君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
ばくだ…爆弾……かなぁ?
「アズサちゃん……!」
「ヒ、フミ…か……」
ヒフミがアズサを見つけたのはもう夜遅くだった。
あの後、トリニティ全域をその脚で探す以外方法の無かったヒフミは友人に救護された中でミハやアズサが居ないか聞きながら草の根かき分けて探していた。
ミハもアズサもスマホの電話には一向に出ず、それでも救護されたという情報もない中でようやく見つけたのだった。
アズサからのペロロ様を使った暗号もどきに導かれ、ヒフミが着いたのはトリニティ郊外の橋。ヒフミがその場に着いた時にはすでにアズサは幽霊の様に覚束無い足取りで立っていた。アズサの羽は薄汚れ、服も袖が解れている。
「一体今までどこにいたんですか……!いえ。今トリニティ全体が……!」
「……うん。知ってる」
「それにミハちゃんはまだ行方不明で……!!」
今、ヒフミが知る限りではトリニティは地獄の様な様相を呈している。
学園のトップが殆ど行方不明か重傷で、多くの生徒はこんな不意打ちと騙し討ちでトリニティを攻撃してきたゲヘナに報復すると既に動き出している節がある。
大通りでは戦車を持ち出したゲヘナとの小競り合いで、こちらも戦車を動かしバリケードの間での銃撃戦が既に始まっている。
おそらくアズサも激戦区近くにいたのだろう。でもアズサがようやく見つかったのだからおそらくミハもそう遠くない内に見つけられる。或いはアズサがミハの姿を見てないかとミハの話題と共にヒフミは詰め寄った瞬間だった。
アズサの表情がくしゃくしゃに歪み、泣き出しそうになったのは。
「っ!?…ど、どうしたのアズサちゃん?…何処か痛めて……!」
「違う、違うんだ。ヒフミ……ミハは、ミハ……は」
ヒフミは知らない、本当の事。
アズサは言えるのだろうか。あの平穏を、2人は確かに親友だった。そんな親友同士に言えるのだろうか。君の親友であるミハは裏切り者だと。トリニティに復学してきたその時からミハは今の時まで裏切るつもりで補習授業部に居たと言えるのだろうか。
「………ミハ、ちゃんがどうかしたん…で、すか?」
「………………………………………」
だがここで考えて欲しい。本当にヒフミは何も知らないのか?ミハが停学中、何をしていたかも知らないのだろうか。……答えは否だ。ヒフミは知っているし会っている。ミハのアビドス襲撃前夜、本来なら会う筈のないブラックマーケットでヒフミはミハが“伏黒メグミ”の姿で会っている。
アズサの泣き出しそうな表情。こんな日が暮れるまで見つからなかった理由。更にはミハまでも連絡のつかない理由。…そして伏黒メグミの所以。その大まか全て、ミハを知ろうとブラックマーケットを駆け回った事のあるヒフミは大体を察してしまった。
「……………そう、いう…ことなんですね」
「!………ヒフミ…………」
おそらくミハは“向こう側”。つまりアリウスの味方として動いているとヒフミは表情を歪ませる。一体いつから。一体どこからミハは依頼を受けて動いているのか。それを考えてしまえば最後、ヒフミは泣きそうになる。今更になってだがナギサさまが私と全部終わった時に紅茶を吹き出した理由がよく分かる。非常にあれな言い方だが脳みそがめちゃくちゃに破壊される感覚だ。決して気持ち良くない、不快な感覚がヒフミの全身を駆け巡る。
「アズサちゃん、一度戻りましょう。」
「………いや。私は………」
どうして話してくれなかったのか。どうして私を頼ってくれなかったのか。ミハが頼むのなら一緒に堕ちても良かったのに。と荒れ狂う内心を抑えながらヒフミはアズサに声をかける。おそらくアズサは会いに行ったのだろう。ならばミハが行く先を知っていてもおかしくない。最悪、戦闘になることを考えてヒフミはアズサに一度退くことを声かける。
「もう、戻らない」
「………………えっ」
ヒフミに親友は傷つけさせない。私1人で全部止める。そうアズサは覚悟した。
そんな覚悟とは他所にヒフミは強引に腕を掴んででも連れて帰ろうと一歩足を踏み出した所だった。
「来ないで!!……ありがとう。ヒフミ、ここまできてくれて」
「…………アズサちゃん」
アズサの先ほどまでのくしゃくしゃの泣き顔とは打って変わって、微笑みを浮かべ、語る。
今までがとても楽しかった事。ヒフミたち、補習授業部が自分の様な薄汚れた世界に生きている存在を受け入れてくれてとても心地よかった事。私のことを名前で呼んでくれたこと。可愛いぬいぐるみをくれたこと。プールで遊んだ事も、夜外に遊びに出た事も。その全てが、補習授業部と共に過ごした全ての時間がアズサにとって初めての事で楽しかった。
「だから、私の手で決着をつける……ミハも取り戻す」
「っ!?ダメです!アズサちゃん……!!」
おそらく、ミハは強い。間違いなく自分よりも強い。
あのアリウススクワッドが少なからず敬意と共に肩を並べていた事が何よりの理由だ。
でも、それが足を止める理由にならないとしても。
アズサの心はもう限界を超えていた。
「……ここから先は、殺し合いだ。」
「………本当に、始めるんですね」
アズサの呟きにヒフミは小さく問う。
知っている。裏世界では喧嘩して、いいよ。ごめんね。で終わる様な世界ではない。文字通り自らの命と面子のぶつかり合い…殺し合いに繋がる。
「もし…私がこの場で止めると言ったらアズサちゃんはどうしますか?」
「……………そうか」
ヒフミはまた泣き出しそうになる表情をグッと堪え、銃を手に取る。
そんなヒフミの姿に背を向けたアズサは果たしてどんな思いで目を瞑ったのか。
その瞳からは、輝きは失われてまるで腐った錬鉄の様。
「撃ちたいのなら、撃て。それには意味がある」
「………………っ!?」
ヒフミは構える。アズサは振り返る事なく夜の闇に消えていく。
結局、ヒフミは最後まで引き金に指を掛けられなかった。
「……悍ましいね。これ」
「ああ。だがこれは間違いなく……」
トリニティもゲヘナも滅ぼせるモノだとサオリは呟く。時間と場所は変わり、アリウススクワッドの潜入場所にて。先ほどまで一緒にいた筈のミハは爆炎と白煙の猛攻を受けて一種の酔った状態になったという事でここから離れて、安息を取っている。
おそらく傭兵として、深入りする事をしなかったというのもあるのだろう。
そのリスクヘッジの高さと危機管理能力はサオリでさえ見習いたいモノがあると少しばかり尊敬していた。勿論、そんなミハを全部終わった後にアリウスの教官役として抜擢する事をマダムに奏上しても良いとまで考えていた。
「……え?人工の天使……?」
「太古の教義の失敗作……ですか?」
地下の更に地下から悍ましい化け物の声の正体にアツコが手話で解説する。
解説を聞いたミサキとヒヨリはちんぷんかんぷんだったがそもそもこれは理解するのに相当の専門的な知識がいる。今、必要な情報は“これ”を解き放つ事でトリニティもゲヘナも灰燼に帰すという事だけ。
「そろそろ時間だな……待機中の部隊に連絡を。」
「(すっ…すすっ……すすす……)」
「え?……確かに。リーダーそれより先に彼女を呼んだ方が良いのでは?」
「…………先に伏黒メグミに連絡しろ」
実はサオリだけでなく、アリウススクワッドのその全てがミハの実力に多少目を眩ませていた。それもそのはず、強さだけが生きる理由だった嘗ての少女たちに純粋に誰にも何にも染まらない暴の化身が味方となって隣で戦うというのだ。
知る由もないが…あのマダムでさえも、ミハの力に目を奪われているのを見るとその教育を存分に受けたアリウススクワッドがミハの力に惹かれるというのも無理もない事だった。
「……す、すぐに着くって……!」
「了解した。これより、トリニティへの進撃を開始する」
直後、蠢く黒い影。トリニティの地下から、忘れ去られた古い聖堂から〈戒律の守護者たち〉がトリニティを弾圧しようと動き始める。
「よし。それでは命令を───────」
「………リーダー?」
トリニティを滅ぼす命令を下そうとした瞬間。サオリは突如沈黙する。
「……ここを空けていたのはどれぐらいだ?」
「え?……えーっとおそらく三時間程度ですかね……?」
そして振り返り、ヒヨリに問う。アリウススクワッドが行動を始めてからこの場に戻るまでおよそ三時間弱。それを長いと見るか短いと見るかは分からないが、まるで考え事の様にサオリは沈黙する。
「……ああ。アイツがいるな」
「アイツって……アズサ?」
すぐに瞳を開けてサオリの呟きにミサキがすぐさま問いかける。
その直後、聞こえる爆音。何かが爆発した音だ。
「ブービートラップ!?」
「ひっ……ひぃぃぃぃぃぃ!??」
ミサキの驚きの声と地面に丸くなるヒヨリを前に何度も何度も何度も執拗に爆発する音と振動が伝えられる。おそらく、この場はもう逃げ場所のないアズサという蜘蛛が張った罠塗れの空間だ。
「……ちっ!面倒な……!」
◆
「……良かった。ミハは、居ないんだな」
「なら、本気でやり合える」
「全ては虚しいだけだ」
「ミハを……返せっ!」
次回、「憎悪の螺旋」
感想、評価お待ちしてます。
ちなみにここでミハが居ればアズサは爆弾で……