君は無邪気な夜の暴虐   作:ミカ推し

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作者のゴタゴタで遅くなりました。

エデン条約編
第三章 調印式〜おしまい〜完読


苦く苦しいエピローグ

 

 

 

「ちっ……」

 

「機嫌悪そうですね。マコト先輩」

 

ここは野戦病院か?と言いたい声を噛み砕き、ゲヘナの生徒会“万魔殿”の会長である羽沼マコトは部下である棗イロハと共に救急医学部の病床から叩き出されて(爆発した飛行船の中から水辺に不時着したのに髪がアフロになるか焦げ臭くなるだけで怪我が無かったマコトたちの頑丈さにもあるが)ドアを開けた向こう側が怒号と慌ただしく救急医療部や犬猿の仲であるトリニティの救護騎士団が地面にも敷かれたシーツの上で倒れている風紀委員や正義実現委員、さらにはシスターフッドまで所属関係なしに治療を続けている姿があった。

 

「何が、あった?…と聞くのは野暮だろうな」

 

「はい。風紀委員の大隊、それと同数程度の正実生徒が運び込まれています。」

 

おおよそマコトは事態を察している。マコト…どころかゲヘナ全体がトリニティなんぞ信用できるかと言う中で行われる筈だったエデン条約に目を付けたのがトリニティに対して憎悪の鎌首を持ち上げる“アリウス”だった。アリウスもゲヘナもトリニティが邪魔ということで密約を交わし、エデン条約で起きる内乱で前々から万魔殿から見て目障りだった風紀委員長のヒナを潰し、最後まで残ったアリウスは最悪連邦まで使って潰してやればいいとまで考えていた。

 

所詮はアリウスなんぞ認可されていない学校未満。

それがなんと言おうと正式に学校であるゲヘナの報告を優先するのは当たり前のことだ。

 

「……アリウスに、それほど戦力があったのか?」

 

「不明です……ですが、少なくともアリウスや〈ユスティナ聖徒会〉だけでこれほどの数を圧倒できるとは考えられません。」

 

密約を交わした時点では、アリウスの戦力の中に認めたくはないがヒナレベルの一騎当千が要るとは考えられなかったがその分、雑兵の質が良いぐらいだろうか。

イロハの回答に聞き覚えの無い〈ユスティナ聖徒会〉という言葉に脳みそを捻る。随分と古臭い名前を出してくるとは思ったが確かにあれを使えば概念的にはトリニティを圧倒できるかとマコトは脳内でとりあえず納得する。

 

「ふん。取り締まる或いは処刑するという概念か」

 

「………マコト先輩は、圧倒できると?」

 

納得しているマコトの姿に隣を歩くイロハは訝しげにマコトを見る。

そんなイロハの姿を一瞥した後、鼻を鳴らしながら不機嫌そうに自論を展開する。

 

「……不可能では無いが無理に等しいだろうな」

 

「それは、また…何故?」

 

無敵で無限の軍。それだけ聞くのならとても魅力的であるが間違いなく致命的な弱点がある。別にその弱点とやらに興味はないが、それが無条件で使えるのならわざわざゲヘナ自分たちと密約を交わす必要もなくなる。

となるとやはり〈ユスティナ聖徒会〉の顕現には“何か”条件があるんだろう。

 

「そして何より──────」

 

「あ。先生」

 

特記戦力と呼べる一騎当千が居ない。そう言いかけたマコトたちの前に、随分と慌てながら走ってくるシャーレの先生の姿を見た。シャーレの先生とはエデン条約の調印式が始まる前、あくまでの顔合わせ程度には互いの役職名ぐらいは知っている。(その上でマコトはイロハにシャーレに潜り込めないかと打診した事はあるが)

 

「“君たちは……ゲヘナの”」

 

「キキキ。……久しぶりだな先生。どうした?そこまで急いで」

 

「………何か、あった様ですね」

 

とんでもないことが起こった。そう言いたいのを噛み砕き、冷静に救急医療部のセナの居場所を問う。こればかりは無闇矢鱈に言いふらす事が出来ないと簡潔にそれだけを伝える。

 

「……ふむ。多分、向こうにいるだろう」

 

「ですが、先生……お聞きしたいのですが」

 

マコトたちが指差す先は今も医療部や騎士団が怒号のまま治療に当たっている、おそらく今この場で一番荒れている先。今だに多くの生徒が担架と共に運ばれているのを見て流石の先生も沈黙する。

そんな悪意があるのか無いのかのマコトの回答に被せる様にイロハが先生に歩み寄る。言うならどうしてセナに限定して呼んでいるのかと言うことだ。負傷者なら手頃な医療部の部員を呼んで頼めばいい。つまりそれで頼めないと言うことは……

 

「一体誰が、負傷したんですか?」

 

「“……………………”」

 

先生は答えにくそうに顔を歪める。サオリとその後ろにいた〈教義〉の名で云われていた化け物を相手にしてからミハの向かった先に向かえば、そこには倒れ込むツルギとヒナ。そしてその近くで蹲り泣いているミカの姿を見て、どうなったかを悟る。

 

「“多くは言えない……けど”」

 

「けど?」

 

「“全滅した。とだけ”」

 

「「!?」」

 

そんなさっきまでの光景を前に先生は大っぴらに言えることでも無いとマコトとイロハにだけ聞こえる様な声で呟く。それを聞いた2人は大きく目を見開き、そしてマコトは特にそれを意味するのに加えてゲヘナの内部が今からどれだけ荒れるかと考えると汗をかいて慌て始める。

 

「……それは、本当に、本当に()()したんだな?」

 

「“そう。そのためにセナを探してるんだけど……”」

 

「確かに。これは言えませんね………」

 

先生のらしく無い行動の前に流石のマコトもこれはある意味想定していて想定してなかった事態だとして先生に全面的に協力することにした。……まあこの場で協力しないと文字通りゲヘナが終わる。という危機感の元では、あるが

 

「分かった。こちら側からも言っておこう」

 

「………はい。情報統制を敷きますね」

 

ゲヘナの風紀委員といえば良くも悪くも委員長であるヒナ“だけが”恐れられている側面がある。今まで常勝無敗であるヒナが、敗れたとなるならばどうなるか。ゲヘナの気質をよく知っている2人からすれば考えたく無い。とだけしか言えない事態になる。

 

「……それとイロハ。」

 

「なんでしょうか?」

 

「万魔殿から人員を出す。治安維持に人手を割け」

 

「………よろしいのですか?越権ですよ」

 

イロハの訝しむ声にマコトは構わないと首を縦に振る。少なくとも風紀委員会の大隊が病床送りにされて、その上でヒナまで病床送りになったと言うのなら放っておくほうが面倒になる。

 

そんな素早い動きを前にして先生は意外そうに2人を見る。

少なくとも風紀委員会は“万魔殿”を嫌っていて、“万魔殿”は風紀委員会を目障りだと互いに良い感情を持っていないと聞いていたのに。

 

「ん?……どうかしたのかシャーレの先生」

 

「“ううん。でもいいの……?”」

 

「ひっじょーに、ひっっっっじょーに癪だし、なぜわざわざ政敵であるヒナを助けなければならないと言う思いしかないが……」

 

グギギ…と歯軋りをし、心から癪であることが分かるマコトだが。

それでもマコトはゲヘナのトップとして、生徒会長としての役割までは忘れていないと言葉を続ける。

 

「ヒナの実力は嫌嫌だが認めている。その影響力もな」

 

「“マコト……君は”」

 

そんなマコトの姿に先生は目を見開き何か言おうと口を開く前に、マコトは手で静止する。それ以降は聞きたくないとばかりの態度に先生は察したのか優しい顔をするのにマコトはやりにくそうに顔を歪める。

 

「………キキキ…それではまた会おう。シャーレの先生」

 

「“………分かった。またね”」

 

 

 

 

 

 

〔数日後〕

 

先生はまだトリニティにいた。どうやら今度また補習授業部が設立しなければならないほどの成績の子たちがいるので前例に従いまたお願いすると言う言葉に先生は向かったが……

 

「“同じメンバーだね……!?”」

 

「はい❤️」

 

その教室に座っているのは、ハナコ、アズサ、コハル…そしてヒフミという前の補習授業部とあまり大差ないメンバーが集まっていた。ヒフミはテストをまた欠席して撃沈。アズサは試験範囲を学んでいないと言うことで撃沈、コハルは無謀にも三年生のテストに挑み撃沈。ハナコは1人置いていかれるのは嫌なのでついでに撃沈。という事でこの場にはまたも変わらず補習授業部が集まった。

 

「………あはは。またお願いしますね……」

 

「“ヒフミ……”」

 

この補習授業部にくる前に少しだけナギサから話を聞いている。

ヒフミが、トリニティを退学すると書類を提出したのを。それはどうにかティーパーティーの権限で保留にできたが当の肝心のヒフミの心はもうミハを探すことに囚われているのだろうと。姉貴分としてそこまで想われているのは嬉しい話だがそれがヒフミの枷になりかねないとナギサは苦々しい顔で先生に忠告した。

 

「……それにまだ1人大切な仲間がいない」

 

「アズサ…!?それ、は……」

 

小さく、それでも響いたアズサの声にコハルが声を上げるがすぐに沈黙する。

未だにミハの裏切りが信じられていないのだ。あの場で確かにミハはアリウスと肩を並べてトリニティに大きな被害を出したのは間違いない。

でも、それでもミハの笑顔が、楽しげに肩と机を並べて過ごした時間が、寝食を共にしたその時間全てがまだミハを裏切り者だと決めつけられない心がどこかにあった。

 

「“うん。そうだね”」

 

「………先生…」

 

そんなアズサの言葉に同調するかの様な先生の態度にヒフミが顔を見上げる。

元より先生だってミハの裏切りにはまだ何か誰にも言っていない理由があると考えている。ミハの実力は確かに各学校最強を超える。だけどそれでもミハは誰1人と殺そうと武器を振るわなかった。……手っ取り早く敵を落とせる刀だって持っているのに。あのミハの事だ。その時だけ持っていなかったとは考えにくい。

 

なら、まだミハは戻って来れる。

そう、先生は信じていた。

 

「“ミハを迎えに行って……”」

 

「“まだみんなで合格しよう”」

 

「……はいっ!!」

 

「ええっ!!」

 

「そうだな……!」

 

「今度こそ……ですね…!」

 

 

少女たちの胸に暖かな炎が灯った

 

 

 

 

 

「……ふむ。ロイヤルブラッドは逃げましたか」

 

暗い何処かで誰かが呟いた。

 

「捕まえてきてください。丁寧に、丁重に。」

 

「………それとも貴方も出ますか?ミハ」

 

その女の肌はまるで血のように赤く。頭には多くの目が周囲を見ている。

かつてアリウススクワッドがマダムと呼び、ミハがベアトリーチェと呼んだその女は体を半分横に倒しながら近くにミハを座らせ、アリウススクワッドたちが逃走したという報告を聞いていた。

 

「それは命令か?」

 

「いえ?……まあ貴方が出る幕ではないでしょう」

 

座らせたミハの髪を愛撫するかのように愛おしげに指を滑らせ、そんなベアトリーチェの態度にミハは我関せずとばかりに瞑想する。そんな姿も愛おしいとばかりのベアトリーチェはミハに言おうとしたロイヤルブラッド…秤アツコの捕獲、並びにアリウススクワッドの排除を命じようかと考えたが、よくよく考えればこの場でミハという手札を切るにはあまりにも惜しいと撤回した。

 

「彼女以外は処理してしても構いません。」

 

「ええ。〈ヘイローを破壊〉しても構わない、という意味です」

 

ならばベアトリーチェは育てたアリウスの兵隊を使って捕まえようと命令を下す。

勿論、必要なのはロイヤルブラッドであるアツコだけ。後の他は裏切り者だ。裏切り者には死を。その辺りの冷酷さはミハ譲りなのかミハが学んだのか果たして。

 

「貴方の出番はもう少し後です。」

 

「……ああ。その時までゆっくりしよう」

 

はふ…と小さい欠伸を噛み砕くミハの姿も愛おしいとばかりにベアトリーチェは母性溢れる姿でミハを見る。まるで血も境遇も立場も違う2人だと言うのにベアトリーチェのその愛で方はまるで実の娘を可愛がるようで

 

「それはそれとして……怪我はありませんか?」

 

手を抜くのも貴方の勝手ですが…それで怪我すると笑うに笑えませんよ。

ミハの戦い方を見た上でベアトリーチェは心配する。“棍”を使った事に関しては何も言わないが(マエストロから使用感などのデータを引き出そうと連絡するがベアトリーチェが一時的にブロックしてる)ミハならもう少しスマートに出来たであろう。

“鉾”とまでは言わないが“刀”や“鎖”を使えば一方的に嬲る事だって可能なのだから。

 

「……無いですよ」

 

「ふふ。なら良いのです」

 

そんな親愛で触れ合うベアトリーチェにミハもある程度は心を許しているのか。その姿はどこか自然体で今の今まで気を張っていた事がよく分かる。確かにミハとベアトリーチェはあくまで契約上の繋がり。金払いや情報など…ミハにとって“有益”であるからこそミハはベアトリーチェを上客だと認識している。

 

ただまあそれでも可愛がってくれる人には懐くと言うのが心理だ。

こういうある意味では致命傷になり得る至近距離までミハが構える事なく入れる存在というのは本当に少ない。

 

「ミハ……これが終わった暁には、私の秘蔵の酒で乾杯しましょうか」

 

「未成年だが?」

 

「それぐらいは良いでしょう……少し早い大人の仲間入り幼年期の終わりを祝して、ね」

 

ベアトリーチェにとってもはや勝ったも同然で。

ミハにとっては契約上、従うのは当然で。

 

ただ、分かることはどうしようもなくこの物語の先にある未来にベアトリーチェと先生の想像する未来が相反する事だけである。

 

 

 






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