君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
第一の爆弾ッ!!
起爆ッ!!
「元より味方では無いからな」
「………えっ?」
そのミハの言葉にどういう意味かと敵に視点を合わせていたハスミが反射的に振り返る。ミハの事だ。どうせ言葉遊びの一つだろうと楽観視していたこの時までは。
そう。ハスミの横でツルギが崩れ落ちなければ。
「早撃ち三発。まああの0.3には至らない……か」
「はっ?……えっ?」
冷静に銃口をツルギの居た位置から下ろしたミハは1人呟く。
その横で未だに現状を掴めていないハスミとヒナタを横目に、ミハは素早く身体を回転させ残りの三発をハスミの脳天に叩き込み。そして懐に隠し持っていたリロード用の六発を瞬時に入れ替え全弾、ヒナタの脳天に叩き込む。
もはや神業と言っていいほどのミハの早撃ちは幾ら手負いだったとは言え、かの正義実現委員会の2人とシスターフッド1人を秒殺した。まあそれも、リボルバーの銃弾を脳天に至近距離で三発受けたのだ。これで沈まない方がおかしい。
「よぉ。お疲れ」
「お疲れ様。」
完全に沈黙した(ヘイローが消えた)のを確認した後、ミハはアリウスの兵と〈戒律の守護者たち〉を率いていた黒マスクこと“戒野ミサキ”に親しげに手を振り合い無事を確認する。
「獲物を横取りする形になっちまったな」
「いえ。問題ない…ありません。」
どちらにしろ排除しなくてはならない相手であることは間違いない。
【暴虐天使】は途中から援護という形で参戦するとは聞いていたが、まさかあそこまで惚れ惚れする様な神業を見せて貰えるなんてと少しだけミサキは感心混じりにミハに頭を下げる。
「それよりこちら側の不手際で……」
「ああ。風紀委員長と先生だろ?」
「……はい」
まさか〈聖徒会〉が完全に顕現しきる前に暴れ、先生を確保する様に動くとはゲヘナの最高戦力とは名前だけではないと一段階警戒を上げる。わざわざミハからの情報でゲヘナの風紀委員長には気をつけろと名指しで伝えられていたのにこの様ではこちら側の落ち度である。
「問題ない。おそらくサオリが追撃に向かってるだろう」
「……そうですね。では今からリーダーの援護に?」
そのつもりだと頷き、足早に先生の後を追いかける様に来た道を戻る。
荒れ果て、火の手が上がっているこの古聖堂だがミハにとって残った足跡、血の匂いや硝煙の匂いによって逃げた“目標”を追う事など児戯に等しい。
「ああ。……そろそろ合流と参ろうか」
天与の暴君は牙を剥く、全てはこの時のために
「……こっち!」
視点は変わり、逃げる先生とヒナ。先生にとって未だに現状を掴むのは難しいだろう。エデン条約の調印式というめでたい筈の式に出席していたら突然、閃光と共に全部が壊れてそして直後にアリウスの襲撃に遥か昔に消えたはずの何かを連れてやってきたではないか。
最初の閃光は爆発だった様でその爆発に巻き込まれたハスミたちや今も尚、先生の退路を守るために額からだけでなく見える袖からも出血するのを隠せないでヒナは先生の誘導を続ける。
「えへへ……また、会いましたね」
「っ!また、性懲りも無く……!!」
そうしてどうにか追っ手(ハスミたちの殿によってその数は少ないが)を排除しながら、大通りに出てきた所だった。おそらく先生の見立てではヒナももう限界スレスレだというところでおそらく追っ手の本陣であろう白いマフラーを身につけた少女がこれまた大量の〈戒律の守護者たち〉を連れて目の前に現れた。
先生の指揮とヒナの底力。その二つが奇跡的に合わさったのと、先生たちが知りようはないがアリウスはそこまで本気で今ここで潰してしまおうとは考えてなかった。……何故なら、アリウスの本陣が〈アリウススクワッド〉のリーダーがすぐそこまで近づいているのだから。
「はぁ…はぁ……くっ……!!」
「“ヒナッ!!”」
「ゲヘナの風紀委員長。ようやく倒れた」
〈戒律の守護者たち〉と共に戦闘に参加した黒マスクの2人。おそらく言われていたアリウスの主力である〈アリウススクワッド〉たちに流石のゲヘナ最強といえど手負いに手負いを重ねた状態では……容易く倒されてしまう。
「…いや。警戒をしろ。“あの人”も言っていただろう」
「えへへ……こんなのになっても、まだ動こうとするんですね……」
手負いの獣ほど執念深いモノはないと。あくまでヒナを獣と蔑むそのおそらくリーダー格の少女は手の空いている〈戒律の守護者たち〉を使いヒナの両脇を掴み、まるで十字架に架けたかの様に静止させた。
「トリニティ、そしてゲヘナの主要人物は片付けた……後は貴方だけだ。シャーレの先生」
「“…………聞かせて。君たちがアリウススクワッド?”」
乱暴に立たせられるヒナ(足元には力が籠っていないからか擦っている)に先生はどうにか歯噛みしながらも冷静に襲撃者である少女たちに問う。鼻で笑う少女に、微笑む少女。沈黙を続ける少女と反応は様々だったが、一番前に立つ少女がこう答えた
「……ああ。そうだ。私たちが〈アリウススクワッド〉。」
ようやく会えたな。先生。
そう。間違いない。彼女たちこそ、このエデン条約の襲撃者。アリウスというトリニティに弾圧されて以降の日影者。
「“………!”」
「アズサが世話になった様だ。…後で会いに行く予定だからな。」
そう。少女は死の花向けとばかりに幾つかの情報を漏らす。
アリウスはこのエデン条約の調印式を以て、楽園の名の下に条約を守護する新たな武装組織…〈エデン条約機構〉になったという事。それにより、今まで弾圧対象だったアリウスではなくゲヘナ、そしてトリニティがエデン条約に反する存在だとして排除するべき鎮圧対象になった。と語る。
「“それは……”」
「そうだ。ゲヘナとトリニティを文字通り消し去ろう」
今のアリウスにはゲヘナとトリニティを心の底から憎悪するアリウス生だけでなく、今回の〈エデン条約機構〉によって新しく生まれ変わった戒律の守護者たちと共に、アリウスの恨みを再認識する事になるのだ。数百年もの積み上げられた憎悪の負債と共に。
「まずは。貴方の息の根を止めてからだ。先生」
額に押し当てられる冷たい銃口。もう、詰みと言っても過言ではない。
シッテムの箱の防御はアロナがダウンしている今使えるとは思えない。頼みの綱である生徒は、ここにヒナ以外いないしそんなヒナも重症で動けないと言っても過言ではない。冷静に先生の脳内は告げる。“ここで終わり”なんだと。
だけど運命はまだ先生に終わりを告げなかった。
「……っっっ!!あああああぁぁぁぁああああ!!」
「!こいつまだ……っ!」
「リーダーッ!!」
もう重症で気絶している筈のヒナが突如、考えられない力で〈戒律の守護者たち〉の拘束を振り払い先生の額に銃を押し当てているリーダーと呼ばれた少女に飛び込む。頼みの綱である筈の銃は遠くに投げ捨てていて……いや。ヒナはその懐から丸い筒の様な何かを持って突貫してくる。
「………っ!?手榴弾!?」
(……取った……っ!!)
その丸い物はサオリは十分見慣れたモノ。そう、それは手榴弾。つまりこのゲヘナの最高戦力であるヒナは自爆覚悟で手榴弾一つで特攻してきたというのだ。もはや彼女の攻撃を避けきることは出来ない。どうにか衝撃を減らそうとサオリが体勢を崩した瞬間だった。
遠くから一発の銃弾がヒナの持つ手榴弾を射抜いた。
「おいおい。だから言っただろ?」
「“まさか………”」
悠々自適に足音を響かせて声が反響する。
その声を、先生は良く知っていた。
「手負いの獣には気をつけろってさ」
「“ミハ………”」
アリウスの後ろからいつもの様な微笑みと共にミハが姿を現す。
よ、先生。と言わんばかりに小さく手を振るミハの姿はまるで今の修羅場とは程遠い日常の残穢と共にその姿を現した。
◆
「……すまない。助かった」
「いや。これで済んでよかったと見るべきだ……な!!」
わざわざミハから忠告されていたというのに二度もその忠告が軽んじられる形になり、こうしてミハの援護が無ければサオリは無駄な負傷を負っていたかもしれないと考えれば頭を下げるしかない。まさかここまでゲヘナの最高戦力がしぶといとは考えもしなかった。というのもある。
勿論、そんなアリウスの考えを知っておきながら別に気にすることではないとミハは頼みの手榴弾を吹っ飛ばされてもまだ動こうと息を潜めるヒナの首筋を掴み、意識の糸を切り落とす。……全く、想定なら10秒もかからないうちに意識が落ちるかと思えば実際は20秒近くも意識を保っていたのだから大したものだ。
そこはさっさと倒れとけよ。人としてと思いながらも、ゲヘナの最高戦力といえどミサイルを撃ち込まれ、亡霊の銃撃にアリウスの追撃までその身で先生を守りながら撤退戦となると流石に“こう”もなるかと少しの無情さを感じさせる。
「“ミ、ハ……”」
「よぉ。先生。どうした?……そんな、幽霊でも見たような顔して」
まあそんな事より、今のミハに大事なことは今からと先生の落とし所だ。
幾ら傭兵が金で雇われる存在といえどシャーレという連邦生徒会直下の組織のトップという所だ。ヘイローを持たない存在ということで銃弾一発が致命傷になりかねないひ弱な権力だけ持った大人を下手に手をかける方が拙いのではないかとミハは冷静に算盤を弾いている所だった。
「……ま。死ななければ、いいか」
「“………!”」
弾いた結果は“生きていればいい”というある意味極論に近い冷酷な判断。先生に向けた拳銃は動けないようにするために足を狙う。
そんなミハの姿に驚愕と裏切られたという意味を考え、その上で先生は先生らしく行くことにした。ミハがあの時と同じメグミの目をしているのも、アリウスといつから繋がっていたのか全て知るために。
「“最後に聞かせてほしい”」
「なんだ?先生」
「“一体いつからそうする予定だったの?”」
おそらくミハは直接瀕死にさせる手段は取らないと先生には不思議な勘が働いていた。わざとと言わんばかりに分かりやすく脚に銃口を向けているのもそうだし、何よりアロナのバリアを一度は見ているのだからその警戒を込めてアリウスの子より直接的な手段は取らないだろうと考えていた。
まあ、何より先生は信じている。
“補習授業部”にいた時の彼女の笑みを友人を労り親愛を共にするミハの姿を、あれは決して嘘ではないと先生は未だに愚直に信じていた。
「ああ。最初からだな。」
「“………!”」
サラリとどうでも良い様に言われたその言葉についに先生は瞠目する。
それはつまり、ミハは最初から裏切るつもりでトリニティに戻り、“補習授業部”という新しい友人関係を構築したと言うことになる。
それがどれほどの衝撃か。
少なくとも並大抵の驚愕が覆されるほどの強い、鋭い失意が先生の心を喰らう。
「“ならミハはどうして補習授業部にいたの?”」
「?ああ。考えれば分かるだろう?」
絞り出した震え声と共に微かに手繰ったミハの良心に訴えかける様に先生は聞く。
それがどれほど無駄な事であるか、先生はすぐに知る事になる。
「先生、貴方が居るからオレは情報を集めるのに苦労しなかった」
「“………っ!”」
その意味が理解できないほど先生は愚かではない。
つまりミハは最初から先生を利用するつもりでいたのだ。多くの生徒の味方になりそして理想の大人になり、多くの生徒が慕う。ミハはその強みと、脆さを十分によく理解していた。
そう。ミハはこう言いたいのだ。
“先生が居るから、ミハの暗躍を簡単に許してしまったのだ”
「そう、睨むな。先生。」
「“ミハ………ッ!!”」
さよならだ。とばかりにミハは引き金に手をかける。
ああ。なんという事だろうか。先生は信頼している筈で、多くの生徒と親交があった頼れる生徒に裏切られて斃れるのだ。
「すまねぇな。最初から、こうする予定だったんだ」
◆
「……もう、いいか?」
「ああ。長々と話してしまったが…時間は大丈夫か?」
ミハが一歩下がるのを前に、2人の会話が終わるのを待っていたサオリがミハに問う。流石のミハも今やることでは無かったなと頭を下げるがアツコが手話で“まだ時間には余裕があったから大丈夫”とミハに伝える。
「それでは改めて……先生。さよならだ」
サオリが銃口を向け、ミハがもう興味がないとばかりに冷めた目で先生を見下ろす。本当にもう終わりかと思ったその時だった。
遠くから、車輪が地面を擦る激しい音と共に近づいてくる気配がしたのは
「……救急車?」
「先生っ!……手を!!」
救急車にあるまじきドリフトで先生とアリウスの間に強引に殴り込み、先生の手を引いて颯爽と逃げようとする。流石にここで逃すわけにはいかないとサオリが発砲するもミハが聞いた音では一発、先生らしい肉に当たった音だけ。
「……逃げられた」
「まあ、良い。当初の目的は果たした」
しかし、とサオリはふと考える。あの【暴虐天使】がわざわざ時間を割いて話したり、トリニティの正義実現委員会が殿を行ったり、ゲヘナの風紀委員長が身を呈して守ったりと余程あの大人が大切なのだと理解した。
「おそらく生きてるだろうな」
「何!?……それは本当か?」
銃弾が当たれば死ぬ様なか弱い存在だと聞いていたのに、ミハの何気ない呟きにアリウス全員が驚いた様にミハの顔を二度見する。ゲヘナの風紀委員長もあの救急車に回収されたとなるともうこの場に立ち止まっている必要はないが、ミハのその一言が足を止めた。
「ああ。おそらく致命傷は避けられたな。」
運がいいのか悪いのか。先生を回収したのはゲヘナの救急医学部。そして向かった先はトリニティ。となるとおそらくトリニティの救護騎士団も出てくるだろう。
そう、口にしようとしたその時だった。
「……はぁはぁ……はぁ……」
「……お前がここで出てくるのか」
「驚いた。逃げててもいいのに」
「えへへ……お久しぶりですね。」
対岸から走り込んでくる1人の少女の姿。
その姿をミハはよく知っている。何故なら一週間といえど寝食を共にし親友と言えるだろう元アリウス生で友情と共にアリウスを裏切った少女。
そんなアズサにミハはいつもの様に手を振る。
「やあ。アズサ。昨日ぶりだな」
「……なんで」
「なんで……っ!!そこにいる!!ミハァ!!」
「ありえない…あり得る筈が無いんです……っ!!」
「さぁ。次に進めよう」
次回「混乱の渦中」
感想、評価お待ちしてます。