君は無邪気な夜の暴虐   作:ミカ推し

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絶対に完結まではさせる……!


子どもたちを救う先生

 

「アナタたち!!一体何をやってるの!!」

 

地下牢獄に響く声。そしてミカとパテル分派の主戦派たちの間に割り込む小さな影。明らかにミカよりも小さいその姿でミカを庇おうと両手を広げる姿に流石の主戦派たちも声が詰まるがそれでも歴戦のトリニティ生。

 

「っ!貴方には関係ないっ!」

 

「どきなさい!…早く!!」

 

「やだ!!どかないっ!!…私は、バカだから分かんないけど……でも!これは間違ってるっ!」

 

もはや多対一の押し合いになろうともコハルはその背でミカを守る。正義実現委員会の1人として正義を全うする。そしてそのコハルの正義にはどれほどミハと同じような“向こう側の気配”がしたとしてもこうして寄ってたかって虐める方が悪だと無垢にもコハルは止めにかかる。

 

「………っ!なら貴方だってっ!!」

 

「それを庇うのなら同罪よ……!」

 

(…………ああ。ミハちゃんもこんな気分だったのかな)

 

小さな体でその背でミカを守る。それでも少女たちは止まらない。

別にミカは自分に危害が加わるぐらいならどうと言うことはなかった。別に痛くも痒くもないし、やった事の重大さは自分が一番よく知っている。だけどそんな私を庇ってくれるなんの罪もない子を害すると言うのなら。

 

その力をもう一度振るうに値するほどの力がミカに沸る。

 

「………はぁ⭐︎……き──────」

 

「“そこまで!!”」

 

隕石を喚び出すように右腕を少し上げた瞬間だった。

その後ろから、先生の劈く声が響いたのは。

 

「先生!?」「っ!?もう動いて大丈夫なの!?」

 

「あのシャーレの?」

 

「ちょっとマズいんじゃない……?」

 

「っ!?重症だったはず……?!」

 

フラフラと重心が定まらぬ姿のまま、それでも先生の眼差しは鋭く生徒たちの成り行きを眺める。後少し遅ければ…という先生の中とミカの内心だけを置いて先生は更に言葉を繋げる。

 

「“お願いだから暴力はやめてほしい”」

 

「………………」

 

「ね、ねえ。それにこの子…見覚えがあるんだけど……」

 

「先生のあの顔…絶対マズイって……」

 

そんな先生の姿にミカにくって掛かっていたパテル主戦派の少女たちにも焦りが見える。ミカを必死に庇っていたコハルが先生の生徒だったと言う事も気がつき、流石にこの場では自分達が部が悪いと感じたのかすごすごと退散していく。

 

 

 

「先生。大丈夫…なの?」

 

「……っ!そうよ!先生、怪我を負って……」

 

訝しげに首を傾げた直後に何か気がついたミカと少し前から噂されていたシャーレの先生が重症だったという知らせ。表面上では無事にしている先生に見えるがミハほど鋭くはないが、それでも人並外れた五感を持つミカが先生の流した血と撃たれた場所を悟る。

 

「“うん。私は大丈夫。……だけど時間がない”」

 

「「…………………」」

 

「“単刀直入に言おう。ミカ”」

 

「……どうかしたの?」

 

いつも以上に真剣でいてそれでいて瞳の中が揺れている先生に流石のミカも茶化す事は出来ないと話に耳をかたむける。そんなミカの姿に先生は伝えない事を考えてしまった。それもそうだ。ミカは愛している。例え、自分の地位が失おうとも消えることのない本当の親愛。それがミカのミハへの無償の愛だった。

 

そんなミカに伝えるのか。

ミハが裏切り者だと。おそらくミカよりも深いところでアリウスと繋がっていると言えるのか。

 

「“トリニティに、ミカ以上の裏切り者がいた”」

 

「………私以上の?」

 

頷く。先生の脳裏に映るミハの姿。アリウススクワッドと肩を並べておそらく、アリウスの中枢…もしくはアリウスのトップと繋がっていた存在がいるとミカに告げる。

 

そんな先生の重々しい言葉にそれが嘘ではないと言う事は分かる。

その上でミカを超える所でアリウスと手を組み、おそらく本来の目的であったであろう今回の騒ぎを発生させた人物……ミカの脳裏に嫌な想像が過ぎる。

 

「“もっと、わかりやすく言おう”」

 

「…………まっ」

 

「“裏切り者の名前は聖園ミハ……君の妹で私の〈生徒〉だ”」

 

「!?」

 

「……………う、そだよね……」

 

重々しく、それでいて苦々しく吐き出す先生の顔に笑みはない。苦悶と悲壮に彩られた先生の表情にミカは先生にくって掛かるもそれが事実だと言うことに気がついて目の前で崩れ落ちる。

 

「………そんな、こと……あのミハ先輩が…?」

 

「“ミハはかつて傭兵として私と初めて会った”」

 

「…………ぇ?待って、待って先生……どういう、こと?」

 

もはや隠しておける事ではないと先生はミハの過去を明かし始める。

ミハとメグミは同じ子でそれでいて〈生徒〉のミハと〈傭兵〉のメグミであると本人自身も意識して切り分けていたのだと思っていた。そう感じていた。

 

「“ミハの傭兵としての名前は“伏黒メグミ”。……二つ名は【暴虐天使】”」

 

「ねぇ…待って。待ってよ。【暴虐天使】って……」

 

ミカもティーパーティーの一員としてその名前は聞き覚えがある。

キヴォトス全土を駆ける凄腕の傭兵。名前は不明だが彼女を指し示す1つの二つ名はキヴォトスの裏世界で住む全ての存在が崇め、敬い、そして触れてはならないと恐れた存在。それが【暴虐天使】。彼女は決して裏切りを、不義を許さず。ただその依頼に見合った金を出すのなら、どんな依頼だってこなす。と言われた傭兵。

 

「“ミハは、おそらくミカがアリウスと接触するよりも先に手を組んでいる”」

 

「………………………」

 

そこまで言われて分からないミカではない。つまりミカは最初から道化であったのだ。その本心はただひたすらにミハを探すためだけの戦力を宛てにしたと言ってもアリウスと仲良くしたいという思いが無いわけではなかった。

 

「ね、先生。それって」

 

「“うん。ミハはおそらく全部知っていておかしくないと思う”」

 

だが、もしもミカの思惑がミハにひいてはアリウスに筒抜けだったのなら。今この場で一番得をするのは誰だ?

 

決まっている。アリウスとミハの2人勝ちだ。

見事トリニティ全てを騙し切ったという事になる。

どこからどこまでがミハの策略なのか。考えれば考えるほどドツボにハマっていく感覚がする。それほどミハという生徒の裏切りは先生にとってもトリニティにとっても姉にとっても予想外で想定外の話でしかなかった。

 

「………あはは」

 

大粒の涙を流す。ミカの瞳から真珠のような大きな涙を流しながらそれを拭う事もなくただ声を漏らす。ミカにとって涙なんてミハを失ったあの日から枯れた筈の感情。それを取り戻したのはミハが自分よりも深い闇にいると分かったのだから皮肉なものだ。

 

「あは…なんで、私、涙、なんて……」

 

おかしいな。おかしいなとミカ袖で涙を拭う。聖園ミカに泣く事など許されない筈だ。大切な筈のナギサを、セイアを、トリニティ全てを裏切ったというのに。

 

「“ミカ、力を貸してくれる?”」

 

「…………………………」

 

無理だ、ともいいよ、とも言えなかった。ミカはいつの時かナギサに言った。何よりも大切な妹の手を引けなかったあの日。私の全ては砕かれた気がした。

でもそんな平穏が戻ってきたのに。またミハちゃんを理解できなくてこうなっているのだからもうお姉ちゃん失格だ。今の私にミハちゃんを止める資格なんてない。そうミカは考える。

 

「“ミハを、止めたいんだ”」

 

けど先生にとってミハを止めるためにはミカの協力が絶対に必須だということを知っている。おそらく、今のミハは全ての繋がりを“裏切り”という手段で切り落としている状態。後悔も友愛も無くしたミハなんて見たくない。そんなミハを繋ぎ止める最初で最後の鎖が

 

「…………止められる、の?」

 

ミハの姉であるミカ、たった1人だけ。

 

「“勿論。先生だからね”」

 

現状がどうであれ。ミハは“補習授業部”の一員だ。

先生が止めないという選択肢は最初から無かったのだ。

 

 

 

 

 

ミハの裏切りはトリニティの上層部に大きな衝撃を与えた。

復帰した先生の明言、そして同じように銃弾を脳天の同じ場所に複数発受けていた正義実現委員会のツルギとハスミの証言。その近くで倒れていたシスターフッドのヒナタの証言を合わせてミハの裏切りはほぼほぼ確定した。

 

「………ミハさん……どうして……?」

 

ある者は衝撃を与え

 

「……あいつが聖園ミハ、か」

 

ある者はその強さに戦慄を覚え

 

「…………っっ!!」

 

ある者は自分の悪い想像がドンピシャだった事を恨み。

トリニティは先生を中心にまとまり始めてきた。

既にトリニティ・ゲヘナ両校に今回の敵はアリウス分校とそのアリウスが雇った傭兵であると正式に発表され、トリニティ内にて何の信憑性もない噂話を善意で流していた少女たちの捕縛並びに厳重注意が科される事になった。

先生はミカの一時的な軟禁処置を“シャーレ監督下”に置くことによって行動制限を一部解除。そうする事で布陣をとりあえずはまとめることに成功した。

 

「………アズサ、ちゃんが……ミハちゃんも…」

 

ようやく沈静化した夜。数が減り三人だけになった補習授業部の纏まりの中心で1人の少女が顔を覆い、絶望する。その少女の名前は“阿慈谷ヒフミ”…そう。彼女こそミハの裏切りの報告に一番心を痛めていた内の1人。

 

「アズサちゃんが…ミハちゃんも連れてくるって言って」

 

住んでる世界が違うって。殺し合いだって。これから決着をつけるって。と殆ど錯乱したかのように言葉の前後関係もなしに先生にアズサとそれに関係するミハの現状をヒフミは荒くなった呼吸を諌める事なく呟き続ける。

 

「こんな大変な事になってしまって……私が何もしなかったから……」

 

更にしゃくりあげるヒフミ。そんなヒフミの姿にハナコもコハルも痛ましそうに、それでいて悲しそうに見ることしか出来ない。それもそのはず、ミハの裏切りとはそれほど少女たちの心を折るには十分なほど親交があったのだから。

 

「どうすれば……でも、私にどうする資格も……」

 

「っ!今、それでも放っておくことはできないでしょう!!」

 

分かっていたがおそらく一番心が折れているのはヒフミだろう。

ミハがメグミだった時を知っていて、そして更にその過去も知っていて。最もミハと仲が良いと、親友だと言える筈だったのに。まるでそれを嘲笑うようにヒフミの心は既に限界だった。

 

「コハル、ちゃん……」

 

「っ!どうしてミハ先輩が裏切ったかなんて知らないっ!でもアズサだってそんな1人で……置いていくなんて絶対にイヤ!!」

 

そんなヒフミにコハルが食ってかかる。

コハルにとってミハとは補習授業部で会ってからの親交しかない。それでもミハの優しさがどれほどのものか、ミハの善性がどれほどのものか知っていた。たとえ言葉にできなくてもコハルにとって尊敬できる先輩である事には違いないし、アズサだってこの補習授業部で出来た親友だ。アリウス?というよく分からないけど悪い人たちの中でアズサは決して悪い子じゃない事を知ってる。

 

「……そうです。まだ、私たちにできることは残ってます」

 

「ハナコちゃん、まで…」

 

ハナコは1人だけ密かにミハの裏切りを、ミハの悪性を肯定していた。ミハの過去を、ミハの退学に秘められた過去から変わらないトリニティの悪意がミハを人知れず歪めてしまったのだと何となく察していた。

 

「“ここまで、ヒフミが頑張ってきたからだよ”」

 

「………先生、私なんて」

 

みんなの努力は勿論、ヒフミが部長として、引っ張ってきたから。例え平凡だと卑下してもそこから逃げることはなかった。それが今、実になり花開く。

 

「……今度は、私たちが!」

 

「はい。私たちが行く番ですね…?」

 

「“大丈夫。みんな居るし、私だっている”」

 

そんなハナコたちの姿に、ヒフミは圧倒される。

だけどこれは間違いなくヒフミの人徳だ。ヒフミだからこそと決めたのだ。

 

「……はい。まずはアズサちゃんを助けて」

 

「“そこからミハを止めるんだね”」

 

はい。とヒフミは頷く。行く先を完全に隠蔽したミハを追いかけるのは無謀だとヒフミは考える。あの日、偶然ブラックマーケットで会えたのは単に幸運中の幸運だ。そんなジャックポットを2回も引けるほど自分が豪運だとは思えない。

まず、おそらくミハの動きを知っているであろうアズサを助けるのが先だ。

 

 

そう。全ての役者は〈古聖堂跡〉に向かう。

 

 

 






「私たちの、青春の物語を!! 」

「………ここに宣言する。」



次回、「私たちの物語」


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