君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
作者「おお!めちゃくちゃ面白い小説があるやん!おおっ!こっちにも!…ゲームも周年イベントあるし楽しみにしてるのん……」
時間「消える」
作者「えっ」
数日間、執筆をサボっていた作者の壮絶な内情である
「………っ!待てっ!」
「あっちょ……行っちゃった……」
一瞬、壁の向こう側に翻るアズサらしい物陰にサオリは追従する。
何がなんでもさっさと片付けるとばかりに仕掛けられたトラップを避け、蹴り上げ、時にはスライディングしながらアズサの後ろを1人追いかける。
避け続けるだけではイタチごっこだと悟ったサオリはもう既に仕掛けられていた爆弾を爆発させてその爆発力も利用してアズサに迫ろうとする。
それもそのはず、動揺している隙を突かれてヒヨリが既に落とされている。狙撃手と遊撃手を先に狙って落とす辺り定石込みで崩しにかかっているとはいえこのままアズサに好き勝手はさせないとサオリはヒヨリをミサキとアツコに任せて追いかける。
「………ようやく、見つけたぞ。白洲アズサ」
「……………………………」
そもそも3対1でここまで良く手こずらせてくれたモノだとサオリは目を細める。
姫…アツコやミサキの追撃があった中、ドブネズミの様に逃げ回りようやく首根っこを抑えることが出来た。頼みの綱になったかもしれない〈戒律の守護者たち〉はもしアズサがまだアリウス判定を下されたのなら面倒くさいことになり得るとして使えなかったが、それもここまで。
何より、サオリは急いでこの裏切り者を片付けたかった。
今からトリニティに侵略するというのにこの裏切り者によって段取りが一部崩れかけているというのだ。わざわざ、もうメグミを呼び出したのに肝心な私たちがこんなザマだったら失望されてもおかしくないと無意識の内にサオリはミハからの好感度を考える様になってしまった。
「……階層を落としたか」
「……………………」
おそらく音からして先ほどまで居た所で間違いはないだろうがそこにはまだアツコとミサキが残っている。流石に、生き埋めになっては居ないだろうがそれでもタイマンというのは……まあどうもアズサに同情したくなるほどであろう。
現にアズサは何発も弾丸を受けているというのに、サオリは涼しい顔で冷静に追撃を続ける。どれほどアズサが動き回り撹乱しようともその動きはメグミの劣化以下である事には違いない。
そして、その程度ならサオリにとって捌けないわけがない。
少しずつ、少しずつ。回避の選択肢を奪われ、攻撃の選択肢を奪われ。
「チェックメイトだ。アズサ」
「くっ………」
ついにアズサはサオリの前に屈する事になった。
全身を汚し、口から滲む血を拭き取りながらも彼女の銃は既に手の届かぬ遠くに飛ばされている。サオリの銃口がアズサの頭に押し付けられているのも、既に逃すつもりはないという意思の表れだろう。
「お前にしては良くやった。…お前にしては、な」
「………教えてくれ、どうしてミハはアリウスに従っている!?」
だが無意味だと言うより先に、アズサはサオリに食ってかかる。
それこそ掴み掛かろうとするアズサに流石のサオリも同情心が沸いてきたのだろう。同じ様にトリニティで生活し、同じ様に肩を並べていたのに最後までメグミはアズサに事を告げなかった。その事実に多少鈍いサオリであっても憐れんでしまう。
「………最初からだ、アズサ。」
「………………!?」
「あの人はマダムの指示によってトリニティへの潜入を行っていた」
「ぁ……う、そ」
ついに睨みつける目も、威勢のあった覇気も萎む。
失意に沈むように地面に崩れ落ちる。もはやアズサの思考は纏まらない。“マダムの指示”に“潜入”…それが示すことは、アズサも同じ指示が出されていると言うのに最後の最後までミハはアズサに明かさなかった。
そう。それはつまりミハにとってアズサは“信用”も“信頼”もしていなかったと言う事になる。
「………アズサ、最後に教えてやろう。」
「…………………。」
どうしてお前は負けるのか。とサオリは嘯く。
もはや、どうでも良い。もう、何もかもどうでも良いんだとばかりに俯くアズサにサオリも流石に同情心と憐れみが優った。……が、それでも裏切り者には罰を。
「弱いからだ……お前は、何よりも弱かった。」
「……………………。」
かの絶対的な“力”の極限。或いは、極まり磨き尽くされた肉体美をサオリの脳裏は過ぎる。〈アリウススクワッド〉と単騎で結び合える、もしくは我々が瞬殺されると言うのならおそらくああ言う存在なんだろなとサオリには似ても似つかない感想と共に銃口をアズサの頭に押し当てる。
「……違、う」
「いや、何も違わない。」
「…………………………」
「さようなら、白洲アズサ。」
最も弱かったモノ。私たちとは正反対の光を夢見たまま溺死するのなら。
そう、サオリは一抹の憐れみと共に引き金を連続して引き続ける。幾らヘイロー持ちが頑丈だとはいえ、心は折れ銃弾を避けようともしない様な死に損ないならどうせこうして銃弾を浴びせるだけで死んでいく。
「安心しろ。お前の友情も、お前の想いも全て灰燼に帰す」
「……………!」
この裏切り者を処分したのなら、おそらく手加減なしのメグミの姿を見ることが出来る。そしてその力はトリニティの最高戦力の息の根を一方的に潰すのだろう。その時の姿をサオリは既に楽しみにしていた。
その瞬間だった。一瞬アツコが来た事で銃弾が止んだその隙にアズサがまた逃げる。
「………っ!?まだ逃げるのか!?」
「(すっ…すす…)」
「………いや。今は追わなくて良い」
まさか二度も逃すという失態を犯してしまうとはとサオリは考える。
少し前に考えたメグミからの失望が本格的に考えなくてはならないほどに膨れ上がる事になった。メグミはあくまでマダムに雇われた身。即ち、メグミはマダムの配下である事を忘れてはならない。
「闇の中で光を見つけた虫は、その光に何処までも醜く縋り付く。」
「(すす……すぃ…すす)」
「こんなモノが、アズサにとっての光なんだろうな」
ふとアズサが逃げる時に落としてしまったモノを拾い上げる。
目は何処かトんでおり、舌は出しっぱなしの白い鳥の人形。
「取り戻しに来たその時、今度こそ教え込んでやろう。」
「(………す…すす)」
この世界は虚しい。どこまで行っても虚しいモノなのだと。
そうサオリが決意した瞬間だった。手に持ったペロロ様から音が聞こえたのは
「…………ん?」
「………………」
その音はまるで何かを刻むかの様な無機質でありながら規則性のある電子音。
嫌な予感と共に、サオリはぬいぐるみを切り裂く。
「!?………まずい!姫ぇ!」
「!!」
その中から出てくるのはトランシーバー型の発火装置と百合園セイア暗殺に使われるはずだった“ヘイローを破壊する爆弾”だった。勿論、こんなのを食らえば無傷ではいられない。今、アツコに傷を負われると面倒なことになる。せめて爆発するより先に逃げてくれと声を上げた瞬間。
鳴り響く轟音と、爆風。
果たして2人は逃げ切れたのだろうか。
◆
「これが物語の結末。どうしようもなく凄惨で無惨な終わりの物語」
ふと、先生は夢の中で目を覚ました。確か自分はミハの裏切りの後に銃弾を受けて気絶していたと一周回って冷静に考える様になってしまった。ミハの裏切りは正直にいうなら全く予想してなかったし想像もできなかったが遭ってしまった事はここから変えないと。
そう奮励する先生の横で小さく呟くセイア。
何処か眼差しもほの暗く、呟く言葉に覇気もない。
それもその筈。本来裏切りとは考えもしなかった、そんな事が出来るとも考えていなかったミハが裏切者だったのだから。流石のセイアも大分応えたらしい。
「もう、分かっただろう。誰も彼もが失意の中に居る」
真実を知るモノも、真実を知らぬモノも。真実に手をかけ始めたモノも。
全てがこの悲劇をまやかしだと目を背けることしかできない。
ふと先生の脳裏に映る具体的な映像。そこには先生が去った直後まるで機を見計らったかの様に現れたミハ。まるで味方の様に肩を並べた直後ツルギたちに銃口を向け、即座に脳天に発砲させて意識を奪った。
ヒナの時もミハは現れ、首根っこを掴まれているからとはいえ、いとも容易く意識を奪ってみせた。
つまり、ミハだけでトリニティとゲヘナの実力者を戦闘不能にしている。
そしてその肝心のミハはまだアビドスの時の刀も持っていない。……ミハはまだ手を抜いている可能性が非常に高い。
「憎しみ合う様に、恨み合う様に扇動するその様はもはや驚嘆するほかない」
ふと先生がセイアを見ると、セイア自身も失意の中に居るかの様にその声は今まで聞いた中でも特別、沈んでいる様に聞こえた。
そして直後に映る具体的な映像。トリニティの生徒が、ゲヘナの生徒が、正義実現委員会の子たちが、風紀委員会の子たちがまるで互いを忌仇だとばかりに目を血走らせ銃撃戦は激しくなる一方だ。おそらく、情報を集めているであろう両校のまだ無事な組織は宣戦布告を流そうと意気揚々に息巻いている。
「アズサにだって何度も言っていた。君は必ず、死にたくなってしまうだろう、と。どうして、そこまで絶望してしまうのか。私はこの時になるまで分からなかったけど」
そのセイアの予言通りにアズサは膝をつき、泣き叫ぶ。まるで親に置いて行かれた子狼のように空を恨むかの様に目一杯言葉にならない怒号と悲壮に涙が頬を伝うのさえ気が付かない様に吠え上がる。
疲れて泣き終わったアズサの顔には泣き跡とそれを覆い隠すほどに黒く、暗く歪んで澱んだ眼差し。かつての無垢の眼差しとは程遠く、腐ったかの様な眼差しに先生も絶望とは希望や望みが絶たれるその瞬間というものを痛ましそうに顔を歪める。
「悲しく、苦しく、憂鬱にもなり、そして虚しくなる様なそんなお話」
「しかし、紛れもなくこれがこの物語の正体」
まるでセイアは自分は関係ないとばかりに無関心に無表情で呟く。しかしその言葉を先生は絶望しているようだと感じた。それも間違いではないのだろう。だがセイアの本心はそれだけじゃない。
「“セイアは……死んでも良いと考えているの?”」
「ははは。今更になってそれを聞くのかい?」
セイアのその姿はまるで死に際。全てがどうなろうと自分という物語は完結するのだと悟った最期の時を待つ老人の様だと先生は危ういものを見る様にセイアに訊ねる。だが、そんなのセイアにとっては今更の話で。
「先生。いつか、貴方に5つ目の古則について訊ねたね」
「“……………(首を縦に振る)”」
「先生。貴方はあの時、“ただ楽園があると信じるしかない”と。」
5つ目の古則。それは楽園のパラドクス。楽園に辿り着きし者はそこが楽園だと証明する事は可能なのかという問い。楽園の中に入ってしまえば出る必要は無くなる。何故ならそこが最も幸福な楽園なのだから。そこから出てくることがあるのならそれは決して楽園ではない。という矛盾。
「………そうだ。私も、信じていたよ。“楽園”を」
そう。セイアにとってミハとの青い春はただ隣に座って話をするだけでも唯の友人として親友としてあってくれるミハが楽園だった。本当は、見捨てるなんて事したくも無かった。ミハが未来視からどうやっても映らなくなる日が来ない事を祈った。何処かの可能性に“消えない可能性”を探したのに。
ミハは、必ず。私の瞳から姿を消すのだと分かったときにはもう。
私の心は折れかけていた。どうしようもなくポキリと
「そうして、信じた結果がこの惨状だ」
惨い話だ。あの理知的なセイアがミハとの時間を楽園と称するほどセイアはミハに心を許していた。だというのに、こうも無惨に綺麗に踏み躙られたのだ。まるでセイアとの時間はお遊びだったと言わんばかりに。
「………先生、私はね。ミハに殺されるのなら本望だと思うんだ」
何よりこの騒ぎが始まってからミハはまだ誰1人、手にかけていない。
その中でミハがもし自分を殺しに来てくれるのなら、私の命にそれほどの価値があるという事になる。
「エデン条約、これはもはや風前の灯に等しい」
もとより不可能だったと考えるエデン条約。“互いにもう憎しみ合うのは止めましょう”という言葉は出来るはずがないとセイアは断定する。現に、アリウスというかつてトリニティが無かったことにした闇が膨れ上がり、それに漬け込む様に憎しみの火種を煽られてこの始末。
まさに楽園から追放された私たちの様だと軽口の様にセイアは言葉にする。
もう、セイアは諦めているのだろう。生きることも死ぬことも。
「“……でもセイアはこの続きを見ていないんだね”」
「見る必要が?……もう、嫌なんだ。自分が、死にたくなるほどに」
セイアは語る。間違いなくこの先に待ち受けているのは嘆きと絶望と悲壮だけだと。ミハの裏切りは間違いなくそういう事になる未来なのだと。…どれほど多くの人がミハと親しんできたと思う?そしてその中の誰がミハの裏切りに心折れないのか。セイアは誰1人として知らなかった。
「“この後はきっと間違いなくセイアの言う通りになるかもしれない”」
「だろう?だからもう諦めて……待て」
先生が立ち上がる。セイアは先生を見て目を見開く。
「分かっているだろう!?もう、これ以上は無意味だと……!」
「“でも無意味なら、セイアはきっと今まで未来を見続けなかったよね”」
「っ!?……そ、それは……」
セイアは今もどこかの病院で眠り続けているそうだ。
先生はその夢に引きずり込まれたのだろう。おそらく時間軸も関係なく、この物語が悲劇になると知りながら見続けるその理由は
「“まだ、期待しているんでしょ。何処かでハッピーエンドを”」
「…………………ちが、……」
ハッピーエンドとまでは行かなくても。ずっとセイアは1人で夢境を彷徨いながら探していたのだろう。少しでも被害が少なくなる様に、少しでもこの悲劇が悪化しない様にとセイアは1人で戦っていたのだ。
「“ありがとうセイア。ここからは大人の仕事だ”」
「もう、証明が出来なくなったこの物語を本当にどうにか出来るのかい?」
細く小さな声で俯きながら呟くセイアの悲鳴。
先生はそれを聞いていた。…きっとセイアが最後まで隠そうとした悲鳴、なんだろう。7つの古則だとかを織り交ぜて説明するセイアに悪いがと。先生は単刀直入に言う。
「“うーん。実のところ、そんな言葉遊びにはそこまで深く考えてなくて”」
「…………は?」
「“ああ。でもさ。”」
楽園?その証明?到った先の話?パラドクス?
好きに言ってろ。自分は目の前の生徒を救う“先生”なのだと誇る先生は、ふと少し前の補習授業部で楽しかった記憶を織り交ぜてセイアの5つ目の古則について回答する。
「“下着と思えば水着も下着でしょ?”」
「…………え?下着…?」
一体何を言っているんだこの先生はとその言葉の意味を問おうとするよりも先に先生の意識は浮上して、セイアが居た夢境の世界には1人セイアだけが残されていた。
「…………行った、か」
「貴方はこの“おしまい”に向かうんだね」
「…………。」
「ふぅ………」
「確かに。私は知らなかっただけ、なのかもしれない」
「このお話を見てきたものとしてエンドロールまで見ないのはマナーに欠ける、か」
「仕方ない。本当に仕方ない」
「例えどれほど後味の悪い話でも」
「自らのこの目で見ない事には何も分からない、か」
「ミカ様を解放します」
「今、そんな気分じゃないんだよね〜」
次回、「揺れるトリニティ」
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