君は無邪気な夜の暴虐   作:ミカ推し

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このままだと最終章も書くことになるかなぁ……


嘆き憂うお姫様/正夢

 

 

 

「先生。おそらくミカさんは退学になります。」

 

そしてミカさんはそれを止めようとしないでしょう。

むしろ、喜んで退学していくかもしれませんね

 

「“……………”」

 

ナギサの凪いた声に先生は沈黙する。

何故ならミカのその行動は容易に想像がついてしまうから

 

「先日の事件以降。トリニティ内では情勢が複雑化しています。」

 

沈静化させるために正義実現委員会だけでなく、自警団さらにはシスターフッドまで動いている始末。そのおかげでようやく収まりつつあるがそれでも火種は今だに燻り燃え上がるその時を待っている感じだ。

 

「特にミカさんに対する世論はほとんど二分化しているのが現状です。」

 

聖園ミカは裏切り者であり、決して許されない行いであった。その罪は厳しく追及して責め立てるべきだという世論。もう一つは、聖園ミカは決して許されない行いをしたがそれは全て血の繋がる妹を守ろうとした行いであり、その肝心の妹はアリウスの内通者と動いていた。聖園ミカは十分情状酌量の余地があるという世論。

 

「喜ばしい事に世論は後者の方が多いですが、それでもそもそもミカさん自身が罪の減量を求めないのではどうしようもありません。」

 

だが既にミカは所属していた勢力であるパテル分派から追放され、ティーパーティーの資格もおそらく公聴会で剥奪されるだろう。それがナギサの見立てだ。だからこそナギサはミカを止めることが出来ない。

 

だってその2つはミカにとって要らないモノだから。

 

「ですが私は今、トリニティからミカさんを出してはいけないと思っているんです。……過程や結果がどうであれ。ミハさんの本当に帰る場所はミカさんの場所だけなんですから」

 

ifの話でしかないが、もしミカが退学となったのならその脚でミハの元に向かうだろう。そこから先がどうなるかは予想もつかないが、本当に最悪の場合は無理心中を行ってもおかしくはない。ナギサの想像では大穴でミカはミハ側に寝返って…その時、本当にトリニティは終わる。

 

「“そうだね……私にできる事はあるかな?”」

 

「はい……ありがとうございます。先生……ですが……」

 

ナギサの想像と同じような物が先生の脳裏にも想像がついた。

勿論、そんな事になってはいけないし必ずミハも取り戻すと先生は腕を鳴らす。けどナギサは言いにくそうに口を籠らせる。

 

「弁解する意図がない……以上に生きる気力も無いようで」

 

牢で出される食事にも碌に手を出さず。ただ一日中死んだように空を眺めるだけで特に何かしようとしないという報告があり、事実ナギサも会いに行ったがナギサの声でさえも聞き耳を立てることもなかったのだ。

 

「もしかしたら口の上手いセイアさんならと思いましたが……」

 

そんなセイアも今は体調を崩して、ベッドから出ることも叶わないという八方塞がり状態。もしこのままのミカが続けば本当に最悪の事態を招く事になるとナギサは先生に頭を下げる。

 

「先生。どうかミカさんに寄り添っていただけませんか?」

 

「“分かった”」

 

ミカの作戦を真っ向から挫き、一時期はミハと共にいてミカもミハを任せるほどの傑物である先生にしかもう頼る宛は無いとナギサは立ち上がり頭を下げる。もし、先生が土下座しろと言われればするほどもうナギサには打てる手がこれしか無かった。

勿論、そんな切羽詰まったナギサの内心をある程度悟れないわけがない。二つ返事でナギサのお願いを了承する。なんとなくだけど…ミハを止めるにはミカが絶対必要不可欠だとも思うから。

 

「“むしろ…ナギサ。君は大丈夫なのかい?”」

 

「私ですか?……私は、……そうですね。」

 

先生の思いがけないナギサへの心配の言葉に一瞬瞠目した後、いつものような微笑みで先生を見つめ返す。……そんな心配をしてくれるのは先生だけだとナギサはその言葉を飲み干して。

 

「分かっているつもりでしたし、あらゆる誹りは覚悟していましたが」

 

一度考えた後重々しくナギサは呟く。

破滅を、孤独を受け入れていた。だけどその対価はナギサ1人で抱え込むにはあまりにも重く残酷な負債。

 

「裏切る事も裏切られる事も、これほど辛いのですね。」

 

一体、今のナギサの目には何が映っているのか。それはおそらくその両方を覚悟して飲み込んだ者にしか理解できないのだろう。

 

 

 

 

「“この先がミカの居る所?”」

 

ナギサの使い。おそらくティーパーティーに所属する一生徒の案内の元、先生は廊下を抜けていく。その間には多くの色んな声が聞こえる。“ミカを許すな”だとか“これ以上ミカを苦しめるな”だとか。

 

「はい………すみません、先生。」

 

「“うん?”」

 

そんな広場での狂騒を抜けてたどり着いた先には大きく重厚な扉とそこに立つ2人の少女。門番だろうか?その子たちと話している案内役を尻目に数秒待ったら戸の鍵を開ける音の後に少女たちが横に逸れる。

 

その瞬間だった。案内役の子から袖を引かれたのは。

 

「……ミカ様の事を…よろしくお願い、します」

 

「“………うん。任せて”」

 

どういうつもりでそれを口にしたのかは彼女しか分からない。

だけどその言葉に込められた意味は大人に対する信頼の証。ミハとヒフミとかつてのクラスメイトだったからこそ、ミハの裏切りがミカの心をどれほど破壊したのか分かっている。

 

「………それでは、失礼します」

 

立ち去る案内役の背を一瞬振り向き、先生はミカの部屋に入る。

 

 

 

 

 

部屋の外から音楽が聞こえる。激しく無く、ただゆったりと語りかける様な音楽。

微かに聞こえるその音楽は…讃美歌Kyrie eleison。その意味は主よ。哀れみたまえ

 

「“………ミカ?”」

 

「来たんだ。先生」

 

椅子に座るミカの姿はまるで燃え尽きた灰のようにも感じた。

綺麗で淡麗な筈の彼女の翼はどこか萎びて力なく椅子の縁に掛かり、色彩豊かに彩っていた筈のミカの服は白一色で……そして何より、ミカの瞳には光が宿っておらず深い深い絶望を写したままである姿だった。

 

「………きっと今の時間は礼拝の時間だろうね。…ここまであの讃美歌が聞こえてくるなんて本当にどうしようもないね。」

 

「“……けどいい曲だね”」

 

諦観と傍観混じりに呟かれた言葉に先生はとりあえず差し当たりの無い様に答える。……流石のミカも先生が来ているというのに椅子一つ寄越さないのはどうかと思い、近くに置かれている幾つかの内の一つに座る様に促した。

 

「……そう?むしろ聞いてて退屈にならない?“ご慈悲を”とか“哀れみを”とかさ☆」

 

「“ミカ………”」

 

あはは、と苦笑するミカに先生は顔を歪める。痛ましそうに先生はミカを見る。その視線の先でミカはいつもと変わらない様に笑っている。それが何よりも本音を隠そうとしている様に見えて、この場なら本音を言っても良いんじゃ無い?と先生はミカを眺める。

 

「………あは☆」

 

「“…………”」

 

「そうだね。あの日から私はこの曲が大っ嫌い。むしろ恨んでるって言っても良いかも。見えもしない存在に縋った所で────誰も助けてくれなかった」

 

怒りと憤怒で顔を歪ませた後、まるでそうすることさえ疲れたとばかりにから笑いして、またミカは最初と同じ様に背もたれに身体を投げ出しながら空を見上げる。変わらない青空を前にミカは一体何を見出していたのだろうか。

 

「でも……この歌は最初にミハちゃんと歌った曲だから、捨てようにも捨てきれないんだよね」

 

ミカにとってこの曲は恨めしいと同時に、ミハとの楽しい思い出の1つ。だからこそミカはこの曲には静かに耳を傾ける。もう戻らない過去の暖かな記憶に想いを馳せながら。

 

「………それで、先生。一体何用かな?」

 

「“ナギサから聞いたよ。聴聞会を欠席するんだって?”」

 

その瞳は暗く何も映さないままミカは先生にここにきた理由を尋ねる。ただでさえ連邦生徒会のシャーレの仕事だってあるだろうし自分がした後始末だって一筋縄では行かない筈だ。

 

自分のようにこうして幸せな過去の夢に微睡む様な愚か者に構っている様な時間はない筈。

 

「ナギちゃんは…元気?正直最近は曖昧でさ」

 

最近はどっちがどっちか分かんなくて。先生がやってきてくれたお陰でようやくこっち側がこっちで合ってるって気がついたんだよ。サラリと答えるミカに先生の嫌な予感は積み重なっている。それはまるで……まるで、なんだ?

 

「“………ねぇミカ”」

 

「……ん?何?どうしたの?」

 

「“ミカは……いま、いつのどこにいるのかな”」

 

ふと先生は考えついた中で最も最悪の想像を引いてしまった。まさかそうであるとは考えられない。だけどそう考えるのなら辻褄が合ってしまう。

 

そう。見事先生は、最悪の想像が合ってしまう。

 

「………分かってる。分かっているんだよ、先生……」

 

ミカは目を覆う。まるで見たく無いものから目を背けるように。

 

「でもさ、先生。……それってそんなに悪い事、なの、かな……?」

 

「“夢を見るのと夢に縋るのは違うよ”」

 

ミカはずっと夢の中に居たのだ。食事もせず誰にも反応を返さないのも当たり前だ。だって寝ているようなものなのだから。見る夢はただ一つ。幸せな過去の夢。即ち、ミハがミカと一緒にいたまだ何も知らない時の夢。絶望から逃げるために揺籃の浅い夢を見る。それが希望になり得ないと知りながら。

 

そんなミカに先生はキッパリと切り捨てる。

誰だって夢ぐらいは見るのが当たり前だけどミカのそれは夢という名の妄想だ。都合の良い妄想に取り憑かれて、さらにミカはそれを良しと受け入れた。

 

「…………中々、厳しい事言うね」

 

「“ミカ”」

 

「“ミハを助けたい。…これはミカの力が無いと出来ない事だから”」

 

「…………………」

 

単刀直入に言う。取り繕う必要もない事。先生にとってミハはまだ補習授業部の一員だ。それなら先生としてミハを迎えに行かないという選択肢はないと自分が先生である事と共に、ミハの姉であるミカに頼み込む。

 

そんな数秒の沈黙の後に、ミカは一度大きく息を吐いた後にこうつぶやいた。

 

「…………セイアちゃんとも、仲直りしないと……」

 

「“セイアは、もうミカを許してるよ。”」

 

ミカはセイアを傷つけようとした。そしてその未来を見たセイアはミカのその行動を受け入れた。ミカが何よりも誰よりも大切にしていた妹を、セイア自身の親友が死ぬ事を知っておきながら伝えなかった罰として。

 

「………そんなわけない。だって…何度も謝ろうとして……」

 

事件の後、ミカは朧げになる夢と現実の境目にセイアに会っていた。

謝ろうとしたその時、セイアは怯える様に体調を崩して部屋に戻っていった事を。

 

「“セイアが……?”」

 

「セイアちゃん、最近部屋から出て来れなくなったみたいで……」

 

「“…………私がセイアに会ってくるよ”」

 

おそらくミカとセイアの間には相当根深い行き違いがあると先生は直感的に見抜いた。セイアのミハに対する感情とミカとミハが姉妹である事を除いたとしてもだ。

 

「……先生が?」

 

「“ミカがセイアとキチンと話ができる様に”」

 

「………!」

 

「“そうして、みんなで聴聞会をして……ミハを迎えに行こう!”」

 

ミカにとっては分からない事だらけだ。

何故、先生がそこまでしてくれるのか。私にそこまでする価値があるのか。お姉ちゃん失格の私に、どうして。でも先生の真っ直ぐな眼差しはきっとミカにとって振り払える物でない事だけは確かなのだ。

 

「………どうして、そこまで」

 

「…………………うん。分かった。」

 

ミカの顔が上がる。ミカの目はまだ暗い闇を宿したままだけど少しだけ、ほんの少しだけその闇に翳りが出来始めた。

 

「そこまで言うのなら、もう少しだけやってみるね☆」

 

「“そう、決断してくれてありがとうミカ”」

 

次に目を見開いたミカの顔からはいつものお姉ちゃんの姿が見える。

これなら問題ないだろうと先生はセイアの部屋に向かった……

 

 

 

 

「………どうぞ」

 

セイアの部屋の前、体調を崩していると聞いて少し控えめに戸を叩く少ししてから奥から小さくセイアの声が聞こえた。部屋で病床に横になっているセイアはミカに負けず劣らず真っ青な顔のまま虚空をながめていた。

 

「……先生?どうしてここに……いや。そもそも無事だったのか……」

 

先生が入ると同時にセイアは驚きを目に宿しながらベットから身体を起こそうと力を入れるがその直後、まるで貧血で立ちくらむかの様にベットに崩れ落ちてしまう。

 

「“セイア……!”」

 

「あ、ああ。大丈夫だとも。…そうか今日は先生がくる日。いや、或いはもう過ぎ去った過去の会合か?それとも残された世界の残滓……」

 

「“ど、どうしたの……?”」

 

そんなセイアの姿に駆け寄る先生に見向きもする事なく、虚空を眺めながらまたブツブツと先生でさえ聞き取りにくい速度で何かを呟き続ける。そんなセイアに先生が肩を揺らすとようやくここが現実だと気がついたのかこちらに真っ青な顔に流れる汗を拭う事なく焦点の合わぬ目で先生を見つめる。

 

「………いや。違う。先生、その目をしていると言う事は……そうか。まだ間に合う時間軸に戻って来れたと言うことか」

 

「“…………………”」

 

拭う汗、そして水差しを取る手さえも震えるセイアに先生は介護するかの様にセイアの手伝いを一通り終えた後に、セイアの言葉を待つ。

 

「………ふぅ。すまないね先生。今の私は前よりも不安定でね……今も尚、絶え間なく過去、未来、そして今の断片が津波のように襲いかかっている現状だ。」

 

「限りない可能性の海。観測者の為の海。瞬き輝き、そして消える泡沫を前に想い変じることも無くなった小舟。今や安定とも崩壊とも程遠い境界を前に次は芽吹かない………まあ、詰まる所気にしないで欲しい……そう思ってくれ」

 

「“みんな、心配しているよ?…何があったの?”」

 

正直に言うなら先生も今のセイアが何を言っているのかはよくわからない。でも青白いセイアの表情を見ていると心配だけでなく、痛ましいと思えるほどだ。

 

「何があったの、か……そうか。正確に答える事は難しいが……」

 

「一つ言えるのなら、私は今最悪の可能性を知ってしまっている。」

 

「……本来なら私が観測したという事実だけでも危険な未来。けど絶望の物語を覆した貴方になら……託してみたい」

 

「“いいよ。言ってみて”」

 

縋るような、頼むような目を前に先生はこくりと頷く。

それをセイアは待っていたとばかりに口を開く。

 

「ここから先は、今までとはまた別の話になってくる。」

 

「観測者でしかない私は変革者になれる資格は喪っている。……だからこそ天上過去奈落未来の観測が出来るとも言える……ああ。話を戻そう。私はある時から未来の断片の予知を繰り返し見ることになった」

 

それはきっと〈予知夢〉と言っていい物だろうとセイアは断言する。

そしてセイアはその瞬間、恐ろしい未来を予言する。

 

「その未来とは……キヴォトスが終焉を迎える未来を見たんだ」

 

天から塔が飛来し、空は赤く染まり……その塔はまるで世界を削る様に虚空に還して行き……削られた破片が舞い散る中、黒い光が舞い降り世界は滅び去る。

 

「その後…キヴォトスには何も残らなかった」

 

これこそセイアを苦しめる未来の可能性。だけどいずれ来たる今の話。

今の所、その破滅した姿と理由しか分からないと言うのを前にセイアはどうしてそうなったのかを調べるために夢に入り込みすぎた……そう。それは自分が夢なのか現実なのかの境目を見失うほどに。

 

「“それ凄く危険な事だと思うんだけど……大丈夫?”」

 

「……まあ否定は出来ないね。何度見失いかけ歪みに足を滑らせそうになったか……それでもこれは観測者である私だからこの程度で済んでいるとも言える。」

 

「おそらくきっと、今までの私なら未来を恐れて狭間の世界に逃げていただろうけど………それが原因で今回の被害が出たと言っても過言じゃない。」

 

それに、夢の光景がどうしてもただの悪夢や終わった過去だと切り捨てられないからね。と言うセイアの姿に先生は罪悪感の上で行動するその姿はまるで危ういと感じた。

 

「あれはおそらく外の存在。……そしてそんな存在を呼び込めると言うのは〈ゲマトリア〉以外存在しないだろう」

 

ゲマトリア。それは先生とも因縁深い相手だろう。キヴォトスで発生する謎の巨大ロボットとか大体アイツらが関わっているし、何よりアビドスでの黒服との騒ぎは忘れ様にも忘れられない。……ゲマトリアとは悪い大人の見本市の様な物だ。

 

「“セイア。悪い事は言わない。ゲマトリアからは手を引いて”」

 

「………確かにあの集団は狡猾だ。おそらく私の観測も直にバレるだろう」

 

「“じゃあなんで……!”」

 

「ミハがいるから」

 

そんな奴らにセイア…生徒を関わらせるのは危険などと言うレベルではない。そう言うのは大人である先生の仕事だからセイアは目の前にいる人たちのことを気にかけて。……そう説得した後だった。セイアがミハに関して言及したのは。

 

「“!?”」

 

「ある意味でシュレティンガーとなっていたミハは今回の一件で多くの人の未来に見えない可能性が発生した。…そして見えない可能性というのならおそらくミハ。そしてそんな見えない可能性はその多くがゲマトリアと繋がっている。」

 

つまりセイアはこう言いたいのだ。今までミハを追えなかった理由にゲマトリアがミハを隠していたからだと。……もしそうなら今回のアリウスの裏側にゲマトリアが存在していると言うことになる。

 

「“それでも、だよ。……目の前にいる人から目を逸らさない事”」

 

「ミカ、か」

 

おそらくセイアにとっての罪の象徴。初めて絶望の未来に屈服したそれは代償にセイアの親友を、ミカの妹を喪ってしまった。おそらくその時からだ。セイアの心の中でミカに対して罪悪感があったのは

 

「君は常に怒っていた。憎んでいた。崇め讃えられる玉座の上で君だけが苦しんでいた。」

 

「それを私は知っていた。知っていて…何もできないと知っているからこそ忠告以上の言葉は言えなかった。」

 

ミカもセイアもナギサも極論を言えば同じなのだ。同じ大切だった人を失い、そこから憎しみに走ったのか、諦観に走ったのか、執着に走ったのか。どの道を選んだのかという差異しかない。

 

「始まりはどちらなのか。もうミカ自身も覚えていないのだろう。……アリウスと組んだ理由も互いに利があったからだろう。勿論、ミカにとってその利が害になる時には切り捨てる程度だったのだろう」

 

「………ミカ。君は復讐鬼にはなるはずでは無かったんだ。」

 

呟く。呟く。セイアのミカへの想いを。

 

「優しい姉であった筈の君は愚かしくとも寓話の主題と成り果ててしまった。」

 

「だが、そんな彼女の救いで罪禍になったのは。ミハの生きているということと、ミハが裏切り者だったと言う点。」

 

おそらくミカは耐えているのだろう。どうしようもない絶望から虚無から。

それなのに。今、自分はミカに“ごめんね”の一言も伝えられないのは恥ずかしい話だとセイアは言う。

 

「……ミカに謝ろう。許されるか分からないが、少しでも言葉を交わそう」

 

「“セイア………”」

 

そう言い、セイアは外に立っていたティーパーティーの子を呼び出し、ミカと話がしたいので呼んでくれと言付けを行った。聴聞会で問われる一番大きな罪はセイアを傷つけた事である。その被害者が加害者を擁護するなら罪は少しでも軽くなるだろうと呟く。

 

「“じゃあこの事はナギサに伝えておくね”」

 

「何度も何度もすまないね先生。」

 

2人で話したいと言うセイアの要望に先生も席を外そうと立ち上がる。

 

「“そう言う時はありがとうでいいんだよ”」

 

「そうか……では先生ありがとう……私は狭間の中で人との接し方さえ疎かになっていた様だ。……それでも少し疲れたから休んでおくよ」

 

「“そっか。おやすみセイア”」

 

そう言ってまた横に身体を傾けるセイアに先生は一言声を掛けて部屋を出て行った。勿論、ミカの件とセイアの件をナギサに伝えるととても喜んでいたのが印象的だった。

 

 

 

 

「………すまない。先生」

 

1人、先生が出ていき戸が完全に閉まったと同時にセイアはベットの上で小さく呟いた。ボソリと呟かれたそれにはまるで苦しみが、嘆きが染み出している様で。

 

「滅びの夢……その時に来る使者」

 

実はセイアは〈予知夢〉の内容の一部を先生に話さなかった。

何故なら、その内容は───────

 

滅びゆくキヴォトスに降り立つ一つの影

多くの実力者をその手で薙ぎ払い、彼女は手に取る

それはまるで薬のカプセルの様な何か

中に入っているのは、何かの断片

 

そして彼女はカプセルを飲み、こう口にする聖園ミハと。

 

「その後、使者は……ミハの姿になり……」

 

世界を滅ぼすよりも早く、実力者を血の海に沈める。

…………では、その使者の姿とは

 

「阿慈谷……ヒフミ」

 

ミハの親友にして、かの補習授業部の部長。阿慈谷ヒフミの姿。

今よりは成長しているがその目は奈落を写した姿で薙ぎ払っているヒフミの姿が

 

「………こんな事、言えるわけがないだろう……っ!」

 

もしかしたら阿慈谷ヒフミが、ミハが死ぬかもしれない。と?

キヴォトスの滅びを前に彼女たちが現れると言えるのか。ここからミハを助け出す事は叶わないと言えるのか。世界はただ滅びゆくのを待つしかないと言えるのか。

 

 

言えるわけが無いだろう?

 

 

 

「……お前は未来で、最悪な死に方をする…か」

 

もし、そんな事が言えるのならそれは……悪魔の他に無いだろうね。

顔を覆う。そしてまた自分を夢に溶かしていく。戻れなくなるを承知にセイアはまた夢に堕ちる。

 

 

 

 






セイアが意味深な予言をしているよ!かわいいね!!

「……くっくっくっ……」

「そういうこったぁ!」

次回、『理外の探求者』

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