君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
副題:顕現せしゴリラ
『とりあえず、私たちの手でナギサ様を確保しましょう』
『?それで良いの?』
『はい。向こうの狙いがナギサ様ならきっと………』
『誘い出されないわけ、無いですから』
騒々しい物音と共に、アリウス所属であるトレードマークであるガスマスクを付けた生徒が続々と夜の闇に紛れてナギサのセーフハウスを取り囲む。
(ひぃ…ふぅみよ。まだまだ来る感じか)
そんな喧騒をミハはナギサのセーフハウスの中で一番高い木の影に腰掛け、日差しを遮るポーズをしたままアリウスの動向を観察し続ける。
(到着、準備完了…そして予定通りか)
微かな空気の震え、どれほど小さな声であろうともミハの耳なら聞くことになんの特別な意味も必要はない。遂に門を蹴破って飛び込むアリウスを前にミハの隠密は十分に通用する。木の上から冷徹に見つめる視線に気が付かず、アリウスは家に入っていく。
もう、そこには“目標”は居ないというのに。
「あーあー。こっちも対象、来てるぜ」
◆
「セーフハウスを発見!対象はいません!」
「っ!?あの情報は本当だったか。」
場所と視点は変わり、先ほどまでナギサとハナコとアズサが居た場所に無粋にもアリウスの尖兵たちが雪崩れ込む。だがその場所はもぬけの殻。とある道筋から先に桐藤ナギサを襲撃した者が居たという話だが。
「周辺を探せ!できる限り音を立てるな!」
「スパイはどこだ?!アイツも探せ!」
アリウスからするのならばこれはある意味不測の事態だ。本来ならうまく行く筈の任務…桐藤ナギサのヘイローの破壊も問題なく終わる筈だったのに。
その瞬間だった。アリウスの秘匿通信に銃撃とまるで重いものがぶつかったような音がしたのは。
『ぐわっ!』
『っ!こちらチームⅣ、襲撃者だ!!』
襲撃者が襲ってきたという報告はおよそ二種類に分けられると指揮官である生徒は分かった。片方は、銃撃の音の後に制圧か爆発音。もう片方は風切る音か何かを殴る鈍い音と共に反応がなくなっている。
『「スパイ」です!スパイが裏切りましたっ!』
「……っ!?どう言うことだ!?」
アリウスの混乱を元に、一報の連絡が指揮官に入る。
『裏切り。それにそれ以上もそれ以下もない』
「っ!貴様……!」
その連絡の相手が「スパイ」だと言うことが分かった。
つまりは襲撃者に通信装置を奪われて、今こうして話していると言うことになる。
『目標は私がもらった』
「一体、どう言うことだ!!」
『早く終わらせて試験を受けなければならないから』
困惑する指揮官を前に「スパイ」は正義実現委員会に報告しているとまで通信が入り、そして有無も言わさずに切れる。どう言うわけか「スパイ」は完全に裏切ったことが分かる。向こう側に染められたと言うのだろうか。どうせ全ては虚しいことだろうに。
「……退却しますか?」
「………いや。情報が正しければ“奴ら”は動かない。このまま裏切り者を追え!」
その指揮官の声にまだ無事なアリウスの生徒たちは駆け出す。
逃げ出した裏切り者を追うために。そして“目的”を達成するためにもアリウスは失敗は許されない。
◆
〈時は少し経ち〉
ハナコの作戦であった、先に補習授業部にナギサを誘拐させアリウスを誘き出しその間に、アズサとミハがアリウスの尖兵を倒していき、その後裏切ったことを伝えた後に退却。補習授業部の合宿場で迎え撃ち、最後には合宿場の体育館で迎え撃つという作戦は上手くいっていた。
アズサの仕掛けたトラップは多岐に渡る。クレイモアから指向性の機雷。そして即席爆破装置に諸々etc…その全てをアズサは教室から廊下、そして出入り口に食堂スペースなど仕掛けていない場所を探す方がめんどくさいレベルで仕掛けていた。
(………上手くは、行ってる)
無人の廊下を駆け抜けるアズサの脳内に作戦の不備はない。
事実、用意したトラップにアリウスが引っかかって爆発するような地面を揺らす音が何度も、何度も聞こえている。
ただ、一つ気がかりなのはアズサと行動を共にしていたミハの存在。
『先に行っててくれ。しないといけない事が出来た』
最後の目標までには合流する。とだけ言って通信を落としたまま何の反応が無いままでここまで来てしまった。表面上見るだけであそこまで鍛えられているミハがアリウスから逃げきれていないわけがないとは思うがそれでも一抹の不安がある。
(けど私は私がするべきことを……!)
引っ掛けていた古典式の罠を起動させながらアズサは疾走する。
横から物が転げて、多少動きを阻害する程度だが照明を最低限まで落としているこの場では非常に有用だと考えながら、まずは次の目標地点に辿り着いた。
「……手こずらせてくれたな。白洲アズサ」
「……。」
「ここまで数を減らすとは流石ですね」
扉を前に背を向けてアズサとハナコが銃を構えながら敵を鋭く見つめ返す。
幾らアズサのトラップで数を減らしたといえどまだアリウスの小隊ほどの人数がアズサ達を取り囲み、いつでも取り押さえられる様に睨み合う。
「最後通牒だ。桐藤ナギサをどこに隠した」
「隠したが」
「…………論弁はそこまでだ。次に吐かないのなら当てる」
一発、足元に銃を撃たれ次は当てると警告する。
「一つ聞かせろ。“スクワッド”はどうした?」
「スクワッドが来るまでもないさ。…それにどうやら他にする事があったようだ」
「そうか…なら問題ないな」
瞬間、アズサの右手がスナップし後ろに準備した爆竹に火を付ける。
起爆と共に破裂音と火花が散るその玩具は鍛え上げられたアリウスといえど一瞬、怯まぬわけがない。その隙を突いて、アズサとハナコは後ろの廊下を去っていく。
「くっ!!追え!!この先は体育館だ!」
もはや逃げ場はないと声を張り上げる指揮官を前に、続々と怯みが治ってきたアリウスの先兵達が体育館へと雪崩れ込む。その奥、舞台で立ち尽くす2人の姿を見てアリウスの指揮官は勝利を確信したのだった。
「もう逃げ場はない。」
「そうだな。逃げ場はない。」
退路もない袋小路に逃げ込んだ2人を嘲笑うかの様にアリウスの兵隊は銃を構えていつでも撃てるように動き出す。その瞬間だった。横から2人の姿とその奥から1人の大人が歩いてきたのを見た。
「……ここは袋小路だ。」
「まさか!4人で我らアリウスと戦うつもりか!?」
流石に無謀だと言わざるをえない戦力差を前に指揮官は嘲笑を抑えきれない。
こちらは複数の小隊、更には大隊まで今回の襲撃に費やしている。無様に、ドブネズミのように逃げ続けた方がまだ勝機もあっただろうにと銃のリロードをしたその時だった。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──────────
何か、とてつもなく速い物が風を切ったような音が遠くで聞こえた。
「“ねえ……何か、聞こえない?”」
「何を言って……」
ドッッッッッッカッッッァアァァアアァッッッッッ!!!!!!───────
瞬間、粉砕される体育館の壁。ほぼほぼ粉々になり粉塵を巻き上げながらおおよそ人型の大穴が出来る。まるで爆発音のような甲高い物音と共に一人分の影が右脚を伸ばした様な…そう、それは先生から言わせるならライダーキックの体勢で誰かが飛び込んできたと分かった。
「お邪魔するぜ」
「“ミハ!!”」
白煙が収まった頃そこに立っていた一つの姿。それを補習授業部は知っている。
ピンク色の短い髪を揺らしながらその少女の金色の瞳だけが夜の淡い光を得て輝いている様に見える。そう、彼女こそ聖園ミハ。裏世界で轟く名は【暴虐天使】。その名前を聞くだけで誰もが震え上がる天に愛された、暴虐にして暴君。
「な、何者だ!!!」
「悪りぃが、これ以上補習授業部には手を出させねぇ。……まあ一応ナギサ様もな」
身体を低く曲げて、前傾姿勢のまま獲物を狙う獣の様だがミハの姿は無手のまま。
だと言うのにその場に居る全てのアリウス生徒が狙った瞬間に、狩られると喉を鳴らした。
「まあ、とりあえずミハさんも無事来ましたし」
補習授業部全員が銃のリロードをする音が響く。
「ひとまず、仕上げと行きましょうか♡」
「“待っていたよ。この時を”」
「ああ。殲滅戦を始める。先生、指示を」
それと同時に先生の持つタブレット…シッテムの箱が光る。
徹底抗戦、もはやアリウスは狩る虎ではない。アリウスは今この時から狩られるだけの草食動物と同じだと言うことを。
「“補習授業部、行こう!”」
「「「「「はい!(ええ!、おう!)」」」」」
ここで少し解説しよう。どうやってミハは乱入したかと言うことを。
それは最終決戦場が体育館ということを聞いていたのを元に、遅れてきたミハはもう出入り口にはアリウスが見張っている中で考えたのが“体育館近くの金網を地面と平行に駆け上がり、登り切った所で飛び上がりそして落下の速度とミハの筋肉と力と重さを利用して壁を蹴破ったと言うことだ”
見事読み通り、ミハの力には紙を破るかの様な手軽さで壁がぶち抜かれた。
そんな衝撃の中、補習授業部の殲滅戦が始まる。そのアリウスの先兵たちは碌な抵抗もできぬまま瞬く間に減らされ───────
「全員戦闘不能。終わりだアリウス。」
最後の1人がアズサの弾丸を受けて沈黙する。今回の戦いにはミハも我流の武術でアリウスを複数名巻き込みながら倒していた。流石にラリアットに巻き込まれたアリウスには同情するが。
「……これで、終わりよね」
「ふぅ…先生が居てくれて助かりました……」
「はい!後は正義実現委員会を待ちましょう」
全員、特に被弾は無し。早めからヒフミがデコイであるペロロを準備したのも大きかったであろう。それであってもフランケンシュタイナーを浴びせられたアリウスには同情するが(2回目)
「うん!ハスミ先輩には連絡して……」
「!?」
「………っ!?」
おそらくナギサは身を守るために正義実現委員会とも連絡を取り合っていた筈。定時連絡が無くなった事とコハルの連絡で正義実現委員会が動かないわけがないと考えていたその時だった。
アリウスの増援が続々と集まってきたのは。
「増援、か」
「こんな早く……?!」
「あり得ない…」
体育館の半分以上をアリウスの生徒が集結するのが見えた。
ただ不思議なことにアリウスは補習授業部を攻撃する様ではなく、まるで“何か”の登場を待っている様な
「大隊……おそらくアリウスのほぼ全てが投入されて……」
「こんな数が……!トリニティが見落とすはずが……!」
「騒ぎの声が聞こえない……?」
トリニティには正義実現委員会だけではなく自治団である自警団や学内全てに居るであろう救護騎士団など、これほどの数の他の学園の人が入れば騒ぎになるはずなのに。……一切騒ぎの狂騒が起きる様な素振りはない。
まるで、本当に“何か特別な力”が動いているのではないか。
そしてそれは間違いなく、トリニティの中でも上位の…それもティーパーティーに近い権力が働いていると殆ど直感の域でハナコは気がつき、目を見開いた瞬間だった。
「それは仕方ないよ」
アリウスの中心が、まるで波をかき分けたように開く。
その中から現れるのはミハと同じピンク色の“長髪”をした少女。
「あなたは……!!」
「これから、この人たちはトリニティの公的な武力組織になるんだから」
怪しげに金色の眼差しを光らせ、綺麗に装飾された白い羽を広げ悠々自適に歩く影。
その姿を先生は、補習授業部は、ミハはよく知っていた
「“ミカ……!?”」
「やっ。先生。また会えて嬉しいよ。…それとミハちゃんも。まさか壁をぶち破るとは思わなかったなー」
外をちょっと前から監視してる子が、まるで突風のような影が体育館に近づいたと思ったら、横の壁を蹴破って乱入するとか言ってたもん。まるで正気を疑ったね。
とミカはまるで余裕そうに声をかける。
「はっ。おそらく貴方も出来るでしょうよ」
「まあね……ああ。それと正義実現委員会は動かないよ。」
私がそう再度、待機命令を出したからね。
今日、学園が静かなのも大体動きそうになるものは事前に全部退けといたの。私の命令が効く全てに色んな理由をつけてこの周辺が無人になる様にした。
「ナギちゃんを襲うのに、邪魔されたらたまったもんじゃないからね」
「………ちっ。そういうことか、よ……!」
余裕綽々のミカに、表情を歪ませるミハ。
ここまで、露骨にナギサを狙うとはつまり……
「まあ。言うなら黒幕って所かなぁ?」
「どこからどう見ても、誰が見ても疑わなかったでしょうね……!!」
瞬間、ミハが吠える。
「ティーパーティーの1人が“本当のトリニティの裏切り者”だなんて!!」
ミカは、嗤う。まるで勇者を前にした魔王の様に。
本当の裏切り者とはまさかのミカだったー!?(ナ、ナンダッテー)
じゃあなんでミカは裏切ったのでしょうね?
次回【目的】
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