君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
「いやー参ったね」
「“ミハ。おかえり”」
第二次特別学力試験会場が盛大に爆発した後、補習授業部が合宿場に戻るより一時間ほど遅く戻って来た。ミハの姿は至って変わらずだと言うのに多少砂埃が付いているという事実がミハの強さを再認識する。
「風紀委員長に追いかけられた時は流石に覚悟したね」
(“ヒナから逃げ切ったんだ……!”)
椅子に座って伸びをしながら欠伸を噛み殺すミハから呟かれた言葉。
それはつまりミハはヒナと相対しておきながらミハは逃げ切ったという事になる。ヒナの強さはアビドスの時に知っているからこそ、密かに衝撃を受ける。
「それで?これで仲良く全員第二次試験落ちだな」
「ミハちゃん………ミハちゃんは……」
「ヒフミ」
HAHAHAとわざとらしく笑うミハを前に補習授業部全員の顔が曇る。
みんな、知っているのだ。ミハだけは本来疑われるはずのないと言うのに補習授業部のために姉貴分と慕っていたはずのナギサの信頼を裏切った事を
「これは、私の責任だ。誰のものでもない。勘違いするなよ」
「……ミハさんは本当にそれで良いんですか?」
「ん?……まあ流石にここまで露骨にされるとナギサさまに思わない事がないとは言えないけどな」
HAHAHAと笑いながらも口角が引き攣っているのを見るとミハは意外と怒っているのだと気がつく。ハナコにしてはあの時、ミハだけでも受かってくれるのならそれも一つだと考えていた。おそらくゲヘナに行った時かの風紀委員会と会わなかったのは十中八九ミハの手引きが有ったのだとハナコは薄々勘付いているまである。
その後、具体的な解決策が浮かぶこともなく疲れたままでは良い考えも浮かばないとして一度休息を取る事になった。
◆
そして無情にも時間は過ぎていく。
ハナコは模擬テストでも100点を取れるがそれ以外がヒフミ、ミハに続きアズサ、コハルと団子状態の点数が続く。それでも寝る時と食べる時を除いて勉強に向かうその姿に互いにを励ましあったり、問題を出し合って正真正銘最後の試験に向けて全員合格を目指して筆を動かしていた。
そして……
「明日、ですね」
「はい。試験場とか変わらないか私が見張っておきますから皆さんは寝ておいてください」
「途中でその役目代わろう。徹夜なら慣れてる」
スマホを片手に座ったままのハナコにミハが声を掛ける。
幾ら一晩と言え明日、進展をかけた非常に大切な試験となれば一睡もしないのはまずいとミハは声をかける。事実、ミハは依頼の内容によれば徹夜などザラであるからこそ慣れていると言い数時間で代わろうと声を掛ける。
「それじゃ…ライト切りますよ」
「ああ。みんな、おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみ……」
掛け布団に潜るミハとハナコ以外はすぐに寝息が聞こえる。
流石に2人に負担を押し付けられないと半分念押しされる形でミハとコハルも床に就いたが寝ていられる様な現状ではない。ハナコは目を半開きでスマホを離さないし、ミハも瞑想状態には入っているがいつでも音を拾える様に聴覚だけはいつも以上に研ぎ澄ませていた。
「………………………」
(…………………アズサか)
そうして数十分或いは数時間経った頃、物音と共に何かが動き出すような空気の音がしたのをミハは感じ取った。空気の流れ、そして微かな息付きの特徴にアズサだと断定してそのまま放置した所だった。
(ハナコ……追うのか)
その後、アズサが出て行った直後にハナコが追いかける様に部屋を出る。
ハナコが追うなら大丈夫かと安堵したその数十分も経たぬうちに続々と部屋を出る様に立ち上がる音をミハは拾うことになった。
(ちょいちょい…!ヒフミにコハルまでかい……!)
つまり誰も彼もが寝ているふりをしていたということだ。
流石にこうなってしまってはミハも起きないという選択肢はないと立ち上がり、どこに行ったのかとなると先生のところぐらいだろうなという、まあ最悪居なければ先生の手を借りたら良いかとミハもドアノブをまわしたのだった。
「よぉお邪魔するぜ。先生」
「“ミハまで……”」
向かい側の部屋は先生の部屋であった。そこの扉を開けるとヒフミとコハル。そしてハナコの姿があった。時間帯がズレているハナコの姿を見るとどこかに行った帰りなのかとは考えるがそれは置いといてハナコは真剣な顔で本日のテスト場所についてこう説明した。
明日、試験を受ける予定の場所はその地区丸ごとがエデン条約に必要な書類を保護するという名目でティーパーティーより正義実現委員会に要請し、すでに厳戒態勢に入っているとの事だった。
「どうやら本気で退学させるつもりだな」
「ええ。ミハちゃんさえも巻き込んだ今回、もうナギサさんの堪忍袋の尾は切れていると見た方が良いでしょう」
「そ、それなら私がハスミ先輩に頼んで……!」
「それはやめておいたほうが良いだろう」
「…ミハちゃんの言う通りです。」
全員が頭を悩ませる。もはやこのトリニティに於いて補習授業部の味方になる存在はいないと言うことになる。今までは何かと言いながらミハを取り除いていた筈が今回になってはもうナギサも待ってはいられないと切り捨てに掛かったと感じるには難しくない話だった。
「………みんな、居るか」
「ア、アズサちゃん!?」
このままでは埒が開かないとミハが幾つかの案を提言しようとした所に扉が開き1人の影は滑り込む。銀髪のその少女はアズサ。ミハが最初に部屋を出て行ったと感知した少女だ。一体どこに出かけていたのだろうか。
「全て、全て私のせいなんだ」
「アズサ……?」
「“…………”」
アズサの告解は続く。アズサは転校生であるが、それはただの転校生ではない。
アズサの前にいた場所は“アリウス”。かつてこのトリニティになる前の群生した学園のうちの一つ。トリニティとして纏まる時に反対の立場を取り続けていたが故に弾圧され、名前は抹消され、世界の片隅に誰も知らない場所に追いやられた者たち。
そしてそんなアズサがここトリニティに編入した理由はただ一つ。とある任務をこなす為。
「その任務というのが……ティーパーティー桐藤ナギサ、彼女のヘイローを破壊することだ。」
アリウスは接触してきた聖園ミカを騙して、何が何でもティーパーティーを壊滅させるために動いている。和解したいなど甘い言葉を掛けておけば聖園ミカを騙すことぐらいは簡単だからだ。
「ミカさん…なるほど……」
「はっきり言ってくれて構わない。アレに政治力は皆無だろう」
言いにくそうに口を籠らせるハナコに隣からミハが相打ちを打つ。
ミハの知っているであろうミカの姿といえば政治などと言ったドロドロした場所ではなく、前線で戦友と祝杯を挙げているのが似合う様な奴であったはずだ。
「……では、アズサさん。どうしてそんな事を今言ったんですか?」
「………………」
話を戻して、ハナコはアズサの核心を突く。
アズサがその話通りに、トリニティの裏切り者であるというのならこんな話はしなくて良いはずだ。例え襲撃が明日なのだとしても、もうそれが決行されてしまえば補習授業部も関係ないトリニティ空前の危機となりうる。それであってもアズサが自供する様に言ったその理由は……
「アズサちゃん、貴方楽しかったのでしょう。」
「!?」
みんなでプールで水遊びした時も、みんなで暗闇の中水着で雑談したことも。夜中に遊びに行ってそして共に肩を並べて戦った事も。そして一緒に勉強したことも、食事を取ったことも、洗濯をしたことも。この補習授業部で行った全てがアズサにとって何事にも代えがたい記憶になって
「そう、だろう。私は楽しかった。だから…だからっ!」
簡単にいえば、情が移ってしまった。それだけのこと。
でもそれはスパイにとっては致命的で
「今回の件は絶対に成功させてはいけないんだ……!」
アズサのよく口ずさむ言葉。それは虚しいという言葉。でもその上でアズサはこう口にし続けた。“虚しいけど、今日を積み重ねない理由にはならない”と。
この楽しい記憶を。まだまだ知らない多くのことをこの補習授業部のみんなと積み重ねていきたい。と心の底から願ったが故の言葉だった。
「知った様な口になってしまいましたが、分かるんです。その気持ちが」
その言葉の後はハナコの胸の内から曝け出す。
苦い記憶。虚しい思い出。なんでこんな事も出来ないのという周囲に、頼られるだけの自分。誰も彼もが羨望と期待の眼差しを前に心の中は冷え切るばかり。
ただ、トリニティが憎かった。ここが“監獄”に見えてしかたなかった。
補習授業部に入れられた時も別にどうということはなかった。これでようやく退学になるという安堵。その中で会った新しい友人たち。その中の1人は決して諦めることは無かった。きっと今まで諦めろと言われてきたはずなのに。
「まだ、やってないことはいっぱいあります。」
「このまま放っておいて私たちはテストを受けるというのでは足りません」
襲撃の時間は9時。ちょうど、テスト開始と同じ時間。
「桐藤ナギサさんをアリウスの襲撃から守って…そしてテストで90点以上取る。」
「これが私たちの最高の答えではありませんか?」
ハナコの奮励の言葉に立ち上がる。
ただ、言葉だけではどうしようもない問題だってある。まずは同時刻という時間の問題、そしてアリウスという敵の巨大さ。今から補習授業部が行うのは“1つの学園を敵に回すということだから”
「いいえ。問題ありませんよ。」
「それは……」
「だってこの場には正義実現委員会、ゲリラ戦の達人、そしてティーパーティーの偏愛を受ける自称凡人とゲヘナから逃げられるティーパーティーの妹。そしてトリニティのほぼ全てに精通した人が揃っています。」
そしてある種のマスターキーとなりうるシャーレの先生と。
「ここまでして勝てないということはありません」
戦いのゴングが鳴り響こうとしていた。
◆
〈ほぼ同時刻・ナギサのセーフルーム〉
「………ふぅ」
ナギサは1人、幾つも用意したセーフルームの一室で腰を下ろしていた。
今のナギサの内心は荒れ狂う波に等しい。信頼して、信用していて可愛がっていた筈のミハを切り捨てるという決断は意外にもナギサの心の負担になっていた。
(これで、良い。これで、いいのです)
補習授業部を全員退学させて、全ての決着がついた後にミハさんとヒフミさんを呼び出し、どうにか理由を付けて復学させる。理由なんてこじつけで十分だ。それこそ冤罪だっただなんて言っておけば、昔からの信頼の積立があるミハさんとその親友ぐらいなら軽くティーパーティーがお願いすれば快く行く筈だ。なんなら妹のためにとミカさんにも協力してもらえば……
「どちら様です?もう紅茶はいりませんが」
「…………………」
深く考え込んでしまっていたナギサが次に顔を上げると扉をノックする音がしていた。ここのセーフルームに用意した配下からだろう。それ以外この場所は知らないのだからと気を抜いてしまった。
「寝れないんですか?……可哀想ですね」
「!?」
本来聞こえない筈の声が聞こえた。
「貴方は…浦和ハナコさん?……何故ここに。いえどうしてこの場が……!」
「それもそうでしょうね。身を守る筈の正義実現委員会を他の場所に割いて、そして貴方が愛している筈のミハちゃんを裏切ったのですから」
「………動くな」
ナギサが驚きの悲鳴をあげるよりも先に、ナギサの首筋に冷たい鉄の塊が突きつけられる。その狼藉者はハナコとアズサ。本来ならあり得ない補習授業部の2人にナギサの脳内は冷静に答えを吐き出す。
「まさか裏切り者は……2人!?」
「ああ。この場所がわかった理由ですね。それは勿論、全て把握しているからですよ。合計87個のセーフハウス。そしてそのローテーション。」
「まあ。そういうことだ。悪く思うな」
わざとらしく会話をズラすハナコと、それに同意するアズサ。
もはやこの場の主導権はナギサにない。
「……その話の前に、ナギサさん。ここまでする必要ありました?」
「…………貴方にはわかるか、分かりませんが。全ては大義のため。」
たかだか5人とトリニティ全ての生徒を天秤にかけることは出来ない。
何故ならその結果は最初から決まっているから。例えその少数の中に、自分が慈しみ、愛してそしていずれ背中を任せようとした妹分が居たとしても
「ああ……でも確かに、ヒフミさんには悪いことをしましたね。」
「………………悲しいですね。」
「…………何がでしょうか?」
ハナコの目にはナギサは疑心暗鬼の闇だけではなく、とても苦しくて悲しい決意が宿っている様に見えた。…というかそもそもそうして天秤に懸けようとした時点で間違っているとハナコは言いたくなったがそれはまた別の機会に。“色々と”ナギサさまがしてくれたお陰でハナコは少し、露悪的に伝えてしまった。
「……まあ良いでしょう。ああ。それと私たちの指揮官たちからの伝言です。」
“あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ”
“正直に言うなら、失望しました。ナギサお姉様。”
「ま、さかそれは……!!」
その二つの言葉を言うだろう2人をナギサは知っている。と声を出す前に後ろからアズサの銃撃によって気絶してしまうのだった。
「………こちら、目標達成。オーバー」
『あーあー。こっちも対象、来てるぜ』
すぐさま、トランシーバーを取り出したアズサにすぐ返信が返ってくる。
まだ、まだ始まったばかりの中。補習授業部の作戦はここからである。
ナギサ さまの 脳が 破壊される !
次回、【一転攻勢/本当の…】
感想、評価お待ちしてます。
「……それにしてもハナコ。あそこまで言う必要あったのか?」
「ふふ。少し意地返ししようかと♡」