君は無邪気な夜の暴虐   作:ミカ推し

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最終章開幕。
そろそろミハの過去の伏線も敷いていくか……
ちなみにしばらくミハの出番はないです


欠けたティーパーティー

 

 

「それでは会議を始めさせていただきます。」

 

あの事件が終わってさらに数日後。先生はトリニティの一室で三人の少女と共に一つの卓を囲んでいた。話を主導するのはティーパーティーホストのナギサ。そして今回の会議にはシスターフッドのリーダーであるサクラコと救護騎士団の団長であるミネが参加していた。

 

ただでさえ先日のアリウスの侵攻にティーパーティーの1人であるミカが手引きした真犯人であった事から、ティーパーティーの権威は失落。ミネが言うにはその時襲撃されたセイアも未だに傷が癒えることは無く以前よりも増して体調を崩すことが多くなり、ナギサも補習授業部という疑心暗鬼によって巻き込まれた少女たちとシャーレの先生に悪い意味で強権を計った事から、パワーバランス的にも2人が今回の事件の後始末とそしてこれからの会議に参加する事になった。

 

「……まず、今回の事件はアリウス分校に集約されます」

 

サクラコが言うには、ミネはトリニティの中でも有力な政治分派の一つである“ヨハネ分派”の首長も兼ねており、本来ならティーパーティーの1人として名前を連ねることも可能だがミネ自身は政治に興味がないと言うこともあったがそれでも資格があると言うことで今回の会議に出席する事になったらしい。

 

そんなサクラコとミネの内情はさておき、ナギサは会議の前訳。つまりはエデン条約の襲撃の実行犯兼黒幕だったのがアリウス分校だったと言う公然の事実を告げる。ゲヘナの議長であるマコトもティーパーティーのミカも広く言えばアリウスに踊らされていただけとも言える。

 

「ではアリウスが背後で糸を引いていたのならいくつか疑問が残ります」

 

それらを以ってサクラコは口を挟む。アリウスという遥か昔に消されたはずの分派。何故かそれが今になって台頭しようとしてきたのだろうか?

 

「何故、アリウスはエデン条約を妨害しようとしたのか?」

 

「……アリウスは長い間、トリニティとゲヘナを恨んでいたと話を聞いています」

 

サクラコの問いにミネが答える。

確かに第一回公会議でアリウスは弾圧された。それは紛れもない事実であり、教訓である。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとあるようにトリニティもゲヘナも恨みそして壊そうと憎悪の炎を焚べるのは何ら不思議ではない。

だがこの二校は致命的に仲が悪かった。そんな二校が手を取り合うと集まろうとするのだからその場を壊せば一石二鳥で両校を崩せると見たのだろう。

 

「更にはエデン条約の“調印”に動かされた謎の戦力たち」

 

「……〈ユスティナ聖徒会〉と言われていましたがあれは一体なんだったのですか?」

 

脳裏に浮かび上がる黒く砕けたヘイローにレオタードにも似た服にベール。そしてガスマスクのその人肌にはあまりにも白すぎて不気味な姿にある少女たちはこれをユスティナ聖徒会であると言った。だがそれは昔に消えた筈の組織。あくまで仮説に過ぎないと言うナギサも、真実を明かした方が良いと考えるミネも1人の少女に視線を向ける。

 

そう。ユスティナ聖徒会とは“シスターフッドの前身の組織”であるのだから。

 

「…分かりません。不明です」

 

「不明?……少なくとも何か情報を持っていて然るべきだと思われますが」

 

沈黙するサクラコにミネが詰め寄る。それもそうだシスターフッドとは昔から秘密主義であり情報の統制や秘匿、更に婉曲するのに長けている。ただでさえシスターフッドに疑惑の目を向けている生徒が多くいる今、隠しておくと言うことは悪手でしかないとミネは暗に告げる。

 

「貴方が何も知らなさすぎるだけでは?」

 

「…………………」

 

ミネの挑発に乗るかのようにサクラコも詰め寄る。あの惨状で被害が拡大している中でミネは最後の最後まで表舞台に立とうとしなかった。セイアの安否という事もあるがそれでも他の生徒を見捨てて良いわけではない。と上に立つものとしてのミスを暗に告げる。

 

「「……………………」」

 

(“き、気まずすぎる……!”)

 

そんな睨み合いの中、先生はただ縮こまる事しかできない。

これはあくまでトリニティ内部での政治闘争みたいなものだ。シャーレという組織を持つ大人が下手に干渉する事は出来ないと行く末を見守っていた所だった。サクラコが引いたのは

 

「……私たちが何もかも知っていると思われるのは心外です。…シスターフッドには私でさえ把握してきれていない謎が数多く存在している……安全上告げる事は出来ませんがね」

 

「………そうですか、失礼しました」

 

サクラコの一言で互いに引き、話は本筋に戻る。

まず最初に情報を共有すべきはトリニティの防護システムを破ったあの巡航ミサイルについて。あのミサイルが古聖堂に降り注いだこと調印式での惨状が始まった。

 

「分析を進めておりますが、今の所出所も構造も不明……わかることはキヴォトスには存在しない技術とだけ」

 

解析を進めていたナギサが伝える。

理解外である〈ユスティナ聖徒会〉の存在と解析不明の巡航ミサイル。分かることはアリウス分校がこれらの謎の力を保有しているということ。そしてその根源的な対抗手段がまだ確立されていない事だとミネは警笛を鳴らす。

 

「はい。だからこそこの謎につながります……」

 

アリウス分校は一体何を計画しているのか?

一体、このエデン条約で何をしたかったのか。そして全てが明るみになった今、これからアリウスは何を始めようとするのか。それら全てが謎であり、そして誰も知らない物である。

 

「何より、私たちはアリウス分校がどこにあるかさえ知らないのですから」

 

「……それについては幾つかの糸口を元に情報を精査する事ができました」

 

ナギサのアリウスの謎についてのまとめに、サクラコが口を挟む。

アリウスは古聖堂の地下通路…カタコンベから行動している事が分かっている。アリウスの生徒もそして巡航ミサイルの発射予測地点もその地下通路を内包している遺跡地区からだった。

 

「それでは、その遺跡地区を調べ上げると?……地下通路だけでも膨大な敷地ですよ?」

 

ミネの訝しげな声が響く。それもそうだ。トリニティの中での遺跡地区と言えば未だに多くの謎が残されている事でも有名だ。ただでさえ迷いやすい迷路構造な上に老朽化も激しく、いまいち探索も進んでいないというのがそこである。

 

「それは不可能でしょう。ただでさえ未知の多い迷宮からそれだけを見つけ出すのは至難の技です。……それにセイアさん曰く、アリウスの居城は『とある力』によって隠されているとの事ですし」

 

「………ふむ」

 

ナギサの報告に行き詰まったとミネは思考を凝らす。

セイアが特別な力を持つことは公然の事実。そんなセイアがわざわざ隠されていると警告している時点で見つけるには相当の労力が居るだろう。

 

「それにアリウスの兵も図面と暗号にのみ拠点の位置を知らされていたみたいですし…そこに赴くまでの道路も時間によって変化する文字通り生きた迷宮と化しているので誰も知らないとの事です。」

 

「……!?まさか!?」

 

追加のナギサの報告にミネが肩を出して乗り出す。

その報告はアリウスの内情…それも兵として働いたことのある情報である。勿論、誰もアリウスを知り得ない我々がそんな情報を得るとなればアリウスから裏切ったあの少女だけ…

 

「貴方はあの子にアリウスの情報を尋問したんですか!?」

 

「えっ……」

 

ただでさえアリウスからの裏切りの烙印を押されて、それでも尚トリニティの内部のゴタゴタの為に力を尽くしてくれたとやっと平穏を勝ち取ったであろう子に過去を掘り返そうとするなどなんと蛮行かとミネは怒りを隠そうともせずナギサに突っかかる。

 

「訂正を。取り調べではなく、あくまで本人がかたっていただいた事で……」

 

「そんな気持ちになるとでも!?権力を利用して無体を強いたようにしか見えませんが!?」

 

「ミネ団長。そのような事実はありません」

 

あくまで善意の協力者が語ってくれたとのナギサにミネは吐かせたのだろうと真っ向から反対する。そんな2人についにサクラコがナギサの証言が正しいと証言することでようやくミネも引き下がる。

 

「ですが、まだこの通路について知っているのが2人は…いえ。3人はいる筈です」

 

巻き込んでしまった謝罪と、先生が今回の件に関しては最後まで付き合うとの宣言をした事で話は先ほどまで巻き戻す。本当にアリウスの居城が私たちの手で見つけられないとするのならば、逆に知っている奴を使えばいい。

 

「まず1人目。それはアリウススクワッドのリーダー格。錠前サオリ。」

 

サクラコは指を立てて話す。襲撃を扇動していた筈の彼女なら確かにアリウスへの道を熟知していてもおかしくはない。だけどその肝心のサオリは行方不明。おそらくもう自治区に逃げ帰っていてもおかしくはない。

 

「では、残り2人」

 

「ええ…っと誰でしょうか?」

 

指を2の形にし強調するサクラコを前にナギサは首を捻る。

 

「聖園ミカ。並びに聖園ミハ」

 

「…………っっ!!??」

 

瞬間ナギサの脳裏に浮かぶ幼馴染たちの顔。

最後に見たのは、ヒフミと共にナギサの謝罪を聞いた時のミハ。そしてミカは───

 

「聖園ミカは長い間アリウスと内通していました。それなのに行く道を知らないなんてことはあり得ませんし……」

 

言いにくそうにサクラコは言葉を選んだ後にこう告げる。

 

「聖園ミハに至っては白洲アズサさんでさえ知らされていないトリニティの裏切り者。アリウスと深い位置で繋がっていた事は確実です。」

 

「…………。」

 

トリニティの裏切り者。それは決して予想できる人物でさえ無かった。あの日、ミカを捕える為に別館の体育館に向かった時も、ミハはミカと戦いトリニティのため、引いては姉がこれ以上罪を重ねないように動いていたように見えた。

あの日以降、行方不明・生死不明だったミハがトリニティに帰ってきてくれたことは喜ばしい事だったし、必要であるのならば気にかける事もしようと思った。

 

「最後に聖園ミハに会ったのは、聖園ミカです。」

 

サクラコは暗にこう言いたいのだ。

“姉妹の情に絆され、裏切り者である聖園ミハをわざと逃したのではないか?”と

 

「“それは違うよ”」

 

「はい。先生の言うとおりです。」

 

そんなサクラコの誰もが想像つくが口にはしないであろう事に踏み入った事に感謝しながらも先生は鋭く強い口調で横槍を入れる。それは決して違うと先生は断固とした口調で否定する横でミネが先生に同調するように声を上げる。

 

「あの日、ミカ様に出来ていた傷はどれもこれも正しく真っ正面からぶつかり合った傷です。」

 

ミカの手や腕に出来た打撲痕。それはあくまですぐ治ると言い、確かに数日もかからず治ったがそれ以上にミカの心の方が重症だ。ミネの見立てでは少なくとも地位とミカを取り巻く現状が現状でなければすぐにでも『救護』をしなければならないと強く思う程にはミカの心が重症だ。

 

「確かにこれまでのミカ様の行動はティーパーティーには相応しくありませんし、多くの過失や問題を誤魔化してきました。」

 

おそらくミカ様にとってティーパーティーの権威も名誉も“使い勝手が良い場所”でしか無いのだろうとミネは考えている。ミカ様が台頭してきた頃を調べればあの日、ミハ様が居なくなってからだった。そこから導き出されるのはミハ様の捜索と……おそらく、自分の妹を排斥したトリニティへの怒りと憎悪。

 

アリウスと仲直りしたいのとトリニティを嫌う感情。どちらが先に来たのかはミカ様しか分からぬ事だが、ミカ様の振り下ろそうとした拳は同じティーパーティーにもトリニティにも向かっていた。……だけどミカ様最大の誤策はミハ様が何であれ帰ってきてしまった事。振り下ろす拳の意味を見失ったミカ様は既に進めてしまっていたセイア様の暗殺を前に引くに引けなくなった。

 

「ですが、ミカ様を取り巻く糾弾や非難は一定の声を前に二分化しています。」

 

「“………二分化?”」

 

ふと先生はミネの二分化されたミカへの声という所が気になった。

それはどう言う事だろうか?と問う前に会議は進んでいく。

 

「……何より、今下手にミカ様を刺激する事は“救護騎士団団長”として反対させていただきます。」

 

「………っ!それほど…ミカさんは……」

 

ミネの自分の地位さえも強調した言い方に流石のサクラコもナギサも何も言えなくなる。ミネの救護に対する熱意は知っているからこそ何も言えなくなる。

 

「では聖園ミハ。彼女はどうなんでしょうか?」

 

「……ミカさんの証言。そしてその場にいたツルギさんらの証言ではこれまた未知の技術で撤退しています。」

 

突然、ミハの後ろに黒色の穴が出来てその中にミハは消えていった。

この現象に名前をつけるのならばワープだろうか?…最新技術に関してはミレニアムが疑わしいがミレニアムもそんなワープ技術は存在していないとの事でこれもまた謎の技術?であると言わざるおえない。

 

「……そうなるともう自治区に帰っていてもおかしくはありませんね…」

 

もしくはそのゲート自体が自治区に繋がっていてもおかしくは無い。

サクラコは肩を下ろす。また振り出しに戻ってしまった。

 

「ですが考える事はまだあります。……ミハ様の異常なまでの実力は脅威でしょう」

 

ミネの知るミハの姿といえばミカの一回り小さいぐらいの姿。だと言うのに今回復学した時には成長と言えるには人智を超えていると言えるであろうミハの身体の成長。生物学的にあれほど急激な成長は身体への悪影響は少なく無い筈だ。

 

「間違いなくミハ様はあれ以降何かあったと見て良いでしょうね」

 

「……っあの日、私たちがもう少し早ければ……っ」

 

居なくなったあの日。ミハの最後の足取りを掴んでいたのはシスターフッドだった。……いや掴んでいたと言うには語弊があるがそれでもミハの足取りを追っていたあの日、その場には壊されたオートマタが転がるだけで血の跡も、人の痕跡も残されていなかった。そうサクラコは覚えている。あの日、確かにミハは行方不明・生死不明になったのだと。

 

「それは報告で聞いています……が。もしや最初にミハさんを救護騎士団に担ぎ込んでいたら何か変わったのでしょうか……」

 

「…………後からなら何とでも言えますが、もしかしたら今は変わっていたのかもしれませんね」

 

ナギサの嘆きにミネが呟く。身体への悪影響。そしてそれは倫理的に唾棄される手段であるのならおそらくミハを洗脳する事も想像に難しく無い。もし、最初にミハを誰かがミネの…救護騎士団に担ぎ込んでくれたらと考えるがその時ミネはセイアのボディーガードもしていたと思い返すと歯噛みするほかない。

 

「これ以上は、おそらく過去への後悔が続くだけでしょう。」

 

サクラコは空気を断つように話を変える。

近々、ミカへの聴聞会が始まると言うのにこのままではどうしようもない。

 

「……そうですね。この辺りで一旦お開きにしましょうか」

 

サクラコの意見が正しいとわかっているのかミネも立ち上がる。

だけど最後にこれだけは言っておかなくてはならない。

 

「そうですね。本日はお忙しい中、ありがとうございました。」

 

「いえ…聴聞会に私はミカ様の擁護の方に傾かせていただきます。」

 

「……そうですね。シスターフッドもその方向に」

 

ナギサの感謝の意の後に2人は口を挟む。ミネはあくまで救護を行うためにはここでミカに必要以上の負担をかけてはならないと言う意思で。サクラコもミカが行った事はどうであれ、今のミカの内心を必要以上に責め立てる事は出来ないと考えていたから。

 

 

 

 

「“ナギサ。お疲れ様”」

 

2人が立ち去った後。先生はようやくナギサに声をかける。

会議はアリウスだけでなく、先生とも縁の深い聖園姉妹まで及んだ事。そしてミハの裏切りがどれほどの影響を持つのか先生はトリニティにおいて2人の影響を強く感じた。

 

「……先生も、お疲れさまでした。なんだか情けない姿ばかりですね……」

 

「“早速だけど……ミカについて教えてもらってもいいかな?”」

 

意気消沈するナギサに悪いが先生として聞かなくてはならないミカの状態。ミネという少女が自分の地位を言って尚、危険だと言ったのがミカの現状だ。言うならそれほどミカはよろしくない状態であると言う事。

 

「そうですね……では、先生。まず聴聞会から解説していきますね」

 

「“ありがとう”」

 

聴聞会。それはミカが今まで行ってきた事についての査問会のようなもの。

明日の午前に行われるそれには今までミカが犯した罪であるエデン条約を中心に議論が行われる。

 

「先生。おそらくミカさんは退学になります。」

 

そしてミカさんはそれを止めようとしないでしょう。

むしろ、喜んで退学していくかもしれませんね

 

「“……………”」

 

 






「お姉ちゃん…失格だ」

「滅びゆく、キヴォトスが見えた」

次回、『嘆き憂うお姫様/正夢』

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