君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
エデン条約編第一章
“補習授業部へようこそ!”完読
早朝。まだ寝ているような早朝に先生はプールサイドに立っていた。
呼び出した相手は聖園ミカ。…ミハの実の姉でありトリニティの生徒会長でもある。
「にしても随分と良いところナギちゃんも準備したよねー…やっぱりミハちゃんが心配なのかな?……先生はどう思う?」
「“…………”」
「あはは〜そう警戒されるのは心外だなぁ……あっ!キチンと食べてる?後で紅茶とお菓子持ってこようか?ミハちゃんの大好きなお菓子とかあったら先生とミハちゃんの間で会話が弾むでしょ?……でもミハちゃんにはあげないけどね」
「“………ミカ”」
「分かってるって。それで話の本題でしょ?…前書きが長いのは悪い癖だね。ミハちゃんもそういうの嫌がるし。」
「“………………”」
「それじゃ…あたらめて先生。ナギちゃんから何か頼まれてなかった?」
ミカの眼差しが怪しげに輝く。決して嘘も虚報も許さないというミカの眼差しに先生は少し前、第一回目のテストが終わった頃ナギサに呼び出された事を思い出した。
◆
「先生もお忙しい中、ありがとうございます」
「“ううん。大丈夫だよ”」
夜よりの夕方に先生はナギサに呼び出された。前回と同じ場所には後ろに立っていたトリニティの子たちやミカの姿は無く、ナギサ1人だけだった。
「それで、先生に伝えたい事があったのですが…どうやら先生にも言いたい事がおありのようですね。」
「“1つ聞かせて欲しいんだ”」
「どうぞ…とは言っても秘匿情報は流石に口にできませんがね」
「“この試験に3回とも不合格になったらどうなるの?”」
「…………………なるほど。ヒフミさんか…まあミハさんの可能性もありますね」
何処かで耳に挟んだのでしょうか。とナギサはあくまで変わらない様子でティーカップに口をつける。先生としてはヒフミが言っていたこのテストは3回まであると言う言葉。そしてミハに熱心に教える姿。ある程度想像は付いているが果たして
「文武両道を掲げるトリニティとして相応しくない。という決断を下さずにはいられませんね。落第を逃れられない、或いは助け合えない……つまりは皆さん一緒に、退学という事になります。」
「“退学!?”」
「勿論、本来ならば落第、停学、退学などに対する校則もありますし十分それに“見合った罰則”であるかや、場合によっては“異議申し立て”をする事で再審…ではありませんが沢山の確認や議論の後で決まった決断が下されます」
「“………………”」
「ですが今回、特例として“補習授業部”に関してはこれらの校則を“一部”無視できるように調整させていただいています。……シャーレという外部組織の顧問をお招きできたのもこの措置によるモノですから一概に悪い、とは言えませんがね?」
「というよりそもそも……」
何かを言いにくそうにナギサは言葉を詰まらせる。
だがそんな事さえも考えられないほど先生の脳内はショート寸前だった。3回の不合格の後に退学。そしてその処置は絶対に決まったもであるという事実。
「“補習授業部”は退学させる為に作ったモノですから」
「“……………え”」
サラリと告げたナギサの言葉を飲み込むのに時間がかかる様子だ。
それもそのはず、あの補習授業部にはナギサも大切にしてる事が伺えるミハだっているものだ。だというのに、退学させるという非道な処置に先生の脳は停止してしまった。
「“どうして、そんな事を”」
「…………悲しい事ですが、あの中に」
一度瞳を伏せてナギサは声にする。
その真実はあまりにも苦しいモノだ。誰かを疑うというのはそれだけで辛いのだから。
「トリニティの裏切り者がいるからです」
「“裏切り者……?”」
「はい。……そしてその裏切り者の目的は“エデン条約の阻止”」
一つの紙束をナギサは掲げる。そこにはティーパーティーのマークと見られるカップのマークと、万魔殿と大きく描かれたロゴが隣り合わせに刻まれていた。
「エデン条約…簡単にいうなら、今まで仲の悪かったトリニティとゲヘナは仲良く手を取り合おうという話です。」
「不可侵条約と名を置き、両校の中心的な人物が通して名前を連ねる事でエデン条約機構…或いは【ETO】と省略した中立組織を作ろうという話です。」
「勿論、これら条約は全て両校の小競り合いや紛争、問題に介入する事で今まで半冷戦状態に近かったのが何かの弾みで全面戦争になる事を防ぐ…という視点で見ても合理的で安全です。」
「ですが」
「トリニティとゲヘナの長きに渡る敵対関係は重荷になると同時に、一種の防波堤でもあります。……大事を起こそうとするならばそれを邪魔するのもまた道理。そして今回のこれはただ相手が“気に入らない”というだけで邪魔するのも考えられます。」
「“だから補習授業部を……”」
「話が早いのはありがたい事です。……そうですね。今回、長きに渡るこの条約を締結するのが気に食わないというその“誰か”は全て纏めて置きました」
「最悪、“箱”ごと棄ててしまえば問題ないでしょう?」
「“………………”」
「というわけで先生。補習授業部を導くと共に……」
「トリニティの裏切り者を探していただけませんか?」
◆
「例えば……えーっとね。裏切り者、とか?」
「“……。”」
「ふぅ…やっぱりか。」
頭が痛そうに親指をこめかみで回すミカ。どうやらその様子を見ているとミカはナギサとは違う何かを知っているのか、或いはナギサとはまた違った考えをしているのかと勘繰ってしまいそうになる。
「それで、先生?どこまで聞いてる?どうしてこのメンバーが集められてるか?とか…そもそも裏切り者が誰なのかーとか。……もしかしてミハちゃんが」
「“ミカ”」
「……はぁ。もう会話を楽しもうよ。まあ信用できないのは分かるけどね?」
これでも繊細でか弱い泣き虫なんだよ?と言いながらも叛意はない事を示すように手を上に上げる。その微笑みと言い、ミハとは違って感情表現が大きい子だなとは思う。
「教えてあげようか。トリニティの裏切り者」
「“それは、どうして?”」
「うーん。正直に言うならこの問題は一筋縄ではいかないの。それにただナギちゃんに振り回されるだけの先生を見てると申し訳ない気持ちで溢れてくるし」
「そもそも先生を補習授業部に招待したのは私だからね。知ってた?」
「“ミカが?”」
「そう。ナギちゃんは借りをこんなところで返すなんて〜って言ってたけどまあ私にも色々あってね」
「第三者の立場とミハちゃんの安全が欲しかったの」
「“ミハの?”」
「そう。こればかりはミハちゃんの話だから勝手に口には出来ないけどミハちゃんの取り巻くモノも結構面倒くさいの」
「“……”」
「ま。何せ色々あってね〜……あ。そうそう裏切り者はね」
「白洲アズサ」
「“アズサが?”」
「そう。それでね?先生。あの子を守って欲しいの」
困惑する先生を前にミカは解説を続ける。
アズサの転校する前の学校。その名前は“アリウス”。本来ならトリニティの分派の一つであったはずのそれは昔の血生臭い弾圧によって歴史から名前を消した筈の学校。
「まあ何も学ぶことも無い場所と子供を学校と生徒と呼んでいいのか疑問だけど…」
「話を戻すね。それでその弾圧が始まったのはこのトリニティが纏まろうとした第一回公会議…まるで似てるね?今回のエデン条約に。」
「美談のようだけどあくまでこれは武力行使を纏めているだけ。じゃあその次は?強くなりすぎた力はいずれその力の“先”を求めるようになる。」
「次は一体、何を排除するんだろうね」
「ミハちゃんの一件から、ナギちゃんはそう言うことに執着し始めた。そして…或いはセイアちゃんの」
「これはいいかな」
「“セイアは…どうなったの?”」
「本当に目ざといね先生。…大人って人はそう言うモノなのかな」
「いいよ。言ってあげる。他言無用ではあったんだけど…まあ先生とミハちゃんを見てるとある程度信用できそうだし」
「“……”」
「破壊されたんだよ。ヘイローを」
「“!?”」
それはつまりここキヴォトスの生徒の死を意味する言葉。だがしかしヘイローは生半可な攻撃では壊れないのだという話だが
「原因不明、犯人不明。いうなら本当にセイアちゃんはヘイローの破壊が原因で亡くなったとだけしか分かってない」
「色々と秘密主義だし私の顔見てミハ?と口にした辺りミハちゃんとの関わりもあったみたいだけど如何せん秘密主義だったって事もあってね」
というか事あるごとにミハちゃんの事を聞いてくる辺り本当にミハちゃんは人たらしだよねートリニティの主要な所に大体ミハちゃんの友人いるんじゃない?というミカの呟きを胸に、先生は深く考えることになった。
「“それじゃあ補習授業部は?”」
「ああ。良いところに気がついたね先生。」
「あれはナギちゃんが疑った子を封じ込める檻だよ」
「“檻?”」
「そう。ハナコちゃんは優秀な子でね。ティーパーティーからもシスターフッドって所からも勧誘を受けてた子。でもある時からあの子は変わって、落第寸前までいってこの通り。」
「何があったんだろね」
「コハルちゃんは純粋に正義実現委員会への人質。ゲヘナが嫌いで手中にない武力とか何が起きるかわからない。だから正実から1人選んだんだろうね。まあ成績が悪い順かな?」
「ヒフミちゃんは悪名高いブラックマーケットの度重なる侵入。それに裏組織に繋がる組織に関わりがあるって話。」
「“…………”」
「ミハちゃんととても仲が良いって報告だし私もそういう所を目にしたことがあったけどミハちゃんが停学…失踪してから見るからにやる気を失っていったみたいで」
「別にヒフミちゃんに関してはナギちゃんもどちらでも良かったんじゃ無いかな。おそらくそういう関わりもミハちゃん探しだと考えれば不思議では無いし。」
「おそらくナギちゃんからすればここでヒフミちゃんに恩を売りたかったのかな?早めの退学という事で自由に動ける権利を付与して、後ろ手でヒフミちゃんを守る。……それでミハちゃんを探し出せても探せなくても利があるからね」
「“ミハが失踪?”」
「ああ。そうそう。それが本題」
ミカは思い出したかのように先生に近づく。
そこには先ほどまでの軽薄さは隠れ、どこか必死に見えた。
「ミハちゃんの停学。実はその間、ミハちゃん失踪してたの。文字通り、家にも帰らず電話も残さずに。」
「“それは‥”」
「先生の言いたいことはわかるよ?でもね。それまでミハちゃんは私と同じぐらいの背丈で性格もどちらかと言えばヒフミちゃん寄りの子だったの」
「“!?”」
「先生の反応もわかるよ。でもね。どうしてああなったのか。それが分からないの」
「何か危険な事に巻き込まれたのは知ってる。何か不味いことに足を踏み入れたんじゃ無いかって予想もつく」
「“‥‥‥”」
「聞いてるかもしれないけど、本当はミハちゃんはもう補習授業部を退部してる筈だったの」
◆
あの日、ナギサ直々にトリニティの裏切り者を探して欲しいという問いに先生は苦渋にもミハの事を口にせざるをえなかった。
「“それはミハもかい?”」
「はい?……何を言ってるんですか先生。ミハさんはもう今回のテストの合格で成績の保持は認められて退部が…」
「は?ミハさん?」
慌てたように先生に手渡した紙束を引っ張り出し、ミハの記載欄を見る。どうやらナギサは見るまでもなくミハの合格を確信していたようだが
「55点…って、やってくれましたねミハさん」
「“わざと手を抜いたってこと?”」
「ええ。おそらく。というかほぼ確定です。」
これぐらいの問題、いくら勉強してないとは言え対策出来ていないわけがありません。それにこれは去年の問題も多く含んでいるので過去問をしていた筈の2人なら解けないわけがない。とナギサは断言する。
「分かっていなくても勘で動きましたか」
「“何か合格してないとダメなの?”」
「いえそういうわけではありません。ただミハさんの事です。ヒフミさんを残して退部する事はしなかったのでしょう。」
ナギサの解説ならこの通り。ミハはこの時点でテストに合格しているのなら昔の成績といい、停学になった経緯や今までの素行を鑑みて補習授業部を一足先に退部させる事が出来る。
だけどそれを知ったのか察したのか分からないが友人のヒフミを1人残す事などミハには選択の中には無かったから、かくなる上は自身の成績を落として入部を続けたという事だ。
「“友人思いなんだね。ミハって”」
「そうですね。素っ気ない態度を取ることはありますが友人へのフォローや優しさ。一定以上は踏み込まない空気を読む絶妙さで色んな所にミハさんの友人が居ますからね」
先生の何気ない呟きに全力で答えるナギサ。
それだけでナギサがどれだけミハを気に入ってるかわかるというモノだ。それでも先生としては不思議な感覚が渦巻いていた。
(“メグミとミハ”)
『はっ。タダ働きは、ゴメンだね』
『はぁ。またペロロ様探しに行くのか?付いていくとはいえ気をつけろよ』
刀を担いで乾いた笑みで笑ったメグミと優しげにヒフミの隣を歩くミハ。一体、彼女はどっちが本当の彼女なのだろうか。それともあの二面も彼女だというのだろうか。
「……ではすみません先生。裏切り者探し手伝っていただけますか?」
「“私は私のやり方で対処するね”」
こんな疑い続けるのは難しいでしょうが、それでもこれからの平和を天秤に掛けるのならどちらが大切か分かるだろう?というナギサの暗黙の質問に先生は切り捨てる。
「そうですか……それは残念です。ですがお忘れなきよう。」
「選別が難しいモノは纏めて箱ごと破棄します。しかしその中から必要なモノだけの取り出しは先に済ませておきますがね」
「“…………”」
「ちなみにテストに関して、“今回の”テストは我々は関与していない。とだけ伝えておきます。」
それはそれで問題の点数の子が居るのだが、という先生の声は喉を通ることなく消えていった。
◆
「“そう、らしいね”」
「あっ。やっぱり聞いてた?」
なら、話は早いとミカは続ける。
「なんでか知らないけど今のミハちゃん、昔の友人と会う事もしてないし。ヒフミちゃんは別だけどね?それに私たちにも素っ気ない態度が目立つし」
「ミハちゃんが何をしたのか。とか何に巻き込まれたのか。先生、調べてもらってもいい?」
あっ。別に強制ってわけじゃないよ。というか多分ミハちゃん本人の口から聞かないと分からないだろうしとミカは続ける。
つまりミカが言うにはミハと仲良くしてトリニティ以外でやっていた事やその理由を探して欲しいと言う事だった。確かに、ある日突然性格が変容してああなったとしても例えばヒフミがグレたとしても今のミハみたいになるかと言われれば原因があるだろうと疑うだろう。
「“分かった。私は先生だからね”」
「………ありがとう先生。また何かあったら会おうね」
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