君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
展開を巻いていかないと……話が進まない……!!
「戻りましたー」
「あ。お帰りなさい!ミハ先輩!」
先ほど、先生とすれ違ったミハだがそれ以降何か特に用事があるわけではない。
適当にブラブラと時間を潰した後、ミハは素知らぬ顔で部屋に戻ったのだった。
「……そちらの方が?」
「はい。シャーレの先生です。」
「そっか……聖園ミハです。よろしく」
「“………よろしく”」
軽いカーテシーの後にミハは先生と握手する。
その何処からどう見ても“お嬢様”らしいミハの動きはアビドス時に会った“メグミ”とも、さっきすれ違った“ミハ”とも違う印象を受ける事になった。
「えーっと…先生、これで補習授業部全員です」
「“うん。これからよろしくね”」
「「「「……………」」」」
「あ……うう……」
ハナコは微笑み、コハルは不機嫌そうに周囲を見渡す。アズサは何を考えているのか分からず、ミハは“わざと”空気を呼んで黙っている。そんな周囲の様子にヒフミは悲鳴を上げるが、ミハがこの現状を笑って見ているのを見て後でポスポスとミハに戯れたのはまた別の話。
◆
〈翌日〉
授業を終えたミハはいつも通り、ヒフミに連れられ部屋にやって来た。
実は停学を明けてからミハではなくヒフミが意欲的にミハを連れていくことが多くなったとクラスメイトは密かに噂していた。何処に行くにも着いて行くし連れて行こうとするヒフミに憎まれ口を叩きながらも着いて行くし連れて行く2人は非常に親密な親友であると微笑ましい事実と噂が流れた。
「えっと…ここの係数を求める式はここの一般項で───」
「……こんな感じか?」
「そう!正解!」
(“うん…順調そうだ”)
「それでハナコ。こんな感じでいいのか?」
「はい。……あれ?アズサちゃん。古語読めるんですね。」
「うん…?ああ。昔少しだけ学んだ事がある」
「ちなみにコハルちゃん。そこテスト範囲じゃないですよ?」
「え!?うそ!!?」
(“こっちも…まあ順調かな?”)
一つの机を2人で対面しながらヒフミはミハに解説している姿がある。
休んでいただけで地頭は悪くないというヒフミの言だが事実その通りらしく理解度は高いらしい。……とは言っても未だ先生は目を疑う光景である。まさかアビドスの襲撃で事実上の5対1を退けたような子が今はペンを持ってヒフミの言う事を聞いている。
もう一つの4つの机を繋げて班机にした所では、ハナコが教師役になりながらアズサとコハルの勉強を見ている。分からない所があれば分かりやすく解説しているのを見るとハナコも地頭が良いタイプなんだろうかとふと先生は気になった。
ミハとヒフミの席から目を離した隙だった。
「……?どうかしましたか?」
「あらあら〜」
「そ、それはちょっと……ってミハ先輩から離れて!」
「うん?…まあ別に良いだろ」
「ふむ仲がいいんだな。憧れる」
ハナコたちがミハたちの机を無言で見ている事にヒフミが気がついたのだろう。
ヒフミはなんとミハの膝の上でミハに解説を続けていた。ちょうど頭ひとつ分の身長と言い、2人の再会までに時間が掛かった事。そしてミハに勉強面で恩返し出来ると張り切ったヒフミの暴走とも見えるだろう。
ハナコは流石に茶化すことも出来ず微笑み、コハルはこれはエッチなのだろうか…と黒い羽を揺らすことしか出来ないが肝心のミハもヒフミも嫌がっていないという現状だ。
「“あと一週間か……”」
後一週間後。そこで少女たちの進展を懸けたテストが行われる。
先生の呟きを他所に少女たちの微笑ましい騒ぎ声は鳴り止むことはなかった。
◆
〈一週間後〉
「“では……”」
「“試験、開始!”」
先生の掛け声と共に紙を捲る音と何かを書く音が響く。
勉強を本格的に始めて一週間…部活動として自主的に集まった期間を入れればおよそ二週間強ぐらいにはなるのだろうか。テストの合格点は60点。そしてテストの内容はそこまで難しくない…あくまで基礎の範囲を確認するようなモノだ。
(これぐらいなら……!)
ヒフミはサラサラと書き上げていく。おそらく部長として一番部員の進展を心配しているのはヒフミだろう。今回のテストに落ちてしまえば次は“合宿”という形で勉強詰めになるし、何より“補習授業部”の意味がヒフミの胸の内を苦しめる。
(……ふむ。ここはこうで……)
その後ろでアズサが拙い手つきでシャーペンを滑らせる。
そもそもアズサが“補習授業部”入りした理由が純粋に成績が足りていないという事である。勿論、“上”からすると色々と問題事が渦巻いていたアズサの周囲から一度距離を離すために“補習授業部”に入れたのだが、そんな考えがなくても純粋に成績が足りていない、或いはギリギリなのがアズサだった。
「んふふ〜」
そんなアズサの隣で笑うのはハナコ。驚かしい事にハナコはシャーペンも持たず片肘を突いてアズサの方向を見ながら笑っている。そんな余裕ある動作に颯爽と解けてしまったのかというほどの余裕が垣間見える。
(……ぅ……あぅ……)
ハナコの前で顔色を変えながらシャーペンの手が止まっているのがコハルだった。コハルがこの補習授業部に入れられたのは飛び級の試験を受けて落ちた事だと豪語するが、それであっても単純に成績が足りないというのがコハルの現状であるのが事実だ。
ミハとの出会いで多少は意欲があるみたいだが、そこが勉強に対してのやる気に繋がるかと言われれば少し首を傾げたくなるだろう。つまり、多少今回のテストに対策はしているが…それでも足りない所が多い。という事だ。
(ふーん…ここはこうで…)
ヒフミの前でシャーペンを踊らせるのはミハ。
成績が足りない…ではなく無い彼女は、今回のテストにやる気を多少見せている。
とは言っても結構付け焼刃も鈍で覚えていても間違えて覚えていたり、公式がごちゃ混ぜになっているという事で高得点は厳しいように見える。
そんなこんなでテストは終わり──────
先生の手で返される事になった。
「“それじゃあ返却して行くね”」
「よろしくおねがいします!」
まずヒフミ────────72点 合格
「………よし!」
次にアズサ────────34点 不合格
「……はいぃぃ!?」
「ふむ…もう少しだったな」
「いえいえ!?結構差がありますよ!?」
さもありなん。60点と34点ではおよそ20点以上の差がある。
そして次にコハル───────21点 不合格
「!?」
「コハルちゃん!?…力を隠してたんですよね?そうですよね!?今回は手をぬいちゃダメだったのにぃぃぃ!!」
「そ…その結構難しかったし……」
「基礎問題ですよ!!」
ヒフミのツッコミが盛大に続く中。最後の2人になった。
ハナコ───────2点 不合格
「!!!??、!?!?」
「わお」
「笑い事じゃ無いですよ!!?逆に何があったんですか?というか勉強出来たんじゃぁ……?」
「どうやら勉強できるように見えるらしいですねぇ……まあ出来るとは言ってませんが」
「聞いてませんよ!?」
「草」
ヒフミのツッコミだけでなく、ミハの冷静な呟きの合いの手を前についにヒフミは崩れ落ちる。まさか5人もいて、合格が2人だけとなると本当にこのままでは“合宿”確定だと頭を抱える事になった。
「合格者は私とミハちゃんだけですかぁ……」
ミハ───────55点 不合格
「は?」
「おっゾロ目じゃん。ラッキー」
「ミ・ハ・ちゃん〜!?」
隣で噴火寸前のヒフミを完全にシャットアウトしながらミハはテストを喜ぶ。
ゾロ目を取るんだったらせめて66とか有っただろ…と先生も思わないわけじゃないがミハの近くで体を震わせながら頭に怒りマークを激しく散らし始めたヒフミの怒気に負けた。
「なんで落ちてるんですか!?というか落ちる余地がありますか!?過去問で8割取れてましたよねぇ!!??」
「いや〜…本番に弱くてなぁ」
「その真逆な人が何を言いますかぁ!!」
食ってかかるヒフミにのらりくらりと躱すミハ。
絵面はまるで大型犬に戯れつく子猫を見ている感じだ。まあ現実はそんなゆるふわなモノでは無いが。
「………というわけで!はい!合宿です!!」
「“ヒフミ、無茶してない?”」
「わりとヤケクソです」
◆
〈翌日〉
トリニティにある別館。そこを貸し切って“補習授業部”はここから週間単位で缶詰になり勉強する事が確定している。だが別館と言えど使われてないから埃っぽいだけであって、食事スペースやインフラ関係は問題ない。
とりあえず清掃から始めようという事で体操服で集まり、掃除を始めたのだった。
「えーっと…ここはこうして」
周辺の掃除から始まった大掃除は次第に手分けする事にした。
ヒフミは部長として色んな所を周り、アズサは廊下、コハルはロビー、ハナコは寝室、ミハは重たいものの移動やゴミ捨てなどをこなし、瞬く間に別館は綺麗になった。
「“こんなところかな”」
「終わったー」
先生も食事スペースの掃除を終え、ひと段落ついた頃にはもう午後だった。周囲では疲労に息が上がっていたり、腕が凝ったのか回してる。
「いいえ。後最後一つ残ってますよ」
「あれ?そうでしたっけ?」
ハナコの発言にヒフミが聞き返す。
全部の掃除は終わらせたはず。特に見落としているようなところは無いはずなのだが……
「はい。とっても大事なところが❤️」
「「「「「?」」」」」
ハナコの案内の元、とある場所に進む。
「……プール?」
「はい。そうです!」
確かにここには使われていないプールがある。
だがその寂れ具合は数年以上使っていない事が窺われるほどであるがそれでもここも掃除した方が良いとハナコは意見を通す。…やはり何より今から勉強漬けが確定しているのだ。遊べるのは数日とないのだから今日ぐらいは遊ぼうと全員の意見が合致した瞬間だった。
「む。こっちの掃除は終わった」
「ちょっ!ヒフミィ!水かけんな!」
「あはは!ミハちゃんもずぶ濡れになりましょ!」
「……最初にヒフミを騙して水浸しにしたのが不味かった……うおっ!!」
ブラシを持ちながら滑るように走るアズサの前でヒフミとミハが暴れる。横からホースで地面を濡らしながら明らかにミハを狙っているし、ミハも器用に体幹を生かして避けながらブラシで擦っている。……ミハは本気で避けているのではなく、ある程度当たるように動いているのが分かるように、両者共々ずぶ濡れだ。
「見てください!虹ですよ虹!」
「……なんで私がこんなところに……」
「虹も良いが助けてくれ……!」
奥で嘆いているコハルと。向こうではハナコが水をばら撒き、滑るようにして避け続けるミハの姿が近づく。もちろん、そんな風にしているとハナコにも水がかかる事は明白で……
そう。ホースで水かけ合いが始まる。
ヒフミとハナコの間でゴングがなった。そしてそれを煽るミハ。
〈少女達乱闘中〉
終わりなき争いはコハルの一声で収まった。掃除もその後、至って真面目にやったのもあったが始めたのが遅かったからか水が溜まる頃にはもう夜遅くになってしまっていた。
「……ぅ……すぅ……」
「あらあらコハルちゃんお眠ですね〜」
「……そろそろ、寝るか」
「話を、しませんか?」
「……浦和ハナコ」
「はい……お久しぶりですね。聖園ミハさん」
「ああ………………」
「………………………」
「ここで…お前の姿を見た時。正直に言うなら驚いた」
「それは……まあ」
「文武両道。それでいて“あの”記録を打ち立てた…と当時も騒がれていた」
「まあ。そんな事もありましたね」
「次期ティーパーティーか次期シスターフッドリーダーか」
「………懐かしいですね」
「そうだな」
「…………………………実は、ミハちゃんが停学になったと聞いた時耳を疑ったんです」
「ほう?」
「だって…だってあんなの明らかに言いがかりって誰が見ても分かってたじゃないですか。あんな論弁…誰も聞こうとさえしなかったはずなのに……っ!」
「そうだったか」
「ミハちゃんだけでした……貴方だけだったんですよ…停学を受け入れてたのは…っ!」
「………………………」
「貴方が少しでも異議申し立てすれば…」
「……………なあ。ハナコ」
「……………………はい」
「今、幸せか?」
「……………………どう、なんでしょうね。」
「私は……オレは生き方を決めた。それだけだ。……じゃあな、おやすみ」
「…………………」
「どう、すればよかったんでしょうね」
早朝。まだ生徒達さえも寝ているような時間。補習が始まって数日経ったある日、先生である私はあのプールに呼び出された。……その呼び出した相手は
「へぇ〜ここに水が入っているなんて久しぶりに見たなー。そう言えば最近ミハちゃんと遊べてないし……」
「“お待たせ……それで何の用かな?”」
ミハに非常によく似た姿。ピンク髪に金色の眼差しはプールを映している。
「“ミカ”」
「………えへへ〜」
そう、それは聖園ミカ。……ミハの実の姉でありながらトリニティの生徒会長の1人。
成績以外は上手くいき始めた補習授業部の合宿。
ミカの急な呼び出し。ミカは一体何を言いたいのだろうか。
次回。【姉妹】
姉妹の雁はまだ葦を咥える事は─────ない。
感想、評価お待ちしてます。