君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
もし、ミハが……
もし、ヒフミが…
もし、先生が……
もし、ハナコが…
もし、コハルが…
もし、アズサが…
これはそう言う与太話。
「災難だったな。ヒフミ」
こんな事になるなんて最悪もいいところだ。
次にヒフミが目を覚ました時、隣にはまだメグミがミハだった時の制服を着込んだ姿で浜辺に座っている姿があった。
「ミハ、ちゃん……いえ。ここは何処で……?」
ヒフミが覚えている事は少なくない。
ミハがエデン条約の時に多くの生徒のヘイローを壊したという事。その時、最後まで一緒に居たヒフミまで疑われて、痛め付けられて半分気絶しながら正義実現委員会の地下牢獄にまで入れられた。そしてその牢獄の中には明らかに拷問といえるほどの傷を放置されたミハの姿があった。そんなミハに痛む身体をどうにか動かしながらヒフミは近づいた所まで覚えている。
「うーん。どこだっていいだろう。時間もない」
「時間もないって……」
どういう事なのとヒフミが口を挟むより先にミハはまた口を開く。
「なあヒフミ……ヒフミはさ。どうして逃げなかったんだ?」
「どうして、ですか」
最後まで一緒に居た。というのには幾つか語られていないところがある。
ミハは明らかにヒフミだけ見逃していたし、何故かヒフミは逃げられる様にと動いて居たのだ。
「私が、ミハちゃんの親友だからですよ」
「…………そうかよ」
ミハと同じ様に隣に座ったヒフミは、2人で同じ様に海を見る。
ヒフミは何故か、この海がとても心地よいものだと分かってきてしまった。
「私の神秘、大体分かってるだろ。でもこれあんまりおすすめできないって事も」
「私が死ぬのは自業自得だ。だけどヒフミは違うだろ」
「……何を、言って」
数分も経っていないだろうか。
突然、隣に座っていた筈のミハが立ち上がり制服のまま海の中に入っていく。
「じゃあな。後は1人で頑張れよ」
「どういう事ですか……ミハちゃん!!」
まるで最期の別れの様な、死に際の遺言の様なミハの言葉にヒフミも荒々しく海の中に入り込み、ミハの腕を掴む。……だけど、ミハの腕は何処か冷たく、嫌な想像は止まらない。
「皆まで言わせるなよ……私が親友に一緒に死んで欲しいって思う様なタチか?」
「………親友って言ってくれるんですね。」
そこで揚げ足取るなよとミハは微笑むが、その笑みはヒフミには本当に死にゆくもののような清々しい笑みに見えて、悔いも残っていないというかの様な……そう。それは或いは何かを残せるというかの様な安堵。
「私の神秘と、残りだけは置いておく。後は捨てろ。」
「お前の傷とか私が持っていっておくから」
強引に振り払われる腕。ヒフミは何度もミハに静止の声を掛けるが、ミハが止まる事はなく最後にミハは振り返り、こうヒフミに声をかけた。
「……ひとつだけ約束しろ。」
「なん、ですか…?」
「生きろ、生きてくれよ。ヒフミ」
◆
突然だが、ハスミには今のミハとヒフミの対応には少し考えるものがあった。
ミハがどうしてこの様な事をしたのかというホワイダニットの追求も必要だろうし、更には何の関係性も無さそうなヒフミを捕えるまでもあそこまで痛めつける必要性は無かったのではないだろうか。と考えていたのだ。
多少、ミハに贔屓目があったとしてもハスミは密かに2人を治しに行こうとするほどの慈悲の心があった。
「………っ!?」
地下牢の入り口で感じる強者の覇気。ハスミの背中に走る悪寒。
今、地下牢に居るのは2人。ミハとヒフミだけ。この中でここまでの覇気を感じさせるのはミハだろうが、今のミハにはそんな力も残っていない筈だと扉を開けた瞬間だった。
そこに立つ、瞳の上に傷をつけた1人の少女。
「ヒフミさん、ミハさんをどうしました?」
「……さぁ?私が食べちゃったかもしれませんよ」
ミハと同じところに傷をつけて立っているヒフミの姿。
背丈も身体付きも全然違うというのに、まるでそこにはミハが立っている様な気配のまま。一つ、違うところはさっきまで持っていなかった筈の無骨な刀。
「……真剣な質問をしているんですっ!」
「……………………」
ミハと同じように煙に巻く様なヒフミの態度。
まるでその姿までもが本当にハスミが心を許していたミハの姿に重なる様で、ミハがエデン条約の時に起こした凶行が信じられない様でハスミの心を揺らす。
「警告します。」
次は撃ちます。とハスミは目を見開かせ、声も荒げながら銃を構えた。
その瞬間だった。
ハスミのヘイローは両断されて、斬り捨てられたと気がつくよりも先に絶命した。
「……ミハちゃん」
後ろでヒフミに斬り殺された事も分からないまま崩れ落ちたハスミには目もくれず手に持った剣に愛おしそうに、狂おしそうに声をかける。
「始めるよ」
次にヒフミが牢獄で目を覚ました時には、もう冷たくなっているミハの姿とヒフミの腕の中で象られた一本の刀。さっきまで痛んだ筈の身体にはいつも以上に力が漲って、どんな音も微かな空気の流れも察知できる五感。ミハの言っていた残したものと、持っていった物がどういうものか分かってしまってヒフミはもう、止まる事は出来ない。
「……っ!脱走!!地下牢から脱走!」
「脱走者は阿慈谷ヒフミです!!」
「ハスミ先輩が見逃したって言うの??!!」
堂々と正義実現委員会の廊下を歩くヒフミに、正実の部員がもう一度捕らえるように騒ぎ上げ銃弾で牽制する。……ああ。もしこれがミハならまだ良かったかもしれない。ミハならまだ無駄な殺生は面倒ごとだからゴメンだねと言い、逃げたかも知れない。
だが今ここに立つのは、新しい天与の暴君となったヒフミである。
ミハよりも残虐で、冷徹に狂ってしまったヒフミにはもう届かない。
「止まれ!!」
「こんな人でしたっけ……」
ヒフミが進んだ先、広間になっている所で部員に取り囲まれる。
囲まれているというのに、変わらない様子で刀を持ち自然な様に立っているヒフミの姿に違和感を覚えた瞬間だった。
ヒフミの虐殺劇が始まっていく。
気がついた時には容赦なく切り捨てられ、隣にいた筈の仲間が無残な屍に変えられる。ヘイローがある生徒にはそんな剣では傷を負わせる事も難しいと思うよりも、その剣に何か秘密があるのではないかと気がついた生徒も次の時にはヒフミに血の海の1つに変えられてしまう。
「キヒヒ………お前だな」
「お前だな!!?ハスミを、この子たちを殺したのは!!??」
直後、強襲するツルギ。滂沱の涙を流しながら、口から出てくる言葉は今までにツルギ自身も聞いたことのないような怒りと憎悪が籠った声のままヒフミを殺さんと襲いかかる。
それもそうだ。信頼する親友が、志を同じくしていた仲間がまるでゴミの様に殺されて何も思わないわけがない。…もはや限界を超えたツルギの怒りは、怒りに狂いながら冷静さも残した狂気になった。それはまさに怒りが突き抜けたままただ相手を屠ろうと頭の中だけは冷えに冷え果てた。
だけど、そんなツルギの猛攻を片手で弾きながらヒフミはただ考えていた。
考えるべきはただ、ミハの最期の言葉
(どうしたかったんでしょうね)
もし、もしもあの時、一緒に逃げてくれと言えなくても。
それよりももっと前にミハを止められたりしていたのならきっと今回の様な事は起きなかったのだろうか。
(ごめん、ごめんなさいミハちゃん)
何でミハちゃんが今回の事を起こしたのか分からない。
誰かからの依頼だったのだろうか。それともいつもの気まぐれだったのだろうか。
逃げられた筈のミハちゃんが逃げる事も、抵抗もしないままどうして。
もし、もしも私がミハちゃんと本当に心からの親友なら、今回の様な凶行も止められたんじゃないだろうか。
(…………生きて。ですか)
その言葉を考えるよりも先に、ヒフミの刀がツルギの首を落とす。
それはまるで邪魔な羽虫が自分の周りを飛んでいるかの様に、天与の暴君となったヒフミの前では歩く戦略兵器も変わらないと言う事である。
「……ひどいわね。人の心とかないの?」
「ええ。全部ミハちゃんが持っていってくれましたから」
平凡なる者、蹂躙する。
もはや、コハルとヒフミの間に交わす言葉はない。
コハルは信頼している仲間が、尊敬している先輩たちがおそらく“ミハ先輩”と同じになったヒフミに殺された事を分かっている。絶対的なフィジカルギフテッド。誰も知らない“向こう側”にただ1人立っているその強さ。
(7、8……15、17)
同じになったと言うのなら銃で距離をとる方が間違っている。
今のヒフミには“補習授業部で一緒だったから”という情は有って無いものだと言うことにも気がついている。
「力とは重さと速さ!!」
(………ふーん)
異様なまでの速さで駆け抜けながらこちらにダメージを与え続けるコハル。
今のコハルは、さっきまでの正実全員合わせてもまだコハルの方が強いのでは無いかと思えるほどコハルの速さはフィジカルギフテッドとなったヒフミでさえも目で追うのは難しくなって来ている。
「最高速度でぶち抜いてあげるっ!!」
「抱いてあげますよ」
ミハのフィジカルギフテッドを受け継いだ鋼の肉体の継承。しかし正実との連戦に、想像もしていなかったコハルの猛攻。もはや長期戦までもつれ込めないと判断したヒフミが取った手段はカウンターである。
(骨折れてでも私の攻撃を受け止めるつもりだったんでしょ……!)
そんな見え見えの誘いに乗るかとコハルは失笑しながらヒフミに少しずつダメージを与える。…ある時からコハルが手に入れた異能に近い能力。ミハの力に憧れた自分がこの能力を手に入れたのは一つの運命じゃ無いかと考えるほどに。
「………24回ですよね」
「その速さには違和感があった。一秒間に24回動きを刻んでる」
そう。コハルが手に入れた異能は単純な物。
自分の身体に1秒ごと24回の動きを作ることが出来ると言うこと。おそらく、もっと刻もうと思えば刻み込めたかも知れないがコハルの身体の耐久性と継続的な戦闘を前に24回が一番最適解であるという回答を出したのだろう。
「………っ!?このっ!!」
まあそんな内情は今のヒフミにとって関係のないことだ。
ただある意味、一番ミハに近い攻撃を持っていたのがコハルだったかも知れないというだけで。
「み………っ!!」
「ごめんなさい」
コハルがヒフミをぶち抜くより先に、ヒフミの拳がコハルを捉えた。
そしてその拳は一切の迷いなく、コハルの頬をぶち抜く。
「何か、言いましたか?」
もはや、天与の鬼神は止まらない。
おそらく、この後暴君ヒフミはトリニティとゲヘナを滅ぼして生きるでしょう。
その最後に死の神となった誰かを見つけるかは不明ですが。
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