君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
先生がセイアと話していた同時刻。
爆発が収まった廃墟では、ゆっくり気味に足音を響かせるミハの姿があった。
先ほどから集合場所…というか呼び出された場所から爆炎と爆音と銃撃の音が聞こえるがその辺りはミハの関係する所ではないと欠伸に伸びを重ねながら上がっていく。
ここまで長く関わっているとなるとこの爆発の元凶の匂いやら、誰が巻き込まれて誰が追撃しているかなど五感を研ぎ澄ませるほどではないとミハは最初に巻き込まれたであろう2人を回収しに行った。
「おーい。生きてるかー?」
「げほ……げほっ……」
「えへへ……あの、こっちですぅ……」
特段、崩落が目立つ所に着くと少し遠くで咳き込む音とミハの呼ぶ声に小さく反応する声が聞こえる。ただ一度爆発しているというだけあってあまり安全とは言い難い。自分が行く事で二次被害が発生しないかどうかつま先で地面を叩きながら考えて生み出した答えとは。
「そっち行くから動くなよー」
「ごほっ……ひゅっ……ごほっ」
「は、はいぃぃぃぃい」
比較的安全そうな地面から蹴り上げ、着地を最小限にしながら八艘跳びよろしくパルクールで2人に近づく。そこは瓦礫に囲まれていて抜け出しにくい上に、少々暗い。そこではミサキが過呼吸気味に崩れ落ちているのと、ヒヨリの銃口が瓦礫に挟まれているのを見てまずはヒヨリの銃から救出した。
「ほら、吸って…止めて……吐いて………ゆっくりでいい」
「すぅ……げほっ……ふー………はー………」
その後、過呼吸に苦しみ這うミサキをミハは抱きしめ背中に手を回し、呼吸の調律に掛かる。そんないつもの粗野なメグミの態度とは打って変わってまるで母性の塊の様にミサキを落ち着かせにかかるミハの姿はヒヨリも驚きを隠せない。
「………すぅ、ごほっ……ご、めん……」
「大丈夫。立てるか?」
ミハにしがみつきながら涙目で謝るミサキにミハは何でもないように問う。
そんなミハにしがみつきながら立ちあがろうとするが、足に力が入らないのか何度も崩れ落ちるのを見てミハはお姫様抱っこの要領で持ち上げ、意外と図太いヒヨリが動けるのを目視で確認すると、ついて来いとサインを送る。
「…………っ!、そこまで、してもらわなくても……」
「気にすんな。こればかりは数の問題だ」
「ひぇぇぇぇぇぇ……速い、ですね……」
兎よろしく、ミハは脚のバネを最大限に活用して一気に階層を駆け上がる。
耳を真っ赤に、顔を真っ赤にしているであろうミサキはミハの胸に顔を埋めながら小さく呟くのをミハは聞き逃さない。明らかにミハ1人で足りるであろう事をミサキも分かっているし、私たちの救出が後回しでもいい事を気がついている。それでも助けてくれたミハにミサキは大きく惹かれる事になった。
「っ!?姫……っ!!許さん、許さんぞ!!白洲アズサァァァ!!」
「向こうからだ。……今更だが襲撃者はアズサか?」
「うん。ここ戻ってきた時にはもう、トラップだらけだった」
遠くでサオリの怒号が聞こえると、ミハは片脚で強引に方向転換し向かう。
ミハの人間が出せる限界速にミサキはただミハに抱きつくことしか出来ないが、それでもとミハは先ほど聞こえてきた怒号の名前に襲撃者がアズサかどうか問う。確かにあの罠の跡といい、残された薬莢の種類から過激になったアズサだとは薄々勘付いていたが、四対一の中を突っ込んでくるとはそこまでヤケクソになる様な奴だったかとミサキからの是の声に首を捻る他無かった。
「着いた。無事か?サオリ…とアツコ」
「私は無事だ……だが姫は……っ!」
「動かすな!……脈は、ある。気絶してるだけか」
盛大な爆発跡。倒れ伏すアツコと煤が付いているだけのサオリを前にミハはおそらくアツコが庇ったのだろうと考える。おそらくあの爆弾に“何か”あるのだろうと考えているがそれよりアツコの安全が先だ。それほど、アツコとはベアトリーチェとの契約上でも大きな意味を持つ。
ミハは揺らそうとするサオリを引き剥がし、アツコの手首を掴む。問題なく脈はあるため安全ではあろうがそれでもアツコが今ここで倒れるのは拙い筈だとミハは知っている。聖徒会の〈戒律の守護者たち〉は確かアツコの支配の下動いていた筈だ。
「……で、何があった」
「アズサだ……アズサに持たせた爆弾だ……っ!」
「持たせた爆弾となると……ああ。ヘイローを破壊する、あれか」
こくりと頷くサオリを前にミハは1人冷静に考える。ベアトリーチェやゴルコンダから多少聞いている“概念”に干渉する事で出来たオレが所持する“鉾”の廉価&劣化版がヘイロー破壊爆弾という代物。“鉾”が切り捨てた相手の神秘を完全にそして強制的に破壊する代物であるのと同じ様に当てた相手の“ヘイローのみ”を破壊する爆弾を制作者はとんだ出来損ないと言い、鉾はミハしか使えない(鉾という形状。近づき当てるにはミハの身体能力でなければ銃を使う方が速い)という欠点はあれどそれを差し引いても失敗作と言うのがそのヘイロー破壊爆弾だ。
事実、その威力はミハには傷一つ付けられなかったある意味では面白い代物だった筈。それこそ特筆すべきほど身体が弱いとか、限界まで身体が弱っている者でないとヘイロー破壊爆弾は威力として死んでいるものだ。…しかもおそらく、ヘイローを持たぬ先生には効かないだろうとミハはサオリを抑えながら考えていた。
「状況は芳しくないな」
「……メグミのおかげで大分時間は稼げているが」
「それでも、それもそんな余裕があるわけではない」
ミハの呟きにサオリが溢す。そこにミサキからの言葉も混じり、停滞する。
全員が全員言っていることが正しい。アツコが倒れたと言う事もあって〈戒律の守護者たち〉の顕現が甘くなっている。それに幾らミハが扇動しているとは言え、もう事が始まってから数時間以上経っていると言うこともあって、おそらく各地の争いも膠着状態で動かないだろう。あの癖の強い治療部たちだって負傷者の救護を続けているとなるとアリウスにとって時間は敵だ。
「………まずは古聖堂で戒律の更新だ」
「そう、動くべきだろうな」
アリウススクワッドとミハの今からの行動が決まった。
ミハは落ち着いたであろうミサキを下ろし、アツコを抱き抱える。
「……さあ。急ごう」
「っああ。助かる」
◆
〔同時刻・トリニティ“シスターフッド”〕
シスターフッドの大広間は今、地獄と化していた。
今にでもゲヘナに不意打ちをかましてやろうと息巻くトリニティ全土の空気に、正義実現委員会は既にゲヘナの風紀委員会と一進一退の攻防を繰り返している。シスターフッドの一部過激派も命令をブチ壊して勝手に行動をしている。
「っ!……ああ。サクラコさま……!」
「ナギサさんは見つかりましたか……!?」
「いえ。…ですがヒナタさんに正義実現委員会の委員長並びに副委員長は重傷で今運ばれたそうです……!」
シスターフッドのリーダーであるサクラコは病床の上。正実の2人も病床の上。セイア様はそもそも病院だし、ナギサさまは見つかっていない。つまり今、トリニティの政治の舵をとれる人物が誰もいない。そしてその直後、今この場の中心となっていたハナコに恐るべき報告が届いた。
「っ!報告です!ティーパーティーがゲヘナに宣戦布告の準備を……!」
「なっ!!」
「いま、このタイミングで…!?」
「っ。恐れていた事態が……」
宣戦布告など。ティーパーティーの生徒会長のみしか出来ない事。
それが残っているティーパーティーの生徒のみで行うなど権力の暴走としか言えないこの事態にこの報告を聞いていたシスターフッド全員が淀めく。
「…………私が、行きましょう」
「!?ハナコさん!?」
「後は頼みます」
振り返り一言だけ残してハナコは急ぐ。
そう、まるでずっとこの場に来てから胸の奥を離れない悪い想像を振り払う様に。
◆
「はい!文書の作成が終わりました!!」
「これであの憎きゲヘナに……!!」
「お待ちください!!」
ハナコが急いでティーパーティーの大広間に着く頃にはもう宣戦布告の文書は出来上がり、いつでもゲヘナと戦争ができると言う状態になっていた。勿論、そんな熱狂の中飛び込んだハナコを前に冷ややかな眼差しが向けられることは想像に難しく無かった。
だがそうなったとしてもハナコにはこれを止めるしか無いと考えていた。
もし、ここまで“黒幕の誰か”が見越していたのならここが分岐点だと察していたから。
「宣戦布告は校則上、ホストしか許されていない筈ですっ!!」
「な……浦和ハナコさん…!?」
突然のハナコの乱入に混乱しているティーパーティーを前にハナコは更に畳み掛ける。シスターフッドが割り出したミサイルの発射位置。そして〈戒律の守護者たち〉更にはここまで以上に暴走する民衆を前にハナコは冷静に、それでいて演説するかの様な熱意で言葉を踊らせる。
「そして何よりこの場での敵はゲヘナではなく──────」
「取り押さえてください」
ティーパーティー幹部の鶴の一言でハナコは取り押さえられる。
2人がかりでハナコを押さえ込み、幹部は冷静に言葉を続ける。シスターフッドからの情報提供に齟齬がない事やこの惨状の原因の一つであるアリウスも分かっている。その上で幹部…いや。“パテル分派”はシスターフッドの報告に“信憑性がない”という事で他分派の幹部を取り押さえて、宣戦布告の準備を始める。そう、最初にミカが“パテル分派”に向けて囁いた。“ゲヘナとの戦争を”、パテル分派はそのために動く。
「クーデター…ですか!?」
「そして何より……ミカ様の妹様。“聖園ミハ様”の安否が分からぬ以上。ミカ様は賛成なされるでしょう」
「ミハちゃん……?……いえ。そういう事ですか………!!」
まあ。確かにやっていることは他の分派の身柄を押さえ従わぬ者を蹴落とすクーデターに近いが、パテル分派が慌てることはない。これが正義だと信じているからだ。そう、まるでこれが正しいと言われたかの様に。
考えも及ばない所でのミハの名前。ハナコは動揺するが、その動揺がパテル分派に不当に囚われていると一瞬考えた後にその考えをすぐに否定した。ミハが、あのミハがそう易々と捕らえられる筈がない。となると……
「あなたも……ですか……!」
「さて。なんのことやら」
◆
「ミカさん、こちらへ」
「……へぇ」
地下牢獄の中でミカは1人もの想いに更けていた。
おそらく自分がアリウスを引き入れた事によるこの被害。流石にまずったなぁ…色々とヤバいだろなぁ……ま。なんとかなるでしょ。特にミハちゃんには期待しているから。と成り行きをまるで封印されたかの様に見送ろうとしていた矢先だった。
刑務官からミカに声がかかったのは
「さて……一体どうい──────」
「ミカ様!!」
「お迎えにあがりました!!」
「お待たせしました!もう自由です!!」
そう言い、立ち上がった瞬間だった。ミカはもう覚えていないパテルの主戦派の子たちがミカの独房に流れ込んだのは。勿論、その理由はミカの解放の後にゲヘナへの宣戦布告。
「………なるほどねぇ。つまりみんな私のファンってことだ。サインでも書こうか?」
「い、いえ。そうではなく……!」
「分かってる、分かってる。戦争でしょ?ゲヘナとの」
「はい!その通りです!今度こそ奴らを消し去る───────」
ミカは冷ややかに、そう。それはまるで裏切り者だと先生の前に姿を現したミハの様な冷ややかでまるでモノを見下ろすかの様な冷徹な眼差しに変わったのに気が付かずにパテルの主戦派の少女たちは騒ぎ立てる。
「さあ!今すぐにもご命令を!!」
「……あはっ」
もう、抑えきれないとばかりにミカは吹き出す。
「……それで、だから?うん。そんな命令を欲しがりに来たの?」
「…………はい?」
「いやー冗談キツいでしょ。」
もはや憐れむかの様な失笑を隠せないミカは暗愚とポンクラにでも分かる様に言葉を続ける。……曰く、他の分派を全部抑えて実際のところ宣戦布告もわざわざ私の命令なんていらないから今すぐにでもゲヘナを強襲したらいいのに。
「で、わざわざ私の命令貰いに来たの?……尻捲ってみっともないね☆」
「っ!この……っ!言わせておけばっ!!」
ミカに殴り掛かるパテルの主戦派たち。そんな醜い姿にミカはそれほど元気があるならすぐにでも殴りにいけるでしょとどうでもいい様に考える。…だって事実、こんな柔な張り手が本当にミカを傷つけられるのか。
「っ!世間知らずのお嬢様をわざわざ出してあげようって時に……!!」
「自分の立場を理解しろ……!この解任直後に……っ!!」
「わざわざ来てやった恩を仇で返すか……!!」
はぁ。………猿め☆
ふと、ミカの眼差しがいっそう冷たくなった瞬間だった。
「アナタたち!!一体何をやってるの!!」
声が、聞こえた。
「“ミカ。落ち着いて聞いて”」
「………は?、え?」
次回、「子どもたちを救う先生」
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