君は無邪気な夜の暴虐   作:ミカ推し

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まだだ…まだ笑うな……!!





火と灰と絶望の裏切り(壱)

 

 

 

『今この動画をご覧の皆さんこんにちは!』

 

『本日はついに締結されるゲヘナ学園とトリニティ総合学園の────』

 

スマホを放り投げて準備する。いつもと違うのはここがホテルの一室であるということだ。戦闘やら爆発やらで家が壊れる事も少なくないここキヴォトスでホテルというのは特段珍しくない。

ミハだって重要な事柄の前ではこうして誰かの家では無くホテルに泊まる事だって少なくないからだ。

 

「……ああ。こちら伏黒」

 

『………聞こえているか』

 

「おう。それで首尾はどうだ?」

 

歯を磨き、顔を洗い、いつもの様にトリニティの制服を着込んだ所で今も放送を流し続けるスマホとはまた違う、無骨な見る人が見れば分かる通信装置を片手に会話を始める。

 

『全て問題ない。時間通りに進められる』

 

「……そうか。ならこちらも打ち合わせ通りでいいんだな」

 

『ああ。問題ない。』

 

備え付けの椅子に座り、小さく息を吐く。

流石のミハも“補習授業部”として勉強に缶詰だったからか身体が鈍って仕方ないのだろうか。いつもはあまりしない様な武器のメンテナンスを片手間に始めた。

 

「了解した。それではまた」

 

『ああ。また後で』

 

 


 

 

時間は進み場所は変わり、ここはトリニティ内にあるとあるカフェ。

本日はあの“エデン条約”の締結日という事で全校休校となり、渦中の中にあった補習授業部もお疲れ様会という事で集まろうとしていた。

 

「……先生は調印式の方に行きましたが……ミハちゃんも見つかりませんね?」

 

「あ!それはミハちゃんから聞いてます……」

 

騒がしい店内の窓際の席に陣取り、本日の調印式が終わるのを待っていようと各自好きなものを頼み、雑談に花を咲かせているとここには来ていないもう1人の仲間である聖園ミハの話題にと突入した。

 

ハナコの問いにヒフミが答える。どうやらミハは今日の間に停学中に出来た知り合いに会いに行くということで途中から補習授業部の集まりに参加するのでどうにか騙しといてくれと朝イチにミハからヒフミに伝えられたのだ。

 

「えーっと…ミハちゃんは遅れてくるらしいですよ」

 

「?何か用事でもあるのか?」

 

「おそらく…」

 

ここまでずっとミハと共に寝食を過ごしてきた少女たちだ。ミハが何かを背負っているのも知っているし、ハナコに至ってはミハの停学の原因も知っている。悪いことにはならないだろうし遅れてくるというのなら先にゆっくりしていようと腰を下ろした所だった。

 

「でもそんな話なら─────」

 

「ふむ。ヒフミはそんな─────」

 

「夢物語だとしても読んでて─────」

 

「このカーマ・スートラって─────」

 

そうして話しているとハナコの愛読本であるカーマ・スートラがコハルのエッチ駄目死刑!に引っかかったり、ヒフミの好みな本がハッピーエンドで終わるものだということが分かったりと時間は意外にも早く過ぎ去っていく。

 

その時だった。

 

「………えっ」

 

「………………っ!!」

 

窓の外に見えた線香花火の様な光の後。昼間だというのに太陽の日よりも明るい閃光が空を舞ったのをヒフミは窓際から見る。直後、響く何か物が高速で空を切り裂く甲高い音と共に、外に飛び出したアズサは鋭い眼差しで外の大きなテレビを睨む。

 

 

「……まさか、まだ…………」

 

 

 

 


 

 

「………さぁ。仕事の、時間だ」

 

 

 


 

 

 

「“すごい暇だ……”」

 

時間と場所は変わり、先生はエデン条約の調印式の場となる〈古聖堂〉で関係者専用の席に座っていた。途中、業者の人と勘違いされて呼び止められるという事があったが、見張りをしていたゲヘナの風気委員とトリニティの正義実現委員が剣呑な空気になりツルギによって収められて、その後シスターフッド所属であるヒナタにこの古聖堂の案内をしてもらったりと両学校のトップ(つまりはマコトとナギサだろうか)が来るまで案内は続いた筈だった。

 

今までずっと共にいた補習授業部のみんなは今日は学校も休みという事で何処かの喫茶店に集まって(学校に残留できた事の)祝賀会をしているという話だ。

 

 

 

ドガァァァァァアアアアアアアアア!!

 

 

 

瞬間、視界が真っ白になる。

吹き上がる様な爆風と共に身体が何処かに打ちつける様な鈍い音に自分の意識が真っ黒に塗りつぶされていく様な気がした。

 

『……せい、せんせい!……先生!!??』

 

次に目を覚ましたら、そこは私がここキヴォトスに来た初日に会った秘書OSであるアロナがいつもいる青空が見える教室に倒れていた。

 

『先生!目を覚ましてください……!』

 

「“アロナ……?一体何が……”」

 

『古聖堂が爆破されて、そして私は先生を守ろうと……』

 

いつもの幼なげな笑みとは程遠く、全力で振り絞り額から汗も流している様なアロナの姿に本来あり得ぬ事が発生したのだと考えるにはそう長くなかった。

 

『………もう……力が……』

 

「“アロナ……!?”」

 

崩れ落ちるアロナと共に、現実に戻っていく様な感覚。

まるで目を覚ます感覚にも似た感傷が開けた瞬間だった。

 

「“…………は?”」

 

先ほどまで居た荘厳な空気とはほど遠く、燃え盛る火の手と遠くで聞こえる悲鳴と怒号。そして近くの瓦礫の山。先生は一瞬その目を疑った。

 

「“一体…何が!?”」

 

「っ!先生、ご無事ですか?!」

 

まるで地獄の様な様相を前に先生は立ち上がる。先ほど、なんか変な木でできた人形が動いていった様にも見えたがそれは今は放置だ。今は…どれほどの生徒が無事でどの生徒が巻き込まれたのか先生として知らなくてはならない。

 

歩き出そうとしたその時だった。横から少し灰に汚れたシスター服の少女が飛び込んでくる、彼女の名前はヒナタ。先ほどまでこの古聖堂の案内やらしてくれたミカの時も来てくれたシスターフッドの子である。どうやら先ほどは何かが爆発した様で自分は運良く当たらない場所に居たが、それでも被害は甚大らしい。

 

「先生!無事ですか?」

 

「……せ、先生……!」

 

そうして話を聞いていると更に飛び込んでくる二つの影。トリニティの正義実現委員会の委員長であるツルギと副委員長であるハスミの2人。その姿には赤くなった痕やら傷が付いているのが見える。

 

「“2人とも大丈夫!?”」

 

「ええ。まだこのくらい問題ありません」

 

同じくとツルギが頷いた瞬間だった。前から整えられた足音と共に姿を現す少し前まで小競りあっていた特徴的なガスマスクをつけた少女たちとそれを率いる黒マスクを着けた少女。

 

「作戦地域に到着。正義実現委員会の……真髄か。」

 

情報の通りだ。とその黒マスクの少女は告げる。ツルギとハスミの名前を言い、更には兵力を回せるほどの余裕。……それはつまり私たちが見ていたアリウスの主力たちは、あくまで兵力の一つだった可能性が高い。

 

「……アリウス分校!?」

 

「くひっ……こいつらが……」

 

アリウスの乱入、そしてこの爆発騒ぎの主犯がアリウスであることを悟ったハスミが暴走しそうになった所をツルギが抑えて2人で突貫を始める。流石正義実現委員会のツートップだと先生として形無しの連携を見せられて………いや。

 

「“あれは……一体?”」

 

「あれは人…?いえ、まるで手応えのない」

 

動かずにこちらを見定める黒マスクとアリウスの兵隊を少し退けた所で“それ”は現れた。黒く砕けたヘイローにレオタードにも似た服にベール。そしてガスマスクのその人肌にはあまりにも白すぎて不気味な姿に攻撃する手も止まる。

 

「……あれは……」

 

「シスターヒナタ?覚えがあるのですか?」

 

先生の盾という事で戦闘には参加していなかったヒナタがその不気味な影を見た途端、まるで何かを知っているかの様に呟く。

 

「本で昔、読んだ事があります……あれは〈聖徒会〉の……!」

 

先生もその名前は少しだけ聞いていた。昔、古聖堂を使っていたシスターフッドの前身にも当たる組織。ハスミの訝しげな声を歯にも掛けず更に呟く。

 

「〈ユスティナ聖徒会〉…数百年前に消えたはずの〈戒律の守護者たち〉が何故今ここに……!?」

 

次々に姿を現すその〈戒律の守護者たち〉。その規模は数十人ではなく数百人単位である事がヒナタの呟きでわかる。先生を取り囲み防御陣形のまま発砲を続けるが当たっているというのにまるで倒れていく様な感じがない、まるで亡霊を相手にしているかの様だと苦々しく誰かがつぶやいた。

 

このままでは押し込まれる。誰かが犠牲覚悟で先生を外に出そうと覚悟を決めたその時だった。

 

「こっち!!」

 

斜め前から聞こえる怒号と共に蹴散らされるアリウスの生徒と〈戒律の守護者たち〉。その姿は手負いだと瞬時に分かるほど血で濡れていて今も尚、額から出血しているのが分かる少女の姿。

 

「貴方は……ゲヘナの風紀委員長」

 

「今はそんな事言ってる暇ない!早く先生をこっちに!!」

 

トリニティの正義実現委員会にとってゲヘナの風紀委員なんて仇敵にも等しい。

だというのに、その瞳に宿る強い意志をあろう事か一番ゲヘナを憎んでいるであろうハスミが受け取ってしまった。

 

「ヒヨリ、もしかしてヒナを止められなかった?」

 

「げほっ…ごほっ…すみません。まさか逃げられるとは……」

 

「いや。大丈夫。一応まだ想定内。“あの人”も忠告してたでしょ」

 

今のハスミには敵であるアリウスの会話も気になるし、今このゲヘナの風紀委員長がこじ開けた突破口が最後の手段だという事も分かっていた。ならばどうするべきか。考えは既に固まっていた。

 

「……先生、私たちが後はなんとかします」

 

「“……!!”」

 

「私たちが退路を守ります」

 

覚悟は決めていた。どうやらそれはツルギも同じ意見だったらしい。

あのゲヘナの風紀委員長に任せるのは正直業腹もいい所だがそれでも背に腹は変えられないと叫ぶ。

 

「風紀委員長……!先生をよろしくお願いします!!」

 

走り去る2人分の足音を聞き届け、気だるい体をどうにか酷使しながら銃を振り回す。後を追う幾つかの守護者たちは逃したがそれでもあらかたほとんど抑えられている。後は、このまま自分たちも引くという事が現実味を帯びてきた所だった。

後ろから悠々自適に歩く音と声がかかる。

 

「よ。苦戦してんじゃん」

 

「………ミ、ハさん……?」

 

「ミハさん……!!」

 

「お、まえは……」

 

白いトリニティの制服に身を包み、片手には似合わない拳銃を肩に手を置く様な感じで現れたその姿は聖園ミハ。ハスミとヒナタの親友である少女が今この場に現れた。

 

「どうして…いえ。どうやってここに!?」

 

「ん。まあ危ない事になってるって話だからな」

 

新手に警戒する様に戒律の守護者たちも取り囲むだけで動こうとしない。

体勢を崩して倒れてしまったヒナタに手を貸し起こして、更には全員の砂埃を払う様に服を撫でて、あくまでいつも通りでいるミハにハスミの心に安堵の息吹きが吹いた。どうやらその様子を見てツルギも警戒心を解いたみたいだ。

 

「……助かりました。ミハさん」

 

「いやいや心配無用だぜハスミ。」

 

いつものルーティンのように片手に持った拳銃をペン回しの要領で回しながらミハは敵を見つめる。ハスミもヒナタも、そしてツルギも今からこの戒律の守護者たちを倒すのだと銃に力を込めた瞬間だった。

 

「元より味方では無いからな」

 

 

 






トリニティ、そしてゲヘナよ。…これまでの長きに渡る我らの憎悪、その負債を払ってもらう時だ。

「すまねぇな。最初から、こうする予定だったんだ」

次回、「火と灰と絶望の裏切り(弍)」


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