君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
「………セイアちゃん?」
ミカが、そう。ミカがセイアの部屋に入ったその時にはもう
セイアは全身を鮮血に染めてベットに倒れ伏していた。
〔十数分前〕
「……セイアちゃんが?」
「はい。連れてくるように…とのご指示です」
百合園セイアが聖園ミカを連れてくる様にというご指示ですとティーパーティーの子がミカに首を下げる。ミカとしては確かに先生がセイアとミカの間で話ができる様にと話を付けてきてくれるとは聞いていたがこんなに早かったとはとミカは少し驚いた。
「うん?……うーん。分かったすぐに出るね☆」
「感謝します」
ミカに向けられる視線は千差万別だ。別にミカはそれを気にしないがそれでも愛憎渦巻く視線を寄越されるのはあまり気分が良いものではないと半分正義実現委員会の子に連行されるのそのままにミカはセイアの部屋に着いた。
「………セイアちゃーん?」
「………百合園様。聖園ミカ様をお連れしました……?」
反応がない。いつもなら少なからず反応があると言うのにいくら待とうとも扉の向こうからは沈黙が返される。………いや。これはむしろ沈黙というよりか、そもそも無人の様な雰囲気?
「……………失礼しま………ヒッ!!」
流石に何か異常事態でも発生したのかとセイアのお付きの子が扉を開けた瞬間だった。奥のベットが赤色に染まっているのを見た。純白のベットシーツをまるで絵の具を溢したかの様なわかりやすいほどの鮮血。そしてその鮮血の中心でただでさえ色白なセイアの顔がいつにも増して真っ白になって倒れていた。
「………セイア、ちゃん?」
「っ!!救護騎士団を呼んでっっ!!早くっ!!」
まるで最悪を簡単に想像出来てしまうセイアを前にミカは思考を止めてしまう。
その瞬間、先ほどまで現状を受け入れるのに時間のかかったお付きの子が血相を変えて救護騎士団を呼びにいく。その騒ぎを聞いて数名の医療に多少の心得がある子が動き出す。
(………あの傷のつきようは…)
そんなミカだがようやく思考が回り始める。邪魔にならない様にセイアに近づきそのセイアに出来た傷を見て気がつく。あれは斬撃の跡。深くは切っていないし、大事な血管までは傷ついていないけど派手に血が飛び散る所が傷ついているし、口や粘膜から血が出ているところを見ると狼藉者がいた感じではない。
まるで内部から傷が開いた様な───────
「……ぐっ、がはっ…ごほっ……!!」
「セイア様!」「セイア様…しっかり……!」「一体、何が…!」
そうミカが考えていた所だった。目の前で倒れ伏していたセイアが苦しげに咳をし吐血した。薄く目が見開いているのを見ると意識だけはかろうじて戻ってきたらしいとセイアが小さく口を開く。
「ミ、カ……かい?」
「セイアちゃん!」
小さく呟かれた自分の名前を前にミカは近づく。少しでもセイアの声を聞くために
「は、は……少し、しくじってしまって……ね」
「……無理しないでっ!一体誰にやられたの?……!」
そう多くは語れない。それはセイア自身がよく知っている。
ゲマトリアは危険だという先生の忠告を無視して深くまで潜った結果。ゲマトリアの1人…おそらくミハの支配主でありアリウスの支配者である奴に捕まった。殺されはしなかったが、嫌。逆に殺さず生かさずの手段を取られたと見るべきだろうとセイアはミカに伝えるべき言葉を選びながら考える。
「……ミァ……カ」
「うん!」
身体の内部がズタズタになっている感じ。いや。どちらかと言えば神秘に傷をつけられたと見るべきだろうか。ただ分かることはこの後に続く気絶が未来を見る事の出来る気絶ではない事だけ。
「アリ……ウス、が」
「!?アリウスが…!?」
今はこの際、ミカが本当にアリウスの内情を知らないのかと問うことさえも惜しい。ミカが私たちを置いてミハの元に歩まないとは言い切れない…けどこれはミカにしか言えないこと。
「先生を、狙って……る」
「……………先生を?」
全身から血が出ていく感じがする。セイアは刻一刻と自分の意識が保てる限界に近づいている。むしろ既に限界に到達していると言えるのだろうか。今こうして口を動かせているのはセイア自身の気力でしかない。
「……まも、って」
「…………………っ!!セイアちゃん!?セイアちゃん!!??」
その瞬間、糸が切れたかの様にセイアは意識を失う。ミカは間違いなくセイアの声を聞いていた。セイアの最後の言葉を繋げると“アリウスが先生を狙っているから先生を守ってくれ”だろう。
「っ!!このっ!!セイア様に何をしたぁ!!」
「ちょっと!今、聖園ミカは関係ないわよ!」
ミカがセイアの意図を考えていた時、前からミカの襟を掴み上げる1人の少女がいた。それはミカも知っているセイアの派閥の少女…つまりはサンクトゥス派の子だ。ミカはあくまで被害者だと言う意見が名高いがそれでもセイアの襲撃を手引きしたのは事実だ。それがあるからサンクトゥスの子が一番ミカを忌み嫌っていると言っても過言ではない事が今この場で噴出してしまった。
「セイア様の襲撃を手引きしたのも飽き足らず、お前はぁ!!」
「やめなさい!ここで争ったって……っ!」
憎悪と怨恨。憤怒によって歪んだ顔を前にミカは俯く。
痛くはない…苦しくはない。その過去の行いから目を背けられぬこと以外は
「人殺し!!……このっ!」
「魔女がっ!!!」
追い出される。でもミカは鮮明に覚えていた。憎悪に狂った目を、不信に満ちた表情を。だってそれはいつもミカがトリニティに抱いていた感情だから。
◆
「私のせいで…私のせいでこうなっちゃったんだね……」
どうやって今の自室に戻ったかさえ定かじゃない。
ミカは殆ど自我喪失の様な夢現の状態で部屋に置かれた椅子の一つに腰を下ろした。
「………私の、せい」
両手で顔を覆う。そうだった分かってた筈だ。
全部の悲劇は私が引き起こした事を。それから目を逸らしたのは
「………私だよ、ね」
気がついていた。目を背けていた。
この行いが、どれほどの慈悲が掛けられたとしても罪深い事を。
「私が愚かで、バカで、救いようのない愚図だから」
何よりも護りたいと誓った妹に見放されて
親友だった筈の幼馴染の裏切って
そして唯一分かり合えた筈の理解者さえこの手に掛けた
「………もしかしたら許されるなんて、弁解できるなんて考えた」
先生が、ナギちゃんが、セイアちゃんが心配してくれているからって
ああ。でも最初にその手を跳ね除けて裏切ったのは誰だ?
聖園ミカ。その人じゃないか
「その筈だったのに………どうして………?」
願ったモノは手から滑り落ちる。護りたいモノは護れない。
まるで何かの悪夢の様……そう。まるで悪夢
「………悪夢。うん。悪夢、だよね」
頭を抱えて嘆いていた筈のミカが突然表を向く。
瞳からハイライトは完全に消えて、その姿はまるで幽鬼の様。
「じゃあさ。……この悪夢って……」
原因を遡る。過去を追想する。
この悪夢の根源を。この無惨な今を引き起こした原因はなんだ?
「アリウスに……〈アリウススクワッド〉に利用され───」
そう。ミカは気がついてしまった。
全ての元凶は────アリウススクワッドのサオリであるということに
「………そっか。そういうことか」
考えてみれば簡単な事だ。私以上にアリウスを知ってたミハちゃんが私より後にアリウスに協力したとは考えにくい。……それならまだアリウスはミハという存在を前々から知っていた上で私と協力したと言う事だ。
ミハちゃんと私の姿はよく似ている。
気がつかないわけがない。
「ずっと……ずっと、お前は嘲笑ってたんだね☆」
なら答えは簡単だ。
アイツら…アリウスは知っていたんだ。私がミハを探していることも、その上でミハの居場所を知っていてその上で隠したんだ。……上手くトリニティを襲撃できる様に。私の憎悪を煽って、利用してその裏で嘲笑っていたんだ。
「ねえ?アリウススクワッドリーダー、錠前サオリ」
よくよく考えたら分かることだった。全部アイツの計画、アイツの差し金だ。
その上で、アイツは…サオリはミハをまるで兵器のように利用したらしいじゃないか。私の、私たちの怨恨を知りながらアイツは今も安穏を貪っているんだ。
「……それって、どう考えても不公平、だよね?」
うん。間違いなく釣り合っていない。
この世が幸福と不幸の釣り合いで成り立っていると言うのならアイツはまだ“不幸”を知らない。…私たちが奪われた分、その全て全部アイツも奪われてようやう天秤が釣り合う。
「そうだよね。全部、全部。奪ってさ」
なら善は急げだ。ミカは拳を握る。
今からする事に意味なんて無い。これはあくまで取り立てだ。
◆
「……っ!出てこい!!魔女め!!」
「ちょっと…まだ真実は分かってないんだからさ……」
ミカの牢の向こう側では、セイアへの狼藉がミカであると言う事で暴走する生徒とそれを止めようとしている生徒でごったがえしていた。…それもその筈。あくまでミカというのは今は檻に入れられている存在。鉄柵の向こう側の猛獣が何を吠えようとも届くことはない。……それと同じような感じで生徒たちは不満を口にしていた。
愚かしいことだ。
その猛獣が檻を破壊しない保証なんて何処にも無いのに
「さっさと出てこい!!このっ!魔女が!!」
「……待って。変な音が」
ごく一部の生徒だけが耳にしたこの扉の向こうから聞こえる異音。
それはまるで掘削音にも似た、何かとても大きな物と物がぶつかり合うような音と揺れ
「な、なにっ!!」
「はぁ!?……か、壁が……!!」
始め、壁の向こう側から腕が突き出る。その直後、まるで腕を振り下ろすかのような気やすさで壁が半壊…の後に完全に崩れて壊れる。
「ちょっとごめんね〜☆」
「えーっと……私の銃どこだっけ?」
別に無くても構わないけど、無いと勢い余って殺しちゃいそうだしね〜☆
とまるで今さっき、壁を壊して脱獄した事なんて眼中に無い、更には扉の向こう側に集まっていた生徒さえも目にかけず悠々自適に歩き出す。
「う〜ん?……おそらくあっちかな?」
まあ。無かったら無かったで方法は考えるから良いんだけどさ☆
誰に聞かせるつもりも無いミカの独り言はやけに響いている。
「まさか…あの壁を素手で……!?」
「聖園ミカが……聖園ミカが……」
「脱、獄……した?」
牢獄というだけあってその壁は普通よりも重厚に作られている筈だ。
その壁をまるで紙を破るかのような気やすさでぶち破り、そして脱獄していくなど前代未聞も未聞だ。今見た光景が受け入れられないように生徒たちはミカが去っていく後ろ姿を眺めるだけだった。
「あはは☆……そうだよね☆」
ミカは1人。誰もいない廊下で笑い声を上げる。
まるで今までの悩みが全部無くなったかのような底抜けな陽気な笑い声。
……それもまあ。今のミカの顔を見なければ。という前置きが必要だが
「………殺して壊して消し尽くしてさ☆」
そんなミカの表情はまるで──────
「死んで絶んで滅に尽くせばさ☆」
聖女を思い浮かべるかのような─────清々しい満面の笑み
「平等じゃない?錠前サオリ」
怒りの日、来たれり
「……約束通り、来たよ。サオリ」
そんなトリニティの騒ぎとは裏腹に先生は1人、ゲヘナの裏路地に来ていた。
満面の笑み(眼は笑ってない、血走ってる、握りしめた手からは血が出てる)
「どうか……どうか…先生」
「“うん。安心して”」
次回、「救いの腕」
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