転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか 作:サンドフード
それは、私たちが太平洋の東北沖を航海していた時のことだ。
ソナーを見ていたマツリが、声をかけてきた。
「ん?これ……何か、いるよ。アマツカゼ、アクティブソナー使っていい?」
「え?ホントだ。よく気づいたね。戦術ネットワークにも該当情報なし…正体不明の潜航艦か」
人間の潜水艦では、ない気がする。白鯨クラスでもこの速度ならもうちょっと音が出るし、微細動タイル採用の艦はもう、アメリカに向かった白鯨IIIしか残っていないはずだ。
となると、霧の艦艇だけど…この時期に、こんなところに何かいたっけ?
「うーん、気になるし、使っちゃおうか。やばそうな相手なら全速力で逃げるよ」
「ラジャー、いきまーす」
ドギイィィィィィ
ピンガー起動し、海中に音波が響き渡る。
反響音を解析していくと…
「うわ、何これ、すごい大きいよ。……あ! 浮上してくる!」
「おわっ」
ドオオオオオオオオオオオオオオ
水面が持ち上がると、巨大な艦影が姿を現した。
長さだけでも、私の倍以上ある。
とりあえず攻撃してくる様子はないので、直接様子をうかがいに甲板へ出ると、その艦の長大な全通甲板の縁から、その人影は姿を現した。
「ステルスミッション中の私を見つけるとは…やるわね、あんたたち」
そう言うと飛び降りて、こちらに飛び乗ってくる。
それは目つきの悪い、小柄なメンタルモデルたっだ。ダルダルのシャツを着て、猫耳形状のヘッドセットを付けている。前髪には、『BE FOUND』という文字の髪飾り。
「あの…あなたは」
「んん…人間? ああ、総旗艦がなんか変なことやらせてる駆逐艦ってあんたのことだったんだ」
そのメンタルモデルは名乗る。
「私はショウカク。海域強襲制圧艦よ」
霧の艦艇にも、かつては原型艦と同様の空母という艦種が存在した。無数の艦載機を操り、遠距離に波状攻撃を行える強力な艦種だった。
だが、艦載機には致命的な弱点があった。
質量的な制約から、自身を覆うようなクラインフィールドを発生させられないのだ。また装甲も、相応に薄くならざるを得ない。
そのため人類の対空兵器に対して、攻撃面はともかく防御面ではアドバンテージを得ることができなかった。
加えて、艦載機の形状も原型艦から引き継いでいるために、ステルス性も付与することができない。
そうして、大海戦の際には、空母艦載機は大きな被害をこうむった。
その戦訓を取り入れて、総旗艦の発案により、思い切って艦載機を全廃して艦種転換したのが海域強襲制圧艦である。
というのを、かいつまんでマツリに説明した。
「へえー。それで、海域強襲制圧艦っていうのは、どんなことができるの?」
「え? いや…よく知らんし」
戦闘シーンが描かれたことがあったのはヤマトの姉妹艦でもあるシナノだけだが…なにせ超級海域強襲制圧艦(長い)なので、シナノだけの特殊能力なのか、海域強襲制圧艦の特性なのか判断がつかない。
共同戦術ネットワークの該当情報にもアクセス権を持っていない。
なので確かなことは、機関出力がすごくて、クラインフィールドがぶ厚いことぐらいしかわからない。
「総旗艦が伝えてないのなら、私からは勝手には話せないわね」
「いえ…なんかすごいということは、分かりました」
マツリはそう答える。
どこかから取り出したエナジードリンクを片手に、海を見ながらショウカクは言う。
「ところであんたたち、どこかでズイカクを見かけなかった? 探してるんだけど」
そして、グビリとエナジードリンクを飲む。
「釣りとかいうアウトドア趣味に目覚めちゃったらしくて…それだけならまだいいけど、こっちに連絡ぐらいしろってのよね」
「うーん、見かけたことはないね」
ズイカクは402やタカオと陸上生活を満喫している時期だろうか。ショウカクとは姉妹艦にあたり、メンタルモデルもよく似ているタイプだ。
なるほど、ズイカクを探して
「ふうん、ありがと。ところであんた…匂うわね」
ええっ、私もメンタルモデルなのに、体臭が!?
思わず自分の体をクンクンと嗅ぐが、そういう意味ではなかったらしい。
「同類の匂いがするわ。あんた、いけるクチでしょう?」
そう言って、ショウカクはニヤリと笑った。
「おおおお、素晴らしいわ。データ化されていないレトロゲーの媒体やハードがこんなに…!」
ショウカクと私たちは、私の艦内のレクリエーションルームにいた。
そこにはショウカクが言った通り、古いゲームハードやソフトがずらりと並んでいる。
それらはサルベージ品や、闇市で買ったジャンク品をナノマテリアルで修復したものだ。
「こ、これは、幻のクソゲーといわれた一品! こんなものまであるとは」
ショウカクは興味津々のようだ。ショウカクは、ゲーマーである。
特定の何かに強い興味を示すメンタルモデルは少なくないが、ショウカクのそれはゲームだったということなのだろう。
「よかったら貸してあげようか?」
「マジで!? いいの!?」
データ化してのコピーもできるが、もはや法が機能していないとはいえ、無断コピーは作品への敬意としてなんとなく抵抗があるし、風情がない。
私はもう一通りプレイしているし、マツリはあんまりレトロゲーには興味を持っていない。生まれた時から専用ゲームハードという存在に無縁だったろうから無理もないが。
「おお、心の友よ」
私とショウカクは、ガッチリと握手をした。
置いてけぼりになっていたマツリは言った。
「なんだこれ」
今、コンピュータゲーム市場の本場はアメリカである。
というより、ゲームを新規開発できるような余裕が残されている国がアメリカしかないと言った方がよいが。
そんなアメリカにはまだ、プロゲーマーやゲーム配信という文化が今も残されている。
そんな中、流星のごとく現れた新進気鋭のチームがある。
謎多きゲーマー集団『FLEETS』。100名以上のメンバーを抱え、ほぼ例外なく全員が腕利きでありながら、あくまでネット上でのみ活動し、誰も顔を見せないことで知られていた。
そんなチームに、2名の新規加入メンバーがあった。
それは、『
もちろん中の人は、私とマツリである。
今、われら霧の艦隊ゲーム部(非公認)は、北米eフロンティアの、128対128の大規模チーム戦FPS大会に出場しようとしていた。
操作キャラ割り当ては、ショウカクが77体、アマツカゼが50体、マツリが1体である。
幽霊部員ズイカクは不参加だ。
大会規約で一人複数キャラ操作は禁止されていなかった。というか普通、そんなことはできない。不正防止にAI操作検知システムは組み込まれているが、そんなものに引っかかるメンタルモデルではない。
フェアとなるように内部データを直接参照することはせず、ゲームスクリーンから得られる情報のみで戦うという凝りようだった。
試合が始まると、一人突撃するプレイヤーの姿があった。
普通なら袋叩きにされて終わりだろうが、異様なエイムで敵プレイヤーをなぎ倒し、無双している。
チャットログが流れる。
Jasmine: Yheaaaaa! Kill them ALL!!!
FlyingCRANE: Jasmine!? Jasmine!?
Highwind: OMG...
トリガーハイになるタイプだったか…
絶対に実銃は持たせないようにしようと固く心に決めた。
なお、大会は優勝した。
日本の勝利である(大本営発表)
アマツカゼが飛ぶのは実はFF7ネタでもあったということに気づいていた人はどのぐらいいるだろうか…