君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
「ミハ……君との時間は楽しかった。」
「君だけだった。私の力を求めるのでもなく、ただの友人として私と共に居てくれたのは」
「例え……それがいつか終わる夢だと知っていても」
「君が、私の予知に映らなくなったのはいつからだろうか。」
「私の予知は外れる事を知らない。映らないとはそう言う事なんだろう。」
「………どうしてミカが…いや。それだけではない。まるで誰かが………」
補習授業部の合宿が始まり、早くも数日。その中には多くのことが有った。
まずは大掃除から始まったこの合宿会場での生活はおよそその数日の半分も行かないところで大きな問題に直面した。
突然の大雨で洗濯物が再度洗わなければならない事態になって洗濯機を回していたら雷雨による落雷で停電し、洗濯ができない…そして着るものがないということで全員で水着を着たのは良いもののミハの水着姿という合法的な裸体による影響でコハルがエッチと言いかけたり(事実、目に毒なのは否定できない)、アズサがその鍛え上げられた事が丸わかりの四肢を目を輝かせながら褒めて共に筋肉を鍛える談義に入ったりとしていたのだった。そして少女たちの雑談は進む……
「それでとっくに潰れたアミューズメントパークなのに夜な夜な声が聞こえて……」
「そんなわけない!聞き間違いよ!」
「あー。ハナコ、あそこだろ?あのトリニティ郊外の」
「あれ?意外ですねミハちゃん。この話を知ってるだなんて」
「ミハちゃん……?」
「あそこ、わりと出るって噂だからな……」
「え……?うそ、ミハ先輩ほ、本気……!?」
「その口ぶりだとミハ。見た事あるのか?」
「………ああ。いたぜ」
「(ゴクリ……)」
「タネも仕掛けも無く、気がついた時には後ろに物言わぬ静かな目に殺意を込めながらネコのぬいぐるみたちが練り歩いて…」
「ひっ……」
そんな事に続き、その日はハナコの思いつきによって夜の街に出かける事になった。ハナコの言い分はこのまま休日を後は寝て過ごすのはやはりやりきれないという思いだそうだ。確かに雨の中で輪を作りながらの会話は話が進み、今まで以上に仲良くなれたようで全員の仲が進んだように見える。
「……ま。そうだな。それも醍醐味だな」
「でしょう!さすがミハちゃん!」
外に出ることは禁じられていると苦言をいうコハルに、ミハはハナコを援護するように言葉をかける。事実、ヒフミもミハも行ってはいけない場所にはよく行ってたしこの前もヒフミ1人でブラックマーケットという危険地帯中の危険地帯に出向いているので今更どうということはなかった。
それで各自、着替えて先生の監督の元トリニティの商店街に来た。
夜だというのにまだ明るく活気がある。そこにはまだスイーツ屋やカフェなど多くの店が空いているということだった。そうして歩いているとふとコハルの会話に耳を傾けた。曰く、ハスミ先輩がまたキレたという話だ。
エデン条約のためにゲヘナとの会談の際、ハスミのその体型について凄い言いようされたということでブチギレて今度こそ本気でダイエットをすると言っていたが…まあミハは心の中で1人、まず無理だろなと合掌した。ただでさえミハより少し大きめの身体に正実としてカロリーを消費しているのに食べなければ足りないので逆に暴食してしまうのが目に見えている。
そんな話をしていたらハナコが一つのカフェを指差した。
「スイーツの話してたら小腹空いてきませんか?」
「確かに。いいな」
「“賛成”」
「……背徳感って奴だな」
深夜に食べるモノこそ美味いものはないと全員が顔を見合わせて店に入った所だった。そこの限定のパフェはもう先ほど売り切れたという事で周囲を見渡したらそこには特徴的な黒い羽と正実の制服。そしてミハよりも背が少しだけ高い少女がパフェを頬張っていた。
「“ハスミ……?”」
「!?先生……?」
「……………げっ」
ある人はパフェ用のスプーンを片手に手を押さえ、ある大人は意外な人物に目を見開き、ある人はこんなところで先輩と会えるなんてと絶句し、ある人は会いたくなかった人と会ってしまったと苦虫を噛み潰したかのように頬を歪めた。
「どうしてここに……?」
そう。なんとパフェを食べていたのは先ほどまでダイエットするらしいという話を聞いていたハスミだった。
「ハスミさん、奇遇ですね♡真夜中にパフェを三つとは…ダイエット中と聞いたんですが」
「これはですね……その……」
「はい。わかっております。夜中にお腹が空いては寝れませんもんね」
「.........ぅ。そうですね……」
ハナコの問いかけにハスミは答えにくそうに顔を背ける。
だが流石のハスミも気がついた様だ。この場にいるのが補習授業部全員であるということ。そしてその補習授業部は合宿場から出てはならないという話だが、ハスミもダイエットすると言っておきながら人目を盗んでパフェを食べているのだから両者他言禁止ということで手打ちとなった。
「……それで、その後ろに隠れてる。ミハさん」
「……………………」
「ちょ、ちょっとミハちゃん?正実の方から話が……」
「“ミハ?”」
とそこまでハスミと補習授業部の話。ひと段落ついたと解散しようとした所だった。ハスミがヒフミの背に隠れていたミハの姿を呼び止めたのは。ちなみにこの時のミハはヒフミの背から十分見えているので隠れているふりというのが適切だが。
勿論、そんなミハにヒフミは何かしたのかと不安げに問うし何かとミハについて聞いていた先生もミハに問いかける。すると流石に分が悪いとヒフミの背で顔を隠していたミハがハスミの前に立つ。
「や。ハスミ。久しいな」
「久しいな、ではありません。ミハさん。」
今の今まで何処に行ってたんですか。そう問うハスミの声色は冷ややかに凍りつくようだ。それもそうだ。ミハは一時期ハスミの家に寄生して、ある時からピタリと来る事をやめてしまった家主からは心配も心配レベルの事をしていたのだが。(episode.合縁奇縁参照)
「今まで何処に行ってたんですか。いえ。そもそもああなった経緯からしておかしいんですよ。挙げ句の果てには私の家に泊まりにきたと思えば朝早くに出て夜遅くに帰ってくる貴方との生活に愛着が湧いていた私が何か言えるようではありませんがそれでも少しは連絡入れてくれても良いんじゃないですか?一日ぐらい帰ってこない日もあるだろうと待って二日三日、4、5、6そして一週間、1ヶ月2ヶ月…何か危険な事に巻き込まれたんじゃないかって私も気が気じゃなかったですよ。」
「ノ、ノンブレス……」
「ノンブレスではありません。まだまだ言いたいことはありますがとりあえずこれぐらいで収めてるだけです。というか突然復学してきたあなたの名前を見て私が何も思わないわけがないでしょう。しかも復学したら復学したで私に一度も会いにこない始末。どうせ私だから大丈夫だろうと思ってほったらかしにしてたのでしょう」
「そ、そういうわけじゃないん…ですよ?」
めちゃくちゃ詰めてくるハスミに顔を背けて目と目が合わないように最大限抵抗するミハ。どちらが優勢なのか一目見て分かるほどだ。そんなミハの姿に何か気が付いたのかヒフミの目からはハイライトがバイバイしかけているし、ハナコは大体察したのか微笑ましく笑っているし、アズサとコハルは2人は仲が良いんだなと笑っている。
ちなみに先生は似たような修羅場を知っているからか胃を痛くしながら見なかったふりをした。
「そもそもですね………ってこんな時間に……?」
『ハスミ先輩、ちょっと問題が発生しまして。今どちらに?』
「………ほっ」
「ミハちゃん、後でお話があります」
このままお叱りが続くのかと考えていたら正実からの通信。その内容はゲヘナの生徒がトリニティ自治区内で暴れているとのことだ。暴れているのはゲヘナでも有数の問題児集団、美食研究会の一味。
そんなハスミを前にミハはわざとらしく大きく安堵したような動作でため息を吐く。まあその横にはすでにヒフミが笑みを浮かべたままミハの腕を掴んでいたので逃げられたというわけではないのだが。
◆
その後の話をしよう。ゲヘナということもあってかこのまま放っておく事ができなかった先生の指揮のもと美食研究会の鎮圧に乗り出す事になった。尚、その時のミハは何も持って来てないという事で護身用の拳銃を使って戦っていた(それでもある程度の戦果を出している)後に、美食研究会は捕らえられ、先生の手によってゲヘナに引き渡される事になった。
そんな休日を余す事なく楽しんだ?補習授業部は翌日からまた勉強ずくめという事になった。本番を考えて行われた今回の模擬テストでは全員が合格点に届くという結果になり、ご褒美を用意していたヒフミ愛用のモモフレンズシリーズのぬいぐるみをミハもちゃっかりと一個いただいてたりする。
───────そして、本番前夜
「そういえばそろそろテストに関して詳細が出て来ますね」
とは言っても、前回と大体同じで場所が少し変わるぐらいだろうか。とヒフミはスマホを取り出し情報を確認した。その時だった。
「………っ!?」
「……ヒフミ、どうかしたのか?」
スマホの画面を見たまま目を見開き、停止するヒフミの姿があった。
今回のテストで全員合格をしてしまうのだからもう会うことはないだろうとしんみりしていた所で、みんながまた会おうと纏めかかっていた所のヒフミの絶句した表情である。
「ええっ!?嘘でしょう!?」
「えっと……「“補習授業部”の第二次特別学力試験」に関する変更のお知らせ…?」
その内容は…本来ならあり得ない変更点。
まずは試験範囲を既存の範囲から三倍に拡大、そして合格ラインを6割から9割に引き上げ。そしてもう二つの変更点。それは……
「し、試験会場はゲヘナ自治区第十五エリア七十七番街、廃墟一階……」
「そして……」
スマホを覗いていた全員がミハの顔を見合わせる。
そしてもう一つの変更点。それはミハのテストを受ける場所だけ1人違うという事。
「“事情”を考慮し、聖園ミハのテスト会場をトリニティ別館D-6で執り行う……!」
「………なるほど、そう来たか」
ミハの小さく呟く言葉と、そして会話の中に出て来た退学というコハルとアズサは知らなかった裏事情を全て暴露した上で全ての決断は少女たちに委ねられた。
「分かった。では行こう」
「……アズサちゃん!?」
数秒の考慮の隙もなく、アズサが銃を持ち立ち上がる。
ゲヘナの自治区でテストをするという前代未聞の事態。そしてテストが始まるのは深夜の3時。もしこのテストに出席するのであればもうここを出てゲヘナに向かわなくてはならない。さらにとアズサは言葉を紡ぐ。
「驚くにせよ。怒るにせよ。全てテストを終わらせなくては。今、なすべき事は文句を言うことではないはずだ。まだ足掻ける余地はある」
「足掻ける…余地……ね」
「各自、装備を忘れずに」
ヒフミの立ち上がりと共に、コハルも銃を取りにと部屋に戻って行った。
残されたのは先生とヒフミたち。いうならこれは補習授業部を絶対に落とすためだけに作られた様なものだ。そこまでして退学に追い込みたいのかという話になるがナギサがそう考えたのならば何の権限も持たない少女たちが敵うわけがない。
「“ミハは……どうするの?”」
後ろ髪を引かれながらもヒフミとハナコも銃を取りに教室から出ていく。
残されたのは椅子に座ったまま口元に組んだ手を置いたまま目を閉じたミハの姿だけ。
「………なあ先生。」
「“どうしたの?”」
「どうするべきだと思う。」
ミハの置かれた現状も理解できる。言うならばこれはミハを板挟みにして孤立させようとするナギサの手段だ。ただでさえ疑心暗鬼の闇の中にいるナギサがこうして露骨な手段を取ると言う事はもうなりふり構っていられないのだろうと先生は考える。信じたいものだけ信じて、見たいものだけ見る。つまり今のナギサにとって補習授業部は裏切り者で、ミハだけはその中に入れられた被害者だと考えている。
そんな中、ミハは悩みだけが募っていく。それは友情を天秤に懸けると言う残酷な思い。何より恐ろしいのはナギサの側にミハの姉であるミカがいる事だ。
「“……………ミハ”」
「“それを決めるのは私じゃないよ”」
「……………………」
「“でもどの選択をしたとしても、みんなは分かってくれると思うよ”」
「………そうかい」
一度、ミハは深く目を閉じたように見えた。
息を大きく吐いたミハが次に目を開けた時、その姿は先生にとっても見覚えのあるあの冷徹な眼差し。アビドスで会った【暴虐天使】の姿。
「今だけは“伏黒メグミ”で行かせてもらおう」
「“ミハ……君は”」
「勘違いするなよ先生。これはオレの意思だ。」
曰く、【暴虐天使】は決して裏切りを許さない。
かの者に対する裏切りは、その命を以て償う事になる。
「恐れるなかれ、暴虐天使の名を…だったか」
「“助けは必要かい?”」
「いや。アイツらの援護してくれ。」
「“ミハは?”」
「オレ?……ああ。オレはな」
首に手を置き、一回転。手足を振り準備運動を終わらせたミハの姿は何処にもない。今の彼女は、裏世界全てに恐れられた者。その名前は【暴虐天使】その人である。
「少し、暴れてくるわ」
第二次特別学力試験─────結果
浦和ハナコ──試験用紙紛失(不合格)
白洲アズサ──試験用紙紛失(不合格)
下江コハル──試験用紙紛失(不合格)
阿慈谷ヒフミ──試験用紙紛失(不合格)
聖園ミハ──試験時欠席(不合格)
いやー!ミハちゃんは優しいですね。友情に熱くそれでいて自己犠牲心も持っているというまるでメグミとは大違いですね。先生。あの日見たミハさんの姿は別なんじゃないですか?
次回【トリニティの裏切りもの】
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