転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか 作:サンドフード
主人公以外の視点だとなんかすごいシリアスに見えます
総理官邸へ向かう車の中で、上陰龍二郎はイ401の艦長、千早群像に初めて対面したときのことを思い出していた。
数少ない振動弾頭のうち、政治的バランスの都合によって南管区に託された一本。自分はそれを見届けるために本土から派遣された一役人に過ぎなかった。
SSTOに積み込まれたその最後の希望は、打ち上げ直後に撃墜される以外の未来は見えず、面子のためだけにそうやって消費されることがどうしても我慢ならなかった。
だからこそ、あらゆる正規の手続きや権限を無視して、彼らに──蒼き鋼に護衛を依頼したのだ。
そして彼らは難なくそれを成し遂げた。
私自身は処罰も覚悟していたが、四天首相にやんちゃが過ぎると皮肉を言われた程度で済んだのは幸運だった。
結局ハワイ沖で撃墜されてしまったとはいえ打ち上げには成功し、蒼き鋼の件は一般には伏せられていたため、国民に対する面子は立った、ということだったのだろう。
軍務省自身で押さえておいた最後の
会って一目でわかった。
彼の目は、自分と同じだ。
霧の大戦艦をも撃沈してみせた彼でさえそうなのかという、絶望はあった。
だがそれでも、私は彼に何もかもをベットすることに決めた。
彼にとっては勝手な話だろうが、一人分のすべてでは賭け金が足りないのなら、二人分のすべてを賭けてやろうと、そう思ったのだ。
だが今、自分は彼を巻き込んですべてを失おうとしている。
子供が
そして彼らからしてみれば、自分もまた子供の側なのだろう。
最後まで足掻くと決めたゆえに総理のもとに向かってはいるが、おそらくもう総理にも根回し済みの可能性が高い。そもそもあの二人はかの大海戦の同じ船の艦長と副長で、信頼関係は篤い。
だが失意とともに、奇妙な安心も同時に感じていた。
北議員は少なくとも、私欲だとか、プライドだとか、しがらみだとかいった、くだらないもののために動く人間ではない。
負ける相手としては上等に過ぎるというものだろう。
分不相応な賭けに負けた若造の末路に思いを馳せていると、携帯端末に緊急の着信が入った。
「霧の大戦艦2隻の襲撃…!?」
きっと彼らは──蒼き鋼は、迎撃に打って出るだろう。私は急ぎ、白鯨の駒城艦長に連絡を取る。
勝手で悪いな駒城、お前の分も全部を賭けさせてもらうぞ。
「このまま総理官邸に向かう。だが念のためゆっくり走ってくれ」
運転手にそう告げると、私は天を仰ぎ目を閉じた。
まだだ、まだ終わってはいない。
タイムリミットは官邸に到着するまで。
それまでに彼らが大戦艦を撃退して見せれば、命脈はつながる。
思わず笑みがこぼれる。
あまりにも分の悪い賭け。
だがたとえ1%の確率だろうと、0よりは上のはずだ。
そして私は、賭けに勝利した。
霧の大戦艦、ハルナとキリシマの共同撃沈は世界に衝撃をもたらし、上陰は『改定 振動弾頭輸送計画』という新たなカードにベットを重ねる権利を得た。
ようやく、何かが変わろうとしている。
「昨晩…戦艦が沈んだ時の閃光がここからも見えた…」
楓信義総理はデスクから
「その時、私には──世界の歯車の動き出す音が聞こえたんだよ…」
後ろ姿からはその表情は窺えないが、わずかにその声は弾んでいるようだった。
「君はどうかね?上陰君」
「……私は…彼らが。『401』の少年たちが、大戦艦ヒュウガを撃沈したと知った時。その音を聞いたかもしれません」
その答えを聞いて、総理は少しだけ微笑んだ。
「少し、昔話をしようか。かの大海戦の話だ」
話のつながりが見えずに上陰はわずかに困惑するが、黙ってそのまま耳を傾ける。
「戦果として大々的に発表されたイ401拿捕の件を隠れ蓑に、秘匿された事実がある。大海戦における少なくない生存者が、どのようにして助かったのか、ということだ」
艦艇の被害に対して、乗員の生存者が多すぎる、と思ったことはないかね──総理はそう問う。
日本の艦艇で曲がりなりにもまともに帰還に成功したのは、陸軍艦のあきつ丸ただ一隻。他はほぼ沈められたにもかかわらず、人員は半数近くが生き残っている。たしかにそれは多すぎる。
それだけではない、と総理は続けた。
「表向き、イ401を解析して作られたと発表されている新型ジェネレータも治療ポッドも、実際には人類が生み出したものではない。鹵獲──とさえも呼べないな。生存者を陸に送り届けた何台もの──『霧の救助艇』を、そのまま流用しているに過ぎないのだよ」
上陰の目が見開かれる。『霧の救助艇』などという言葉を、次官補の自分さえ聞いたことがなかった。
「まさか…」
総理は上陰の方に向き直り、席に座って言った。
「そして、私自身もまた、助けられた一人、ということだ」
──私の乗っていた、あきつ丸。北さんも共に乗っていたことは君も知っているだろう。戦闘能力を失い必死に逃げ帰るその船の上で、私は瀕死の重傷を負って死にかけていた。それが近づいてきたのはそんな時だ。
当時は救助艇などと思いもしなかったからな、もうここまでだと思ったよ。だが攻撃してくる様子もなく、それどころか満身創痍のあきつ丸を誘導しているようにさえ見えた。乗員が戸惑っていると、突如ロボットが乗り込んできて、そして──私は治療ポッドに放り込まれた。
朦朧とする中で、わけもわからず混乱しているうちに、私は意識を失い──目覚めたときには陸の上で、瀕死の重傷もほとんど治療されていた。
そのことがなければ、たとえ命が助かったとしても、今のようにまともな生活は望めなかっただろうな。
各地の軍港で、似たようなことが無数に起こっていたらしい。だが、結局それらは、徹底的な緘口令が敷かれ、国民へは一切が隠された。
秘された理由かね?君なら推測できるのではないかな。
そう、霧に情けをかけられて生き残ったなどと──どうして口にすることができようか。
「…それは……」
「だが、それは間違いだったのかもしれない」
「…とおっしゃいますと?」
総理はまっすぐに上陰を見据えて言う。
「自分たちの恥を気にするあまり、霧の行いから目を背けた。意思疎通不可能な化け物であってもらわねばならないと、そう思い込んだのだ。それが対話の可能性を閉ざす行為であると気付かぬままにね」
席を立ち、再び窓の外の海を見る。
「君に話したのは、彼らに賭けた君の目利きに期待してのことだ」
他には話すなよ、と楓は冗談めかしてそう言った。
「もし私の耳がもっと優れていたならば、その時にも、時代の音を聞けていたのかもしれないな──」
大海戦の死者が大きく減っているのと、電力事情が改善して多少暮らし向きが楽になっています。
あと地味に、いおりの母親が生存しました(偶然)。
次回予告:
A.D.2012~ 同僚との付き合い方
来るべき未来に向けて努力を重ねてきた主人公。
そしていよいよ、他の霧の艦艇たちのコアが目覚め始める。
これまでずっと一人だった主人公は職場の人間関係に悩むのだった。