君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
やっとだ……!漸く始まる……っ!
「………一体、誰かな?」
こんな所まで入ってくるのは。と1人独房のベッドに横になりながらミカは呟く。
あの後、正義実現委員会に自首とばかりに抵抗することなく手錠を受け入れて、入れられたのはこの地下の独房だった。見張る者は居れど、部屋には入ってこないし何か必要なものがあれば常識の範囲内では用意してもらえる。囚人にしては良すぎる対応にミカは首を捻る他無かった。
確かに今まで騙していた事になるパテルの子たちが何度も訪ねて来て復帰しないのかどうかと、面汚しと五月蝿いが別にそれぐらいなら問題はない。
今回、なんでこんな事をしたのか聞きにくるナギちゃんやハナコちゃんが居たけど別にもう語ることはない。
私は、ただ間違えただけなのだから。
「や。お姉ちゃん」
「…………ミハちゃん」
物陰から姿を現すのは、私に似た姿形をしている私の半身。私が守ろうとした私の妹であるミハ。どうやってこの部屋に来たのかとか私は基本的に誰とも会わないようにしているのにという言葉が頭の中で回る中、一つの答えに辿り着いた。
「…………忍び込んできたね」
「正解」
今の今までミハちゃんも正義実現委員会とティーパーティーに鋭く詰め寄られていたらしい。まあそれもそうだ。私の妹というだけできっとそれは尋問にもなっているだろうと表情を歪めるとミハちゃんはそれに気がついたのか、特に問題は無いですよと腕を振って見せる。
「ちょっと、お話しませんか?」
「………うん。いいよ」
きっと、始まりはなんて事ない姉妹愛からだったのだろう
◆
『ヒフミさんとミハさん……』
『……っ。はい』
『ナギサさま、痩せました?』
テストを終えた翌日の事。普段の生活に戻った2人は昼間、ティーパーティーのナギサさまに正式に呼ばれる事になった。そこに座っているのはたった1人となったナギサがいつもより脆弱そうな姿で座っているのが見えた。
『どうか。もう一度きちんと謝らせてください』
『『?』』
『私はヒフミさんのことを疑い、そしてミハさんを陥れようとしました』
ヒフミが水着集団のテロリストのリーダーであるという事。
そしてミハの成績を盾に自分の手に入れようとした事。
その全てにおいて、ナギサは自分に紅茶を掛けられたとしても足りないほどの事をしてしまったとナギサは悔いる。
『……私は、大丈夫です。ナギサ様』
『……………それは』
『確かに大変な時もありましたが、それでも今となってはいい思い出ですから』
『………隣に同じく』
ヒフミにとってミハが帰ってきた事以上に嬉しいことはない。
ミハにとってこれがトリニティに復帰するための条件だったのならと不思議な勘違いをしたままである。それは幸か不幸か、ナギサには2人がまるで“あの大人”の様に見えて
『どうして……ヒフミさんもミハさんも……』
『どうしてでしょうね………“あはは”』
⦅あっ⦆
そう許せるのか。と言おうとした瞬間。ナギサのトラウマスイッチがあろう事か本人に踏まれたのだった。ヒフミにとってミハが帰ってきた事以上の喜びはない事を誤魔化そうとしたいつもの癖がナギサには脳が破壊される事になった。
ミハはハナコが何かナギサに一言二言言ったんだろうなとは聞いていたがまさかそんなショックを受けるものとはつゆ知らず、止める間もなくナギサが飲んでいた紅茶が変なところを通ったのを見た。
あはは……えっとそれなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ
正直に言うなら、失望しました。ナギサお姉様
『がはっ……ごほっ、ごほっ……』
『ナ、ナギサ様!?』
『うーん。この』
ご丁寧にミハの声も、蔑んだ冷たい視線込みで再生された物だからナギサの脳内は爆破解体もかくやと言わんばかりの惨状になってしまった。勿論、そんな事もつゆ知らず助けに入るヒフミと大体全て知っている気になっているミハの混沌は収まる事なく続いたのだった。
◆
「あはは。ナギちゃん、そんな事になってるなんて」
「全くですよ。……だけど一体何を言ったんでしょうね?」
笑いすぎてお腹痛いとお腹を押さえベッドを叩きながら笑うミカを横目に不思議そうに首を傾げるミハにまたミカはツボる。あの時までのいつもの様に2人とも横に肩を預けながら座り、何気ない話に花を咲かせる。
そう。これこそミカが夢見た物。今となってはあまりにも平穏な愛していた時間。
「それじゃ私はね……」
◆
『や。ナギちゃん来たんだね』
ミカがこの独房に入り数時間。おそらく外では明るくなったであろう時間にミカを訪ねる影があった。こんな今の自分に会いにくる様な人なんてまあ大体想像出来るほどしか居ないし作ってこなかった。
『ミカさん。どうですか調子は?』
『んー?まあ特に窮屈ではないよ』
地下の牢獄に比べればまだ過ごせないわけではないし。とミカはいつも通りの口調で告げる。それは事実である。先ほどまで地下の牢獄に繋がれていたミカは今のこの場所はあまり苦労してない場所になる。
ミハを探すあまり、野宿にも手を染めた時に比べれば
『…………いや。まさか来るとは思わなかったよ。ナギちゃん』
『まさか……こないとでも?』
おそらく、今回の件で一番心労を掛けたのはナギサである事は流石のミカでも分かる。そんなのだから正直にいうなら意外だったのだ。一番最初に会いに来るのがナギサであった事にミカは内心ほんの少しだけ驚愕していたのは内緒だ。
『………………』
『そんな薄情に見えましたか』
『流石にやらかしすぎたからね☆』
いつもの様に笑って誤魔化すミカに目を細めて見破るかの様にナギサは沈黙する。
その沈黙にミカも笑みを崩して見返す。数秒の沈黙、そこに言葉はなく幼馴染だからこそ分かる何かがあるのだろうか。
『それで、聞きたいことはなにかな?』
アリウスについて。アリウスの生徒会長が作り上げた秘密武装組織。そしてその中での精鋭。ミカの知っていることは全部話した。
今のミカには必要のない知識の1つだから今となっては別に無くても構わない。
『…はい。それは私も聞きました』
『じゃあ何?まだ私が隠していることがあるって?なら試しにあのシスターフッドがやってる様に爪でも剥ぐ?』
戯ける様に爪を光に当てて輝かせるミカに、流石にナギサの制止の声がかかる。そんな爪を剥ぐだなんて蛮行を行なっていたのはシスターフッドの前身である「聖徒会」の所業であり、今では許されないと声をかけた。
『はっ。あの信仰狂いの修道女共が?』
『下品ですよミカさん……』
揶揄に嘲りを込めてシスターフッドを卑下するミカに流石のナギサも止める。
別に、ナギサがシスターフッドの名誉を守るためではない。誰が何処で何を聞いているか分からないから制止しただけだ。別にここがティーパーティーの中なら幾らでも嘲笑ってくれて構わないがここは独房である事を忘れてはならないと声を掛ける。
『………まだ嫌いなんですね。ミカさん』
『そうだね。逆に好きになれる要素、ある?』
『…………………………………』
おそらく無いだろうな。というナギサの内心の深いため息。
“あの時”問題を起こしたのは今のシスターフッドのリーダーが片付けたし、似た様なことが起きない様にも目を光らせているというのも知っている。そしてそれでいてミカがシスターフッドにいい感情を抱いていないのも知っている。
随分と根が深い問題だろうなともう一度内心で深いため息を吐いた瞬間だった。
『私が、こんな事をいうのもアレだけど。もうアリウスはほっといてよくない?』
『……と。言いますと?』
『アレの後ろ盾だった私は今こんなんだし。弾薬だとか物資の補充もない、裏世界も知らない様な隔離された生徒がこのキヴォトスで生きていけると思う?』
『……………』
『正義実現……じゃなくて自警団ぐらいで片付くんじゃない?』
ナギサはそんなミカの態度にアリウスはよほどどうでも良い存在だったんだなと理解する。かつて私がしようとしたみたいに適当な首輪を着けて後は放逐するのが目に見えているミカの態度に流石のナギサも苦い顔を避けられない。
『確かに。今、アリウスの優先度は低いでしょう』
『でしょ☆……まあアリウスの自治区への行き方はおそらくスクワッドしか知らないだろうし』
ま。最悪アズサちゃんを脅せばある程度絞り込めるんじゃない?
というミカのさらに俯瞰した、何処までも投げやりな態度に更にナギサは渋面を避けられない。
『それは難しいでしょう』
『難しい?……ああ。シャーレ、か』
『はい。それに一応まだ補習授業部はシャーレの管轄です』
『…………あちゃー。それはまずいね』
好感度がほぼほぼ最低なのに更にミハちゃんに嫌われちゃうよ。
というミカの言葉に、ナギサも密かながら同意する。一応“補習授業部”は解散したとはなっているがそれで目を掛けないような先生ではない事知っているから。
『……ま。見ようによってはハッピーエンドじゃん?』
何より先生には会いにくいというのが2人にはある。ナギサだって先生に無理難題に近いお願いをし、補習授業部を“ゴミ箱”とまで形容した。ミカだってわざわざミハを探って欲しいという名目で目を欺き、騙した。
『トリニティの裏切り者はこの通り。アリウスは沈静化させた。』
後はこれでエデン条約が締結出来れば平和な世界が待っている。
ナギサの望み通りに事は進んだとまた表面上の笑みで笑いかける。
『そんな、わけ…ないでしょう……っ!!』
『およ……?』
俯き絞り出したかの様なナギサの悲鳴まじりの否定に、ミカの瞼が少し動く。
あれ?想像していたナギちゃんの反応と違うな。とミカは少しだけ違和感を抱いた。
ミカにとってはこれでナギサを遮る障害はない。と喜ぶだろうとある意味姉妹似通った他者への理解不足があったが、ナギサにとってはミカの裏切りなんて考えもしなかった。セイアが最初に襲撃されるのは分かる。あの人は特に聡明で未来を見通していたとも言われる傑物だ。ならきっと次に狙われるのは私かミカさん…そして或いは戻ってきたミハさんか。その誰かだと恐怖していたのに
『ミカさんが裏切り者で……それでいてこれが!?』
『ちょいちょい。落ち着きなよナギちゃん。』
こんな結末が私の、私たちだというのか。
というナギサの心からの悲鳴はミカの落ち着かせる様な声で遮られる。
『結局、私は守る手段と方法を間違えた。』
そして、向けるべき拳の先までも間違えた。
それだけなんだと吐き出すミカの微笑にはなんの感情もこもっていない。
『ふふ…厳しい言い方するけどね。ナギちゃん』
『………なんでしょうかミカさん』
『あの時、愛する妹の手を取れなかった私が……』
『今更、誰かと分かり合えるなんて…あり得る話ではないでしょ?☆』
ミカの真に隠した本音。何もかも拒絶して、何もかも忌み嫌ったその末路が“これ”ならお似合いの末路だと苦笑する。……それはまるでナギサには燃え尽きる前、一瞬だけ輝く蝋燭の様にも見えて。
『……また、来ます』
『うん。気をつけて。……いい知らせを待ってるよ』
◆
「……相変わらず、シスターフッドに対して当たり強いですね」
「あは☆……あの一件以降、あれも苦労したって話だし」
ミカは、ナギサが来てシスターフッドへの思うところを話して解散したと一部情報を抜け落とした状態でミハちゃんと話をした。わざわざお姉ちゃんの泣き言を聴かせるほど落ちぶれていないと。これがまるでミカの最後の矜持であるとばかりに。
「ま。特に痛めつけられている様には見えなかったから良かったですよ」
「………もし、私がそうされてたらどうしたのかな?」
「一緒に逃げますよ。……何もかも、壊した後でね」
意地悪な質問に、立ち上がったミハは小さく呟く。
そんなミハの答えに少しミカは驚いた様に目を丸く言葉を噛み締めるが、少しした後またいつもの様にミハだけに見せるニヒルな笑みで答える。
「言うようになったじゃん」
「おかげさまで」
「さぁ。仕事の、時間だ」
次回「火と灰と絶望の裏切り(壱)」
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