君は無邪気な夜の暴虐   作:ミカ推し

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ミ ハ 無 双


天与の暴君

 

 

 

「……ああ。受託した」

 

ミハの脚が動く。一歩一歩ミハが脚を進めるほど、周囲には緊張が走る。この場においての敵対者はミハとの縁の深い少女たちと先生のみ。ただ、それでも今までに見たことがない様な異質な雰囲気を纏ったミハに、ある一定までの力しか持たない少女たちは無意識のうちに後ずさる。

 

(何なのこいつ……)

 

この場においてただ1人だけ後ずさりしなかった少女…ホシノは流れ続ける嫌な冷や汗と殺気でもなんでもないただ前に出るという動作に怯えるかのように心臓が痛いほど鳴っているのをホシノは1人、銃と盾を構えながら荒れ始める息を噛み殺しながらミハから決して視線を外さない様に目を見開く。

 

(立ち姿だけで分かる………!)

 

今となっては黒歴史に近い存在だが、かつて小鳥遊ホシノは〈暁のホルス〉という名で各勢力からマークさせる程の要注意人物であり、裏を返せばそれほどの実力者だったホシノがただ動き始めただけのミハに怯えているのがどれほどの意味を持つのか。

 

(めちゃくちゃ、強いっ!!)

 

ホシノにしては確かにカイザーによるアビドス襲撃時に一度会っていて、油断ならない実力者だった。と認識していたが、今この場になってようやくホシノはその考えが浅はかだった事を本能的に理解する。

 

「……っ!盾だよ────────」

 

今この場で、ミハを止められるのなら自分だけだとミハの気配に呑まれている周囲をやけに冷静になった俯瞰で見る。……そう、これはまだ“気配”なのだ。“殺気”でも“害意”でもないただ立っているだけでこれなのだ。

ミハが本気になる前に、少なからず削っておくと言わんばかりにホシノは突貫する。あくまでホシノが使う技は後衛を守るためでもあるが、それでも1人で突っ込んで全部倒していた〈暁のホルス〉時代を一部真似ているに等しい。けど今回は守るためではない、ミハという明確な格上を相手にタイマンを仕掛けようと覚悟を決めたのだ。

 

「…………っっっ!!!???」

 

「耐えろよ?」

 

だがそんなホシノの覚悟を前にミハはただ少し速く走った。勿論、見ている奴らにわかりやすいようにわざわざホシノの左胸に付けているアビドスの校章付きネームプレートを奪った上で、だ。

ホシノの丁度真後ろに立ち、聞こえるように耳元で呟き、おそらくホシノが反応できるギリギリを見繕ってミハは軽く回し蹴りをかます。

 

 

一瞬の攻防。周囲から…特に先生からの視点では、ミハの動き出しと共にホシノが飛び込もうとした瞬間にはもうホシノの後ろにミハが立っており、それに気がついたホシノがギリギリの所で回し蹴りを盾で受け止めた。としか分からない。

 

「面倒なのは片付けた。後は露払いでいいか?」

 

「……っ!あ、ああ。感謝する」

 

この場において最も耐久性と堅固さを誇るであろうホシノの盾をミハは回し蹴りだけで凹ませ、更には盾で受け止めたというのに未だホシノは吹っ飛ばされたまま復帰する事が出来ないその圧倒的なまでの実力差にホシノの強さを知っている少女たちは驚愕を隠せない。

 

奪った校章を投げ捨て、ミハはサオリに問う。この場においてアリウススクワッドを倒せるのは先ほどのアビドスの中で一番背が小さいアレだけだとミハは知っている。他は有象無象。実力だけでいうのならサオリ1人だけでもどうにかなる相手だろうと、ミハは周囲を包囲するゲヘナとトリニティを見渡し呟く。サオリにとって先ほどの攻防において初期動作が全く見えなかったと背筋に冷や汗を垂らす。もし、この場において【暴虐天使】が敵なら間違いなく私たちは瞬殺だっただろう。と

 

「………ミ、ハちゃ……」

 

「………………………………」

 

悠々自適。敵である先生たちに無防備な背中を晒していても、今の攻防では誘いにしか見えない。そんなミハに勇敢なのか蛮勇なのかヒフミが声をかけるもののミハは一瞥する事なくこの場を立ち去っていく。

 

「【暴虐天使】はトリニティの本陣とゲヘナの本陣を潰した」

 

「“もう、終わったみたいに話すんだね”」

 

そんな空気も束の間、サオリの一発足元に放った銃声で今自分達が何をするべきかを思い出す。勝ち誇るかのようなサオリの言葉に流石の先生も苦言を言うが、今この場において誰よりもミハの実力を客観視出来る先生にしても虚勢を張っているのはこちら側だと言うことを嫌でも分かっている。

 

「では、逆に【暴虐天使】を止められる存在はいるのか?」

 

「“……………………”」

 

分からない。先生をもってしても今のミハの実力を正確に計ることは不可能だ。

確かに今まで先生は先生として各学校の色んな問題に首を突っ込み、その学校で一番強い子とも交流がある。だからこそミハの実力が計りきれない。それはまるでキログラムを知る秤ではトンを知ることが出来ないようにスケールが違いすぎる。

 

「まずは、貴様らだ」

 

「“みんな構えて!!”」

 

ただ一つだけ先生は誰にも伝えていない勝算があった。

ミハが向かっていた所には、おそらくミハを抑えられるであろうあの子を向かわせているのだから。と

 

 

 

 

 

「………何か、来る」

 

残っていた〈戒律の守護者たち〉とアリウスの残党を片付けている最中、ふとヒナは自分の額に冷や汗が流れていることに気がついた。殆ど直感に過ぎないがそれでもヒナの本能は間違いなく最大限の警笛を鳴らしている。

 

あの向こう側、すぐ近くに“ヤバい”のがいる。と

 

「きひひ……ハスミ、下がれ」

 

「?…はい」

 

その直後、同じように〈歩く戦略兵器〉と名高いツルギも額に冷や汗を滲ませながら、ヒナと同じように向こう側…つまりは古聖堂跡を睨む。間違いなくこちらを狙っている…いや。値踏みをしている?そんな戦地とは程遠い視線に両校の実力者と名高いツルギもヒナも動けない。もはやここは達人の間合い。見知らぬ自分たちと同等の実力者がこちらに向かって歩いている事が確か。

 

「「…………………」」

 

「?あの委員長……?」

 

「ツルギ、本当にどうかしたんですか?」

 

これほどまでの濃密な気配を前に正義実現委員会も風紀委員会も誰も2人を除いて気がついていない。まるで目の前に化け物が大口を開けて今にも罠にかかる哀れな獲物を待っているかのようなそんな嫌な空気を感じ取っているのも束の間。2人ともほぼ同時期に最悪の想像に背筋を冷やす。

 

(まさか…これって……!!)

 

(向こうにいる奴はずっと試していたんだ………!)

 

これほど分かりやすく気配をばら撒いて、ツルギとヒナ以外に気がついていない理由など少し考えれば分かるものだ。これはつまり…一定以上の実力を持たぬ者への篩のような物。気がついた者だけが恐れる様に、力量を見抜くための試し行動でしかない。

 

一体、どんなヤバい化け物が現れるのか。

2人が唾を飲み込んだその時だった。砂埃の向こう側から1人の影が見えた。

 

「……ミハ、さん?」

 

「あなたが今回の……!!」

 

純白のトリニティの制服をたなびかせ、光を反射しむしろ神々しいまでの白い羽を最大限広げ、まるでその少女には似合わない三節棍を肩にかけながら立っていた。

短く整えられたピンク色の髪から見える金色の眼差しには一切の温かさもなく、まるで機械かの様な冷たさと無機質さで戦場を俯瞰する。

 

「っ!お前が……!!」

 

「対象者一名!制圧します!!」

 

「大人しくしてください!」

 

戦場のど真ん中に、しかもまるで恐るることは何も無いとばかりにゆったりと余裕がある様に歩いてきたミハを前に両校の委員会の有象無象が今回の事件の重要参考人であると先生からも、学校の上層部から伝えられている通りに捕えようとミハに群がる。

 

「っ!止まりなさ──────」

 

「一度、ひぇ──────」

 

勿論、そんな蛮行に目の前に立つミハの実力をさっきの行動で分かっていた2人が一度体勢を立て直そうと声を張り上げたその瞬間だった。

 

暴風が、蹂躙した

 

「っが………!!」

 

「………ごぼっ!!」

 

「ぐぉ………!!」

 

気が付かなかった。誰も分からなかった。

分かった事はただ一つ。目の前に立つ彼女に近づいたその瞬間、吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ、壁にぶつかり、そうして吹き飛ばされるのとそれに巻き込まれるだけで多くの生徒が戦闘不能にさせられる。

 

ツルギとヒナの声や2人の警戒する様を見て、イオリだったりハスミだったりと一部の生徒だけがこの惨状を唖然と見る他無かった。中心に立つミハが“何か”を振り回しているのは分かる。“それ”に当たったら今も、一撃で吹き飛ばされ意識を失いながらヒナの足元に吹き飛んできた正実の子を見れば分かる。

 

(直接的な傷はない……むしろ打撲?)

 

暴れるミハを止めようと今や所属関係なくミハに向けて肩を並べながら銃を撃ち、少しでもミハを削ろうと全員が持てる力全てを使いミハを釘付けにしようとする。

が、その程度の実力で【暴虐天使】を止められるのなら誰も彼もが彼女を恐れると言うことは無いのだろう。

 

ミハに当たる筈だった銃弾はミハの目の前で甲高い音を立てながら弾かれ、気がついた時にはミハはその少女の目の前に立ち、わざわざ一人一人蟻を潰すかの様に念入りに吹っ飛ばして気絶させていく。

 

「…………っ!おま、えぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「待って、イオリッ!!」

 

僅か20秒にも満たないうちにトリニティ・ゲヘナの連合軍は壊滅。

暴風の中心にいるミハは何処からどう見ても無傷にしか見えない。

まさしく小型の台風。近づけば一撃、近づかなくても目で追えぬほど素早い動作で目の前にいる。何処からどう見ても格が違う。まさしく悪夢という他ない。

 

まるでゴミを片付ける様に壊滅させられていく有象無象を前に、誰よりも熱烈な切込隊長であるイオリはもう我慢が出来なかったのかミハに突貫していく。

 

「…………………」

 

「なぁ!?……っ!こっちを、みろぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

そんな突貫を前に、ミハは視線をイオリに向けることなく蹂躙を続ける。

ミハにとってイオリほどの実力者であろうとも有象無象と大して変わらないという事だろう。それに気がついているのかイオリは大声を上げながらミハの後ろを取ったその瞬間だった。

 

「………ま、死んだらごめんな?」

 

「は?……グガホ………!!」

 

死んだらごめんな?とそうミハが呟いたように見えた瞬間だった。暴風を纏っているように見えたそれは血のように真っ赤な三節棍がミハの投擲によってイオリの鳩尾を抉る。

 

「っ、っ、っ……ヴァ……がほっ……」

 

その一撃を避けることも出来ず、防御を取ることもできず素で受けてしまったイオリの痛みは生半可なものではない。肺から全ての空気が抜けたような感覚と共に喉から迫り上がってくる吐き気と酸っぱい胃液。その直後に襲ってくる銃弾の痛みとはまた違った本当に命の危険を感じさせる激痛に漏らす所だったとイオリはお腹を抱えて蹲る。

 

「……っ!三節棍です!!」

 

「でかしたぁぁぁぁあ!!!」

 

そんなイオリの介抱をチナツに任せてツルギとヒナとハスミは走り出す。

このミハの攻撃手段が分かった今、リーチや防御手段まであらかた分かる。おそらくミハはずっと鞭のように三節棍を振り回して銃弾を叩き落とし、バットのように少女たちを吹っ飛ばして戦闘不能にした。

 

強さのタネが分かればこちらのものだ。そう考えた、そう信じていた。

おかしな事だ。“ヤバいのが来る”と本能が訴えた相手がただ武器を振り回すだけだと思ってしまった。もはや盲信の域に達するまで考えてしまったその愚策はまるで恐れるがままに魅了され火の中に入る羽虫のよう。

 

 

ここから先は言葉にもならない。

投げたはずのミハの三節棍はまだミハの手中にあり、逆袈裟の要領でハスミの右脇腹を正確に穿つ。今回のミハの攻撃は投擲ではなく切り上げだったからか威力は耐えられないほどではないが、脇腹を押さえ脂汗が滲み出すほどには激痛だ。

 

「……げ、がっ……」

 

「ハスミッ!!……お前っ!!」

 

「視線を逸らしていいのか?」

 

崩れ落ちるハスミに意識を少しでも割いてしまった瞬間。ツルギの右頬にミハのストレートの拳がぶつかる。ミハの万力でぶん殴られたその威力はいかに身体が頑丈であるキヴォトスの生徒の中でも最上位の一握りであるツルギであろうとも怯み、そして頭が揺れる。

 

一瞬で三対一の均衡は崩れ、今無事なのはヒナだけ。

そしてそんなヒナのお腹にミハの回し蹴りが炸裂する。

 

「ぐっ………はぁぁ!!」

 

「っ!ちっ」

 

ミハの回し蹴りを受けたヒナは内心、まるで加工ができるまで熱した鉄をそのままお腹に流し込まれたみたいだと考える。上がってくる息と吐き気を噛み殺し、威力から真っ向に立ち向かうのではなくあくまで受け流す形で身体を回転させ、お返しとばかりにミハに銃弾を放つ。

 

「……その武器、ただモノじゃない」

 

「へぇ」

 

冷静にヒナは呟く。少しでもいい、少しでもこいつを止める。とばかりに言葉を続ける。となった時、話題として簡単に思いついたのがミハの持つ武器だった。例えどれほどミハが尋常じゃない腕力を有していたとしても、たかだか武器の突きでイオリを一撃でダウンさせられるわけがない。

 

そして、さっき当たり前のように三節棍でヒナの銃弾を弾いた。それもあり得るはずがない。例え防げていたとしてもヒナの愛銃の威力はどう見てもその三節棍をへし折っていておかしくない。となると……

 

「こいつはな。世にも珍しい“純粋な力の塊”みたいなモンだ」

 

「………!!」

 

ミハは語る。世の中に多くの武器があれどこの武器は文字通りただ打撃だけに振った武器。

それゆえに使用者の膂力に大きく左右されるという特性だけでこの武器は成り立っている。

 

「そして“これ”の制作者はこう名付けた」

 

ゲマトリア所属、マエストロは

 

「曰く、游雲と」

 

「游雲………」

 

これはヒナの勘違いかもしれない。ヒナが格上を前に見た幻想かもしれない。でもヒナはこの時確かに見たのだ。ミハがこの武器の名乗りをした瞬間、この武器はミハの手の中で好戦的に嗤ったのを。

 

 

 

「まあ。恨みはないがこれも仕事なんでな」

 

「……………!!」

 

その後、すぐさまミハは游雲を構える。

その立ち姿にヒナは気がつく。今の今までは前座も前座。あくまでミハにとって準備運動にも満たないと言うことを。棍棒と棍棒を繋ぐ黒い鎖がまるで戦いの愉悦に身を震わせるように嫌な金切音を立てながらミハの手の中で踊る。

 

「死ね」

 

「お、ま、え、がなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

踊るように近づいてきたミハの突きを前に、ヒナは動けない。間違いなくこの攻撃は必死の一撃。死にはしなくても間違いなく重傷を負うであろう予感を前に目を瞑った瞬間だった。

 

その横から、ツルギの一撃が飛んでくる。〈歩く戦略兵器〉が、アリウスのミサイルの重傷を一夜で治した様な驚異的な回復能力持ちが、怯み程度で落ちるはずがない。

 

「……ちっ」

 

「ああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

下手な中近距離で攻めるからこうなっている。ならば取る手段は超々近距離のインファイトであると自らを狂気に浸しながらツルギは頭だけ冷ましながら、ミハとほぼタイマンで殴り合う。ミハに三棍棒を伸ばす時間さえも渡さない。ミハが後退する隙もヒナが埋めるように銃撃EXスキルを乱用する。

 

(このまま行けば……)

 

(このままいくなら)

 

((勝てる………!!))

 

そう、2人が思った瞬間だった。

ミハが嗤った。今までに見たことがないような悍ましく不気味な笑みで

 

 

 

 

 

パァン

 

 

 

 

 

閃光が散った。

 

「あー……なんと言うかさ。」

 

意識全てを奪い、放心させるかのような電撃が走った様な気がした。

 

「作戦に夢と希望をつめこむなよな」

 

ミハの呟きを前に、ツルギもヒナも崩れ落ちる。

2人の身体は微弱に震え、口から流れ落ちる唾液も拭うことも出来ず地面に倒れ伏す。

 

「気の毒すぎて……その、表情に困る」

 

その技をなんて言おうか。猫騙し、クラップスタナー、色々とあるがミハがやった事は本当に単純で2人の“意識の波長”が細い糸を手繰った先にあった勝利という物を前に敏感になったそれに合わせる様にミハは掌を叩き合わせて発した音域のピークに2人はまるで麻痺をしたかの様に動けなくなっただけ。

格上への奇策として有名な“猫騙し”を、圧倒的な格上が格下に向けて放てばどうなるか、まさしくこの惨状だ。

 

(ま、こんなもんでいいだろう)

 

トリニティ・ゲヘナの大隊はあらかた片付けた。その中で実力者と言われる2人は今、目の前でこんな醜態を晒している。どうやら自分が気づかないうちにシスターフッドも片付けていた様で、手間が省けると先ほどまでの古聖堂跡まで戻ろうとしたその時だった。

 

「ミハちゃん」

 

「へぇ。そこで現れますか」

 

背中を向けた後ろから歩く一つの影。ミハはその姿をよく知っている。

 

「聖園ミカ」

 

「…………うん。止めに来たよ」

 

ミハとまるで瓜二つの形相。違うのは髪の長さとミハの右瞼に付けられた古傷だけ。最後にミハに立ち向かう少女の名前は聖園ミカ。ミハの姉だ。

 

「止めに?」

 

「うん……なんでそんな事してるのとか。どうしてお姉ちゃんに黙ってたのかっていーっぱい言いたいことはあるけど……」

 

嘲るかのように口角を上げるミハを前にミカは今までに見たことがない様な真剣な眼差しでミハを見ながら構える。いつもの銃を持つのではなく素手で、昔の様に“姉妹喧嘩”をしようとするミカにミハも三節棍を仕舞う。

 

「まずは、ミハちゃんを止めるね?」

 

「…………はっ。戯言を」

 

瞬間、2人の姿が掻き消える。それはつまりもはや人が見える領域ではないと言う事。ほとんど素で亜音速の領域まで達した2人の戦闘は一撃一撃が必死に近い。

ジャブ、ストレート、スリッピングアヴェー、フックにアッパー。ダッキングの後にクロスカウンター。御殿手からのマッハ突き。消力に三戦。豪体術に回し受け。ありとあらゆる武術の応酬を前にミハもミカも殆ど互角。

 

次で決着を付けると両者とも足を踏み出した瞬間だった。

古聖堂跡から大きな爆発音が聞こえたのは

 

「………!?」

 

「っ!?」

 

ミカにはただ爆発しただけに見えるが、ミハの研ぎ澄まされた五感はその爆発した所からあり得ないほど濃厚な神秘が蠢く様に感じた。確かそういえば、あそこにはマエストロが教義を使って作った人工の天使ヒエロニムスがまだ未完のまま安置されていたはずだ。まさかそれを動かしたのか暴走させたのか。

 

ただ一つわかることは、あれが動いた時点でミハはこの場に居る理由がなくなると言うこと。

 

 

「願いは執行された。」

 

「っ!ミハちゃん…何を……!!」

 

ミハは胸元から指2本で持てるほどの大きさの宝石を取り出し、その宝石を手のひらで砕く。その瞬間ミハの背中に世界が割れたように見える黒い亀裂が開き、その亀裂がミハの背の高さほどの大きさで両端が鋭い楕円形の様に中から、宇宙の様な青黒い色とその中を煌めく星々の様な光が見える。

 

「じゃあな」

 

「…………っ!!待ってぇぇぇぇぇぇえええ!!」

 

一体何をするのか、その待ちの姿勢にミハが開いたそれが移動のための手段だと気がつくのに一歩遅れた。ミハの半身が呑み込まれてようやくミカはミハがこの場から離脱しようとしていることに気がついた。

 

ミハが完全にゲートの向こう側に消えた瞬間、ミカの手がミハの腕を掴もうとすり抜ける。その勢いのままゲートに突っ込むのかと思えば、ミカはゲートを潜ることができずにゲートを貫通する。何度も何度も身体を通し貫通した後に、そのゲートは最初からなかったかの様に消える。

 

「………ミ、ハ……ちゃん………」

 

残されたのは地に膝を突き、滂沱の涙を流しながら泣き叫ぶミカの姿だけ

 

 

 

 






Q:なんでミカはミハと互角だったの?

A:お姉ちゃんだから


「っ……どう、して」

「ミハちゃん……」

次回、「苦く苦しいエピローグ」


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