転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか   作:サンドフード

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A.D.2056 ハシラジマの日々

 

 覚えている最初の光景は、ボクを見つめる二人の女の人。片方は金色の髪で、もう片方は黒い髪。

 それが母上である大戦艦コンゴウと、重巡チョウカイのメンタルモデルだと認識したのは、もう少し後のことになる。

 

 ボクは負傷して眠り続ける千早群像のクローンだ。彼の意識を移すための器として生み出された。ボクの知識はそうやって、千早群像から写されたものだ。

 母上たちからは千早群像に倣って、グンゾウと呼ばれている。

 

 でも、どうやらそれは上手く行っていないらしい。母上たちはよく難しい顔をしている。

 

 持っている知識に照らし合わせると、母上が二人いるというのは少しおかしいような気もする。だけれども、メンタルモデルは時々突拍子もないことをやらかす、というのも知識にあるので、きっとそういうものなのだろう。

 

 はて、ボクが千早群像の器だというのなら、今こうして考えているボクは一体何なのだろうか?

 

 時々、ボクの中に千早群像が入ってきていると感じるときがある。でも、それが自分自身であるというふうには、どうにも思えないのだ。

 

 ボクは、千早群像ではないのではないか?

 

 それが時々ボクを悩ませる悩みだが、答えを得る方法があるわけではない。かすかな悶々とした思いを抱えたまま、日々を過ごしていた。

 

 

「お待たせしました。今日はどら焼きにしてみました。あなたの故郷のおやつですよ?」

「いただきなさい。きっと美味しいだろう」

 

 頷いて、どら焼きにかじりつく。

 甘く、これがたぶん美味しいなのだと思う。

 

 母上たちは難しい話をしている。

 

 コンゴウが聞いたという、『お前の未来を救え』という言葉。

 意味はよくわからないが、その言葉がなんだか気にかかった。

 

 もそもそと、どら焼きを食べながら思う。

 ボクの未来というものは、どういうものなのだろうか。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 母上たちがどちらも付いていないときは、ハシラジマの中を自由に歩き回ってよいと言われていた。

 あまりすることもないので、なんとなく海を見ていると、駆逐艦が一隻入港してくるのが見えた。船の出入りは珍しい。

 

 しばらくすると、女の子の二人組が上がってきた。

 片方は銀色の髪で、メンタルモデルのようだった。けれどもう一方はメンタルモデルではないようで、人間ということだろうか。

 人間と会うのは、初めてだった。

 

 人間の女の子は、なぜかものすごくびっくりした顔でこちらを見ている。

 

「え、え、えええ…? え? ち、千早さんがちっちゃくなっちゃってる? どういうこと?」

 

 そう言ってメンタルモデルの女の子の胸倉をつかんで揺さぶっている。

 

 揺さぶられながらも、なぜかほっとしたような表情をしているのが印象に残った。

 

 二人は結局、何をするでもなくハシラジマを去っていった。いったい、なんだったのだろうか。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 ある日、ボクはハシラジマの中央エリアの近くを歩いていた。

 特にあてがあるわけでもなく、探検とでもいえばよいのだろうか。

 

 非常階段を下りていくと、突然、大柄な太った人と、ばったりと出会った。

 驚いたが、知識の中に、ハシラジマに取り残された人達がいる、というものがあった。彼もその一人、ということだろうか。

 

「君は…こんなところに、どうして子供が?」

 

 どう話せばいいかわからずに黙っていると、手をつながれて、彼は来た道を戻り始める。

 

「とにかく、我々の拠点に案内するよ」

 

 そう言われ、しばらく歩くとロックされた扉の中に入っていく。そこには植物栽培プラントがあった。

 中をさらに歩くと、眼鏡をかけて髭を伸ばした人に出会った。

 

「田中網さん、その子はいったい…?」

「どこから来たのかわからないが、外で偶然出会ってね。君、名前は?」

「名前…グンゾウと呼ばれています」

 

 外というのは? と聞いてみる。

 

「我々はこの中央エリアに閉じこもっているんだよ。霧の船に、見つからないように。

 だが、我々の使っている浄水システムが壊れてしまってね。何とか交換部品を見つけられないかと外を探索していたんだ」

 

 なんだか、とても困っているようだ。ボクでも力になれるかもしれないと、つい提案してみる。

 

「……ボクが、コンゴウに話してみましょうか?」

 

 二人の表情が険しくなる。

 

「コンゴウというのは、もしや霧の艦隊の大戦艦コンゴウのことであっているかい?」

「はい」

 

 真剣な表情のまま、質問は続いた。

 

「君は、霧の船とコンタクトを取れるということかい」

「コンゴウと、チョウカイに、お世話をしてもらっているんです」

 

 二人が顔を見合わせる。

 

「霧の船がメンタルモデルというのを持つようになったというのは聞いていたが…」

「人間の子供を世話していると? どういうことなんだ」

 

 田中網という人は、しばらく考え込む様子を見せる。

 

「……わかった。君に頼むよグンゾウ君。またここに来るときは、このキーカードを使ってくれ」

 

 そう言って、キーカードを渡された。

 

「よろしいので? 田中網さん」

「構わんよ。あんな薄い扉一枚、霧がその気になれば、どうせ無いも同然だ」

 

 霧が何を考えているかは分らんが、外の施設のこともある、賭けてみるのも悪くない、と彼は言った。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 海の見えるテラスで、ボクは勉強をしていた。勉強というよりも、千早群像から写された知識の確認といった方が正確かもしれない。

 向かいの席には、チョウカイが一緒だった。

 

「知識の移行は達しているみたいですね。でも、なぜ意識が全て流れ込んで来ないのかしら」

 

 編み物をしながら、そうつぶやく。少し考え込んでいるようだった。

 

「……少し休憩にしましょう。あなたは私達と違って、疲れもすればお腹も空くのですから」

 

 チョウカイはそう言って立ち上がる。

 だけど、少し様子がおかしい。

 

 あらためて様子をうかがうと、立ち上がって椅子に手をかけたまま固まって、微動だにしていない。

 視線さえも、固定されたままだ。いったいどうしたのだろう。

 

 ふと気配を感じて後ろを振り返る。

 そこにはさっきまでいなかったはずの誰かがいた。

 

「うん、これは……そうだね。お前は私に近い存在なんだね」

 

「だとすれば、貴方も私の業が産み出した申し子と言う事になる。ちょっと観に来ただけだけど…」

 

「私と共に来ると良いよ。ホムンクルスさん」

 

 そう言うのは、宇宙服を着た誰か。

 向かう先は、千早群像の元へ。

 

 




この後、ユキカゼのお使いのラストシーンへ。
さらにその先の会話は、ぜひ原作にて。

最近書いていましたAC6二次も無事完結しましたので、プレイ済みの方はよろしければどうぞ。

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