君は無邪気な夜の暴虐   作:ミカ推し

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【暴虐天使】は多少のチップと気が乗れば契約者だけではなく
契約者と関係のある者の願いをそこそこは聞き入れる。


私たちの物語

 

 

 

降りしきる雨の中、スクワッドとミハは古聖堂に急ぐ。考えもしなかったアズサの強襲に使われたヘイロー破壊爆弾によってサオリとアツコが痛手を負い、アツコの名において従がわされていた〈戒律の守護者たち〉の顕現に問題が発生。その問題を解決させるべく、エデン条約の調印場所。古聖堂に向かっている最中だった。

 

「………!止まれ!」

 

「サオリ……っ!それにミハも……!」

 

「おいおい。見ないうちに物騒な」

 

そんな中、古聖堂まで数メートルまで離れていない所にその姿はまた表した。

全身がずぶ濡れ、煤で汚れようともその瞳に写る意思は固く燃え上がっている。五人の姿を視認した瞬間、その姿…アズサはリロードを終えた。その物騒な気配と言い、差し違えてでも止めるとばかりの雰囲気だ。

 

「まだ、立つのか。まだお前は未来を見るというのか─────!!」

 

「…例え、全てが虚しいとしても、それが諦める理由にはならないだろう?!」

 

vanitas vanitatum, et omnia vanitas全ては虚しい。そう教えられ、そうであると信じたサオリとそうではない。例え全ては虚しいとしてもそれが諦める理由にはならないと信じたアズサ。その2人の主義主張はどこまで行っても平行線でしかない。ならば後は排除するのみ。お前の考えは間違いであると力で屈服させなければならない。

 

だが、実力差というのはあまりにも残酷な差で。

何もトラップなど無い正々堂々の一対一にアズサの勝ち目はない。

 

「………終わりだ。」

 

「くっ……」

 

アズサから力が抜ける。今度こそアズサの敗北だ。どうしようも覆しようのない力の差にミハも既知だと言わんばかりに冷酷な瞳で俯瞰する。だがその瞬間、ミハの五感は周囲に集まる多くの足音を聞いた。

 

「っ?!サオ………」

 

「アズサちゃん」

 

周囲に警戒しろという声はアズサを後ろから支える1人の少女の声に遮られる。その少女をミハはよく知っていた。自分を平凡と卑下するのにここ一番の行動力は誰よりも眼を見張る、その少女の名前は

 

「……ヒフミ………!」

 

「はい。ミハちゃん。ようやく追いつきましたね」

 

ミハにとってヒフミは考慮に入れるほどの強者ではない。ミハが一度その“刀”を抜けばヒフミなぞ一瞬も掛かることなく三枚おろし以下にすることが出来る。というのに今のヒフミの凄みにはミハも一瞬呑まれるほどの、覇気。

 

「…総員ですね。数は四……いえ。それ以上」

 

「あれは……」

 

遠くで鳴り響く何か大きなものが動く音をヒヨリが捉える。そしてそれを確認することもなくヒフミの隣には2人の少女が立っていた。

 

「……お前は、なんだ!?」

 

「私は普通の、トリニティの生徒です」

 

「嘘をつくな!!」

 

ヒフミの登場にサオリが驚愕する。その理由などただ一つ。隣で立っていた【暴虐天使】…ミハから発せられる気配にこの4人に対する警戒心がサオリでさえも気がつくほど膨れ上がっている。この4人は警戒するべき正実でもゲヘナの風紀委員でもない。なら、一体何を以って【暴虐天使】は警戒している?とサオリの銃を持つ手に力が入る。

 

「ヒフミどうして…ここにっ…!!こんな所に来ては…」

 

「はい。確かに私は普通で平凡です。」

 

ここは既に殺し合いの場所である。その行為に誇りがあろうと無かろうとこの場では力のみが絶対的な法で一番イカれているのが尊ばれる異常な世界である。

 

「見せてくれたガスマスクの姿がアズサちゃんの本当の姿だと分かります」

 

だから平凡である私とは生きている世界が常識が違うのだとわかる。

でも、その理論には1つ大きな穴があることに気がついているだろうか。

 

「ヒフミ……?」

 

「アズサちゃんは一つ大きな間違いをしています!!」

 

その言葉の直後。ミハの五感は更に近づく4つの影を認識した。その四つの影をミハが忘れるにはあまりにも時間が短すぎた。その少女たちとは……

 

「私だって!覆面水着団リーダー〈ファウスト〉なんですから!!」

 

「覆面水着団……ああ。なるほどな………!」

 

名称はどうであれ。今、ヒフミに近づいている影とそしてその意味にミハは口元に手を覆う。戦況が少しずつ覆されていくのを感じる。今まで圧倒的に優勢だったのが今この土壇場で五分五分近くまで持ってこられた……!!

 

ミハの顔を覆う今までに見たことのない含み笑いを前に、アリウススクワッドは本格的に警戒…いや。今にも排除しなくてはならない“敵”であると認識して踏み出そうにも、その後ろから詰め寄る増援4人の覆面を前に数の利が完全に逆転した事を理解する。

 

「ありがとうございます。対策委員会の皆さん!」

 

「……もーまんたいですよ☆…それはそれとしてミハちゃんはお説教ですよ!!」

 

「ん。おイタは制圧する」

 

そう。その増援とはアビドス廃校対策委員会。かつてミハが襲撃した相手であり、ヒフミにとってはかつて一緒に銀行を襲撃した仲。その力は五人で学校を守り続けられるお墨付きだ。

 

その直後。ミハは…ミハだけでなくスクワッド全員が周囲の狂騒を聞いた。

この古聖堂を囲むかのように、シスターフッド、正義実現委員会。ゲヘナの風紀委員会。今動かせるであろう全ての戦力がこの場に集結していると言っても過言ではない陣形の厚さに流石のミハも顔を歪ませる。

 

 

 

「くしゅっ!」

 

「あわわ……もう大丈夫なのですか?シスターヒナタ」

 

「はい!……そして何よりも止めないといけない、ですから」

 

ヒナタは特にミハから受けた銃撃の数はツルギたちの倍。単発式のリボルバーを全弾脳天に叩き込まれても動けているヒナタのその回復能力は異常と言っても言い。だがそれでも頭と言うこともあってかまだフラフラしているのにマリーは気がついて止めたくても止められない事情があった。

 

「聖園、ミハさん…ですか」

 

「………………はい」

 

トリニティからの叛逆者。ミカ様がアリウスという遥か昔追放されて地の底に消えた存在を招き入れた事は聞いていたし、驚いたがまさかそんなミカ様さえ知らぬ所でミハさんはアリウスと結託していた。そう、シャーレの先生から聞いている。

そして、それがトリニティにおいて多くの少女の心に影を落としている。その中の1人にヒナタがいる。ミハがまだ停学になる前からの交友があってヒナタの怪力に怯える事なく普通の友人として、ヒナタは今でも友人だと、親友だと思っている。

 

そんな友人を止めたいと思う事、何も間違いでは無い。

 

そうヒナタは胸を張りながらアリウスが向かったであろうと言われた古聖堂…いまや古聖堂跡になってしまったところに向かう。

 

「止めて見せます。ミハさん」

 

 

 

 

「委員長……身体の調子は、?」

 

「ああ。完治した」

 

シスターフッドの布陣の隣で息巻くは正義実現委員会のメンバー。一時期は委員長に副委員長共に行方不明という事に加えて噂に流されるという醜態を繰り広げたがその2人の安全がわかる事でとりあえずは形として戻っていた。

安全が分かると言っても全身に傷を負い、痛めつけられたという感じでは無いがまさかこの2人を意識を奪えるほどの実力者と戦慄したがまさかそれが……

 

「聖園ミハァ……!!」

 

「ツルギ。気持ちは分かりますが敵はアリウスです」

 

援軍だと気を抜いた瞬間を狙った聖園ミハの強襲。確かにハスミの知るミハは野良猫の様に自由気ままでそれでいてある程度腕っぷしに自信があるものだと考えていたがまさかその“ある程度”が事実上のトリニティ最強を不意打ちと言えど仕留める程の実力があったとは…とハスミは小さく息を吐く。

 

「……いけるのか?ハスミ」

 

「……………ええ。問題、ありません」

 

補習授業部で会った時、実を言うなら久々に見たそのミハの姿にハスミは密かに安堵した。いつの間にか帰ってこなくなり、本当に野良猫の様な気儘さな彼女。それに惹かれなかったと言われれば嘘になるし、共に暮らした数日はとても充実していた。親友だった、親友なのだ。いつまで経ってもミハは

 

「止めて、見せます」

 

「…………そうか」

 

ここに来てツルギの内心は複雑だ。

あのハスミの友人。トリニティの上に座るものなら知っているであろう聖園ミハという名前。随分と風変わりして戻ってきたと聞いていたがまさかあれほどの実力を有して戻ってきたとは。ハスミの目を覚ましてからの驚き様を見ているとこれは停学前から持っていた実力ではないことが分かる。

 

「………きひっ……まずはこの借を返さないとなぁ!」

 

殺意も害意も無かった。まるで昆虫か何かと言わんほど透明な意を完全に消した攻撃は真っ先にツルギを沈めた。それをツルギは不覚だと、このトリニティ…いや。どこの学校にも引けを取らない実力があると自負していた。

 

不意打ちといえど避けられなかった自分が悪い。そうであるツルギにとってこれは借りであり、必ず返さなくてはならないものだと目の前を強く睨む。

 

 

 

 

「包囲されましたねぇ……」

 

「……シスターフッド、両校の実力者が大体揃ってるね」

 

「ああ。些か問題だなこれは。」

 

ミサキの観測にミハが答える。幾ら無限に顕現するらしい〈戒律の守護者たち〉と言えどこの数全てに対応するには時間がかかる。どうするべきかとミハがサオリに視線を移した所だった。

 

「知れた事を。無限に増殖する〈ユスティナ聖徒会〉の前では全てが無意味」

 

むしろ好都合であると1人、サオリは考える。敵である連合軍はあくまで無限に等しい有限に対して、〈戒律の守護者たち〉は文字通りの無限。エデン条約が成っている今、数の利よりも遥かに多くの数の利で叩き潰せばいい。

 

「そして、何より教えてやれ。この世界は等しく無意味で、あらゆる努力は無駄なのだと」

 

それがこの世界の真実。血と硝煙。殺意と嘆きだけが渦巻くこの世界の本質は

 

「足掻こうと何の意味もない、全ては無駄だと言う事を!!」

 

 

 

 

「………。」

 

「ヒフミ……?」

 

「………私は、今すごーく怒ってます。」

 

サオリの吠える様な宣誓を前にヒフミは目を細める。

きっとこれが今までアズサちゃんを渦巻いていた考えだと言うのなら、何て物悲しくそれでいてなんて苦しい考えなんだろうかとヒフミは考える。

 

「アズサちゃんにも、ミハちゃんにも……今はあの方々にまだすごーく怒ってます」

 

その考えにミハは何も言わない。まるでその考えが正しいと言わんばかりに見えたヒフミはとうとう堪えきれない怒気を発しながら言葉を続ける。それもそうだ。全てが無意味だと言う主張にミハも消極的に賛成するのならば、私との時間も、補習授業部で過ごした時間が全部、価値がないと言うことになる。それがヒフミには気に食わなかった。

 

「無意味ですとか、憎しみですとか…それがこの世界の真実ですとか……」

 

「それをまとめて虚しいって、強要して言い続けて……!!」

 

ヒフミはついに堪えきれなくなった怒気に肩を震わせながら続ける。

でも、それは違うのだ。その怒りは虚しさと一緒だ。

 

「それでも、私は………!!」

 

なら私が、どこまでも平凡な私は………!!

 

「アズサちゃんが人殺しになるのは嫌です。 」

「ミハちゃんと仲直りできないままだなんて嫌です。」

「そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです。 」

「それが真実だって、この世界の本質だって言われても、私は好きじゃないんです! 」

 

偽らざるヒフミの本音。

世界の真実が例えあのアリウスの言うような悲しくて無意味だとしても

 

「私には、好きなものがあります! 」

「平凡で、大した個性もない私ですが……自分が好きなものについては、絶対に譲れません! 」

 

「友情で苦難を乗り越え 」

「努力がきちんと報われて 」

「辛いことは慰めて、お友達と慰め合って……! 」

「苦しいことがあっても……誰もが最後は、笑顔になれるような! 」

 

「そんなハッピーエンドが私は好きなんです!! 」

 

誰かが言った。これは誰も救われない“おしまい”に至る物語。ダビデとシビラの予言の如く天地万物は嘆きと共に崩れ去る。でもそれは違うと誰か1人言い続けるのなら。

 

「誰が何と言おうとも、何度だって言い続けてみせます! 」

 

「私たちの描くお話は、私たちが決めるんです! 」

 

「終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです! 」

 

「私たちの物語…… 」

 

「私たちの、青春の物語Blue Archiveを!! 」

 

 

ヒフミの宣誓と共に雨が上がる。

空に光が差し、まるで絶望を振り払うかの様に暗雲が去っていく。或いは、絶望を退けられる程の希望が空を描く。

 

「は?」

 

「よくないよくないぞこれは…!」

 

「気象の操作?……いや、これは……!」

 

突然の空模様の変化に流石のミハも瞠目する。

奇跡か何かと聞くヒヨリに、サオリは奇跡などないと返すがそれでも今の現象は誰かが、誰が起こせる物なのか。それはつまり奇跡と言っても過言ではない。

 

「……まさか、戒律が……?」

 

「“今ここに、宣言する”」

 

ならその奇跡は一体“何”を以って引き起こされるのか。

考えられる一つの理由がミサキの脳内に浮かび上がる。だけどヒフミの宣誓を前に先生がまるで指揮をするかの様に腕を動かす。

 

「“私たちが、新しいエデン条約機構”」

 

「………なぁ!?」

 

想像もしていなかった先生の言葉に遂にサオリでさえも目を見開く。

あり得ない。あり得るはずがないエデン条約は間違いなくアリウスの名の下に締結されている筈だ。

 

「調印の改竄……改変?………いや。()()()調()()()!!」

 

あり得ない宣誓を前に真っ先にそのカラクリに気がつくのはミハだった。今回の調印をアリウスが乗っ取ったが、その上から()()()()()()()()()()()()()()()()()の手によって本来行われる筈だったエデン条約の調印を作ったのだ。

奇しくもこの場は古聖堂。調印の会場であり、この場にはトリニティもゲヘナも揃っている。つまり調印の形は成立する。

 

「!?……リーダー。〈ユスティナ聖徒会〉の顕現が解れてる」

 

「混乱してますね……この場にはもう二つのエデン条約があるので……」

 

そう。つまりエデン条約が二つあるのならその条約に基づいて動いていた〈戒律の守護者たち〉は動作不良を起こしたかの様に消えていく。無限である筈の亡霊の兵力はこの時を以って文字通りの亡霊に成り下がった。

 

「っ!知れた事か!!!」

 

ハッピーエンドだと!?そんな陳腐な三流の芝居で私たちの絶望が砕けるのか。こんな御涙頂戴の展開が私たちの憎悪を洗い流すと言うのか。あり得ない。そんな夢物語が罷り通ると言うのか。

 

「“生徒たちの夢を…助けるのが大人の責務だから”」

 

「……っ……」

 

「“生徒自身が心から願う、夢を”」

 

「……戯言を。」

 

もうサオリの心は決まっていた。最後の最後までこれだけは使いたく無かったが。

それでも、今のサオリには余裕などないに等しかった。緻密に作り上げたこの計画を破綻させると言うのなら、その上から圧倒的な暴虐で直そう。

 

「【暴虐天使】………」

 

「ああ。どうした?サオリ」

 

「“!?……みんな2人を止めて!”」

 

これだけは頼りたく無かった。共に過ごした時間は間違いなく今回の計画だけの協力者と言うには借りを多く作ってしまった。虚しさの中、この計画の次に必要な存在だと考えていた。

 

「蹴散らしてくれ。全てをっっ!!!!」

 

「……ああ。受託した」

 

 

 

 






「曰く、游雲」

「猫かぶってやがったなぁ!テメェ!!」

次回、「天与の暴君」



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