全員ここに揃っています」
ここだけの話なのですが、とジョージ大使は続ける。
「中国政府は残留外国人の面倒を見切れなくなり、強制同化政策を取りたがっています。もしそうなれば、いよいよもって帰るのは難しくなるでしょう」
だから、このチャンスに賭けることにしたのです、と彼は言葉を結んだ。
ボートによる艦への乗り移りは順調に進んだ。
最後に大使が残るが、彼は乗る様子がない。
「あなたは乗らないのでしょうか?」
「私は…残ります。妻と子はこちらにいますし、こちらに残ることを選択した人もたくさんいます。彼らの面倒を見なければならない」
いつか海が解放されたときに帰れれば、私はそれでいい、と大使は言った。
「希望者たちを…彼らをよろしく頼みます」
最後に彼はもう一度、固く、固く握手をした。
空が明るみ始めたころ、帰国希望者たちの乗船はすべて終わり、艦体は岸を離れていく。
「搭乗者全員の着席を確認。シートベルト装着OK」
アナウンスが艦内に響く。
「システム・オール・グリーン」
搭乗者たちは固唾を飲んでその時を待つ。
「重力子エンジン始動」
機関のごくわずかな振動が、船体に伝わる。
「スラスター、オン」
空気と水がかき乱されることによって、船体の振動が大きくなる。
「出力上昇」
「アマツカゼ、
号令と共に、大きな船体が浮かび上がっていく。
流れ落ちる水の瀑布を残して、それはどこまでも高く昇って行った。
「Oh...
地上から見上げるジョージは思わずそうこぼした。
4つのメインスラスターの噴射が、まるで翼のように輝いて見えていた。
マツリの立てた作戦は、単純だ。
無人艇であっても霧は容赦なく撃沈するが、SSTOによる物資輸送は見逃されている。このことから、霧の艦隊は宇宙空間を海の上とは見なしていない。
ならば、湖から湖へ、宇宙空間を経由して移動すれば、海を一切使わずに大量の人間を運ぶことが出来る。
私達なら、それができる。
私達にしか、それはできない。
弾道軌道の計算など、細かいところは私で詰めた。
中国政府には秘密なので、前日の明け方にこっそり現地入りしている。
今の私に、人類のレーダーは通用しない。クラインフィールドでレーダー波を選択的に吸収し、ほぼ完璧な電波ステルスを実現している。さすがに霧のレーダーはちょっと厳しめだけども…
また、発光も抑えるよう、減速には逆噴射を使わなかった。クラインフィールドを扁平に広く展開して空気抵抗を増大させるとともに、速度エネルギーを吸収する形で減速し、着水した。もし気付かれたら、作戦延期だ。
あとは潜水して、今日まで隠れて待機していたというわけだ。
そうして今、私たちは宇宙に飛び出した。
「Oh... my, god...」
「...Fantastic」
「The earth is blue...」
「Is this a science fiction world ?」
機外表示モニタを見る乗員室のざわめきが止まらない。
だが、ここからが正念場だ。
霧の艦隊が絶対に見逃すという確証があるわけではないのだ。
私は目を閉じて、制御と探知に集中する。
マツリがモニタの表示を読み上げていく。
「機関停止。慣性飛行に移ります」
「南シナ海管轄区域を突破。まもなくオーストラリア巡航艦隊管轄区域に侵入します」
「クラインフィールド安定」
「レーダー波検知。攻撃の兆候なし…荷電粒子砲、レーザー、ミサイル、いずれも感なし」
「慣性飛行を継続」
「まもなく…3、2、1」
「──乗員の皆さん。当艦は
爆音のような歓声が、乗員室に響いた。
オーストラリア本土での最大の人工湖、アーガイル湖。私たちはそこに着水した。オーストラリアの大きな湖は普段は枯れている塩湖が多いが、ダム湖であるここは比較的水量が安定している。
周囲は演習名目で軍によって封鎖されていた。
着水を確認して軍のボートが近づいてくる。それに合わせてタラップを降ろす。
甲板に集まった搭乗者たちが順次ボートに乗り移っていく。
軍の中に知り合いがいた者もいたようで、号泣しながら抱き合っている。
マツリは感極まった搭乗者に抱き着かれたりしているし、本人も涙ぐんでいた。
最後の帰還者たちの下船が終わったのち、一人、タラップを昇ってきた白い制服の男性に握手を求められる。
「オーストラリア海軍准将、ウィリアム・メイソンです。ジョージから衛星回線で話を聞いたときは、あいつの頭がおかしくなったのかと思いましたが…本当にやり遂げていただけるとは」
「ジョージ大使とはお知り合いなのですか?」
「やつとは同期でしてね…道は違えたが、心は今でも同士と思っておりますよ」
彼は懐かしそうにそう言った。一つ、気になっていたことを尋ねてみる。
「海軍ということは、霧を使うことに反感を持つ方も多かったのでは」
「確かにそうです…ですが、そうでないものもいる」
あなた方には隠しても仕様がないか、と彼は続ける。
「信じられないかもしれませんが、私は大海戦の際、霧の船に助けられてしまったのです。ですからあなた方のことも、一度は信じてみようと考えました。この秘密作戦には、同じような者が多数参加していますよ」
そうだったんですね、と私は返す。
メンタルモデルなので、表情は平静なままだ。
これまでで一番大きな運び屋仕事は、こうして成功裏に終わった。
アワーズ読んだり、AC6二次書いたりしておりました。
この連載を始めてからアワーズを読み始めたのですが、原作は1ヶ月に1話しか進まないという当たり前の事実に絶望しています。
この先書きたいシーンに間に合わん…
ついでに、バックナンバーの8月号であの地名が出ていてビビり散らかしました。当時は本当に知らなくて、偶然だったんですよ。