転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか 作:サンドフード
ヂッ
ん、この信号は…
近くの海で、交戦──交戦!?
慌ててセンサー系をフル稼働させ情報を集めると、第二巡航艦隊と何者かが交戦しているようだった。たしか今の旗艦はヒュウガで、相手は──イ401じゃん!
え、ヒュウガ vs イ401、今だったの!?
とんでもない偶然にものすごく動揺しているが、同時になぜヤマトがこんなところにいたのかもわかってしまった。たぶん観戦するつもりだよアイツ。群像ストーカーめ。コトノの方がいなかったのも、どこか地上から観戦するためにいいスポットを探していたとか、そんなのに違いない。
まあでもそうかー、そういえばヒュウガを撃沈したのは坊ノ岬沖だったってチラッと出てきていたね。すっかり忘れていたけど、──あれ。
坊ノ岬沖?
なあんていうか、その──すごく近くないですか?鬼界カルデラにある演算ユニット『カタストロフィ』とか。
そんなとこで?イ401が?ヒュウガのコアのサルベージを?
…
だ、だだだ大丈夫、大丈夫。
そこまでの偶然あるわけないって。たぶんすぐにヒュウガのコア見つけてパパっと撤収するって。
大丈夫!
はい、ダメでした。
めっちゃ探知されました。
しかもなんか、こっちに向かってきています。
とりあえず本体側のメンタルモデル解除して、施設内の予備ナノマテリアルを使って遠隔でメンタルモデル構築したのですが、冷や汗シミュレータが止まりません。
でもさすがに、隠し扉までは見つけられ──はい、見つかりましたね。
しかもハッキングされて、開けられましたね。
あああもうちょっとセキュリティしっかりしておけばよかった!
うう、イ401が入ってくるぅ。
資材搬入出用のドッキングポートはろくなセキュリティもないので、施設内に入ってくるのはもう止められない。
もう、直接出向いて──何とかするしかねえ!
岩肌に偽装された出入り口の先には、簡易ドックと、霧の規格に合致するドッキングポートが備え付けられていた。
改めて人間の施設ではないことが示された形だが、それにしては不自然な点もあった。
ハッキングして侵入しようとするイ401に対してなんら迎撃行動がなく、それどころかそもそも防衛設備さえ存在しないようだった。
通常の霧の設備ではありえないことだった。
ドッキング後、リスクはあったが艦長は内部の探索を決断した。
「今のところ、罠の類はないようだ」
先頭を歩くイオナは周囲を警戒しつつ歩みを進めていく。
同行するクルーは群像、杏平、そして加入して間もない静の三名だった。静は念のため小銃で武装している。
織部僧と四月一日いおりは留守番である。危険があればすぐに撤退できるよう、副長と機関手を残した形だ。いおりはブーブー言っていたが。
最後尾を行くヒュウガは、ふうんと興味深そうに周囲を観察している。
今のところ拘束具としてのジャージは着たままだが、いざとなれば開放する必要もあるだろう。
「妙だな…」
周囲を見回しながら群像は言う。
「霧の施設というのなら、なぜ人間用としか思えないこんな通路があるんだ?」
少なくとも霧が利用するなら、手すりや照明は必要ないはずだった。下手すれば空気さえも。
扉のサイズも人間を意識しているように思える。
「メンタルモデル用じゃねえか?」
「霧がメンタルモデルを持ち始めたのはごく最近のはずだ。だがこの通路はやけに古びている。時間軸が合わない──いや、古びているということ自体も妙だ。イオナ、この通路にナノマテリアルは使われているのか?」
チ チ
「いいや、使われていないな」
「人間が作ったものではありえないが、ナノマテリアルも使われていない施設…ここは、いったい」
「待て、何か来る」
カツン、カツン、と足音を響かせながらそれは姿を現した。
「子供…?」
小銃を構えた静が思わずつぶやく。
フードに覆われて表情は窺えないが、体格は子供のように見える。だが、こんなところにただの子供がいるはずもない。
高く澄んだ、だが水底から響くような声でそれは言葉を発した。
「ここに何の用だ?人間と、それに付き従う艦どもよ」
自身が人間ではないことを暗に含んだ言葉。メンタルモデルのことも認識している。
「君は──何者だ?」
「私はここの管理人…固有の名には意味はない。そのまま『管理人』とでも呼ぶがいい」
「イオナ…」
「ああ、メンタルモデルだ…だが、こんな奇妙なシグネチャーは初めて見る」
ヂッ ヂッ
イオナは相手の情報を読み取ろうとするが、すべて拒否される。
「覗き見はよくないな、イ401。総旗艦にマナーは教わらなかったのか?」
その言葉にイオナは警戒レベルを引き上げる。
イオナが人間社会に潜入していたことは戦術ネットワークにアップロードされているが、それがヤマト──コトノの指導を受けながらであったことを知っている者はそうはいないはずだ。
緊張をはらんだまま、クルーとメンタルモデルたちは対峙する。
やめてイオナ、情報読み取ろうとしないで!防壁破れちゃう!破れちゃうから!
ヒュウガが封じられているのは不幸中の幸いだったが、イオナがその気になればすぐにでも解放できるはずだ。そうなったら情報戦でも勝ち目はない。
こんなところで主人公勢と絡むつもりは全くなかったし、この施設に踏み込まれては何かと困る。いろいろヤバイ情報も放置されていて、下手すりゃ原作知識を主人公たちが知ってしまって原作崩壊、なんてこともありうる。
なので私はプランを立てた。
名付けて、なんか意味深な言動して、深読みさせて帰ってもらおう作戦!である。
ガバガバ?うるせえもうとっくにガバってんだよ!
もうオリチャーのアドリブでリカバーするしかない。
「無断で踏み込んだことは謝罪しよう、管理人殿。だが、よければ教えてくれ。ここは一体何なんだ?」
「ここは、脳を収める器。あるいは、血潮を汲み上げ蒸留するリトート。この先に踏み込むことは私が許さない」
もう何言ってんのか自分でもわからん。
「じゃあ帰ると言ったら、帰してくれるのか?」
そうだよ杏平!バッチコイだよ!
「ああ、その通りだ」
「この先にお前たちの求めるものはない。この下に眠るのは、ただ──滅びだけだ」
そう、ウルトラプリニー式噴火とかね!カルデラだからね!嘘は言ってない。嘘は言ってない。
「力ずくで押し通るというなら私は抵抗する力を持たないが──」
ほんとだよ!巡航潜水艦と大戦艦のタッグが相手とか、秒で負けるよ!こちとら駆逐艦だぞ!おまけに遠隔だ!
頼む!穏便に帰ってくれー、という祈りを込めて、私は呼びかける。
「千早群像」
帰ってくれー!
「千早群像」
そう、呼びかけられる。名前を把握されていることに少しだけ動揺するが、今さらだ。
だが次の言葉はそれ以上だった。
「世界を変えたいのだろう? こんなところで寄り道している暇はないはずだ」
その言葉に、群像はわずかに目を見開く。なぜそこまで知っているのかという疑問。衝動的に問い質したくなる気持ちを抑えたのは、警戒心もあるが、それ以上に──
その通りだと、思ったからだ。
「…わかった。皆、撤収する」
イオナは無言で頷いた。他のクルーも同様である。
引き返す一向に、管理人は言葉通り何もしてこなかった。
「いやはや結局何もわかんなかったな」
「まあでも、無事に帰れるだけ儲けものですよ」
「世界はわからないことだらけだ。貴重な経験を積ませてもらった」
ドックに戻る直前、群像は一度だけ振り返る。
管理人の姿は、もうそこにはなかった。
今後の展開のために、念のためタグに「ガールズラブ」を追加しましたが、友情描写を超えるものは特にない予定です。