君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
第二の爆弾ッッッ!!
起爆ッッッ!!!
「なんで……っ!!そこにいる!!ミハァ!!」
「……はぁ。どうする?」
「私が片付けよう。かつての不始末はここで片付ける。」
あり得ないモノを見たとばかりにその瞳を驚愕に揺らし、唇を噛みちぎらんと言わんばかりに強く噛みながらミハを見る。…アズサにとって“そこ”にミハが立っている事なんて考えもしなかった事だ。“補習授業部”の一員として初めて会った時から出来る実力者だとは思っていたけどそれでもコハルの様な取り締まる1人だと思っていたし話していれば意外と馬が合い、分からない所があれば何でも教えてくれる様な……そう。アズサにとってミハというのは、ヒフミと同じ様な“日常の平穏”の象徴だったのだ。アズサにとって、暗い暗い闇を知るアズサが何よりも誰よりもこの平穏を汚してはならないと思っていたのに
その象徴は、象徴の手によって打ち砕かれた。
憧れは理解から最も遠い感情である。ただそれだけだと言うのに。
アズサは初めてこの感情が絶望であると言うことを知った。希望が絶たれたかの様な深い深い失意と沮喪、そして悲観。手に持っていた銃を落とし、膝をついてしまいそうになるほどのショックをどうにか踏み縛る。
だがそんな絶望に揺れるアズサなどまるで眼中にないとばかりに小さくため息を吐いてミハはサオリに問う。今ここでミハが始末しても良いが裏切り者と言えど依頼主の配下の様な物だ。自分が勝手に動くのは宜しくないと、サオリの判断を待つ。すると秒もしないうちに自分が片付けるとサオリはリロードしながらアズサに近づく。
「私の言った通りだろう。トリニティにもシャーレにも。お前の居場所は存在しない。」
私たちの様に生きる手段の一つに〈殺す〉という普通とはかけ離れた行動を許容した時点で日の当たる所を誰かと共に歩く手段を失う。全ては虚しい。その手段を取ってしまった時点で誰からも受け入れられる事はない。とサオリは冷酷にアズサに告げる。
「どうして、先生を……!」
「全ては無駄だ。……今までも、そしてこれからも。」
「サォリィィィィィィィ!!」
「まだ、夢に酔っているのなら仕方ない。何度でも覚ましてやろう」
一夜の狂騒に目を眩ますのは別に良い。だがその狂騒の夢から醒めないというのなら是非もない。夢から醒まさせる、誰かが起こさなくてはならない。
だが、この場にいるスクワッドもアズサも気がつく事はない。その“夢”というのは多くの生徒が知る“友情”と“平穏”である事。そんなモノとは遠く離れた少女たちが気づく事はないのだろう。知らないモノを自ら気づき知ろうとしないのだから。
◆
『ねぇ知ってる?今回の襲撃、ゲヘナの奴ららしいよ!』
『委員長やティーパーティーの人たちどこに行ったのかな……』
『分からない。でもあのゲヘナとの対談中だよ?』
『これはゲヘナのミサイル攻撃だ!!』
『それよりサクラコ様探さないと……』
情報が、錯綜する。情報を表面上でしか知らない少女たちでさえこんな調子だ。
多くの情報は入り混じり、さらに最悪なことに本来ならこのトリニティを導くに値するティーパーティーだけでなく、治安を守る正義実現委員会の委員長、副委員長。さらには独自の行動をするシスターフッドのリーダーであるサクラコである全員が今、行方不明になっている。
そしてその中で囁かれ続けるウワサ。曰く、これは全てゲヘナの陰謀であるという誰もが胸に抱いていた猜疑心を擽るウワサ。“トリニティのトップたちはエデン条約で目障りだと思われたゲヘナによって誅殺された”だとか、“〈古聖堂〉が破壊されたのはゲヘナのミサイルが原因だ”などと言った、まるで
「…………っ!?」
「どうしたのですか?ヒフミちゃん……まさか」
そしてここにも1人。エデン条約の調印式の会場が爆破されたという放送を聞き、トリニティの中心部に戻ってきた少女たちは“補習授業部”。あのシャーレの先生が見守り、そして共に裏切り者を見つけた今回の“一部始終”を知る少女たち。
戻ってきた少女たち(アズサは突然何か思い出したかの様に走り去ってしまったが)はまず、もう1人の仲間であるミハを探す事にした。流石にこれほどの騒ぎだ。おそらく中心部に来ていてもおかしくないとミハを信じていたハナコが飛び込むがあの特徴的な背の高さの少女は今ここに居ない。
ヒフミは走りながらミハに電話をかけ続けるが、一向に電話に出る気配すらない。ずっとヒフミのスマホから聞こえる無機質なお掛けになった電話は〜の繋がらなかった合図。
「掛からないんです……っ!まさかミハちゃん、あの爆発に巻き込まれて……っ!」
「嘘よ…ミハ先輩まで巻き込まれるなんて……」
「待ってください。まだスマホを落としただけかも知れません。まずは情報を集めて………」
嫌な想像がヒフミの涙となって出てくる。そんなヒフミの姿につられる様にコハルも半泣きになり始めた所でハナコも歯噛みをするしかない。何故ならハナコ自身も気が付かないうちに表情は歪み、普段ではあり得ないほど感情をむき出しにしているのだから。
こうなったら、手分けして探すしか─────
そう。ハナコが言おうとしたその時だった。
「ハナコさん……!」
「貴方は、シスターフッドの……」
横から飛び込んでくる影。その影をハナコはよく知っていた。
シスターフッドの“伊落マリー”である。詳細は省くが補習授業部の時にも会っていた少女。
「マリーちゃん……!ご無事でしたか」
「実は一部の過激派が独断で招集命令を出した様で」
「……………!」
それはつまりシスターフッドはもう噴火しかけ…いや。噴火寸前であるということだ。
いつ、どこでゲヘナとの戦闘が始まってもおかしくないと言うこと。
「サクラコさんがいない中、ティーパーティーの所在も不明で……!」
今、おそらく率いることが出来るのはハナコただ1人だけであるとマリーは悲鳴混じりに囃し立てる。それもそうだ。今も尚、このトリニティの中心部の広場ではゲヘナに対する宣戦布告も無しの騙し討ちに憤怒を巻き起こして、今にでも報復に出なくてはならないと熱狂して暴走一歩手前だ。
そして更に渋面になったハナコを他所に、コハルが正義実現委員会に連れていかれる。あの様子を見ていると正義実現委員会もゲヘナを敵に見ている様だ。今にでも開戦出来る準備はしていると言動に怒りを交えながらコハルを連れて行った(半強制的に)
「こっちは大丈夫です!私が……2人を探してきます……!」
「……っ。頼んだわよ!ヒフミ」
「わかりました……私もシスターフッドに向かいましょう」
そんな2人を前に強引に涙を拭ってヒフミは立ち上がる。
どう考えても虚勢を超えた虚勢を前に、自分にしか出来ないことのためにコハルが走り出す。そんな2人を見てようやく…ハナコもその足を動かす。
「まずはミハちゃん…いや。アズサちゃんかな……」
いっそ並行して探すのが早いか。とヒフミは熱狂する中心部から身を躍らせ、離れる。……まるでその熱狂する庭園は、文字通り誰かが薪を焚べ続けている様にも見えて。
◆
「…………ナギちゃん。いつか私言ったよね」
「私たちがそうするまでもなく、この世界はこういう世界」
「だからきっと……」
「いつかセイアちゃんが言っていた様にこれは“おしまい”に至るお話なんだろね」
少女たちは、踊る。今際の際のその影を踏みながら。
◆
「……映像、出ます!」
「はい。お願いします」
ハナコは1人、シスターフッドの幹部たちと共に、幹部でさえもこの熱狂に暴走しかけたのを収め、現状の情報を集める様に動かした。ここまで聞いた情報は全てゲヘナが悪いと言う話だが、それは裏どりの無いあくまで“ウワサ”に過ぎない。そしてその“ウワサ”に踊らさせられるのがどういう結末になるのか、ハナコは重々承知していたから。
「…………っ!?」
「これは………」
シスターフッドの分析官が残された古聖堂近くのカメラが生きている事を確認して、そして爆発直後。これまでの残された僅かなデータを再生し始める。
出てきた映像には燃え盛る古聖堂と瓦礫の山。それだけでも端的に言うなら地獄だが、その映像を横切る幾つかの影。黒く砕けたヘイローにレオタードにも似た服にベール。そしてガスマスクのその人肌にはあまりにも白すぎて不気味な姿にハナコは見覚えがあった。
「…………そんな。」
「これは……一体………」
「………〈ユスティナ聖徒会〉」
それは〈ユスティナ聖徒会〉。それはシスターフッドの前身が所持していたと言われる〈戒律の守護者たち〉。困惑と驚愕のシスターフッドたちを他所にハナコの脳内が激しく回転を始める。
「…………………。」
トリニティとアリウスの関係
アリウスの裏切り者とトリニティの裏切り者
エデン条約、調印式
仲の良く無い姿を見せるゲヘナとトリニティ
桐藤ナギサ主導のエデン条約。
「聖徒会、エデン条約……そして襲撃」
一つ一つの繋がらないはずの点が、ハナコの脳内で線となり一つの形が出来始める。
崩壊した古聖堂。
古聖堂の過去。
かつて失われたはずの〈戒律の守護者たち〉
暴走する生徒たち
居なくなったリーダー格の生徒
現在不明のシャーレの先生
「…………あり得ない。」
そして今の急速に答えを導き出すハナコに、追加されるミサイルの発射地点の情報。それは…「トリニティの内部」より発射されたというつまりトリニティの中に今回の襲撃者はいたと言う事実。
「ありえない…あり得る筈が無いんです……っ!!」
「……っ!?ハナコさん!?どうしたのですか!?」
その導き出された荒唐無稽な“真実”に、ハナコは知らぬうちに過呼吸とそれからくる震えを抑えようと指を口に咥えようとしているのをどうにかマリーに抑え込まれる。周囲からしたら何か分からないが突然、ハナコは地面に座り込み震え始めたかと思えば甲高い特徴的な呼吸音と共に、確実に“気がついてはいけない事”に気がついて発狂した様にも見えて。
「これを…解決できる手段は、無い……?」
「えっ?」
小さく呟いたマリーの声が耳に入っていない様子で、ハナコはまた考える。
あり得ない、あり得ない。あり得るはずのない仮定と想像の上でハナコは今、最も“真実”に近い生徒となった。
「このままでは、トリニティとゲヘナは消え去ることになるでしょう」
かつて、第一回公会議でアリウスが弾圧された様に。次は自分たちの番であると冷静に告げる。……ああ。でも最も“真実”に近い少女は最後まで口にすることができなかった。
“この土壇場で裏切り者が居るかもしれない”
と言う事を。
◆
「………っ!?」
「終わりだ。アズサ。…そもそもお前に戦闘訓練を付けたのは誰だと思っている?」
時間と場所は変わり、サオリとぶつかり合ったアズサは碌にサオリに傷をつけることが出来ずに地面に転がされ、ミハに関節技で動けない様に固定された。
そして、アズサの主戦場はゲリラ戦であり敵味方入り混じる中で相手の隙をついて倒すことが最もアズサに合う戦闘だと、何故こうしてサオリにタイマンを挑んだのか。ミハでさえ理解できないとアズサを押さえ込みながらサオリの解説を聞く。
「くぅぅぅ…ミ、ハ………どう、して」
遠慮なく、いつでも意識を落とせる様にと押さえ込まれたアズサは力をかけるミハに問いかける。どうして、ミハが“そっち側”に立っているのか。どうして、ミハは最初から裏切るつもりだったのか。どうして、ミハは……アズサは聞きたい事ばかりだと無様に地面で身体をくねらせる。
「………時間は?」
「貴方の扇動のおかげで10分ぐらいは余裕ある」
ミハの問いにミサキが端的に告げる。
そう。ミハがどうしてアリウスの襲撃に最初から参加しなかったか。それは単純な事だ、ミハは“お友達”にわざわざ教えていたのだ。“今回の混乱は全てゲヘナのせいだ”とミハはまるで毒を染み込ませるかの様にトリニティ全てが抱いていたゲヘナに対する警戒心に、怒りを植え付けていたのだ。
「どうしてと言われても最初からオレはこっち側だっただけだ」
「まあそう言う事だ。…アズサ、裏切り者よ。そちらで綺麗な世界は楽しかったか?」
「───────────!!!」
ミハとサオリが肩を並べるその姿に、ついにアズサは発狂したとも言える様な、言葉にならない悲鳴と怒号を搾り出した様な声と共に、立ち上がらんとミハの手の中でもがく。…流石にこれ以上は身体を痛めるだけだと、ミハはどうにかアズサの両手を掴んだまま立たせると、アズサのその瞳は血走りながら滂沱の涙を流し今も尚、ミハの拘束を振り払わんと暴れる。
「サォリィィィィィィィィィィ!!!!」
「もはや正気まで投げ捨てたか…アズサ。お前の裏切りで多少の計画はズレたがまあ誤差だろう」
どちらかといえば上手くいってる方だとサオリは考えている。
ミハの暗躍によってシスターフッドや正義実現委員会は想定より早めに沈められたし、ミハの扇動によってトリニティ内部とゲヘナ内部の民衆に火種が蒔かれ、想像よりも凄惨に血と火薬の戦場が出来上がると考えている。
「お前が残したセイアの襲撃は我々が引き継ごう」
「─────────────!!!」
この奪い取ったエデン条約と、手に入れた〈複製〉の神秘を持った〈戒律の守護者たち〉と共に今度こそ、トリニティとゲヘナを終わらせるとサオリはアズサに告げる。それでは後はアズサを殺すだけだと銃口を構えた瞬間だった。
「………ぬいぐるみ?」
「っ!伏せろっ!!」
ミハにはそのぬいぐるみに見覚えがあった。ペロロ様であるそのぬいぐるみはヒフミからアズサへと、アズサが気に入ったから譲渡されたモノだと気がついた瞬間、ミハの鼻がそのペロロ様から濃厚な火薬の匂いがしたのだ。
瞬間、爆発。ミハは自分の命大事にとばかりにアズサの拘束を緩めていたその時だった。想像よりも大きな爆発と白煙の中でアズサが逃げていく足音がする。
「げほっ…げほっ……最近のトレンドに自爆覚悟で逃げるとかあるのかよ……」
「だ、だ、大丈夫、ですか…?」
一番アズサの近くにいたミハはその白煙と爆発をモロに食らい(無傷だが)咳き込む中を、白マフラーの少女に助けられてその場を去っていく。
直後、爆炎と銃撃の音で戦闘が始まった。
ゲヘナとトリニティは憎しみ合い、殺し合う。
全ては不毛なまま、虚しさに還ると言うのだろうか。
「撃ちたいのなら、撃て。それには意味がある」
次回、「決別の物音」
感想、評価お待ちしてます。